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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
56/148

クエスト51 蒼牙ワニを捌こう

アクセスが、びっくり。

はじめましての方、楽しんで読んでください。

「ちっ!!遭難者を救助に来ただけなのに。

 なんで今度は巨大鮫と戦わなくちゃならないんだ」


「これだけ色々な生物がいるというコトは、それだけ豊かな海なんでしょうね。

 ただ、縄張り争い、生存競争は厳しそうだけど」


 島に避難させた遭難者を救助に向かった警備艇は、その海域を縄張りにしている、10メートル台の巨大サメ 紅鬼鮫に、敵と認識され襲撃を受けていた。

 巨大サメは、左の船腹に強く何度も体当たりして、警備艇が大きく傾く。

 激しい揺れと衝撃に、甲板から海に投げ出されそうになる船員を、竜胆は巨体で3人まとめて受け止める。


 ティダが舳先に立ち、船を攻撃している巨大サメをおびき寄せるために、雷魔法を帯びた呪杖を掲げる。


「雷火の鞭となり、彼の者を縛めろ 電紫剛鞭」


 ティダの握る呪杖から放たれた雷の鞭が、巨大鮫を幾重にも縛め電気ショックを与え、僅かな時間気を失なわせて動きを止めた。


「竜胆!!このデカブツを始末しろ」


 ティダの合図で、半巨人の王子は半月刀を両手に握ると、警備艇甲板から海へと跳躍し、雷鞭で縛められた巨大鮫に飛び移る。

 その脳天に、渾身の力を籠めて半月刀を突き立てた。


 サメも悲鳴を上げるのか、海のモンスターは身をのけぞらせ、深く水の中に潜ろうとするが、舳先に立つティダの呪杖に繋がった魔力の雷鞭は、獲物を縛め逃さない。

 海の上で、まるでロデオのように上下左右に暴れる巨大サメに跨り、竜胆は振り落とされないように、更に力を込めて、サメの頭部に刀を深く押し込み格闘する。

 巨大サメの動きが鈍くなってくると、竜胆を援護しようと警備艇から数本の銛が撃ち込まれ……


 最後、竜胆の振るう巨人用大剣で、巨大サメ 紅鬼鮫にトドメが刺された。





 竜胆とティダの活躍で、警備艇にはほとんど被害が無く、遭難者を島に迎えに行くことが出来る。

 警備艇船員、その戦いを離れた場所で見守っていた漁船も、驚きと歓喜の声を上げた。

 戦いを終え船に上がってきた竜胆を、ティダは出迎えて声を掛ける。


「さすが、巨人族の大型モンスター戦は、迫力があって思わず見惚れるほどの強さね。

 あれ、酷く顔色が悪いけど、どうしたの?」


「うぐっ、やば、鮫に揺さぶられて、酔った。

 み、港に帰hymんhgfふ ゲロ ゲロゲロ~~!!」


 竜胆は、先程の勇ましい姿が嘘のように、顔面蒼白でヨタヨタと船の縁にしがみつくと、激しく嘔吐している。


「り、竜胆、まだ船は片道の半分しか進んでない。悪いけどしばらく我慢して。

 っうか、島間は船でしか移動できないのに、そんな簡単に船酔いしたら、ハルちゃんを探し回れないじゃない」


 突然の予想外の展開に、ティダは思わず天を仰ぎ溜息をついた。

 なんだか不可侵の力が働いて、自分たちがハルを探し出す妨害をしてる気がする。



 ***



 みなさん、おはようございます。

 朝起きたら、スープの入ったお鍋(兜)が空で、猫人族の彼女もちゃんと食事をとったようです。ふふっ、白身がワニ肉だと気付いてません。聞かれないから教えないよ。


 ハルが島の中を勝手に動きまわっても、彼女は閉ざされた島だから逃げ出せないと、咎めることは無い。

 というか、自分はどんなに探し回っても食糧を探し出せず、ハルが色々と食料を調達しなければ、飢えてしまうのだ。


「ほら、たまり水の中に小魚が居ました。

 衣に海草を混ぜて唐揚げにしたら、磯の香りが香ばしくて美味しいですよ」


 彼女がたまり水を覗くと、魚は姿を隠し、ハルが覗くと、魚はワラワラと姿を現す。


 ナニこれ、自分は要領悪いとか、少年の運がいいとか、そんな単純なモノではない。

 以前、白藍さまが笑いながら「どんなに貧しくても、いつも食べ物に恵まれる人がいる」と、言ったことを思い出した。

 どうして、世界は不公平だ、私だけ、私だけ、こんなに苦しいのだろう。





 朝食は、貝の皿に盛られた、小魚と海草のかき揚げと白身の肉の天ぷら丼。

 天ぷら丼の中央には、プリプリの黄色いウニをたっぷり盛り付けてみる。

 わかめ風お吸い物に、爽やかな香りのハーブティ。


 ハルは、自分の分だけ食事を盛り付けると、さっさと洞窟の外に出て、快晴の大海原を眺めながら天ぷら丼を食べる。

 着のみ着のまま離島でサバイバルして、洞窟で寝起きしているのに、なんという贅沢な食生活。


「うーん、おにぎりの実が少なくなってきたから、何か代わりになるものを探さなくちゃ。毎日魚ばかりじゃ飽きそうだし。あっ、魚じゃない。爬虫類だ」


 ハルの洩らした最後の小さな呟きは、もちろん彼女には聞こえなかった。



 ***

 


 風香十七群島の中でも、一番小さな黒い岩山の島には、川がない。

 飲み水は、聖堂の中に深く掘られた井戸からくみ上げる。

 聖堂へ、水を貰いに来たハルを待っていたのは、猫人族の子供たちと、昨日漁から帰ってきた保護者の青年だった。


 短く刈り上げた黒髪に浅黒い肌、右目に眼帯をした、二十歳前の人間・・の青年。

 顔立ちはハンサムの部類だが、なぜか殆ど特徴が無い。

 しかし表情は豊かで、人好きのする大らかな笑顔で、子供たちの相手をしていた。


(何だろう、この人、不思議な感じがする?

 どこかで見た様な、でも思い出せない)


にーに、この人が神様だよ。オレたちをワニから助けてくれたんだ」


「ああ、昨日からずっとその話を聞かされているよ。

 その赤い右目、君は神科学種みたいだね。弟を助けてくれてありがとう」


 おや、僻地の孤島に住んでいるにしては、青年の態度は堂々として、仕草も洗練されていた。

 終焉世界の人々は神科学種だと知ると、驚くか感激して拝むか、委縮して怯えた態度になるのに、この青年の態度は全く変化が無い。


 ハルは挨拶代わりにコクコクと頷いて、話が出来ないとゼスチャーで知らせると、青年は石板を手渡した。


「俺の名前はクジラという、子供たちはにーにと呼んでくれる。

 実は、2年前に遭難して、この島に流されて来たんだ。

 人間の俺が、猫人族の子供たちの保護者なのて変だと思っているだろう。

 俺は、聖堂の神官爺さんに助けられたんだ。

 その爺さんが去年死んでしまって、それからは俺が後を継いで、子供の世話をしてる」


 さて、どうしよう。


 ティダには何度も、大人しく助けが来るまで待てと、念を押されてる。

 僕が誘拐されて島に来たことを知らせると、彼らを巻き込んでしまう危険がある。

 相手は手負いの獣状態の彼女だ。

 子供たちと保護者の青年は、彼女に接触させないほうが良い。


 ある程度考えをまとめると、ハルは石板に文字を書いて青年に見せた。


「君の名前はハルというんだね。猫人族の女戦士の従者、食事係。

 おや、変だな。下級種族の猫人族が、女神の使徒である神科学種を、従者として連れているなんて。

 それに、ハルの舌の『沈黙の印』は、極悪罪人に行使される呪だよ」


(やばい、この人は頭が切れる。余計に彼女と会わせたらダメだ)


 青年の瞳はハルをしっかりと見据え、考えを読み取られてしまいそうだ。

 ハルは石板をポイッと放り出し、会話を続ける意思が無い事を示すと、慌てて子供たちの方へ行った。



 ***

 


 暖炉の上の大鍋いっぱいに作ったスープは、一晩でキレイに食べつくされ空っぽになっていた。

 うん、いいねぇ、この食べっぷり。料理人として大満足だ。


 おにぎりの実は、細かく砕いて乾燥させると、小麦粉に似た使い方が出来る。柔らかい海草と卵を混ぜて、ワニ肉の衣にしてフリッターを揚げることにしよう。


 島には、巨大化したオリーブに似た実が生えていて、その油で揚げ物が出来る。

 ただ、肝心の穀物や果物の木は根付かす、他の島から手に入れなくてはいけない。青年クジラが、漁で釣り上げた魚と食料を、他の島で物々交換してくるのだ。




 ハルは、昨日手に入れた食材(蒼牙ワニ)を、クリスタルシールドのまな板に乗せ『良く切れる包丁』で手早くさばく。固い鱗の下に包丁を差し込んで、皮を剥がしていると、青年が驚いた様に近づいてきた。


「な、なんだそりゃ!!

 硬くて分厚い、蒼牙ワニの皮を簡単に剥がせるなんて、とんでもない切れ味だ」


 さっきまで冷静で落ち着いた青年が、ハルのワニ捌きを、食い入る様に見つめる。


 何をそんなに驚いているのだろう、確かによく切れる包丁だけど、そんなに騒ぐこと?

 不思議そうに小首をかしげるハルに、青年は、自分の手首にサポーターのように巻きつけた『蒼牙ワニ皮』を見せた。


「この蒼牙ワニの皮は、軽くて収縮性があって、鋼の刃先でも傷つかない最高級防具が作れるんだ。

 けれど、蒼牙ワニ皮は硬すぎて簡単に剥がすことができない。皮剥ぎには、王都の高級防具屋でも一週間も掛かるほど、とんでもない労力が必要なはずだ。

 実際、俺も手首のサポーター分のワニ皮を剥がすのに、三日かかった。

 それがこんな簡単に、ワニ皮剥ぎが出来るなんて信じられない!!」


 青年の話を聞きながらも、ハルは作業する手を止めず、ペラリと一枚に剥がれたワニ皮を青年に手渡した。


 うおおぉ!!

 青年は、野太い歓喜の声を上げ、マントのようにワニ皮を背中に回して、興奮して部屋の中を走り回る。その後ろを子供たちが面白がって付いて走り、聖堂の中はうるさいほど賑やかになる。


「アハハッ、フウッ、す、凄いっ。

 この最強のワニ皮で防具を作れば、どんなモンスターに襲われても平気だぞ」


 頬を赤らめ、興奮冷めやらぬ状態の青年を、ハルは手招きして、ワニの身の方を示す。


「えっ、なに、ワニの腹の部分は柔らかくなっている。

 ああ、この部分が心臓で、前足の内側から中心に向けて突けば、蒼牙ワニは一発で仕留められる?」


 嬉しそうに、コクコクと頷くハルを見て、青年は冷や汗を流す。


「ま、待ってくれ。固いワニの鱗を貫くには、それなりに丈夫な銛が必要だ。

 俺の持っている銛じゃ、固い鱗に弾かれ、すぐ折れて使い物にならない」


 続いてハルは、アイテムバッグから蒼牙ワニの頭部を出し、ドンと床に置いた。

 今にも噛みきそうな形相のワニ生首、その口をこじ開けると、鋭く太く大きな牙を指差す。

 銛の先に、鱗以上の強度を誇る蒼い牙を仕込めば、どんな獲物も貫けるだろう。


 恐ろしい事に、大人しげな愛らしい顔立ちの神科学種の少年は、自分に「蒼牙ワニを狩れ」と命じているのだ。

 ハルは、再び石板を持ち出して、青年に書いて見せた。


【蒼牙ワニの牙が欲しい。

 蒼牙ワニ50匹と『良く切れる包丁』を交換する】


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