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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
54/148

クエスト49 難破船を救助しよう

 朝早く、台風をかわしハル救助へ向かった竜胆たち三人は、風華十七群島エリアに入ったところで、嵐にやられた難破船を発見した。

 半分沈みかかった舟と、荒れる海の中で波を受け転覆しかかる二艘の救命ボート。船の乗組員と商人らしい乗客、三十人近い人数が乗っていて、必死に助けを求めている。

 竜胆はドラゴンを操り、近くの小島まで救命ボートを誘導し、間一髪のところを救い出した。


 難破船の重傷者は、ティダの蘇生魔法で助けられたが、処置が間に合わず息絶えた者も数名、まだ船の中には人が閉じこめられているという。

 半分沈みかかった船は物資を山積していた商船で、約束の取引時間に間に合わせるため、台風の中、船を出して難破したのだ。


「おい船長、どう責任を取るんだ!!

 あの程度の雨風で沈むボロ船のせいで、俺の大切な商品が全部ダメになっちまった。

 せっかく安く仕入れた奴隷代金、弁償をしてくれるんだろうな」


「ふざけんな、俺は船を出すのを反対したぞ。

 お前が、奴隷市場の取引に間に合わないと無茶なことを言って、無理に船を出させたんだろ!!」


 頭の禿げた小太りの豪華な着物を着た商人と、浅黒い肌の船長が、大声で互いに怒鳴り散らしている。


 なんだ、奴隷市場の取引?

 竜胆は仲間の怪我の手当をしている船員に、二人は何の話をしているのか尋ねると、船員は口ごもりながらも返事をした。


「俺たちの船は、風華十七群島で採れる珍しい貝やサンゴ、香辛料や綿の物資のほかに、猫人族の奴隷娘も運んでいるんです。

 あの商人は、猫人族の島人にタダで餌を与える代わりに、娘を奴隷として安く仕入れて、船底の牢に猫人族の奴隷娘を閉じこめていたんですよ」


「なんだと、それじゃ、まだ船の中に猫人族の奴隷が閉じこめられてるのか!!

 早く助け出さないと船は完全に沈んで、娘たちは溺死してしまうぞ」


 船員の詳しい説明を聞くと、まだ水に浸かっていない船の浮いている部分に奴隷の籠牢があり、今なら生きて助け出せるかもしれない。

 竜胆は、チッと舌打ちをすると、他の者を治癒しているティダに振り返る。

 エルフの聴覚は、周囲の会話をすべて拾い聞き取ることができ、竜胆と船員の会話も離れた場所からすべて聞いていた。


「竜胆、奴隷を籠牢から一人ひとり助け出すより、牢に入れたままドラゴンで舟外に引き上げたほうがいい」


「まてティダ、船底の牢をどうやって舟上に運び出すんだ?」


「船長も商人も見ての通り、ろくでもない連中だ。こんな船、壊すぐらい造作もない。

 さぁ竜胆、早く船に潜って、美しい奴隷娘たちを救いに行きなさい」


 ティダは妖艶な笑みを浮かべ、銀色の細い鎖をアイテムバッグから取り出すと竜胆に手渡した。

 その言葉の意味を解した竜胆は、片目でウィンクを返すと、鎖を身体に巻き付けて、ドラゴンに跨り難破船の上まで飛んでゆく。

 大波に煽られ、いつ沈んでもおかしくない船の甲板に飛び移ると、竜胆は船中に潜り込んでいった。


「あんたら、奴隷を船の中から助け出してくれるんだってなぁ。

 アノ薄汚い連中でも、ワシにとっては大切な商品だ。

 生きて助けてくれれば、奴隷一人分金貨2枚出してやるよ」


 頭のはげ上がった商人風の男は、頬を赤らめながら、美しいエルフの麗人を舐めまわすように見て話しかける。

 ティダは、相手を凍った視線で一瞥すると完全に無視をした。

 船から戻ってきたドラゴンを呼び寄せ、大人しく控えていた萌黄と一緒に騎乗すると、島を離れ、沈みかけた船の上まで飛ばす。


「萌黄ちゃん、舟の上の甲板にある鎖をドラゴンの足に巻きつけて頂だい。そしてすぐ戻ってきてね」


 身軽な少女は、ドラゴンの上から細いロープを伝って甲板に降り、竜胆の身体にまかれていた鎖の端を拾いドラゴンの足に括りつけると、再びロープを登って戻ってくる。

 ドラゴンの足に括られた鎖がピンと張るのを見ると、ティダは優しく魔獣の首を撫でながら、命令を出す。


「煉獄の炎の魔獣、ファイヤードラゴンよ。

 コノ壊れかけたみすぼらしい船を 消し炭に変えろ ファイヤー!!!」


 ゴォオオオーーー ゴオォ――


 巨人王 近衛師団に属する 火力攻撃に特化された騎乗用ファイヤードラゴン。

 その口から炎の塊が吐きだされ、火焔放射攻撃が難破船を襲い、船体を焼き払う。


「うわぁぁーー俺の船がぁぁーー!!」

「うわぁぁーーワシの積み荷がぁぁーー金ずるがぁ!!」


 赤い炎は、強い風に煽られ煌々と燃え上がり、船が火の呑まれ海へ崩れ落ちてゆく。


 ドラゴンは足に絡んだ鎖を引き上げる。

 その先には猫人族の奴隷娘たちが押し込められた小さな籠牢と、氷結界を張り炎から籠牢を守る竜胆。


「うひゃひゃひゃっ、あの奴隷娘さえいれば、いくらでも商売はやり直せる。

 おーーい、金貨をくれてやるぞ。早く奴隷たちをこっちに連れてこい」


 禿げ頭の商人は小躍りして、大声を張り上げ、ドラゴンを呼び寄せようと手を振る。

 籠牢を吊り下げたドラゴンは、焼け落ちる船を離れ島の上空を旋回する。

 ティダは懐から金貨を取り出し、空から商人に向けて力いっぱい投げつける。


「猫人族一人金貨2枚で買ってあげる。

 お姉さまたちは忙しいから、救助は自分で呼んでね」


 そういうと、島に商人と船乗りたちを置き去りにして、竜胆は手綱を操り、ドラゴンを港町へ引き返させる。


 宙吊りの籠牢には、若く美しい猫人族の娘が7人、2メートル四方の檻に押し込まれていた。やせ細って疲労しているが、怪我をした様子はない。


「どうせ家に帰したところで、また貧しさから売りに出される。娘たちは、鳳凰小都の「完熟遊誘かんじゅくゆうゆう館」に引き取らせよう」


「2日も台風で閉じこめられ、やっとハルちゃんを助けに行けるかと思ったら港町に逆戻り。お姉さまの魔力も、蘇生魔法乱発で燃料切れよ」




 台風の去った港町の空に、突然、奴隷娘の入った籠牢を吊り下げて戻ってきたドラゴンが現れ、ひと騒ぎ起こる。


 船が遭難して助けを求める救命ボートを見つけ、島に乗組員を避難させた。と、竜胆が役人に報告してる時、ティダのパーティチャットウィンドウに、ハルからのメッセージが表示された。



 しかし、その内容は……



 ***



 四方海に囲まれた岩山の島の頂上まで登り、パーティチャットの通話可能状態を確認したハルは、期待を込めてティダにメッセージを送信した。


「tjkkjっjbでc4」


 (あれ?なんで意味のない音に変換されてるの?)


 ハルの言葉は正確に表示されない。


「ハルちゃん、お姉さまたちも島の近くまで来ているんだけど、今、難破船の救助をしてるの。もう少し、助けに行くのに時間が掛かるけど、持ちこたえられる?」


「:fghvじゅmんhgれxd」


「ええっ、ちょっとハルちゃん、どうしたの!?

 念話チャットが文字化けしているよ」


 それは、ハルにかけられた沈黙の呪いの影響で、発する言葉が全て化けして、意味の通じない言葉に変換されていた。

 これではせっかく繋がった念話チャットも一方通行、どうすればいい。

 ふと思いつき、ハルは念話チャットを文字チャットに切り替え、返事を返す。


「(T△T)」


「ああ、絵文字なら意味は伝わるね。

 ちゃんとハルちゃんの居場所は判るから、もう少し頑張って」


「(>▽<)b」


「ハルちゃん、お願いだから、お姉さまたちが助けにくるまで、むやみに動き回らない、危険な事はしないでね!!約束だよ」


 そこで、ティダとの念話チャットは途切れる。





 やっと仲間との連絡だけは取れた。

 だが、こちらの複雑な状況を、絵文字だけで伝えることはできない。


 ティダたちの助けが来るまで、自力で生き延びるなけらばならない。

 そのためにはサバイバルのための食料の確保が必須だ。アイテムバッグの中には一週間分の水があり、食料はおにぎりの実が一週間分保存されていた。


 はっきりいって自分よりも、怪我をしたユニコーンと情緒不安定な彼女が心配だ。

 ユニコーンは水だけでも生きてゆけそうだが、彼女は、あの後、木の実を調理できずに生で食べ続けた。どうもサバイバルの経験が乏しい。


 ハルは、ゆっくりと岩山を下りながら、食べられそうな草を採取する。

 岩山には、食料になりそうな植物は生えていない。

 だが、美しい海の中は海産物の宝庫なのだ。ワニに襲われなければ『魚を捕ったどー』で生きてゆけるかもしれない。



 ***



 ハルは岩山を下り、そろそろ洞窟に戻る獣道に出そうだと歩調を速めたところで、下の砂浜から子供の悲鳴が聞こえた。


 自分たちの他に、この島に人間が居るのか!!

 ハルは岩の陰に隠れ、声のした方を見ると、十歳ぐらいの同じ背格好の二人の子供が、ワニの群に追われ必死に逃げている。

 その姿は人間ではない、頭に黒い猫耳が生え、四つん這いで長いしっぽを立てて獣のように走る猫人族の子供だ。


 俊足を生かして、ワニの群から逃げきるかと思ったが、嵐の後で障害物の多い砂浜が災いし、小柄で足の速いワニが一匹、子供に追いついてくる。

 後ろを走っていた子供のしっぽに、ワニが噛みつくのが見えた。


 ハルは岩影から飛び出し、いつの間に握った女神の弓に矢をつがえ、狙いを定め、子供の頭をかみ砕こうとするワニに向かって矢を放つ。


 女神の矢は、ハル以外の者では片手で持てないほど重みがあり、破壊力は抜群だ。

 猫人族の子供の頭をかすめ、赤い矢はワニの口の中に飛び込むと、柔らかな内蔵を破壊して、背中から血しぶきを上げながら突き抜けていった。


 蒼牙ワニは、子供の上に覆い被さるようにして倒れ絶命した。

 一瞬の出来事で、子供たちは何が起こったのか理解できず、助かった子供も、重いワニの下敷きになって動けない。


 そこへ、仲間を追ってきた巨大なボスワニ、三メートル越えのブクブクに太った蒼牙ワニが、威嚇声をあげ激しく身体を揺らしながら、地響きを立てて迫ってきた。

 ハルは、自分の居る安全な岩山に逃げろと子供たちに知らせたいが、舌が動かず声がでない。


 ハルは岩山を転げ落ちるように、加速を付けて砂浜まで一気に駆け降りると、巨大ワニに睨まれ恐怖で身動きのとれない子供たちの側まで走る。


(ヒイィーー、今まで、鳥や兎やせいぜいゴブリン程度しか戦ったことないのに。

 いきなり巨大ワニとクロコダイルハンターですか!!)


 しかも、すでに女神の矢を一度使い、ハルの残り生命力は絶賛激減中だ。

 手元にある武器は、SENから貰った『良く切れる包丁』しかない。

 迷う暇はない。巨大ワニと子供たちの間に割り込むと、クリスタルシールドを子供の盾にして、右手に包丁を強く握りしめる。

 野生の凶悪な巨大ボスワニ、その迫力に負けてはダメだ、気持ちを奮い立たせろ。



 ***



 コクウ港町エリアは、遭難者救助の警備艇と、漁船が出発の準備で慌ただしい。


 重い籠牢を港町まで運んできたドラゴンは、再び休ませなくてはならない状態だ。

 竜胆は遭難者の避難場所を案内するため、役人たちと船に乗り込もうとしたところで、ふと足を止める。


「ティダ、ちゃんとハルに、大人しく救助を待つように伝えたか?」


「それはもちろん、お姉さま達が助けにくるまで、むやみに動き回らない。

 危険な事はしないと約束させたわ」


「今、半身の契約者、ハルが巨大ワニと格闘している場面が見えたんだが……」


「な、なんですとーー!!

 約束してから1時間も経ってないのに、ハルちゃん何してんの」



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