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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
53/148

クエスト48 島を偵察しよう

 神科学種の魔法鞄アイテムバッグ


 過去の貴重な遺物や最強の武器、あらゆる宝物が中に納めていると噂で聞いた。

 しかし、鳳凰小都の聖堂から攫ってきた神科学種の少年の鞄から出てきた物は、ガラクタと中古防具、マトモに使えない武器。


 唯一、使用できそうな『よく切れる包丁』も、自分の持つ護身ナイフの方が高性能に見えた。

 しかし、刃物は取り上げた方がいいか?

 沈黙の印で呪われた少年は、術者に逆らうことも危害を加えることはできない。『よく切れる包丁』は、そのままハルの手元の残った。


「では、鞄から水を出したように、他の物も全部出して。何か食料はあるの?」


「果物を持ってますよ。オアシスで生えていた木の実で、堅い皮を剥いて食べてください。

 あとは……鳳凰小都で退治した死黒鳥の死骸です、腐ってるけど。」


「死黒鳥なんて醜い厄鳥を、どうして鞄の中に仕舞っているの!!」


「命令通り、鞄の中身を全部出したのに、クスッ、文句言わない下さい」


 ハルはしれっと答えると、木の実を十数個取り出し、物欲しそうに見つめる彼女に木の実を二個手渡す。


 彼女は鳳凰小都で見た時より疲れ果てた表情で、鎧を脱いだ体は痩せ細り、頬はコケ目の下には隈が浮いている。

 ずっと二日間眠っていたハルと比べ、飲まず喰わずの状態で洞窟に閉じこめられ、その飢餓感は酷かった。


 少年から貰った木の実は、皮を剥くと白いツヤツヤした果肉が美味しそうに見えたが、口に含むとパサパサした味のない堅い芋のような食感で、とても呑み込みづらい。

 しかし今は全く食料が無い、食べることが出来るだけマシだ。

 ふと気が付くと、少年は木の実を手にしたまま、自分の食べる様子を面白そうに観察している。


「アナタはお腹が空いてないの?どうして木の実を食べようとしないの」


「あっ、お気になさらずに、どうぞどうぞ。

 僕は木の実を茹でて、柔らかく調理して食べますから」


 少年は、心底楽しそうな笑顔で返事をする。

 自分にワザと、生で木の実を食べさせて、からかった事に気が付いた。


 一見、大人く優しげな顔立ちの少年、しかしその瞳の奥には強い光がある。

 これは、見かけで判断できない。言葉で脅しても折れない、力で脅せばすぐ死んでしまうかもしれない。

 もしかしたら、自分の手に負えない面倒な存在のような気がした。





 食べかけの木の実を握りしめたまま、考え込んでいる彼女を無視して、ハルはユニコーンにも木の実を与えようとした。

 馬なら人参がいいんだけど、おにぎりの実なんて食べるかな?

 予想通り、差し出された木の実を無視したユニコーンが、突然、ハルの腰に巻いたアイテムバックに鼻頭を押しつける。

 必死に匂いを嗅ぎ、歯をむき出しにして中身を出せと要求してくる。


「山桜、急にどうしたの!!アナタ、鞄の中は何が入ってるの」


「えっ、アイテムバックの中には死黒鳥の死骸しか入ってないけど……

 まさかユニコーンってモンスターを食べる?」


「ユニコーンはモンスターなんか食べないわ。

 聖獣は綺麗な水と”蒼珠”を食べて生きているの。ユニコーンの四肢の怪我も、”蒼珠”でしか治せないもの」


「そっか”蒼珠”ね。それなら……」


 少年は小さく呟くと、おもむろにアイテムバッグから死黒鳥を一羽取り出し、その場で首を落として頭部を捌く。鳥のきつい腐臭に彼女は眉をしかめるが、ハルはソレから青い塊を取り出すと、ユニコーンの鼻先に差し出す。


 ぱくん 


 聖獣ユニコーンは、ハルの掌に乗った青い石をペロリと食べてしまった。


「あ、あーーっ、死黒鳥を食べさせるなんて、アナタ聖獣を毒殺するつもり!?」


「違いますよ、ほら死黒鳥の額に小指の爪ぐらいの小さな青い石”蒼珠”が埋め込まれているでしょ。

 ユニコーンは、この”蒼珠”を食べたいんですよ」


 ハルはそう答えながら、バッグの中から新しく死黒鳥を出して彼女に押しつけた。

 彼女は、神科学種の少年が”蒼珠”を取り出したのを真似て、ナイフで石を抉り出そうとするが、”蒼珠”は刃先が触れただけで脆く砕け散ってしまう。

 自分が一個の”蒼珠”を取り出すのに悪戦苦闘してる隣で、少年は鼻歌まじりに慣れた鮮やかな手つきで、鳥を捌き”蒼珠”を取り出している。


「うん、まさか肉屋のバイトで鍛えた技が、ここで生かされるとは思わなかった」


 ハル一人で死黒鳥を二十羽以上捌き、手の平いっぱいの”蒼珠”を集め、それをユニコーンに与えてやった。

 ”蒼珠”を食べた途端、ユニコーンの足の腫れが引き、折れた四肢の怪我がみるみる回復して、横倒しの状態から体を起こし、四肢を曲げて座れるまでになった。

 ただ、走れるまで怪我が完治するには、もっと大量の”蒼珠”を食べさせる必要がある。


 一仕事終え、手に着いた死黒鳥の臭いを落とすため、ハルは洞窟の入口の水たまりでゴシゴシ手を洗っている。

 聖騎士であり、今は誘拐犯の彼女は、奇妙な気分で捕らえた少年を見ている。

 この子が、女神卸の巫女という噂が信じられない。ただの平々凡々の食堂の下働き召使いではないか。


「砂漠竜を狩り、枯れた泉に水を満たし、食糧不足を解消した『オアシスの奇蹟』と

 死黒鳥を狩り、聖人黒鳶を選定し、祝福の宿る紙細工を与える『鳳凰小都の奇蹟』

 アナタは本当に、終焉世界に降臨したミゾノゾミ女神なの?」


「僕は女神さまじゃないですよ。

 戦闘力もないし、魔力マナも足りない、弱いだけの神科学種です」


 嘘ではない、僕の器は女神モデル(無料キャラ)だけど、普通の人間とドコも変わらない。

 オアシスでも鳳凰小都でも、ほんの少しの偶然と幸運で奇蹟は起こった。


 しかし殆どの者は、小さな奇跡すら起こせない。そして疑心暗鬼の心の彼女は、小さな奇跡の予兆を見逃してしまう。

 偶然、ハルの鞄の中に”蒼珠”があったという幸運を、気付きもしないのだ。



 ***



 見回りに行くと猫人族の彼女は洞窟を出てゆき、ユニコーンの傍で休んでいたハルは体を起こした。


 外にはモンスターが居て危険だと言うが、本当に危機感を感じるのは、自分を捕らえる聖騎士の彼女だ。死黒鳥から”蒼珠”を取り出せない、指先のコントロールができないほど、酷く情緒不安定な状態。


(洞窟内で電波状況が悪いのか、パーティチャットが繋がらない)


 今なら、ココを抜け出すチャンスだ。

 外の電波状態が良ければ、仲間達に念話チャットで助けを求められるのだ。


 洞窟の入口に向かうハルの姿を見て、一緒に連れて行ってくれというように、鼻を鳴らすユニコーン。

 潤んだ蒼く大きな瞳が瞬いて、長い首を左右に振って甘えるような仕草で、ハルの気を引こうと一生懸命だ。


(ああっ、山桜ちゃんかわいい~~。この子の足の怪我を治してあげたいよ)


 ハルは、後ろ髪を引かれる思いで洞窟の入口まで来て、周囲に敵の潜んでる気配が無い事を確認して外に出る。、





 普段より強い風が吹いているが、まさに台風一過の天気。

 そして、目の前に広がる光景を見て、ハルは突っ立ったまま唖然としてしまった。


 千切れ雲が浮かぶエメラルドグリーンの空と海、大きな波が打つ寄せる白い砂浜、そして、周りに陸地が見えない。


 洞窟の中では、始終波の音が聞こえ潮の香りがしたので、海の近くの洞窟なのだろうと思っていた。

 それが、まさか、四方を海に囲まれた絶海の孤島、海の中の岩の洞窟だったなんて!!


 周囲に白い砂が堆積した、巨大な岩の島。

 そして、青い海の色に紛れ、白い砂に潜り、姿を隠しているモノをハルの赤い右目の赤外線センサーは確認していた。


 浜辺と浅瀬は、風華十七諸島の真の支配者『蒼牙ワニ』のコロニーで百匹余りのワニがたむろする。

 一見、白く美しい砂浜に足を踏み入れた途端、二メートル越えの巨大ワニが襲いかかってくるのだ。ただし、ワニがいるのは砂浜の部分で、ハルの居る傾斜のある岩場までは登ってこられない。


 島全体が巨大な岩の島は、逞しい雑草が張り付くように生え、小さな実を付けた細い低木が岩の割れ目から根付いている。

 ハルは島の頂上を目指して岩場を登り続け、三〇分ほどかけて頂上にたどり着いた。


 遥か海の彼方に、二日前まで自分が居たであろう陸地の影が見え、プッチンプリンの形をした山のシルエットが目に飛び込んでくる。

 そして、岩の島上から360度水平線を見渡せる、眼下に広がる光景に驚く。


 こ、これは、見事なほど、人工的に造られた群島だ。

 周囲を海に囲まれた、綺麗なドーナツ状の砂の浅瀬に、首飾りの宝石ように美しい、大小の島々が並んでいる。

 青紫の岩礁の島、青い花に覆い尽くされている島 赤い岩山と赤く紅葉した樹の島、黄金色に輝く黄色の実が鈴なる島

 どの島も一つの色に染められ、グラデーションのように並んで配置されている。


 ハルの居る黒い岩島の隣は、深緑の森が広がる大きな島で、潮が引けば浅瀬を歩いて渡れるかもしれない。

 ただしその浅瀬には、獰猛なワニ群れが、獲物を待ち構えてうろついているが……





 周囲を見渡すと障害物は一切無い、しかし陸からかなりの距離がある。


(携帯だと確実に圏外だよね。念話チャットはちゃんと繋がるかな。)


 ハルが、赤い右目に浮かび上がる仮想モニターを立ち上げたと同時に、SENとティダから送られた、二日分の大量のメッセージが表示される。

 メッセージ過去ログを見て、皆が自分を心配している様子を知り、思わず目頭が熱くなってしまう。そしてティダの念話チャットと通信可能状態なのを確認できた。


(大丈夫だ、コレで連絡が取れる。助けが呼べる!!)




 しかし、次の瞬間、思いもかけないアクシデントが待っていた。


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