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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
52/148

クエスト47 王族の契約を発動してみよう

 コクウ港町エリアは、季節外れの台風に襲われていた。


 ハルの行方を追ってきたティダ達三人は、台風で港町で足止めを食らい、宿で大人しく……できるはずもない。

 半巨人で人間の倍以上の力を持つ竜胆と、治癒魔法に長けるエルフ族のティダは、この非常事態に散々駆り出され、舟が横倒しになったと力仕事を手伝い、風で飛ばされ腕の骨を折ったと担ぎ込まれれば治療を行う。


 それに、身分を隠していても若々しく凛々しい顔立ちの竜胆と、見目麗しい天女の様なティダ、姫君の様な愛らしさの萌黄は、台風で家や宿屋に閉じ込められ暇を持て余した人々の噂になる。

 特に、来る者を拒まないモテモテ体質の竜胆は、宿の部屋にマダムやら娘達が押しかけてきた。




 ティダは、パーティチャットのログインアラーム音で目を覚ました。

 二日ぶりに、ハルが就寝スリープモードからログイン状態になった合図だ。


「ハルちゃん、目が覚めたの?

 大丈夫、聞こえたら返事して頂戴」


 ティダは念話チャットで何度も呼びかけるが、台風のせいで電波状態が悪いのかハルからの返事が無い。


 なんだか嫌な予感がする。あのハルちゃんの事だ。

 自分たちの助けが来るまで、大人しくしてればよいが、何かやらかすのではないか。


 まだ朝7時前、ティダはベットから起き上がり、赤い右目を切り替えマップ表示と脳内GPSで気象衛星の画像を確認する。

 台風は二日間、コクウ港町エリアと風香十七群島に居座り、やっと昼には暴風域を抜け出そうだ。夜のように薄暗い窓の外を眺めると、雨は随分と小降りになってきた。


 いつでも出立できるようにアイテムバックの中身を確認していると、再びアラーム音が鳴り異常を知らせる。


 ハルのステータス表示が、グリーンの通常状態から赤く点滅し始め、生命力と魔力がガンガン減少している。元々初心者レベルで、30そこそこしかないハルの生命力が、あっという間に一桁、2ポイントしか残ってない。


 これは何が起こった、魔力も同時に減っているから治癒魔法を使ったのか。

 さっきまでハルは通常状態だった、他の者が怪我を?

 まさか誘拐犯に治癒魔法……ハルちゃんならありえるな。


 生命力ギリギリ状態で、赤く点滅するハルの名前に、ティダの不安は掻き立てたれる。



 ***



 コクウ港町一の高級旅館 巨人族の王子 竜胆のために用意された特等室。


 ティダは廊下を足早に駆け抜け、竜胆の居る一番奥の部屋のドアを蹴り開けた。


 広いベットの上には竜胆本人と、お約束通り、両脇には全裸の美女二人がシーツに包まって眠っていた。突然、ドアが破壊された大きな音に驚いて二人の美女は目を覚まし、部屋に乗り込んできたティダを怯えたように見つめる。

 ティダは彼女たちに、天女のような慈悲深い笑顔で笑いかけると、土足でベットに乗り込み、眠気まなこの竜胆の襟首を鷲掴む。


「竜胆、この状況で、相変わらずお盛んだな。

 さっさと起きろ、ハルちゃんの状態がおかしい。

 竜胆、お前契約者だろ、何か感じないか?!」


 ティダは、細い腕で巨漢の竜胆をベットから引きずり出すと、そのまま廊下へ連れてゆく。


 その間にも、ハルの名前表示が赤の点滅から、色を失い灰色のデッドリーになる。

 襟首に手をかけたまま、詰問するように聞いてくるティダの様子に、さすがの竜胆も危機感を覚えた。


「慌てるなティダ、今呼びかけてみる。

 王族の、血と肉と魂の契約者の名の元に命ず。

 我が半身の姿を映し出せ、所在をーー」


 竜胆の全身から紺のオーラが立ち上り、感覚が研ぎすまされる。

 閉じた瞼の眼球が、見えないなにかを探すように動いている。


 王族の契約の呪文も終わらぬうちに、ティダの目の前で、竜胆の喉元に『一筋の切り傷と数滴の血』が流れた。

 竜胆は僅かな痛みを感じ、自分の首に手を伸ばすと、指先に付いた血を見て眉をひそめる。


「これは、半身の契約者、ハルが受けたダメージを肩代わりした。

 俺は、誘拐犯の聖騎士の顔を見た。

 ヤツに脅され切りつけられた傷で、ハルは死んでいたぞ」


「竜胆、神科学種は女神霊廟で用意された器に、プレイヤーの魂が憑依インストールされている。

 この世界の人間には無い、特別な力を与えられているが、必要以上に生命力を失えば、器から魂が解離ログアウトする。

 ククッ、お姉さまのハルちゃんを傷物にするなんて、随分と舐めたマネしてくれるじゃないの。

 竜胆、連れてきたドラゴンはもう充分飛べるだろ。

 台風が過ぎるのを待つ必要はない、30分後に出発するぞ!!」


 いつもは取り澄ました表情のエルフが、瞳を爛々と輝かせ、口元は歪んで吊り上り、血に飢えた狂戦士モードになる。


「この暴風の中、飛んで探すなんて無謀じゃないのか?」


「雨が収まりつつある今なら、台風雲が薄い場所を選んで魔獣を飛ばし、雲の上に出れば大丈夫だ。

 風香十七群島は、すでに台風から抜けている。

 我々やアマザキを出し抜いて手に入れた、貴重な『女神の憑代』を簡単に傷つけるとは、敵は精神的に追い詰められているようだ。

 これは一刻も早く、ハルちゃんを助け出す必要がある」



 半刻後、暴風の中を赤いドラゴンが飛んで行くのが見えた。

 海の向こうは、雨雲の間から、久しぶりの太陽の光が差し込んでいる。



 ***



 わずかな切り傷を受けて、その場で倒れた少年は、人形のように動かなくなった。


 そんなバカな、まさか、まさか、まさか!!

 治癒魔法で、私の折れた骨を一瞬で繋げることが出来るのに、たったこれだけの傷で死ぬの?


 血の気の失った顔、紫の唇、目を見開いたまま事切れる神科学種の少年。

 猫人族の聖騎士、瑠璃は愕然として、両手を地に付き、その顔を間近から覗き込む。


 少年の赤い瞳に、自分の姿が映った瞬間、違う誰かが見つめ返すのが解った。


「ひぃっ!!」


 その視線に秘められた威圧感は、圧倒的な力の差と恐怖心を呼び起こす。

 紺のオーラが少年を包み込み、赤い瞳はさらに彼女の姿を追う。

 終焉世界で最強の一族、巨人王の目。


 それは、わずか一瞬の出来事だった。

 瑠璃は我に返ると、不思議な事に少年の首の傷は消え、顔に血の気が戻り、息を吹き返していた。



 洞窟の奥にいるユニコーンが、興奮した嘶き声で鼻を鳴らしながら少年を探している。

 聖獣は少年を気に入り、自分の傍に連れてこいと言っているようだ。

 彼女は、自分より小柄な少年を抱き上げると、ユニコーンの傍に運んだ。



 ***



 久々に、とてもよく寝たなぁ。

 あれ、なんだか同じ場面デジャヴー?



 パチクリ、と目を開けたハルは、首をひねりながら周囲を見回した。


 ガブ ガブ ガブッ

 幸せそうに僕の頭を甘噛みするユニコーン、唾液まみれになっているのは仕方ない。


 それから、なんで誘拐した犯人が、怯えたように警戒心丸出しで、壁に隠れながら僕を見ているのだろう?そんな彼女が、遠くからポイと投げてよこしたのは、僕のアイテムバックだった。


「ア、アナタに命令しますっ。そ、その鞄の中身を全部出して、床に並べなさい。

 ち、沈黙の呪いが掛かってますから、命令に逆らい嘘をつくことは出来ませんよ」


 ふむっ、バッグの留め金が外れている。

 ネコさん(と命名)は中身を出せなかったのか。

 アイテムバックは、裏地に描かれた魔法陣を魔力マナで起動させないと、中身が取り出せない仕組みになっているからね。

 バックの中身は、オアシスの洞窟で水を汲むために全部出したから、大したモノ持ってないよ。


 神科学種の少年は、アイテムバックに手を突っ込むと、次から次へと奇妙なモノを出してきた。


「えっと、鞄の中身は、使い込んだ火の結晶の簡易コンロ1、着替えの上着とズボン1、それから……」


 神科学種の所有物だと期待して、少年に命じて出させた鞄の中身は、竜の鱗や使えない紙幣、ただの黒い石、紅白の衣装というガラクタばかり。

 

「ぶ、武器を持ってたら出しなさい。私が使えそうなモノです。」


「この大きな弓はどう?ちょっと重いけど性能はイイよ」


 ハルはニヤリと笑い、女神の弓と矢を直接彼女に手渡す。

 瑠璃は、その赤い漆塗りの美しい弓が使えそうだと受け取ると、その鉄の塊のような重さに、体を支えきれず膝をつく。


「こ、こんなに重たい弓は持ってられません。矢も重すぎて射れないし、武器として使えないわ」


 逆切れ気味に突き返された弓を、ハルは軽々と片手で受け取るとアイテムバックに仕舞う。

 彼女の驚いた表情に気付かない振りをして、油のこびり付いたドラゴンヘルム(竜兜)と、傷だらけのクリスタルシールド(水晶盾)、20センチほどの長さのナイフを出す。


「僕は料理が趣味なので、兜はお鍋として、盾はまな板として使います。

 コノ包丁は、特別お肉が良く切れます。僕の持ってる武器はこれだけ」


 ハルの言葉に、彼女はガックリ肩を落とした。


 少年が眠っている間に、彼女は嵐の納まりつつある浜辺に出てみたのだ。

 白い砂浜に、四足の足跡と太い尻尾を引きずる跡が大量に付いていた。

 この浜辺は雑食のモンスター、全長二メートル越えの蒼海ワニの群生地だ。


 脚を怪我して動けないユニコーンに、すぐ死んでしまう弱い神科学種の少年。

 自分はミスリル製の鎧がある、身を守るだけなら大丈夫だ。

 しかし他者を守るための、戦うための武器が欲しい。




 武器はあった。


 ハルの持つ『良く切れる包丁』は、SENがアマザキから奪った『首切り刀 チャタンナキリ』。

 それの元は、切れ味の良すぎる包丁だったので、ハルなら使いこなせるだろうとSENは譲ったのだ。

 呪で、嘘を吐くことのできないハルは、言葉を上手く変え、彼女を誤魔化した。




 ひとつの嵐は過ぎ、その後に、新たな嵐が待ち構えていた。

特殊な武器なので、説明~~


※北谷菜切 ちゃたんなきり (ウィキ参考)

伝承によれば、北谷の農婦が包丁を振ったところ、触れてもいないのに赤子の首を切って殺してしまった。

取調べを受けたが無実を訴え、役人が試みに山羊に向かって包丁を振ったら同じく首が切れ、そこで農婦は放免された。

この包丁を刀に鍛え直したものが、北谷菜切であるという。


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