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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
オアシス編
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クエスト3 水を調達しよう

 ゴブリンに捕まって瀕死状態だった少女は、意識を取り戻すと喉の渇きを訴えた。

 ハルたちは初心者エリアと甘く見て飲料水アイテムの準備をしていない。

 少女にゲームアイテムのポーションを飲ませようと話していると、SENが何かを閃いた様子で声をかけてきた。


「ティダお前、ドラゴンヘルム(竜兜)を持っていただろう。ちょっと貸してくれ」


 ティダは言われるがまま、金色に輝くレアカラーのドラゴンヘルムをSENに手渡す。

 SENは兜を上下逆にして砂の上に固定すると、ゆっくりとした動作で狙いを定め魔法攻撃呪文を唱えた。


「氷の聖霊よ 我が敵を撃て 氷 鋭 弾」


「ええっ~~~ちょっ(ここから野郎の声)俺のヘルムに何すんだぁ!!」


 ティダの罵声を掻き消し、派手な爆音を上げドラゴンヘルムに氷の弾が降り注ぐ。

 しかし最高強度を誇るドラゴンヘルムは傷一つ付かず、兜の中には氷の塊がぎっしり詰まっていた。

 SENは氷をひとかけら取り出すと少女に手渡し、食べるゼスチャーをしてみせる。

 しかし生まれて初めて氷を見た少女は、宝石のような透き通る石を不思議そうに見つめているだけ。


「これを口に入れて舐めるんだ。

 布に包んで額を冷やし…ってお前らが食ってんじゃねえ」


「もぎゅ もぎゅ ガリガリ冷たくて美味しい、生き返るぅ」

「これ俺のヘルム。SENの旦那、ほら、あーん」

「俺が出したものだし味見してみるか。すぐ溶けるな、おおっ冷たい」


 ガリガリ、コリコリと音を立てて氷を食べる三人を真似て、少女も口に氷を含んだ。


「ひゃっ、この石冷たい。

 あれ、消えてお水になっちゃった?」


 青い大きな瞳を輝かせ、整った顔立ちの少女は可愛いしぐさで小首をかしげる。

 そうして氷を何個か食べると少し元気を取り戻したようで、しっかりとした口調で話し出した。


「お兄さん達、助けてくれてありがとう。

 私の名前は 萌黄もえぎといいます。

 オアシスのはずれに叔母さんと住んでいて、聖堂の帰りにゴブリンに襲われたの」


「僕はハル、二人はSENとティダ、神科学種の冒険者なんだ。

 もうゴブリンはやっつけたから大丈夫。ちゃんと君をお家まで送ってあげるよ」


 ところが、少女は暗い顔をすると、怯えたように震えながら首を左右に振った。


「村に戻っても……オアシスの水も、食べるものも無くて、みんなに迷惑かけちゃう。

 それに、砂漠から大きなモンスターが村を襲ってくるの」


 ハルにとっては初めての砂漠エリアなので、その言葉の意味を理解できなかった。

 ティダは怪訝そうな表情で萌黄と名乗った少女に訊ねた。


「まさかオアシスの村の水が枯れたって?

 それと砂漠のモンスターだと。エリアボスの蒼珠砂竜がオアシスを襲ってくるのか」


「転送ゲートが破壊され、モンスターが狂暴化している。いったいどうなってんだ?」


 SENの説明では、タイショ砂漠エリアのオアシスは『女神がもたらした奇跡のオアシス』と呼ばれているそうだ。

『タイショ砂漠のオアシスの水に浸かると、怪我や難病が直ちに直る』という伝承から奇蹟を求める人々がオアシスを多く訪れ、砂漠の村に繁栄をもたらしていた。

 しかし今少女から聞いた話では、オアシスの水は枯れ女神の神力が弱まっているようだ。


「でもモンスターより酷いのは、オアシス聖堂の大神官なの。

 聖堂の中に湧き出る僅かな水をもらうために、大人も子供も奴隷のように一日中働かされてる」


 気丈に振る舞っていた少女の瞳から大粒の涙が溢れ、耐え切れず声を上げて泣き出した。

 ティダが少女を慰めながら抱きかかえ、SENに声を掛ける。


「お嬢ちゃんの話だと、俺たちがオアシスの村に行ってもやっかい事に巻き込まれるだけじゃないか?

 地下鍾乳洞の中には川が流れていたから、そこで水を確保したほうがいいと思う。

 ダンジョンに戻ってこれからの行動を決めよう」


 結局彼らは少女を連れて、もと来た砂漠の道を引き返すことになった。



 ***



 地下鍾乳洞は、神科学種と呼ばれる冒険者ゲームプレイヤーのために造られたダンジョン。

 神科学種の『造られた体』に蓄えられたマナと呼ばれる魔力に、ダンジョン魔法陣が反応して内部に入ることが出来る。

 しかし冒険者以外の終焉世界のほとんどの人間や巨人は魔力マナを持たないため、ダンジョンの中に入る事はできない。


「場所を教えても、村人が水を汲みにダンジョンの中に入ることはできないのか」


「そもそも、モンスターがうろつく砂漠の中を片道3時間歩いて、どれだけの水を運べるんだ?」


 鍾乳洞の中を流れる冷たく透き通った川で手足を洗いながら、三人は思い付くままアイデアを出し合う。


 傍で彼らの話を大人しく話を聞いていた少女に、ティダが手招きした。


「さあ、お嬢ちゃんもこちらにいらっしゃい~~。

 フフッ、お姉さまが全身綺麗に洗ってア・ゲ、げふっ!!」


「やめんか、このネカマロリコン!!

 この世の至宝である可憐で清らかな幼女は眺めて愛でるものだ。それを直接手を下そうとは、変態紳士の風上にも置けぬ奴。恥を知れ!!」


「いや、お姉さまはお前と同族じゃないし……」


 えっと、今SENさんは何て言ったのかな?


「ハル、こいつは俺が見張っているから、その子を洗ってやってくれ」


 その事を追求する前にSENに着替えとタオルを渡され、ハルは小さな少女の手を引いて少し離れた川下へ連れてゆく。

 少女は治癒魔法ヒールの効果で、体中の痣や傷も消えて白くきれいな肌に戻っていた。


「タオルで体をこすって汚れを落としてね、服はもうボロボロだからコレに着替え……

 ち、ちょっと、待った!!」


 なんでSENさん、ピンクのメイド服なんて持ってんだ~~~~。

 そうだ、きっとこれは宝箱かモンスタードロップ品であって、男のロマンを追い求めてうっかり購入したものでは無いはずだ。


「うわぁ、お姫様のドレスみたい。ハルお兄ちゃんありがとう」


 ハルの心の葛藤を知らない少女は過剰にヒラヒラの付いたピンクのメイド服に目を輝かせ、大喜びで身に着けた。

 メイド服を着た少女は、小さいながらに不思議な気品であふれていた。

 絹糸のように細く流れる金の髪、海のように深い蒼い瞳に長い手足。

 砂漠の民というよりお姫様のようで、将来はきっと絶世の美女になるだろう。

 彼女が無事に家に帰れるように、なにか僕らにできる事が無いかな?


「ハルお兄ちゃん、このお水を石にして、カバンに入れておうちに持っていきたいな」

「萌黄ちゃん、氷は暑い砂漠ではすぐ溶けちゃうんだよ」


 ハルの返事に、小さな少女はガッカリして悲しそうに項垂れた。

 今の僕らは兜で水を汲んでいる状態だ。

 せめてペットボトルみたいな容器があれば、ちゃんとアイテムを準備して来れば良かった。

 バックの中身を確認しても水を汲めそうなものは何もない。


 いや、もしかして、ひとつだけ。


 この方法なら水を汲んで運べるかもしれない。



 ***



「試したいことがあるんです。僕の荷物を預かってもらえますか?」


 ハルは二人の目の前で、ウエストポーチタイプのアイテムバッグの中身を全部引き出した。

 ゲームを始めてまだ三ヶ月のハルは、所有アイテムの数も少ない。

 しかし無造作に放り出された『ラッキーボーイ』ハルのアイテムは、珍品レア激レアばかり。

 ティダとSENは競ってそのアイテムを預かった。


============

【アイテムバック】

 ゲーム内でアイテムを収納できるバッグは、ポシェットからボストンバッグまで様々なタイプがある。

 バッグの種類やアイテムのサイズは関係なく、バッグ1つでアイテム80個×レベル数(ハルの場合36)を収納する。

 裏ワザとしてアイテムバッグの中にバッグを収納し、所持アイテム数を増やすこともできた。

============


「アイテムバッグに水を収納できるのか、確かめてみます」


「ええっハルちゃん、大胆な発想だけど、もしバッグが壊れたらどうするの!?」


 ハルはティダの止める声も気にせず、空になったアイテムバッグを川の中に沈める。

 ゴボ ゴボ ゴボッ 

 川の水がバッグの中に勢いよく流れ込んでゆく。

 もし水が1アイテムとして判断され、サイズや重量も関係なく収納できるなら、バッグ1つでかなりの量の水を簡単に持ち運ぶことができるはずだ。


 5分後。

 ハルはアイテムバッグの口を閉じると川から引き上げる。

 バッグの重さに変化はなく、防水加工が施されているようで全然濡れていない。

 ハルはおもむろにバックをひっくり返すと、中のモノを取り出すように腕を突っ込む。

 ゴボ バシャ バシャ バシャ

 まるで蛇口をひねったように、バッグの中から水が溢れ出してきた。


「まさか本当に上手く行くとは。さすが『ラッキーボーイ』だな」


 川の中に沈めていた時間と同じ五分間、バッグの中から水が湧き出した。

 水といっしょに、川エビが二十六匹も中から飛び出してくるというオマケつき。


「すごいっ、このカバンがあったらお家まで水を持っていけるよ」


 目の前で繰り広げられた手品に、少女は歓喜の声を上げた。

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