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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
鳳凰小都編
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クエスト42 第七位王子と会おう

 SENはツルを数羽折ってみたが、微妙に形が不格好で『神の燐火』は宿らなかった。

 己の不器用さを見せつけられたような、つまらない気分で1ピョコ紙幣をマジマジ見ていると、描かれた鳳凰の絵柄が、今自分が象牙の塔の書庫で漁っている“超絶萌え萌え”女神像を描く絵師と似ている事に気が付く。


「正確なデッサン力に迷いのない滑らかな描線、独特の原色使い、そして個性的なアングル。

 間違いない……コイツは同一人物が描いている」


 書庫から持ち出した本をテーブルの上に広げ、手にした紙幣と本に載っている肌も露わな女神の身悶え図を見比べる。

 人目もはばからずエロ本を広げてブツブツ呟くSENの奇行にドン引きする周囲にかまわず、ティダを呼び寄せると本を示した。


「言われてみれば似ている気がする。SENの旦那のオタク鑑定眼は正確だ。

 紙幣の図柄を書いたって事は、有名な画家なのだろう」

「そういえば、このピョコ紙幣を僕にくれたチャチャさんが、鳳凰の絵は第七位王子様が描いたって言っていましたよ」


 エロ本を前に話し込む二人の間に割り込んできたハルの言葉に、SENは一瞬聞き違いかと耳を疑った。


「これほど素晴らしい絵を描く人物が、バカで無能と噂される第七位王子だと……。

 そうか、絵に『祝福』を宿らせるほどの芸術的センスを持っているというのに、巨人族の中では認められない特異な才能なのか」


 それはリアルでもよくある話で、周りからの理解を得られず筆を折る鬼才や、後世になって認められた天才とか、そういった部類に当たるのだろう。

 鳳凰が描かれた千羽ツルを皆が夢中で作った結果、『神の燐火』は大食堂の中で飽和状態となり窓の外へフワフワと逃げ出し、七色の光を放つ千羽ツルは風に乗って街中を群れを成して飛んでゆく。

 それは美しい光景だった。




 すべての手配を水浅葱に指示し終えた王の影は、廊下で三人の会話を聞き、ハルたちの前に姿を現した。


「先ほど『鳳凰小都』へ、巨人王 国軍の介入を許可しました。

 これより鳳凰小都は巨人王直轄、蒼珠聖堂が預かり統治することになります。

 私は、今貴方がたの話に出た第七位王子へ、街の支配権停止と明渡しを告げに行きます。」

「何を急に、突然物騒なこと言っているんだ。

 これまで策を巡らして、鳳凰小都を良い方へ導こうとしていたのはアンタじゃないか?

 それが一体全体、どうして軍を介入させるんだ」


「はぁっ……私もすぐに行かなければならないので、貴方ではなく紳士的な頭の良い『闇夜の剣聖』にご意見を伺いたかったです。

 私はこの鳳凰小都の、常軌を逸した狂乱がこれ以上進むのであれば、巨人王の援助を停止し街そのものを廃する予定でした。

 それが驚く事に、貴方がた、というよりハルくんが現れてから、街の厄鳥は取り除かれ新たな聖人が生まれ、終焉世界の力の源である『神の燐火』を発生させる術まで手に入れました」

「そうして鳳凰小都にもたらされた豊穣を、勝手に力ずくで巨人王のモノにするのか」

「なんと仰られてもかまいません。

あのバカ王子には、鳳凰小都を治めるどころか、自分の身ひとつ満足に世話するコトができないのですから」


 YUYUは踵を返すと部屋を出てゆく。

 扉の前で足を止めると、静観していたティダに目配せした後、薄笑いを浮かべてSENに告げる。


「すでに水浅葱は、王直属の近衛師団と行動を共にしています。

 ティダさんに代わりの付き添いをお願いするつもりでしたが、SEN貴方も一緒に来て下さい。

 第七位王子が、実際どのような人物であるかの判断してもらいましょう」



 ***



 雪深い森の中、木の根元に座り込んでいた若草色の髪の少年は、金色の衣に付いた雪を払い抜けると、手にした物を乱暴に投げ捨てた。

 それは藁でできた呪いの人形で、腰の部分に太い釘が刺さっている。


「いくら最強チートTUEEEEEな俺様でも、巨人兵を相手ニスルノハ面倒臭イ。

 部下も1匹逃げちまったし、ココ寒ミイシ、一旦神殿に戻るとスルカ」


 雪の中、黄金に輝く髪をなびかせ純白のマントを身にまとった長身痩躯の青年。

 見る者すべてを魅了するといっても過言ではない大輪のバラのように華々しい雰囲気を持つ紫苑王子は、作り笑いを浮かべたまま隣の偽法王の話を聞いていた。

 以前の法王は、天真爛漫とは聞こえはいいか無防備すぎる警戒心ゼロの男で、見るたび苛立ったが……中身が違うとコレほど見苦しい生きモノになるのか。

 己の野望のため手を組んだ、信用しているわけではない。常に互いの腹のさぐり合いをしている。

 自分を冷めた目で見ている相手に、アマザキは黒い笑いを浮かべながら一言告げた。


「そういえば、蒼珠聖堂の大神官は、美しいエルフの天女ニヨッテ選定サレタ。

 純血エルフなんて絶滅危惧種、終焉世界デハ『王ノ影』とソイツしか居ナイダロウナ」


 巨人もエルフも、所詮遺伝子操作で生み出された種族。

 それがこの終焉世界では『自分たちは神に選ばれた』なんて戯れ言を本気にする連中がいる。

 アマザキの話に顔色を変えたハーフエルフの王子は、滅びた種族エルフの選民思想に毒され、父親であるはずの巨人王を憎悪している。


 アア、何てオモシロいゲームだ。こんな世界グチャグチャになってシマエバイイ。



 ***



 使用人がすべて逃げ出しゴミ屋敷と化した鳳凰館の中を、王の影YUYUとティダ、SENの神科学種たちが訪ねたのは、日が沈み酒場や娼館の明かりが辺りを照らし始める時刻。

 鳳凰小都中央に鎮座する巨大な鳳凰館とその周囲だけが、光もない不気味な闇に包まれている。

 ティダは手のひらに乗せた千羽ツルを広げると、『神の燐火』を纏った紙細工の鳥は薄暗い室内を照らし出した。ヒラヒラと荒れ果てた館の中を舞いながら、まるで三人を導くように入り組んだ廊下の先のある階段の上へ飛んで行く。


「嫌な気を感じます。どうやら先客がいるようですね」


 最上階の第七位王子の寝所へと登る階段の下で、白髪の混じった茶髪の老人が、叩頭したまま『王の影』が現れるのを待っていた。


「このような惨めな有様で、巨人王陛下の使者である王の影をお迎えしてしまい、誠に申し訳ありません。

 私が愚かなばかりに、王子を諫められず鳳凰小都は色と欲にまみれ地に落ちました。

 どうか巨人王へは何とぞ御慈悲を頂きたく、それと、十七位王子紫苑の……」

「主を裏切る小物が、王の妾に取り入ろうとしているのか?」


 最上階へと続く階段の上から声が降ってきた。

 見上げたその先に居るのは、輝く黄金の髪に澄んだ青い瞳、優美な顔立のハーフエルフの男がいる。


「なぜ貴方がココにいるのですか?第十七位王子 紫苑」

「敬愛する兄上が貶められようとしているのを、弟である私がお助けするのです。

 第七位王子である兄上を、王位継承選定から外し、裏で糸を引く女狐。現に鳳凰小都へ向かって、ハクロ王都の近衛師団が出陣したという報告が入って来ている」


 王子紫苑の言葉に、様子を見守っていた側近の男は驚愕の声をあげ、頭を抱えてその場でうずくまる。


「聞きましたか、兄上様。

 次期巨人王にふさわしい貴方を滅ぼすために、この売女は近衛師団まで操るのですよ。

 巨人族の誇りを汚す王の影に、天誅を下さなくてはなりません」


 ズシンッ と、建物全体を揺さぶるほどの振動が、天井がばらばらと崩れはじめた。


 巨人族用の大きな間取りの丈夫な造りの建物が、ゆさゆさと左右に揺れる。

 紫苑の後ろにいる人物が館の主、第七位王子 青褐あいかちだろう。

 しかし巨人族の中でも大柄だと言われているが、全身が異様に赤く膨れ上がり、手足の表面は固く石化して着衣も裂け異様な状態になっている。


青褐あいかち様っ、なんというお姿に!!紫苑、貴様、青褐あいかち様に毒を盛ったのか」


「これは兄上のご希望通り、山のような体位、鋼のような体、岩のような手足をエルフ族の秘薬術で叶えて差し上げたのですよ」


 透き通るテノールの声で、見る者を魅了する美しい微笑みを浮かべる紫苑。

 その後ろから、かろうじて巨人の姿を留めた肉の塊が、階段を踏みつぶし天井を破壊しながら降りてきた。


 ティダとSENは、アイカチに駆け寄ろうとする男の襟を引いて後ろに下がらせ、YUYUを守るように前にでる。


「ちょっとすまないが、ティダ、少し時間稼ぎしてくれ。

 俺は、戦略に秀でたこの魔眼に映るビジョンに従い、禁断の儀式をしてこよう(電波語解説:トラップを設置してくる)」

「ふふっ、いいぜぇ。足止めするのに武器はいらないなぁ。

 前から一回、巨人族相手に素手のガチバトルやってみたかったんだよぉ」


 身体が酔ったように左右に揺れ瞳に狂気が宿り、狂戦士モードに切り替わったティダは、肉達磨と化した王子の前に歩み出る。

 ターゲットを定めた巨人の口から、人語とも吼え声ともつかぬ音が漏れた。

 その隙にSENは腰の抜け座り込んた老側近を担いで、YUYUと共に下の階へ移動する。

 

「見た目派手なイケメンだが、同じ王子でも中身は竜胆の方がずっとマシだな。

 おい、黄色頭!!このバカ王子にエルフの秘薬を使ったといっていたなぁ。

 薬が切れるのに、どんぐらい時間が掛かるんだ」


 長い銀髪のエルフが、紫苑王子を睨みつけ吠える。

 同族のエルフを食い入る様に見つめるハーフエルフの王子は、熱に浮かされた声で答えた。


「図体のでかい巨人では、薬の効き目は半刻もないでしょう。

 それより貴女のような純血のエルフが、何故王の影に使われているのですか?

 野蛮な巨人族や下等な人間とは違う、我々は神に選ばれた種族エルフなのですよ」


 紫苑は淀みない態度だとアピールするように純白のマントを払う。だが、その口元はひくついており、それが悪魔的な笑みへと変わる  


「そして、聞き捨てならない言葉を仰いましたね……同じ高等なエルフの血が流れるコノ私が、竜胆のような下等な者に劣ると言うのですか!!」


 すでにティダの目の前には、巨大な肉の塊が振り上げた腕が迫っていた。

 エルフの狂戦士は、ハーフエルフの王子に冷たい一瞥を投げつけると、振り下ろされる巨大な岩のような拳を避け跳躍する。肉達磨の肩に飛び移り、巨大な顔の横面に蹴りを入れた。

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