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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
鳳凰小都編
42/148

クエスト39 対アマザキ PKバトル

 ハルたちが「露天風呂でドッキリなう」で大騒ぎしていた頃、SENは一人、女神聖堂の白い象牙の塔を登っていた。

 円柱形の細長い建物は壁面すべて本棚になっており、この地が文化都市として一世を風靡していた頃印刷された書籍が保管されている。

 SENが右手に持つ数冊の本の裏表紙には、奇妙な文様バーコードリーダーが描かれている。

 オアシスでバーコードリーダーを起動させると人工衛星からの地上映像が鮮明に表示されたが、鳳凰小都では何故かそれがうまく起動しない。

 立ち並ぶ建物が障害となって電波が届くにくいかもしれない、そう考えたSENは一番高い象牙の塔の最上階目指した。


「ふぅ、なんという誘惑の多い場所だ。ココの神話関連本はついつい読みふけってしまう。

 特に女神美人画百選の本が素晴らしい。終焉世界にも、これほどマニア魂を揺さぶるほどの萌え萌え女神像を描く絵師がいるとは驚いた」


 SENは塔の中で、気がつくと六時間も本を読み漁っていた。

 眼精疲労気味のこめかみを押さえながら、手すりにつかまって最後の階段を登り、塔の屋根部分に繋がる扉のドアノブに手を掛けたところで。


「遅ェェェェエ――!!馬鹿は高いところが好き、ジャネエダロ。

 SEN、いつまで人を待タセルンだよ。俺様はアンタト違ッテ色々と忙しいんだ。

 これじゃ感動の再会もあったモンジャネェな」


 扉の砕け散る音と同時に、鋭利な穂先の槍が十数本余りSEN目がけて飛び込んできた。

 ちょうどSENの立っていた場所に槍が深々と刺さり、その衝撃で古い階段の足場が崩れおちる。

 寸でのところで、壁に飛び移り難を逃れたSENは、ぽっかりと空いた扉の向こう側に宙を浮くユニコーンと、それにまたがる若葉色の髪に金の法衣を着た少年がアルカイックスマイルを浮かべている姿を見た。

 突然の相手のPKプレイヤーキラー行為。

 しかしそれは二人にとって挨拶の様なモノで、SENは素早く壁を蹴り、天窓に体当たりして外へ出る。


 SENが現れるのを待ち構えていたアマザキは、手にした武骨な鉄の刀を横一線に振り切った。

 歪んだ波動の刃が、離れた黒衣の武士の首を狙って切り落とす。

 刀の名はチャタンナキリ。

 首を落とす事だけに特化された妖刀であり、アマザキは神殿に納められたこの刀を手にした時から振るう相手を決めていた。


「ヒヒィーーなんだぁSEN!!

 手ごたえが無いなぁ、死ンジマエヨ。

 神科学種でも、首ヲ落トサレルト蘇生できないんだぜェ」


 頭部と胴体が別々に分かれたSENの体が屋根から落ちる。

 しかし、その切り口からは血が出ない。

 ゴロゴロと屋根を転がる頭が、途中でぺらりと薄い紙に変化し、胴体もぺらぺらな紙になって風に煽られて飛んで行った。

 屋根の反対側から、苦虫をかみしめた顔をしたSENが現れる。

 また別のSENが天窓からひょいと顔を出し、別のSENは面白くてたまらない様に目を爛々と輝かせる。

 アマザキの背後に、表情無く静かにたたずむSENがいた。


「粘着アマザキ、久しぶりぴょん♪

 今お前の切り殺したのは『影分身 SEN4号 油断』だぴょん♪

 囮に引っかかって手の内を見せるなんて、毎度詰めの甘い、愚図な性格がよく出てる攻撃だぴょん♪」


「その虫唾の走る話し方は『SEN3号 暴露』かぁぁ。

 フザケンジャネぇーー、貴様ら全員、首チョンパしてやるぜぇ」



 ***



 屋根に上がる前に、SENは護符を取り出し、外のアマザキに聞こえないよう影分身の術呪を唱える。


「我が真の姿を見るものは有であり皆無 

 見えなき闇夜よ、辺りを覆いつくし彼の者を惑わせん 黒霧 幻想影分身!!」


 違法チートで最強能力を保持するアマザキ相手に、正面から戦えば負けは目に見えた。

 だが素晴らしい力と技を持っていても、常に情緒不安定なアマザキを混乱させることで戦いに隙が生まれ、それが勝ちに繋がる。

 そのSENの読みは半分当たって半分外れた。


 失った影分身もSENの一部であり、残された影分身のうち厄介な性格の『ナンバー3 暴露』が暴走し始める。




 再び妖刀を構えたアマザキは、宙を駆ける白馬にまたがり、上空から影分身達を見下ろすと楽しそうに次の獲物を吟味する。

 正面に立ち真っ向勝負のSEN1号と、塔の中に姿を隠すSEN2号、そしてSEN3号は……


「ほらほら、どこに目が付いてるぴょん♪ここぴょんぴょん♪」


 急に聖獣が嘶き声を上げ、後ろ脚を必死になって動かそうとする。

 アマザキが背後を振り返ると、ユニコーンの脚にしがみ付いたSEN3号が後ろ脚二本を互いに括りつけている。

 ケタケタと笑いながら前足に掴まろうとするSEN3号に、イラついたアマザキはチャタンナキリを振るう。

 妖刀は、最も近くにある首を落とす。

 その瞬間、距離を取り塔へ飛び移ったSEN3号の目の前で、聖獣の首が音を立てて切り落とされた。


 首を失ない、キラキラと光の粒を撒き散らしながら地面へ落ちるユニコーンを乗り捨て、アマザキは足元に魔法陣を描くと宙に浮かぶその上に立つ。

 能面のように表情を失ったかのように見えるが、瞳には憤怒の炎が渦巻いている。


「ケッ、蠅がたかってくるみたいな見苦しい抵抗スルンジャネェヨォォ。

 今の俺は霊峰神殿最高位の法王サマで、近いうちに巨人王ダトカナンダトカモぶっ殺す予定だし、終焉世界最強TUEEEEだぜ」


 そう怒鳴ると、アマザキは指輪をはめた左手を不自然に動かす仕草をする。

 塔の中から刃物同士の擦れるような音が聞こえ、中に潜んでいたSEN2号が外に飛び出し、逃げた獲物を追いかける魚の群れのように、鋭利な穂先の槍が十数本追撃してきた。

 二、三本は止めることが出来るが、残りの槍がSEN2号の全身を貫き、体中にボコボコ穴の開いた影分身は紙ふぶきの様に千切れて宙を舞う。


「なるほど、指に填めた指輪で、槍を遠隔操作リモートコントロールしているのか。

 影分身も残り二枚、我々の出来る事は……よろしいか?暴露」

「めんどくさいけど、ココはアタイ達で止めないとマズイぴょん♪

 ねぇ、盗み聴きしてる陰険アマザキ、そろそろお遊びはおしまいだぴょん♪」


 次の槍のターゲットとなり、塔の壁面をハムスターのように駆け回っていたSEN3号は、軽業師のようにチャクラムで槍の柄を断ち数を減らしてゆく。

 その様子に再度妖刀を握り直したアマザキは、今度は仕留め損ねないように、足元の魔法陣を移動させSEN3号の正面に回る。


「なぁSEN、お前が居ない二年の間に、俺がどんだけ荒稼ギシタカ聞キタイカ?

 ヒャハァーー、ゲームマネーは11桁超えたビリオネラだぜ。

 ココは最高に稼ぎやすいサーバーだな。メインNPCも殺りたい放題で、俺ニ敵ウ奴ナンカ一匹もいない」


 SEN3号は甲高い声で口に泡を浮かべゲラゲラと笑う男を、奇妙な生き物でも見るかのように眺めた。


「へぇ、凄いぴょん♪

 それならさっさとログアウトして、ゲームマネーをRMTリアルマネートレーディングの業者に換金してくるといいぴょん♪」


 ふと、笑い声が止み、アマザキは目の前の黒袴の武士を通り越して、その彼方を見つめうわ言のように呟いた。


「なんで俺様が、アンナ現実リアル二戻ラナクチャいけないんだ。

 インフル専門病棟に隔離されて、ロクに診察もしない、薬モ効キキメガナイ、なんでナンデなんで俺様がこんな目に!!」

「終焉世界に二年も居ながら、今だ真実を認める覚悟が無いとは、哀れな奴だ」


 ぐちゃり

 肉をえぐる音がして、アマザキの前に立ちふさがっていたSEN3号の心臓辺りから黒い木刀が生え、妖刀を握るアマザキの拳を叩き割る。

 SEN3号を囮に、その体を盾にしてSEN1号はアマザキに攻撃を加えた。


 弾き飛ばされたチャタンナキリをSEN1号は奪い取り、紙切れになって消えるSEN3号と、砕けた腕を抱え悲鳴を上げるアマザキを睨みつける。


「最後に残ったのが『ナンバー1 影分身 理性であり闇夜の剣聖』の我である事を感謝せよ。

 他の奴なら、迷わすこの刀で貴様の首を刎ねたであろう。

 愚かな者よ、終焉世界で最高位の者は霊峰神殿の法王でも巨人王でもなく、ミゾノゾミ女神と使徒の神科学種である」


 その時初めて、ほんの一瞬、アマザキが怯えた表情を見せた。



 ***



 黙って睨み合う二人の沈黙を破るように、高い馬の嘶きが聞こえ、ユニコーンを従えた聖騎士が塔の影から姿を現した。


「モウ時間切れだ、搾り取れるだけ奪ったし、こんな薄汚れたエリアはイラネェヨ。

 だが、俺様に逆らった報復はさせてもらうぜ。

 イヒヒヒッ、今年は厳しい冬にナリソウダナァァ」


 そう言うとアマザキは身を翻し、駆けつけた聖騎士の後ろに跨る。

 何事か急いている様子の聖騎士は聖獣を操ると、人馬では出せない速さで宙を駆け鳳凰小都の空に消えて行った。




「いっ痛ぇーー。マジ死ぬかと思った。

 影分身が心臓突くなんて、1号は本体の負担をなんだと思ってるんだぁ」


 影分身の術が解けた途端、SENは胸から血を流し全身切り傷だらけの姿で地面にうずくまる。

 悶死しかかったSENは、苦痛をこらえながら文句を言う。

 半分詐欺の様なバトルだった、しかし次はこんなモノでは済まないだろう。

 それにしても、SENはアマザキの話に少し違和感を感じた。

 影分身との会話の中で、ヤツはひたすら自分の話しかしなかった。

 会えば真っ先にハルの事を問質すと思っていたのに、オアシスや鳳凰聖堂での出来事も自分とティダが仕組んだ事だと思い込んでる。

 霊峰神殿の最高権力者である法王に、ハルの存在が知られて無い方がおかしい。


 これは、あちらも一枚岩では無いというコトか。


 その場で自己治癒を何度も繰り返し、やっと体を起こせるようになったSENは空を仰いだ。

 わずかな間に、底冷えするような冷たい冷気が流れてくる。

 ふわふわと、綿毛のように白い物体が舞い降りるのを忌々しげに見つめた。


「あの野郎、報復すると言っていたが、この街丸ごと氷漬けにするつもりか?」


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