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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
鳳凰小都編
41/148

クエスト38 秘密を暴露しよう

ちょっとR15かも

 娼婦たちを引き連れて、露天風呂へやってきた竜胆は脱衣所前で足が止まった。

 中から聞こえるのは女の艶めかしい喘ぎ声、激しい息遣いは風呂場に響き渡り、外まで漏れ聞こえてくる。


「ハルさま、もっと強く、ふぁ、あ…んぁっ……いいっ、あぁ」

「水浅葱さん、ここはどうですか。力を抜いて楽にして」

「ひぃ、ああん、ビリビリと痺れるっ。ハルさまの蜂蜜プレイ、すごい!」


 竜胆と3人の娘は互いの顔を見合わせると、露天風呂へと繋がる木の引き戸をわずかに開け、戸に張り付いて聞き耳を立てる。


「竜胆様、水の側室様があんなに激しく乱れて、蜂蜜プレイって何でしょう?」

「これじゃあ、お風呂に入れませんね。どうしましょう」

「シィーー、ちょっと静かにしろよ。

 まさかヤリ手の水浅葱が、ガキのハルになぶられているのか!?

 湯煙が邪魔だな、もっと近くに行かないと中の様子が判らねぇ」


 娼婦たちの言葉にも、盗み聞きに夢中の竜胆は生返事で返す。

 中から聞こえる甲高い喜声に年頃の彼女たちもつられて戸に耳を当て、つい妄想してしまい頬を赤く染める。


「おい竜胆、風呂の入り口をデカい体で塞ぐな、何を隠れてコソコソしている?」


 背後から聞き覚えのある声が掛けられ、竜胆は慌てて振り向くと、ハルの様子を見に来たティダと鉢合わせする。


「ティダ、まだ二人は取り込み中だぜ。邪魔に入るなんて野暮な事すんなよ」


 竜胆が声を潜めながら露天風呂の中を指差し、再び戸に張り付いた。

 ティダの後から来たYUYUも露天風呂の入り口まで来たところで、眉間にしわを寄せ聞き耳を立てる。

 エルフのティダ、そしてハイエルフのYUYUの聴力は、中から響く艶めいた音を鮮明に聞き取れるのだ。

 YUYUは感情を抑えきれない様子でワナワナと震えている。


 これはやばい!!

 ティダは隣のYUYUから魔力マナの高まる気配を感じ、慌てて後ろに下がり、覗きに夢中になって異変に気が付くのが遅れた竜胆一行は、魔力の暴走に巻き込まれる。


「水浅葱、貴女にはハルくんを籠絡するように命じたのに!!

 なに、アンアン言ってるんですかーーーーーー」


 YUYUの圧縮された魔力が風圧となって、露天風呂入口の扉を勢いよく吹き飛ばし、ついでに扉に張り付いていた竜胆と娘達も露天風呂の中へ飛んでゆく。

 娘たちの悲鳴と激しい水しぶきの音が聞こえ、竜胆たちは湯船に落とされた。




 周りの視界を防いでいた白い湯煙が掻き消え、突然の出来事に驚いているハルと水浅葱の姿が見えた。


「へっ、なんですか??皆さん、お揃いで……」

「な、な、なんでとはこちらのセリフです。

 あ、あ、貴方がたは、いったい何をしているのですか?!」


 薄い浴衣を羽織ってたハルが、露天風呂の床に座りこんでいる。その前でうつぶせになって寝そべる水浅葱も、背中半分を露わにしているが、裸ではなく浴衣を着ていた。


「ふぅん、とても甘い香りがするね。ハルちゃん、蜂蜜使ってるの?」


 二人が何をしていたのか薄々分かっていたティダは、肩を震わせおかしさを堪えきれず手で口元を覆う。

 ハルは横たわる水浅葱の肩に触れ、その指先が動くたびに、彼女は耐え切れないような甘い声を漏らしている。


「水浅葱さんはとても頑固な肩こりだから、マッサージしていたんですよ。

 ここには刺激の強いローション(媚薬入り)しか準備されてなかったから、代わりに蜂蜜を使いました」


「ハルさまが、私の表情がオカシイと気づかれて、肩こりと疲労でまぶたの痙攣が酷かったのを、蜂蜜プレイで癒してくださいました」


 露天風呂の中を響き渡る喘ぎ声にどんな激しい交わりが行われているかと妄想していたら、種を明かせば肩こりマッサージでした。

 ハルの手技にメロメロ状態の水浅葱に、YUYUは近寄ると顔を覗き込む。


「ふむぅ……水浅葱の頑固な片側顔面痙攣は、王都の有名な按摩師でも直す事は出来ませんでした。

 言われてみれば、瞼の痙攣が収まっています。

 あら?腫れぼったい眼も一回り大きくパッチリと開いて、頬も綺麗な薔薇色で、顔のむくみもとれて小顔になっていますね」

「YUYUさま、王都のヤブ按摩師の乱暴な揉み方と比べて、ハルさまの蜂蜜プレイは、優しく滑らかで丁寧な、まるで神手ゴットハンドです。

 ハルさまが行う癒し技は、あまりの心地くて、私、昇天してしまいそうでした」


 どこのエステCMだというぐらい、水浅葱がハルのマッサージを賛美しまくる。

 竜胆の連れの娘たちも水浅葱の傍に寄ってきて、興味津々に蜂蜜マッサージの感想を聞いていた。


「ハルちゃん、そのマッサージテクは、どこで習ったの?」

「ああ、僕は高校の弓道部で補欠というより、マネージャーみたいなポジションでした。

 その時の部長は弓道の腕は良いけど『ガラスハート』の持ち主で、大会前になるとストレスで顔面痙攣起こして大騒ぎするんです。

 水浅葱さんの症状が、部長のそれと同じだったのでマッサージしたんですよ。

 マッサージ方法は、弓道部顧問の先生から習ってます」


 そういって立ち上がろうとするハルの周りに、素早く細い腕が数本絡んでくる。


「ハルさま、私にも是非、蜂蜜プレイをお願いします」

「ちょっとー、私が先よ!!ふふっハルさま、お互い触り合いっこしながら、気持ちよくなりませんか」


 常日頃、水浅葱と似たような悩みを抱える彼女たちは、竜胆を放り出してハルに絡んでいる。


 コレって、もしかして、僕が彼女たちを竜胆さんから横取りした事になるの?

 うわっ、なんだか背後から凄い威圧感と、肩にすっしりと重い掌が!!

 イターーイタイ、骨がギシギシ軋む音がするんですけど。

 ハルが恐るおそる振り返ると、どす黒いオーラを漂わした竜胆が薄笑いを浮かべていた。

 視線を下にすると……ヒイッ、竜胆さんの大変立派なトーテムポールがそそり立ってスタンバイしてます!!ガクブル ガクブル


「んじゃあ、女どもも騒いでいるし、仕方ねぇな。

 ハルお前も混ぜてやるから「竜胆てめぇ!!その気もあるのかよ」ドカバキッ」


 巨漢の竜胆の腹にティダの廻し蹴りが決まり背後に吹き飛ばされ、再び湯船の中に水しぶきを立て落ちた。



 ***



 その後露天風呂で裸の付き合いというか、なし崩し的に宴会が開かれて、ハルは騒ぎの原因である蜂蜜プレイ、もとい、蜂蜜マッサージをリクエストされ、一人15分と決めて娘たちとYUYUの肩をマッサージする。


「ハルくん、こ、これは……

 うくっ、あっ、首の、付け根部分の、ツボが、一番、効きますね」

「YUYUさんは翼があるから、背中の筋肉の付き方が違いますね。特にココが」


 YUYUの小さな背中から、ふわふわ羽毛の純白な翼が4本生えていて、小さく羽ばたく様子に思わず指が伸びる。


「ひゃあっ、翼は、ら、らめぇ、そんな触られたら、やぁーー!!」


 あまりに激しいYUYUの反応に、ハルは驚いて肩から手を除けると、水浅葱が素早く横から抱きかかえて引き離す。


「んぅ、あぅ……ひゃっ、す、すごい、これが蜂蜜プレイ」


 あまりに強烈な快楽に、YUYUは息も絶え絶えで、ビクビクと体を震わせながら言葉を紡ぐ。

 YUYU様がこれほどまでに息を乱すとは……ハル様の手腕は、まさに私以上、恐ろしい子ッ!水浅葱は心の中で感嘆の声をあげた。


「私、永遠にログアウトしてしまうところでした。

 なんという繊細なタッチに、ツボを知り尽くしたような心地の良い指圧具合、まさに神の手と呼ぶにふさわしい手技です。

 はっ、そういえば水浅葱、ハルくんとの既成事実と、誑し込みは成功しましたか?」

「それが、最初にハルさまを勢いで襲って出来たのですが……

 ほぅ、あの快楽を探り当てる素敵な指使い、甘く癒されるような優しいお声に女神さまそっくりのお顔立ち、後半は私がハルさまのなすがままでした。

 はっきり申し上げます、私のほうがハルさまに籠絡されてしまいました。そして、YUYUさまも同じだと思いますが……」


 王の影は、任務に失敗した側近を睨みつけたが、その腕に抱きかかえられ、頬を赤らめ瞳を潤ませた状態では説得力が無い。


「否、それだからこそ、今すぐハルくんを無理矢理拉致してでも、愛玩用男の娘に

 『神手ゴットハンド』という付加価値付きで、王都にお持ち帰りしたい!!」


「もしもーし、お二人さん。露天風呂中に会話が響いて聞こえていますよ」


 湯船の中で杯を手にした酔っ払いのティダが、ヘラヘラ笑いながら声を掛け、その隣に避難してきたハルが、やっと一息ついて冷えた果物を口に運ぶ。

 ハルは、YUYUたちと目を合わせない、どうやら会話の内容をスルーしたい様子だ。

 風呂での楽しみを先送りされ不満気だった竜胆も、周りにはべらした娼婦とイチャイチャするのに飽きたのか、離れた場所で湯につかるティダに手招きする。


「おい、ティダ、なんで服着たまま風呂に入っているんだ?

 俺たちに裸を見せられないのか、旦那に操立てんのか」


 あれ、なんか竜胆さん、SENと二人の関係を勘違いしてる?

 言われてみれば、SENとティダはいつも一緒で、傍から見れば、男前の武士と優美な天女のお似合いカップルに見える。

 でも中の人は、電波オタクとネカマおっさんという、残念な組み合わせだけど。


「筋骨隆々の立派な体格をした巨人族の前で、貧相なエルフは体を見せたくないよ」

「確かに、ムキマッチョで凄いシンボルの竜胆さんの隣は、ちょっと遠慮したいです」

 

 声を掛けられたティダは長い銀の髪を結いあげ、性的特徴のない体を隠すように袖のない薄い生地の浴衣を着ているが、湯の中で微かに素肌が透けて見える衣は、裸より禁欲的な色気を放っていた。

 本人もそれに気付いているのか、艶めいた微笑みを口元に浮かべながら流し目を送る。

 

「ねぇハルちゃん。SENがオタクだと言っても竜胆は意味が分からないだろうね。

 でもSENと出来ているなんて勘違いは、精神衛生上痛すぎるなぁ」


 ティダにそう言われて、誤解を解くためには第三者のハルが竜胆に話をすることになった。

 オタクをどう説明するか、ハルは少し考えをまとめて竜胆に声を掛ける。


「実はSENさんは、神科学種の神話アニメの美しい聖霊キャラに、永遠の忠誠を誓っているのです。ティダさんとは親友で、それ以上の関係はありません。

 何故ならSENさんの心は、常に神話アニメ聖霊キャラとともにあるからです」


 そうだったのか!!と、竜胆はちょっと感動した様子で聞いていたが、YUYUは会話の意味を正確に理解したのだろう。ひどく冷めた目で見ている。

 本当のことを話しただけなのに、ハルは何故か良心がとがめた。


「そういう色男気取りの王子さまは、どんなお姫様を探している?

 美女を取っかえ引っかえ食い散らかしてばかりいたら、そのうちロクでもない女に引っかかるんじゃないか」

「人間や猫人族の可愛いタイプが好みなんだが、俺相手だと一人では体力が持たない。

 巨人族は気位が高くて苦手だな。

 そういえばティダ、あんたはエルフの神科学種だから人間より頑丈だし、どっちでもいけるんだよな」

「ほう、面白いことを言うな。何ならその、だらしない下半身を調教してあげましょう。(ここから野郎のダミ声)このクソ生意気な小僧が、あqwsふじこgthy」


 うわぁーー。禁止用語連発で、こ、怖いっ!!

 どうやらティダさんの隠していたコンプレックスを竜胆さんが暴きまくりで、ひどく切れてるよ。





「ホホホッ、お二人とも熱くならないで下さいな。

 そういうティダさまの理想のタイプは、どのような方ですか?」


 見事に空気を読んだ水浅葱が、話の矛先を切り替えてきた。

 竜胆と睨み合っていたティダは、隣で幸せそうに湯につかっている少年に目を向けると、口元をほころばせながら答える。


「そうね、お姉さまの理想はね、素直で明るくて可愛らしい、お料理上手なお嫁さんが欲しいわ」

「ふむふむ、ティダの理想の彼女って、思ったより平凡なんだね。

 あれ、話を聞いた竜胆さんや水浅葱さん、それにYUYUさんまで押し黙ってしまったけど、いったいどうしたの?」


 ゆらり、YUYUは凍てついた微笑みを浮かべながら立ち上がる。


「ふっ、ここにSENがいれば、確実に貴方の顔面に蹴りが飛んでいますよ。

 私とした事が、ネカマだと思って油断していました。まさかティダさんは、洒落や冗談ではなくガチで狙っていたのですね。

 理想のお嫁さんですか、それはライバルとして交戦布告と受け取ります」

「なんだ、温泉の湯が急に冷めてきた?

 えっ、YUYUさんの背後に、殲滅氷魔法の魔法陣が浮かび上がっている!!」


 YUYUと相対するティダは、鋭い目つき、そして口元に残忍な笑みを浮かべ、狂戦士モードとなる。 無言で立ち上がると、ハルを湯船から引っ張り出した。


 ピキッピキピキ パリンッ

 瞬く間にYUYUから溢れ出した冷気で温泉の湯に氷が張り、中に居た竜胆と娘たちは凍りついてしまう。


「これはいけません。ハルさま、早く二人を止めてください」

「ええっ!!最弱の僕に、戦闘状態のYUYUさんとティダさんを止めるなんて無理です。例えるなら、スーパーサイヤ人に赤ん坊が立ち向かうくらいムリゲーです。

 そもそも、どうして二人は睨み合ってるんですか?!」

「それはお二人が、ハルさまの寵を争って、ああ、もう間に合いません!!

 ハルさま、こうなったら身を挺して止めてくださいな」


 ハルよりわずかに体格の良い水浅葱は、火事場の馬鹿力で少年を肩に担ぐと、争う二人に向けて力いっぱい放り投げた。


「ひぃぃっ、ティダっ、YUYUさん、喧嘩はやめ、あぁぁぁあーー」


 水浅葱の上手投げは見事に決まり、ハルは宙を舞いながら二人を止めようと腕を伸ばす。その腕がかすかに光り、神の燐火と似た色を纏う。

 伸ばした右手は狂戦士モードのティダの結界を破り襟首を掴み、左手は壊滅氷魔法を解除させYUYUの翼を掴み、三つ巴で凍った湯船の中に落ちて行った。



 ***



「へ、ヘーくちょ。結局、あの騒ぎの中で風邪を引いたのは僕だけか」


 青い顔をして、布団の中でガタガタ震えているハルの看病をしているのは幼い少女。


「ダメじゃないハルお兄ちゃん。

 萌黄が居ない間に、お風呂で遊んで湯冷めして風邪をひくなんて。

 もう大きいんだから、しっかりしなさい」


 神科学種なのに風邪をひいてしまい、熱にうなされながら萌黄に叱られているハルの姿を、襖の向こう側からYUYUとティダが神妙な顔で見つめている。


「ではティダさん。この件はハルくんの自由意思に任せます。

 お互い恨みっこなしで、正々堂々と勝負しましょう」

「ああ、なんだか本音を出し切って、俺も吹っ切れたみたいだよ」


 YUYUは小首を傾げて、隣にたたずむエルフの麗人を見つめる。

 ティダの声色が、芝居がかったモノから、しっかりと意思のあるアルトの声に変化していた。


「俺はこのエルフの器で、終焉世界を生きてゆこう。

 共犯者、いいだろう。その腹黒い企みを手伝ってやる……!!」


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