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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
鳳凰小都編
34/148

クエスト31 色仕掛けをしよう

 前日の死黒鳥襲撃がまるで無かったかのように、鳳凰小都 高級花街エリアの大通りは人々で溢れかえっている。

 そんな群衆の中でもひときわ目立つ一団が居た。

 猿の様なしわくちゃな顔をした小柄な男は、鳳凰の姿を写し取ったきらびやかな法衣を身に纏い、同じように神職と思えない派手な姿の部下を2人引き連れていた。

 神官が花街を堂々と歩く姿は普通に考えると顰蹙ものだが、鳳凰聖堂は怪しげな道具や薬を娼館に提供していて、いわば同業者、同じ穴のムジナ状態だった。


 鳳凰女神聖堂の神官達が招待されたのは「完熟遊誘かんじゅくゆうゆう館」 

 高級娼館一のランクを誇る巨人王御用達の娼館であり、高位の者の相手をするにふさわしい選りすぐりの美女が取り揃えられている。


「新しく館に招かれた娘に、ミゾノゾミ女神の神託を授けさせたいそうです。

 噂ではこの娘、ある程度の教育を施した後巨人王の元へ召し上げるられる予定だとか。」


 大神官に話しかけるのは地味な顔立ちの男で、派手な極彩色の刺繍が施された法衣が全く似合わない。


「ニョホホッ、何も知らん無知な娘なら、女神秘儀の房中術だと適当にでっちあげて弄んでやろう」

「王の相手に選ばれるなんて、絶世の美女なんでしょうね。

 イヒッ、大神官様、私も是非、娘に女神様の技を伝授するお手伝いさせてください」


 付き人の必死の懇願に、猿顔の鳳凰大神官は黄色い歯を見せ卑猥な笑みを浮かべる。

 ミゾノゾミ女神など存在しない。それをマトモに信じるバカな連中は、ちょっとした小細工と幻影魔術で簡単に騙される。

 さて、今日はどのようにして女神の神託をでっちあげてやろう。



 ***



「ようこそいらっしゃいました、鳳凰聖堂大神官様。

 ミゾノゾミ女神に仕える高貴な方を、この様な場所までお呼び立てしまい大変失礼しました。

 私は、巨人族 暴力王鉄紺 第十八位側室 水浅葱でございます」


 鳳凰大神官を前にして優美なしぐさで挨拶をするのは、豊満な肉体に美しく波打つ水色の髪、見る者の欲望を掻き立てるように妖艶と微笑む美貌の女。

 その隣で、三つ指を付く年若い二人の娘が顔を上げる。

 二人の乙女は、磨きあげられた透き通る肌に手入れの行き届いた艶やかな髪、そして愛らしい美しい顔立ちをしていた。


「陛下が後宮に若い乙女を加えるよう所望しておりまして、この娘達が王に相応しいかどうか女神様の神託をいただきたいのです」


 鳳凰大神官の前で平伏する少女達、いや、隣にいる王の側室も加えると三人の美女を、自分の舌先三寸で好きに嬲ることが出来るのだ。

 後ろで控える付き人の神官たちは、逸る心を抑えきれす思わす野太い呻き声を漏らす。

 自然と猿顔大神官の鼻息も荒くなり、欲望で濡れた目でどの獲物から弄ぼうか選んでいた。


「ミゾノゾミ女神より授かった我が心眼を用いれば、娘が王に相応しいか魂の有り様まで見極めることが出来る。

 どれ、一人ずつ前に出て、まず私の神が宿る手に触れるのだ」


 鳳凰大神官が行う騙しの手法は、手に触れた娘が穢れていると激しく罵り精神的に追い詰めた後、浄化の房中術で清めると理由をつける。

 誰でも一つや二つ、口にできない後ろめたいことがあるもので、信仰心熱い者ほどコロリと引っかかる。

 逆らえば女神を愚弄する反逆者として、さらに激しく追い詰めればいい。

 鳳凰大神官は目の前に控える、見るからに無垢な娘をどう料理しようかと邪な考えを巡らせながら呼び寄せる。






「さぁ娘よ、私の掌にそなたの右手を…「キャキャ、はやく脱ぎなさいよぉ」なんだ、騒がしい!!」


 突如、隣の部屋からウルサイほどの娘たちの笑い声が響いてきた。


「フフッ、ダメでしょ、我慢しなさいっ」

「引っ張らないで、やぁんっ、あっあ」

「フゥ、ううんっ、くすぐったいよぉ」


 完熟遊誘かんじゅくゆうゆう館は、各部屋を襖で仕切っただけの和室造りで、隣の部屋の音は薄い壁1枚から漏れ聞こえてしまう。

 隣の部屋で大騒ぎしている娘たちの甘く艶めかしい笑い声が、鳳凰大神官たちのいる部屋に響いてる。


「まったく、神聖な儀式の最中だというのに、竜胆りんどう王子様は何を悪さしているのでしょう。ちょっと失礼します」


 呆れたように呟いた水色の髪の側室が立ち上がると、隣の部屋に繋がる襖に手をかけて、勢いよく開け放った。

 

 突如、襖が取り払われて部屋の中が丸見えになると、娘たちの破廉恥な様が眼に飛び込んできた。

 若く美しい高級娼婦が互いの服を剥ぎ取り着乱れて、中には胸を露わにしてる娘もいる。

 床に散らばる髪飾りや色とりどりの着物で、足の踏み場もない。

 どの娘も輝くような美しさで、花の様な甘く艶めかしい色香を放ち、鳳凰大神官の目の前にいる二人の娘など霞んでしまう。


 その部屋の奥座敷で腰掛けるのは、まだ年若い大柄な体格の男。

 巨人王と同じ赤い髪に浅黒い肌、太い眉に彫の深い彫刻のような整った顔立ち、巨人族の中でも特異の神科学種の血が混じった王子。

 若く美しい高級娼婦がじゃれ合う姿を酒の肴にして、楽しそうに眺めている。


「ああ、水浅葱、ちょうどコッチも盛り上がってんだよ。

 四人相手の勝負なのに、全然コイツに勝てねえじゃないか。

 一番最初に負けた奴はお仕置きなぁ」


 ハーフ巨人王子が罰を与えると言っても、娘たちは歓声をあげて返事をする。

 鳳凰聖堂の大神官は、チラリと流し目を送る若く美しい娘達に魅入られ、そして娘たちに取り囲まれ輪の中心にいる黒髪の娘に目が留まる。


 服がはだけて生肌を露わにした娘達とは異なり、ぴっしりと巫女服を着こみ、腰まで伸びた絹糸のような長い黒髪、紅い瞳にぷっくりとした桃色の唇の幼い顔立ちの娘。

 どうやら巫女姿の娘相手に、脱衣ジャンケン勝負をしているようだ。

 

「あなたたちは よわすぎて ぜんぜん しょうぶに なりません

 どなたか わたしに かてたなら こよいの ねやで おあいていたしますわ」


 娘はぎこちなく笑うと、台本でも読んでいるような抑揚のない口調で話す。

 だが、そんな事など神官たちは気にもならなかった。

 ミゾノゾミ女神に似た娼婦はいくらでもいるが、この娘はまるで女神そのものだ。

 幾度となく夢想した邪な思い、ミゾノゾミ女神をこの手で地に落とし、体を貪り自分の下で喘がせたい。

 その願望を叶えることが出来る、男達の暗い欲望に火がついた。






「あのう、大神官様。女神の神託は、お告げは何と出ましたか?」


 自分の用事をすっかり忘れている神官達に、水浅葱は戸惑った様子で声を掛ける。


「ああっ、そ、そうだ、安心するがよい、この娘たちは王の相手に相応しいぞ。

 ところで側室殿、私たちをあちらの竜胆王子殿にご紹介してもらいたいのだが……」


 もはや下心を隠す余裕もなく気が急いたように話しかける神官達に、水浅葱は袖で隠した口元に薄笑いが浮かべた。



 ***



「この娘の名はオハナと申します。

 顔が女神様によく似ているので人気があるのですよ。

 彼女と脱衣ジャンケンで勝って裸にすることが出来れば、残りの娘達も一緒に神官様たちのお相手をさせますわ」

「神官様、がんばってソイツを脱がしてくれよ。

 勝てば、この世とは思えない酒池肉林が体験できるぜ」


 竜胆王子が囃し立て、改めて水浅葱に紹介された巫女服の少女は、ぎこちなくペコリと頭を下げる。

 周りに控える娘達には目もくれず、黒髪の娘を全身舐めるように眺める神官たち。


 ちょおおっーーとぉぉぉ、

 どう見てもオッサンたち、僕にロックオンしてるよね。

 ここで勝負に負けたら、あんなことやこんなことをされちゃんだよ!!

 水浅葱さんも竜胆さんも面白そうに見てるだけで、手助けする気が微塵も無いですね。

 ひぃっ、ミゾノゾミ女神さま、助けてください~~。


「その話、本当だろうな。

 ヒヒっ、俺たち三人を相手に勝負して、勝てるつもりでいるのか?」

「さっさとその服を引っぺがしてやろうぜ、今夜は楽しくなりそうだ」


 ああ、何か口調が荒っぽくなって、下品な本性が見えて来たね。


「それでは おてやわらかに よろしく おねがいしまーーす

 さぁ しょうぶ さいしょは ぐー じゃんけん……」



 ***



 鳳凰女神聖堂の神官達は、三人ともハルにストレート負けで、あっという間に身ぐるみを剥がされた。

 普通ならそのまま館から放り出すトコロだが、神官達は罰当たりとか天罰を喰らえとか、散々逆ギレして騒ぎ出した。

 結局負けはツケにして服を返してやり、更にツケを重ねて他の娘を買い完熟遊誘かんじゅくゆうゆう館で一夜を過ごした。


「くくっ……全裸で外に放り出された方がまだマシだったのに、鳳凰女神聖堂の神官は真性の愚か者たちですね」


 あれから五日過ぎ、神官達は店にツケを払いに来る様子もない。

 『王の影』が手にしたのは、鳳凰女神聖堂大神官に書かせた借用書だった。

 

 ≪完熟遊誘かんじゅくゆうゆう館 +- 借用書≫

 ≪遊興費の返済期限内に入金が無ければ +- 延滞利息が加算されます≫


 YUYUに手渡された借用書を見て、ティダは呆れた様な顔で文面を指差す。


「この模様はプラスマイナスじゃないだろ。

 ※十一トイチの借用書なんて、あくどい事をする。

 それでお姉さまたちは、これから鳳凰聖堂に借金取り立てに行けばいいんだな?」


「ええ、大神官達の身ぐるみを剥がして、聖堂丸ごと取り立ててください。

 神科学種には『破滅』へ導く役目もあります。

 鳳凰のいない鳳凰聖堂は潰し、新たに”蒼珠”聖堂を興しましょう」


 長い銀の髪の美しいエルフは、小さく頷くと借用書を受け取り、血に飢えた狂戦士の笑みを浮かべながら部屋を出て行った。『王の影』は椅子から立ち上がり、窓の外へ歩み寄ると、眼下に広がる鳳凰小都を見渡す。


「雪が降る前に、膿を出し切らなくては……

 多くの貧しい者たちは、厳しい冬を越せないでしょうから」




 そして、ティダと入れ替わりで部屋に飛び込んできたハルは、頬を赤らめながら言い放つ。


「YUYUさん、あれが最後の女装ですよ!!もう絶対に次は無いですから」

「えっ、ハルくん用に五種類ほど別デザインの巫女服を仕立てさせましたよ。

 これからもドンドン囮と……女神の代理人として、活躍してもらいます」

「今、囮って……」

※トイチとは、

借入金利が「十日で一割の金利」の略で、法律で禁止されている複利での貸付を行うため、実質年利は1000~3000%を超える。


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