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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
鳳凰小都編
32/148

クエスト29 蒼珠を手に入れよう

 地上は傷ついた死黒鳥とその亡骸で埋め尽くされていた。


 もはや飛び立つことは無理だろうと、SENは翼が折れ這いずりまわる死黒鳥を見逃してしまった。

 その傷ついた死黒鳥は何かを探しているようで、虫の息で奇声を上げる仲間の鳥を見つけると、眉間めがけて鋭い嘴で突き殺す。

 ガツッ ガツッ グチャリ グチャリ

 頭蓋骨を割って中身をほじくり出し喰らうと、すぐ次の仲間を襲った。


 それが合図のように、突如死黒鳥同士の共食いが始まり、SENが異変に気付いた時には、仲間を喰らい尽くした最後の一羽が変化へんげを始めていた。

 ブクブクと急激に体が膨れ上がり、体が人間と同じサイズに、翼を広げると4メートル越えの怪鳥に化けた。


 バサバサと巨大な翼を羽ばたかせ、怪鳥が空へと舞い上がる。

 SENが慌てて攻撃魔法を放つが、巨大化した死黒鳥には大したダメージを与えられなかった。


「畜生、逃げ足が速い。仲間を呼ばれたらまずいぞ、今度こそ防ぎきれん」

 

 怪鳥はSENの攻撃を振り切り、ぐんぐんと上昇すると高級花街エリアを包む氷の結界にたどり着く。

 変化へんげ魔力マナをまとい強化された体で、結界に何度も体当たりを繰り返す。

 魔力が尽きかけたYUYUには結界を保つことが出来ず、執拗な攻撃の末に結界に穴を空けると、死黒鳥は外へ逃げ出した。






 物見やぐらの上で疲労で座り込んだYUYUの目に、完熟遊誘かんじゅくゆうゆう館の屋上に必死で這い上がるハルの姿が映った。

 追う死黒鳥はすでに空の彼方、砂粒ほどの小ささだ。

 ハルはガクガクと震える脚に気合を入れて、足場を定めて屋根の上に立ち上がる。


「下を見るな、見るな、ここは地面の上。頑張れ、僕はやればできる子だ!!」


 気持ちを静め、女神の弓を番えると、空の彼方を飛ぶ獲物が”目前五十センチ”を飛んでいるように見える。

 相変わらずチートな弓だ。その対価として、僕の生命力を旨そうに喰っている。

 前回弓を使用して分かったことは、今ハルのレべルで射れる矢は一本限り。


 傾斜のある不安定な屋根瓦の上で、ハルは不動の姿勢をとる。

 ゆったりと流れるような、優美な引きなりを見せる。

 空気を切る。

 鋭い音を立てて放たれた赤い矢は、まるで命を受けた使い魔のように獲物を追う。


 あれは、女神の弓、そしてミゾノゾミ女神を神卸しした巫女。

 YUYUは弾かれたように疲れた体を起こすと、神科学種の紅い右目の望遠機能を最大まで上げ、矢の行方を追う。


 高級花街エリアなど軽く越え、鳳凰小都の中央、金色に輝く巨大な館に逃げ込もうとする黒死鳥。

 その瞬間、ハルの放った矢は寸分の狂いもなく怪鳥の頭部を仕留めた。



 ***



 鳥を操る魔笛を手の中で弄びながら、第七位王子アイカチは、鳳凰館最上階から街を見下ろすテラスに向かう。

 高級花街エリアで略奪を楽しんでいるはずの死黒鳥が、一羽も戻ってこない。

 痺れを切らして外の様子を見るためテラスに出たが、ソノ風景を見て唖然とした。


「なんだあれは、高級花街エリアの空に魔法陣が浮かんでいるぞ。

 俺様の街で一体誰が、勝手に殲滅魔法を使っているんだ!!」


 地上の人々が空を仰ぎ、鳳凰小都の五分の一を包み込む巨大な氷の結界と、蒼い花火のように次々と花開く魔法陣を指差し騒いでいた。

 第七王子は苛立たしげに足を踏み鳴らすと、その振動で建物全体が大きく揺れる。


 しばらく高級花街エリアの空を眺めていると、やっと一匹、鳳凰館に向かって飛んでくる死黒鳥が見えた。

 体が膨れ上がり、酷く傷ついてバランスを崩しながらも必死で飛んでいる。

 それを宝石を喰って腹を膨らませたのだろうと勘違いしたアイカチは、魔笛を吹いて死黒鳥を自分の傍に招く。

 軒に足をかけ死黒鳥を捕まえようと手を伸ばした第七位王子の目の前で、赤い矢が怪鳥の頭を貫き、飛び散った血糊が巨人の服を汚した。

 


 ***



「これが、真の女神の力……素晴らしい性能の最強チート弓。

 あれほどの命中率を誇りながら、惜しむらくは『女神の弓』は暗殺に使用できない。

 本当に残念、もったいない力ですね」


 王の影は残念と呟きながらも、どこか嬉しそうな様子で、ガウンを脱ぎ捨て白い背中の羽根を露わにすると、フワリと物見やぐらの上から舞い降りた。





 厄鳥の襲来が止み、建物の中に避難していた人々も様子見に表へ出てくる。


 ハルは矢を放った後バランスを崩し屋根から落ちかけて、悪戦苦闘の末やっと地上に降りてきた。

 そして今、しゃがんで氷付けになって地面に落ちた死黒鳥を興味深そうにマジマジと眺めている。

 隣に立つSENは、このハルの行動にイヤな予感がした。


「痩せてガリガリ、骨と皮だけで出汁骨にもならないね。

 ん?鳥皮ならどうかな、焼き鳥用の鳥皮なら沢山取れそうだよ」


「ハル、俺に聞いているのか!!

 コレはどう見ても喰えねぇから。っうか喰わないぞ」


 SENのツッコミに一瞬悲しそうな顔をしながらも、ハルは諦めきれない様子で死黒鳥の足を抓んで肉付きを確認してたりする。

 しばらくはハルの料理に鶏肉が出たら、用心して食べるのを止めようとSENは思った。

 ハルは鳥の首を持ち上げ光のない瞳を覗き込むと、死黒鳥の額部分、頭飾りの羽根に埋まる”蒼珠”を見つける。


「ねえSENさん、これってとても小さいけど、砂漠竜の額に埋まってた魔力マナの源”蒼珠”と同じモノなの?」


 ハルは死黒鳥の首を落とし、まるで料理の下ごしらえをするような慣れた手つきで”蒼珠”を抉り出す。

 それは小指の爪ほどの、小さな蒼い石だ。

 SENは渡された”蒼珠”を手のひらで転がすと、魔力マナ量を計る。


「こいつは3魔力くらいだな。

 そうか、連中が共食いはじめたのは”蒼珠”を喰って魔力を得るためだったんだな。

 ハル、お前の魔力量が37だから、この蒼珠12個分が同じ量になる」


「SENさん、凄いですよ!!

 ココに転がっている死黒鳥全部から”蒼珠”を取り出せば砂漠竜と同じ、いや、それ以上の魔力マナ量が手に入ります」


「それはそうだが、ハル、この蒼珠をどうするつもりだ?」

 

 ハルの言う事をイマイチ理解できないSENは、首をかしげながら訊ね返した。


「僕、オアシスの『奇跡の泉』と『宿屋の水槽』の魔法陣2ヶ所では、まだ水場が少なくて不便だなって思ってたんです。

 蒼珠があれば、オアシスの水場をもっと増やせるんです」


 ハルは何のためらいもなく、アイテムバックに死黒鳥の死骸を次々放り込む。

 アイテムバッグは、80アイテム×37個(持ち主のレベル数)収納可能なので、大通りを埋め尽くす数百の厄鳥も鞄一つに納まった。

 物見やぐらの上から降りてきたYUYUが、ゆっくりと二人に近づいてきた。

 今の会話を聞いていたようで、興味津々でハルに話しかける。


「砂漠竜の”蒼珠”を用いて、鍾乳洞の泉に沈めた魔法陣からオアシスに水を転送してると報告で聞いていました。

 ハルくんは、新たな水場を作るためには”蒼珠”が必要だと言っているのですね。

 そしてダンジョン魔法陣は”蒼珠”の魔力マナでも起動する。ということなら……」


 この終焉世界中に設置された一〇八のダンジョンが、神科学種や魔力持ちの神官以外の者でも”蒼珠”を使用して開かれ攻略可能になる。

 ダンジョン内の秘宝は神科学種の失われた技術が用いられ、終焉世界の人間には手に余るモノばかりだ。 

 この事実が知られれば、古代エジプトの墓荒らしが横行した様に神科学種のダンジョンもすべて盗人に暴かれてしまうだろう。


 それは……まずい、この秘密を外に漏らしてはならない。

 ”魔法陣”も”蒼珠”も、すべて巨人王の元で管理すべきだと王の影は思った。


「ハルくん、もしその”蒼珠”が余ったら、残りはすべて私が買い取りましょう。

 いえ、私よりも、巨人王権限の元”蒼珠”二個で銀貨一枚と交換できるようにします」


「本当ですか、YUYUさんありがとう!!

 それなら、レベル上げ兼ねて死黒鳥狩れば一石二鳥になります。

 二羽で銀貨一枚、二十羽で金貨一枚、萌黄ちゃんと組めば楽に稼げそうだ」


 ハルは嬉しそうに答えると、はりきって回収作業を再開した。

 一見、無邪気な天使の微笑みで王の影はハルを見守っていたが、その心中は穏やかではなかった。




 厄鳥すら、豊穣をもたらすモノに変えてしまうとは、

 まるで女神がハルの耳元で囁いているようだ。



 コレが欲しい。

 一度拒まれたが、どんな手段を用いてもコレが欲しい。

 野放しにして、敵対する連中の手に渡る愚を犯す前に……

 そして、私の願いを叶えるためにも……


 女神の豊穣をもたらす神科学種の少年も、我が主君の元で管理する必要があるのだ。

 


 ***



 翌日、王の影が巨人王の承諾を得て布告した『蒼珠の銀貨交換』は、予想外の動きを見せた。

 貧窮していた鳳凰小都の人々が、金を得る手段として死黒鳥狩りに精を出し、代替通貨として蒼珠が流通し始めたのだ。

 するとピョコ紙幣は更に暴落、ハイパーインフレを引き起こすことになった。



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