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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
鳳凰小都編
28/148

クエスト25 翼の毛繕いをしよう

 『王の影』の口車に乗ってしまい、脱衣ジャンケンで身ぐるみ剥がされた男二人。

 畳の上に正座して屈辱に耐える竜胆とSENの姿を、YUYUはあくびを噛み殺しながら眺める。


「勝負ありましたね。もう少し粘れると思ってたのにツマラナイ。

 敗者はペナルティとして、1年間、宿の用心棒の強制労働です。ボロ雑巾……ではなく、厄介なお客様を追い払う要員としてこき使われてくださいね?

 まぁ、私も鬼ではありませんので、最後に1度だけチャンスあげましょう。

 貴方の持つその珍しい刀、タケミカヅチを賭けての勝負です」


 『王の影』の挑発に、SENは怒りを押さえ込んだ表情で刀を握りしめ立ち上がろうとした。


「ダメ、ダメですよ、SENさん。

 タケミカヅチを賭けるなんて、刀は武士の魂じゃないですか!!

 そもそもこの諍いの原因は僕なんだ。脱衣ジャンケン、次の相手は僕がします」


 ハルは纏わりつく美しい娼婦達を払いのけると、YUYUに勝負を挑む。

 それも予想通りの行動だったのだろう。

 YUYUは、薄笑いを浮かべながら舐めきった態度で巫女姿の少年を見つめる。


「いいでしょう。ではハルくんが、彼らの勝負を肩代わりするのですね。

 もし私たちに負ければ絶対服従、下僕として王都で働いてもらいますよ」

「下、下僕って……何を」

「貴方のミゾノゾミ女神そっくりの姿なら、王の後宮ハーレムに入り込んでも男性だとバレることはないでしょう。

 仕事も裏工作とか、諜報活動とか、暗殺部隊とか色々あります」


 負ければ貞操の危機?裏街道まっしぐらを示されたハルは、少し青ざめながらも顔を上げ、ビシッとYUYUに宣言する。


「そ、そっちこそ、覚悟してくださいよ。

 あなた達全員、僕が『すっぽんぽん』にしてあげます!!」

「うわぁ、お姉さま感激!?初めてハルちゃんがカッコイイ事を言ったよ」

 

 傍観者を決め込んだティダは、事の成り行きを楽しそうに見守る。

 そして、脱衣ジャンケン二回戦の幕が切って落とされた。





「アウト、せーふ、ヨヨイのヨイ!!……」

「アウト、せーふ、ヨヨイのヨイ!!……」

「アウト、せーふ、ヨヨイのヨイ!!えっ、嘘でしょう~~。どうして勝てないの?」


 彼女はガックリと肩を落とすと、ユリの花の刺しゅうされた肌襦袢を肩から落とした。

 足元には色とりどりの髪飾りに身にまとっていた三重の着物、蒼く染め上げられた帯が脱ぎ散らかっている。


 彼女が身に纏うのは、プルンと柔らかい桃の様な胸を隠すキャミソールと少ない布の紐パン。

「やんっ、さむいさむい」と呟きながら、同じように半裸に剥かれた仲間の傍にくっついて肌を温めあう。


「さて、これで三勝目。次は誰が僕の相手をしてくれますか?」


 額にうっすらと汗をにじませながら、ハルは服の脱ぎ散らかされた部屋の中央で、腰の手を置き次の獲物を探す。


 脱衣ジャンケンはハルの七十二勝三敗という凄まじい強さで、娘三人は下着姿にされてしまった。

 ハル自身はまだ、髪飾り二個と足袋片方しか脱いでない。


「ハルさま、次は私がお相手しましょう。お手柔らかにお願いしますね」


 YUYUの合図で、隣に控えていた水浅葱が立ち上がり、ハルと対峙する。

 軽くリズムを取りながら二人は向かい合うと、手の内を見せないように袖で隠し掛け声をかける。


「最初はグー、アウト、せーふ、ヨヨイのヨイ!!

 あら残念、負けてしまいましたわ。一枚脱ぎましょう」


 水浅葱は妖艶に微笑みながら、服の留め具をパチンパチンと外すと、躊躇うことなく上着を脱ぎ捨てた。

 薄く透けたキャミソールの下には、YUYUが何度も顔を埋めたボリュームのある豊かな胸が揺れている。


 おおうっ、竜胆とSENは思わず立ち上がろうと足を崩し前のめりになる。


「うっ、熟し切ったマンゴーがワッサワッサと、今にも零れ落ちそう!!」

「ダメだ!!これは目が離せない。

 彼女の持つその双丘から解放されている膨大な妖力によって、凄まじい心理撹乱攻撃を受けざるを得ない!」


 水浅葱は両手で余るほど豊満な胸を強調するように寄せて持ち上げ、向かい合う少年に見せつける。


「さぁハルさま、勝負はこれからですよ。

 アウト、せーふ、ヨヨイのヨイ、あら?負けました……。

 おかしいですね、私のお色気攻撃が効いてない?」


 目の前の巫女姿の少年は、少し頬を赤らめながらも冷静な視線で睨み返してくる。

 だが、読心の魔力を持つ水浅葱が覗くのは、ターゲットの心。

 確かに、自分の肌もあらわな姿に動揺しているが、心が見えない。

 読心能力に絶対の自信を持っていた水浅葱は、力を使えず焦って負けを重ねる。


「YUYUさま、これは一体どうした事でしょう。

 ハクロ王都一の読心魔術の使い手である私が、あんな無防備な子供の心を読めないなんて」


「水浅黄、女神を憑依させる心を持つハルくんは『魂のくらい』がたかい。

 その心は、人が簡単に覗き見る事は出来ないのです」


 脱衣ジャンケンというふざけた勝負だが、ハルの強さに圧倒されてしまう。

 まさに「勝てる気がしない」状態だ。

 YUYUはすっかり戦意喪失してしまった水浅葱を下がらせる。


「そろそろ遊びに飽きてきました。ハルくん、私との十回戦で勝敗を決めましょう」






 ヨヨイのヨイ!!×十回

 その大一番であろう勝負は、意外にも直ぐに決着した。


「あのう、YUYUさま。ジャンケン弱すぎです」


 一度のあいこも無く、水浅葱にバッサリ指摘されるほどストレートで全敗してしまったYUYUは、がっくりと肩を落とす。


「くっ、悔しいです……はっきりいって、裏仕事専門の私には『幸運度』は皆無でした」


 YUYUは、のろのろと頭から被るケープを取り、室内履きをポンと蹴り捨て足袋を脱ぐ。

 エルフ耳を包む耳飾りを外すと、片耳は不自然な形で千切りとられた跡があった。

 打掛のような豪奢なガウンを脱ぐ、中から背中の大きく空いた薄緑色の総レースミニドレスを着ている。


 ハイエルフであるYUYUの背中には小さな白い羽根が4枚生え、夜の冷たい空気に震えるようにパサパサ羽ばたいた。


「困りました、私はこれでも巨人王の『第四位側室』。

 王以外の者に、むやみと肌を晒せません。

 しかし負けは負け、私が脱ぐ替わりのモノとして、コノ「完熟遊誘かんじゅくゆうゆう館」をハルくんに差し上げましょう」


「えええっっ、YUYUさん何言ってんですか!?

 いきなり水商売しかも娼館、風俗店経営なんて無理です。要りません、お返しします」


 いくら『王の影』と呼ばれていても、これは庶民感覚では考えられないトンデモプレゼント。

 ハルは首を左右に振り拒絶の意思を伝えるが、仲間二名が異様な関心を示す。


「おおっ、脱衣ゲームの景品がハーレムとは、さすが『王の影』太っ腹だ。」

「ついに、ついに男の夢、酒池肉林展開 キタァァァーー」


 けだものが二匹、吼えているよ。

 フッ……なんかもう、今日は疲れたよ、あっ、目の前に霞がかってきた。


 YUYUの敗北宣言を聞いて、控えていた娼婦たちは楽しそうに再びハルを押し倒す。


「今宵は、私たちがハル様を天国に招待しますわ。

 あらハルさま……えっ、まさか、この状況で寝てしまわれました?」

 

 前日の砂漠エリアから、すでに二十四時間以上起きている。

 しかも『幸運度』を勝負で消耗したため、ハルの脳内HDが強制的に就寝セーブモードに切り替わっていた。

 ハルをパフパフしていた娘たちも、爆睡中で起きない様子にあきらめて離れてゆく。

 ずっと勝負の様子を黙って見守っていたティダが、狂戦士の笑みを浮かべてYUYUの側に立った。


「『王の影』随分とふざけた方法で、ハルちゃんが本当の女神かどうか確かめたね」

「不自然なほどの勝負強さ、ハルくんの『幸運度』は、もはや疑う余地もない。

 偶然の幸運?いや、それは特別に選ばれ者にのみ与えられる祝福された力、私に欠けた力。

 ついに、この終焉世界を豊穣へと導く神科学種が現れたのです」


 『王の影』が敵か味方か判断するためにカマかけのつもりで尋ねてみたが、返ってきたセリフはまるで女神の熱狂的信者に近いものだった。

 この様子なら安全、少なくともハルが不利になるような事はしないだろう。

 そのティダの思惑すらも読んでいるのだろう、YUYUは無垢な天使の顔でいた。


「ティダさん、貴方にも部屋を用意させます。気に入った娘にお世話しましょう。

 あっ、男二人は負けがチャラになった訳ではないので、同等の対価を払って下さい」


 こっそり娘二人を従えて、部屋を抜け出そうとした竜胆は釘をさされる。


「なぁどうする、お前たちのご主人様はあんなこと言ってるけど」


 美しい娼婦たちの耳元で、若く凛々しい王子は低く甘い声で呟く。

 肌襦袢を羽織っただけの二人の娘はYUYUに会釈すると、竜胆に甘えるように腕や腰にしがみ付きぐいぐいと引っ張って別の部屋へ姿を消した。


「では、お姉さまはハルちゃんと同じ部屋を頼もうか。

 ふふっハルちゃんしっかり爆睡してるようだし、あんなことやこんな「やめんか!変態エロフ」げふぅ」

「ティダ、貴様だけ役得なんて許さん!?

 こーなったらヤケクソだ、一夜限りの宴、ハーレムを楽しんでやる。

 この店の者全員連れてこい。俺がまとめて面倒見てやる」


 全くイイところの無かったSENは、勇ましくほざいた。

 店の者は、嬉しそうにSENに会釈をすると、他の者を呼びに行く。

 しばらくすると数人?いや、それ以上の足音が廊下に響き渡り、部屋の襖が開かれた。


 ぞろぞろと部屋に入ってきたのは、子供、子供、子供……

 さっき部屋に食事を運んできた少女たちと、他に、年齢もまだ三才位の幼児から十二歳までの少年少女二十数名。

 薄桃色の着物の娘が嬉しそうに子供たちを整列させると、丁寧に頭を下げる。


「この館は、巨人王御用達の娼館いう名目から「ロリコン王」の噂を真に受けた者が、子供を宿の前に捨るんです。

 子供が飢えない様に巨人王の慈悲を受けさせたい、との悲しい親心なのでしょう。

 おかげで、ココは娼館とは名ばかりの『孤児院状態』です。

 まさか神科学種さまが子供達の面倒を見て下さるなんて、ほんと助かりました」


「おいおいSEN、この状況どうするんだよ……あっ!!逃げんな」


 ティダが気付くと、YUYUも水浅葱も姿を消し、SENもとんずらしていた。

 三部屋続きの広い部屋は子供たちで埋め尽くされている。

 この騒ぎでも朝まで目覚めないであろうハルの寝顔を眺めながら、ティダは子供たちに指示を出す。


「そうだ、もう子供は寝る時間。起床は朝七時、寝坊するな。

 くそう、鳳凰小都がここまで末期状態とは……子供を捨てた親を激しく調教したいよ」



 ***



 厄介ごとを神科学種に押し付け、宿の来賓室に戻ってきた『王の影』は、しかし一息つく間もなく側近のおねだりに悩まされていた。


「YUYUさま~~ハァハァ、今回は私、とても頑張りましたよ。

 ご褒美に、YUYUさまの背中の羽を毛繕いをさせて下さいっ」


 水浅葱は、甘い猫なで声と期待をこめた目でYUYUに抱きついてきた。


「……まぁ、確かに水浅葱は、イロイロ面倒な用事をこなしてくれました。

 今回はわがままに付き合ってくれた礼に、その申し出を受け入れるしかありませんね」


 YUYUの一言で、とろけるような笑顔になった水浅葱は、さっそく膝の上でYUYUを横抱きにする。

 背中に生えた小さな翼にやさしく手を伸ばし、その柔らかな手触りを堪能する。


「うっ、うっうん、水浅葱っ、ちょっと、くすぐったっ、ヒヤッ」


「YUYUさま、翼の付け根に触れるとパタパタ羽ばたいて……感じてらっしゃるのですね。ほわほわした極上の手触りが最高、それに体からも良い香りがします」


 羽根がしっとりと潤ってきて、YUYUは頬を真っ赤に染め、ぴくぴくと身悶えながら、細い腕で水浅葱に縋り付く。


「や、やんっ、みずあさ……そこは らめぇーーあっあぁっーーんっ!!」


 『王の影 YUYU』最大の弱点、背中の翼を思う存分撫でまわして堪能した水浅葱は、今回の騒動で一番の役得だったかもしれない。

 


お色気要員 水浅葱さんに決定しました。


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