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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
鳳凰小都編
27/148

クエスト24 じゃんけんゲームをしよう

「さて、このような物的証拠で確信してくれた事と思います。

 ここが七百年後の現実世界で、とある事情で終焉に向かう世界、ということを」

 

 『古代禁書本ジャンプコミックス』を黒い小箱に仕舞ったYUYUが座椅子に戻ると、水浅葱と呼ばれた女性が湯呑を差し出す。

 それが合図だったようで、お揃いの小紋の着物を着た少女たちが料理を乗せた盆を持って部屋に入ってくる。

 竜胆が畳の上にどっしりと腰を下ろしたのにつられ、ハルたち三人も美しく料理が盛り付けられた盆の前に座る。

 和風懐石風の鮮やかな小鉢に盛り付けられた料理は、砂漠エリアでサバイバルに明け暮れた彼らには、夢の様な御馳走だ。


 ハルは部屋の端っこの席で、いただきます と手を合わせ食事に箸をつける。

 見かけは和風だけどゴマ油を使っているんだね、塩味がかなり強いな、白米は……堅っ、おにぎりの実の方が美味しいかも。

 料理をもぐもぐと口に運びながらも、ハルの脳内は「くいしん坊 万才」状態になっている。

 SENとティダは食事に手を付けず、奥座敷に座るYUYUの様子を伺っていた。

 『王の影』は警戒心をあらわにしたままの神科学種たちを、楽しいオモチャを見つけた子供のような、無邪気な天使の笑顔で話しかける。


「私の詳しい自己紹介は済ませました。

 次は貴方がたの、タイショ砂漠の聖堂に降臨した女神を紹介してください」


「YUYU、なに言ってんだ?

 女神が憑依したのはオアシス神官の妹で、ココには連れて来てないぞ」


 『王の影』の発言に、竜胆は食事の箸を止め不思議そうに答える。

 

 ガターーンッ ガチャン


 唐突に甲高い音が響き、きれいに盛り付けられた料理は皿ごと盆から落ちて床に散らばる。怒りに顔をゆがめたSENは、目の前の料理盆を蹴って立ち上がったのだ。


 竜胆は、生贄乙女をハルが身代わりした事を知らない。

 大神官を欺くため、その秘密を知るのは自分達と退紅の神官仲間数人だけだ。

 しかし『王の影』は今はっきりと『女神降臨』を口にしたのである。


「なるほど、あんたは最初からソレが目的だったんだな。

 茶番は終わりだ!!

 ティダ、ハルを連れて「うきゃぁぁ、なんだなんだ!?」しまった」


 SEN達と離れた席に座っていたハルは、いつの間にか高級娼婦の娘たちに取り囲まれていた。

 彼女たちは一斉にハルの服に手を伸ばし、抱きついたり圧し掛かったりしながら服を脱がしてる。


「ああっ、まだ茶碗蒸しを食べてないのに!?

 ぎゃあーーぁ、ズボンは待って、女の子がそんな積極的にーーウワァァァ」


 ぽい ぽいっ と上着やベルトやズボンは畳の上に脱ぎ捨てられ、手馴れた彼女たちに揉みくちゃにされたハルは無理やり着替えさせられた。


「大人しくしなさい、この黒髪のカツラを被って……えっ、これは」

「まぁ、なんて可愛らしい」

「化粧は紅をさすだけで、充分お綺麗ですわ♪」


 用意された衣装を身に着けたハルを、娘たちは羨望の眼差しで見つめる。

 様子を眺めていたYUYUも座椅子から立ち上がると、まるで憑かれたような目つきでハルの傍に来た。


「……ふふっ、女神ミゾノゾミが降臨した噂は王都まで伝わってました。

 まさか、平々凡々の目立たない小間使い従者が、これほど化けるとは驚きです」


 女神モデルの無料キャラなんだから、そっくりなのは当たり前っすよ。

 オアシスで着た巫女服とは少しデザインが違うが、白い小袖(白衣)に緋袴を穿いて、背中までの長い黒髪のカツラを被ったハルは終焉世界の女神そのものだった。

 ハルの巫女姿を初めて見たSENや竜胆も、それは衝撃の変身姿だった。


「確かに銀朱よりも、ハルの方がミゾノゾミ女神に似ているな」

「●REC みこみこみこ脳内HDへ「逝ね、変態紳士!!」げふっ」


 電波モードのSENに、ティダが前々からのお返しとばかりに顔面に蹴りを見舞った。

 



 ―――嗚呼、やっと、長かった、

 やっと、見つけた、あれを、手に入れる、

 女神、禁忌、黒い蝶、パンデミック、

 過去を、世界を、変える―――

 

 


 

 突然、全身の力が抜けたかのように座り込むYUYUを、水浅葱は素早く肩を支えながら、心配げに声をかける。


「YUYUさま、お顔の色がすぐれませんね……大丈夫ですか?」


 YUYUが腕を伸ばすと水浅葱はその手を取りお姫様抱っこをして、力無く目を閉じたYUYUを抱えたままハルを捕獲した娘たちの前に出て神科学種と対峙した。


「竜胆様はそのまま、神科学種のお二方、お帰りはあちらの裏口からどうぞ。

 私達は王より『タイショ砂漠に降臨した女神を、霊峰女神神殿より先に手に入れる』との命を受けてます。

 ハル様は私たちが手厚く御持て成しいたしますので、ご心配なく」


 腕の中で人形のように動かなくなった『王の影』に代わり、水浅葱はきっぱりと告げた。


「ふぇっ、僕は女神さまじゃないですよ!?

 戦闘力もないし、魔力マナも足りない、弱いだけの神科学種です」


 ハルはなんとか誤解を解こうと、若く綺麗な高級娼婦たちにパフパフされながらも必死に答える。

 それに水浅葱はこう返す。


「オアシスに潜入させた密偵の報告によりますと、ハルさまは砂漠に緑の森を出現させ、その実で飢えを無くしたと聞きます。

 枯れた『奇跡の池』の水を魔法陣で蘇らせたのもハルさまの御技だと。

 それに『女神の弓』を扱うことが出来るのは、ミゾノゾミ女神しかおりません」


「はうっ、言われてみればそうなんだけど……

 でもそれは別に奇蹟でもなんでも無いよ。僕は単に運が良かっただけだ」

 

 そうだ、これほどの祝福を受けるモノを誰も放ってはおかないだろう。

 SENは刀を抜くと、その鋭い切先を水浅葱と腕の中の『王の影』に向ける。

 

「王命が何だろうが、俺たち神科学種には関係ない事だ。

 ハルを、俺たちから奪えるなら、やってみるがいい。

 コノ 世界 ハ メンドクサイ 

 ゼンイン 深淵ノ 闇世ニ オトシテ ヤロウカ」


 ガコィーーン!!!

「うがぁぁぁつ!」


 ティダが、今度はSENの後頭部めがけ、力いっぱい手刀を振り下ろす。

 まただ。SENはハルが関わると異常なほど過激な反応を示す。

 そう、自分達はその気になれば、すべてを簡単に破滅に向かわせる力があるだろう。

 ただしゲームではない現実の行為には、責任も伴うのだ。ティダはそれを危惧したのである。


「SEN、何テンパってるんだ!!

 丸腰の相手に、そんな物騒なモノ突き付けるんじゃない」


 『王の影』と『神科学種』の駆け引きを眺めていた竜胆は、のっそりと立ち上がると水浅葱を睨みつける。


「俺も、このガキだけを、一人王の元へ連れて行くにのは反対だ。

 例え『女神を憑依』させたとしても、コイツは一人では何もできない。

 王都に連れて行くなら、他の神科学種も一緒じゃないと奇蹟を起こせないだろう」





 その時、水浅葱に抱きかかえられていたYUYUが、小さく身じろぎパチパチと何度か瞬いた。

 意識を取り戻し腕の中から体を起こすと目の前に突きつけられた刀を見て、ぷいと顔をそむけ水浅葱のふくよかな胸に顔をうずめる。


「あら、YUYUさま、寝ぼけてらっしゃるのですか?

 そんな、胸に強くお顔を擦り付けられては、ああっ、ひゃんっ、ちょっ、ダメですぅ」


 抱きかかえるYUYUが、もぞもぞと何やら悪さをしているようで、水浅葱が艶のある声を上げる。

 目の前で美女の悶える姿を見せ付けられ、SENの刃先はかすかに揺れている。


「ふわぁふわ……むにゅ、こんな場面で『落ちて(ログアウト)』してしまうとは。

 あれ、どうしたのです?随分と殺伐とした状況になっていますね」


 YUYUがやっと彼女の胸から顔を上げて、殺気のそがれたSENを見つめる。


「そのような物騒なものを仕舞いましょう。

 ここはお店ですし、娘たちも怯えてしまいます」


 SENはしぶしぶ刀を収め、水浅葱はYUYUに申し訳ございませんと頭を下げる。

 この修羅場に至るまでの話を竜胆が簡潔に説明すると、YUYUはしばらく考え込んだ後一つの提案をする。


「まぁ、このような状況になる事は半ば予想していましたし……。

 ここは、お互いが納得ゆくように、女神をかけて勝負しませんか?」


「何勝手な事ほざいてるんだ。

 その勝負を受けたところで、俺たちには何の利益もないだろう」


 再びYUYUに喰ってかかるSENに、幼い顔で蠱惑げな微笑みを返し話を続ける。


「もちろん貴方がたにも、充分なご褒美を用意しますよ。

 ここは高級娼館、先ほどのじゃんけんゲームで彼女たちとの勝負に勝てば、気に入った娘を何人でも、お好きなだけ可愛がることができます」


「その話のったぁーーーーー!!」

「ついに、この話にもハーレム展開キタァァァーーーーー」


 真っ先に手を挙げたのは部外者の竜胆、続いてSENも拳を振り上げて答えた。

 『王の影』は天使のような微笑みを崩さないまま、罠にかかった哀れな獣を一瞥する。


「……ふふっ、男は皆、魅惑的なものを目の前に出すと、獣になるのですよ」




 ***




「アウト、せーふ、ヨヨイのヨイ!?

 あら、負けてしまいましたわ。はい、指輪1個捨てま~~す」


 は、謀られたっ。

 欲望に駆られ勝負を受けたSENと竜胆は、激しく後悔していた。

 脱衣ジャンケンの勝負は殆ど互角、しかし高級娼婦の彼女たちを美しく飾るアクセサリーを計算に入れてなかった。

 最初の一人、薄着の青紫色の服装の娘と勝負しても、まだ彼女の上着すら脱がせられない。

 身に着けるモノの少なかった竜胆はすでにパンツ一丁で、SENも残りは下半身の袴と下着だけだった。

 

「クッ……我が拘束具を解くと押さえ込んでいる魔力が放出するというのに……!

(電波語解説:服脱いだら、汗臭かった)

 おい、俺たちが負けたら、次はティダの番だからな」


 SENが悲壮感を漂わせながらティダに声を掛けるが、予想外の返事か返ってくる。


「お姉さまは、このジャンケン勝負には参加しない。

 ハルちゃんは巨人の王都に連れていった方が良いと思っているよ」

「なんだと!?ティダ、それはどういう事だ」


 ティダは『王の影』の視線がこちらに向いてることを確認すると、しっかりとYUYUの目を見て答えた。


「巨人王は『霊峰神殿より先に女神を手に入れろ』と言っていた。

 それはつまり、巨人族と霊峰神殿は対立する立場にある。

 俺は、アノ大神官を野放しにしていた霊峰神殿を信用できない。

 そして竜胆やその従者たちを見れば、まだ巨人族の方がマシだと思うよ」


 YUYUはクスリと笑うと、甘い声で歌うようにコノ世界の闇を語る。


「巨人族の王は、あくまで巨人を総べる王。

 人間はミゾノゾミ女神を信仰する霊峰女神神殿が治めるべきなのに、彼らはその務めを果たさず自らの私利私欲に走っている。

 巨人族暴力王 鉄紺は人間にも手を差し伸べ、終焉世界はなんとか破滅手前で留まっている状態です。

 それにしても良かったです、話が判る方が居て。

 短絡的なバカ、失礼、判断を全員お持ちならどうしたものかと思いましたよ。

 いくら神科学種であろうとも、巨大勢力二つを相手にして無傷では済まない事は、どこまで愚かだろうと理解できるでしょう?」


 クソッ SENは舌打ちすると、再び青紫の服を着た娘と向かい合い。


「男には、どうしても、負けられない戦いがある。

 アウト、せーふ、ヨヨイのヨイ!? あっ、しまった……」




 キャァーーと、黄色い声が上がる。

 ホホを赤らめた娘たちが、チラチラと覗き見る視線の先は……


 SENは袴姿だからもしかしてと思ってたけど、ちゃんと「ふんどし」だね。

 太マッチョと細マッチョの二人が、素晴らしい肉体美を晒しながら畳の上で正座してる姿はシュールだ。

次回も、脱衣ゲーム続き(笑

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