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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
鳳凰小都編
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クエスト23 古代禁書本を読もう

 鳳凰小都の街壁は数年前までは、白い石積の壁を美しい文様の蔦やツルバラが彩っていた。

 しかし今は見る影も無く、街壁には胸や尻を強調した女性の扇情的なポスターが張られ、卑猥な言葉の落書きで埋め尽くされている。

 それでも鳳凰小都の街の入口、正門近くは高級避暑地の面影を留めており、普通に商店や民宿、役所や学校が立ち並んでいる。

 だが路地を一つ奥へ進むと雰囲気はガラリと変わり、怪しげな商品を扱う店や客待ちの娼婦がたむろする酒場が並ぶ。


 正門正面に建てられた、王族用の高級宿前に馬車は停まる。

 これから目指す場所には幼い萌黄を連れて行くことはできず、竜胆の従者と宿で留守番させる。

 すでに日も暮れ、夜の闇が辺りを包み込む。

 街は眠りから覚めたように、煌々と怪しげな光を放ち、欲望の都へと人々を誘い込む。


 『王の影YUYU』との会談に指定されたのは、鳳凰小都の最深部にある高級花街だった。

 

 竜胆の案内で、冒険者の三人は街の中に足を踏み入れる。

 細い路地には人が溢れかえり、住人がほとんど人間だったオアシスと比べ、大柄な巨人族の姿も見かける。

 それでもこの界隈のほとんどは人間で、奇異な服装の道化やどこのカーニバル!!というような少ない布で豊満な体を誇示する娘たちが呼びこみをしている。


「あ、あれはっ、素晴らしいネコ耳だ!?

 コミケ会場でも、あんなに完璧なネコ耳コスプレ見たことないぞ」


 SENが見つめる先、黄色い声で客引きしている女の子の頭に、ピョコンと三角のネコ耳が付いている。

 耳は音に反応してピクピク動き、ピンと立ったフサフサの尻尾がとてもセクシーだ。


「なんだ、猫人族が珍しいのか?」


「「「にゃんと!!リアル猫耳娘ですか」」」

 三人ハモリました。


 ファンタジー世界で、サキュバスに次ぐ萌えキャラ、ねこ耳を装着した猫人族が現れましたよ。 


「元々猫人族は最下層の身分で、貧しさから花街に売られてくる娘は多い。

 この界隈で人気の高級娼婦は、ほとんど猫人族だからな」

「く、詳しいですね。竜胆さん」

「当たり前だ、この俺を女たちが放っておく訳ないだろ。

 人間も猫人も、向こうから言い寄ってくるからな」


 確かに巨人と人間のイイとこ取りのルックスの竜胆は、歩くだけで注目を集める。

 竜胆だけじゃない、無精ひげでワイルド二割増しなSENや、ミステリアスな雰囲気で美しい銀髪のエルフのティダ。

 男も女もこの見栄えにする華やかな一行から目が離せないようで、チラチラと様子を伺っている。

 えっ、僕ですか?

 小間使いの従者のように、こそこそと彼らの後を付いてゆくだけです。




**


 


 鳳凰小都の最深部 高級花街エリアは、周囲のケバケバしい店と一線を画していた。

 青々と茂る竹林の壁が高級娼館を取り囲み、落ち着いた和風旅館のような雰囲気だった。

 王の命により、鳳凰小都を極秘で偵察するための拠点「完熟遊誘かんじゅくゆうゆう館」で、『王の影YUYU』と神科学種の会談が行われる。


 ハル達が通された部屋は、十二畳ごと襖で仕切られた三部屋が縦に伸び、最奥の部屋では宴会が始まっている。

 色鮮やかな着物に宝石をちりばめた髪飾りを身に着けた四人の若い娼婦が、喜声を上げながら遊びに興じていた。


「アウト、セーフ、ヨヨイのヨイっ いやぁん、また負けちゃった」


 勝負に負けた薄紫の着物の娘が、髪飾りを一本抜いて放りなげる。

 畳の上には、すでに上掛けや足袋、首飾りなどの装飾品が散らかっていて、向かい合いジャンケンしてる娘達もかなりの軽装になっていた。

 

 えっと、これから僕らは『王の影』と呼ばれる凄い人と会談するはずなんだけど……。


 部屋の主人は、豪華な造りの座椅子にだらりと腰かけ、その後には鮮やかな水色の波打つ髪の魅惑的な女性が控える。

『王の影』は、細かな銀刺繍の施されたヴェールで顔半分をかくし、薄緑色の打掛の様なガウンで足先まで体を覆っている。

 ヴェールから覗く顔は透けるほど白く、薄い桃色の唇が微かに笑うのが見えた。

 次の勝負で負けた桃色の着物の娘の帯に手がかかると、娘たちは面白がって長い帯をひっぱる。


「あれ~~っおやめになって!?クルクルクル」

「良いではないか、良いではないか」


 この場面にこのセリフ、しかも野球拳、どこかで見たことが……そうかバカ殿だ!!






 目の前でキャッキャと戯れる彼女たちの姿に、その場で立ち尽くしていたハル達を見かね、竜胆は声を掛ける。


「おい、YUYU。約束通り神科学種を連れて来たぞ。」


 竜胆の大声に、客の存在に気付いた娘たちは、素早い動きで席を整える。

 小柄な『王の影』は、座椅子から立ち上がり、足音もたてず畳の上を滑るように近づいてきた。


「……ふふっ、遠路はるばる、時空の彼方から終焉世界へようこそ。

 私は、暴力王 鉄紺 第四位側室『王の影 YUYU』」


 薄いヴェールを取ると、ふんわりと肩にかかるブラウンの髪に整った小さな顔、先端のとがった長い耳に紅い右目。


「そして『End of god science -神科学の終焉- revisionリビションⅡ』のゲームプレイ中、この世界に呼び込まれたプレイヤーです」


 ハルは、赤い右目で相手のステータスを確認する。


【YUYU 神科学種、revisionリビションⅡ(冒険者) ハイエルフ レベル285 12歳】


 この「revisionⅡ」ってなんだろう?

 レベルが上限200を軽く超えてるし、ハイエルフという種族は存在しないはずだ。

 隣のSENを見ると、心なしか青ざめているように見える。


「あんた、このステータスは本物か、チートキャラじゃないだろうな」


『王の影』も同じように、赤い右目でステータスを確認していたようで、SENの問いかけにニコリと笑い返す。


「SEN、貴方は『24年バージョン』の神科学種。

 私はその四年後『28年バージョン、revisionリビションⅡ』です。

 2028年10月にログインして、すでに終焉世界滞在時間は二十年経過しています」


 ということは『王の影』と呼ばれるYUYUは、僕らより後にゲームにログインしながら二十年以上この世界に住んでるってこと?

 この街に来てからどこか不機嫌そうなティダが、堅い声色でYUYUに訊ねる。


「俺は終焉世界が……本当に2025年から七百年後の未来なのか、信じられない。

 もし、はっきりとした証拠があるなら教えてくれないか。」


「では貴方たちに、ハクロ王都に伝わる『古代禁書本』を見せましょう。

 この本を読む勇気が、または読まない勇気が在るかどうか……。

 読んで正気でいられるか、試しますか?」


 背後に控えていた、水色の髪の女性がYUYUへ黒い箱を手渡す。

 ハルたちが固唾をのんで見守っていると、『王の影』は箱の蓋を取り中に納められた古代禁書本を三人の前に差し出す。

 それはとても見覚えのあるデザインで、厚さ1.5センチほどの片手で持ち運べるサイズ、表紙はカラフルなイラストの描かれている。


「あれ、コレってジャ@プコミックでしょ?

 この絵柄は、主人公がルフ「うわぁーー!!ネタバレダメッ」ゲフッ」

「見ないぞ、俺は見ないぞ『最終巻 俺は永遠に海@王になる』って……読みてぇ!!」

「SEN、お前殺す、ネタバレ許さない!!死ねェ」


 本を見た神科学種たちは突然人が変わったように殴り合いを始め、その様子を水浅葱は恐ろしげに眺めている。

 

「YUYUさま、一目見ただけで神科学種をここまで狂わせる。

 なんて……恐ろしい呪われた本なのでしょう」


 SENの口を塞いだティダは、忌々しげにYUYUを睨みつける。


「確かに、ココが未来だと確信したが……。

 俺は毎週ジャ@プを読むの我慢して、コミック発売を待ってるんだぞ。

 それをいきなり最終巻ネタバレするって、なんて鬼畜な奴だ!!」


 YUYUはティダの嫌味も気にせず、涼しい顔でさっさと本を箱の中に戻すと蓋を閉めた。


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