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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
オアシス編
23/148

クエスト21 オアシスに水を引こう

 砂漠竜討伐から数日が過ぎ、オアシスの村は変わりつつあった。


 村人には、少ないながらも水が平等に与えられ、聖堂への奉仕という名の強制労働から解放された。

 オアシス自警団に加わり、狩りの腕を磨こうとする者も現れる。


 ハルの思いつきで、地底世界樹の苗木がオアシス聖堂の周囲に植えられた。

 大広場に残されたままだった砂漠竜の骨を、砕いて地底世界樹に与えたところ、樹はみるみる大きく育ち薄桃色の花を咲かせる。


 その日、勉強会という名のスパルタ地獄から五日ぶりに解放された神官たちは、礼拝堂から外に出た途端、花吹雪の歓迎を受けた。


「砂漠に桜など、ありえない、これはなんという神業だ……」

 

 草一本生えない枯れた砂漠の聖堂に、突如深い緑の大樹の森が現れ、薄桃色の花を満開に咲かせている。

 その美しい光景に、言葉もなく立ち尽くし、感極まって泣き出す者もいる。



 ***



「さすがに五日間の集中勉強会に、最後まで付いて来れた奴は十人中四人。

 これからは、暗記と練習問題を繰り返せばいいでしょう」


 すっかり燃え尽きたティダは、ぐったりとイスに腰掛け、机に脚を投げ出している。


 ふと気が付くと、まだ一人、机に向かって問題に取り組んでいる者がいた。

 背の高い退紅あらぞめには低すぎる机で、背を丸めて掛け算九九を必死に解いている姿は微笑ましくあった。

 ティダは立ち上がると、退紅の傍に近寄り、忙しくペンを走らせる手元を覗き込む。


退紅あらぞめ、これで調…勉強会は終わりです。

 やはりお前が一番優秀だね。

 これからはオアシス大神官として、この村を豊穣へと導きなさい」


 気配に気付き、退紅が顔を上げると、そこには慈悲深く見惚れるような微笑みを浮かべたティダがいた。


「ティダさま、貴方のおかげで自分がどれほど無知だったか思い知らされました。

 神の言葉を伝えることはできても、この世界の仕組みは何も知らなかった。

 俺は、神科学の知識と……

 そして、貴方の事が知りたい!!」


 はぁ?もしかして、こいつM属性だったのか!!ちっと調教しすぎた。


 五日間ほとんど完徹状態で眼の周りに黒々とクマを浮かべながらも、退紅は瞳をギラギラと輝かせティダの腕を掴み引きよせた。

 

「ティダさ~~ん、お疲れ様です。

 晩御飯持ってき……お、お邪魔しました///」


「ハ、ハルちゃん!?コレは違う(ここからオッサンのダミ声)ウラァッ手ぇ放しやがれ」


 バキンッ


 寝不足の退紅は、久々の深い眠りを脳天直撃の刺激によって強制的に与えられた。



 ***



「調教というか洗脳というか、まぁ退紅には刺激が強すぎたんだろう。

 村の連中も、俺たちに依存しそうな雰囲気があるし、計画を早めた方がいい。」


 ティダは、ほんのりと頬を赤く染めながら ウサギ肉の照り焼き丼を食べる。

 

「貴方の事が知りたいって、中の人オッサンだし。美しい思い出のままが、ブファッ」


 SENは思いだし笑いをこらえきれす、お茶を吹いてしまう。


「計画を早めるということは『エリア転送ゲート』の全域転送魔法陣、修復作業が終わったんですね」


 ティダが神官達に教えていたのは、小学校低学年の算数の基礎、掛け算引き算と平面図形など。初日のうちに、ティダは自分で全域転送魔法陣を書き起こし、石工に修復を手配していたのだ。


 そこに、勉強会を逃げまくっていた竜胆が話に加わる。


「俺の部下が全域転送魔法陣の修復に立ち会って、王都まで無事転送できた。

 前の魔法陣より早い移動で、座標も狂いなく正確に動いたそうだ。

 俺たちは、明日このオアシスを出る。

 行く先は『鳳凰小都』、あんたたち神科学種も一緒に来てもらいたい」


 二日前、ウサギ狩りの最中話していた『王の影』との会談が準備されているそうだ。


「あんなイカガワシイ所を会談場所に指定するなんて、ヤツが何考えてるのか俺にもよく判らないんだ。

 だが、王より正式に書状も届けられているから無視はできない。

 『王の影 YUYU』と一度だけ会ってもらえないか?」


 あまりに話が早く進みすぎる、嫌な予感がする。

 腕組みをして考え込むSENに、オアシスから早く逃げ出したいティダは不満そうだ。


「SENの旦那は、何深刻に考え込んでいるの。

 新しいクエストと思えばいいじゃない」


 ふと、何かを思い出したのか竜胆が呟く。


「そういえばYUYUが神科学種に 『中の人ナース』って伝えてくれって」


「「「なにぃ、中の人ナース!?」」」

 

 僕ら三人、見事にハモリました。


「それから『ミニとピンクで検温』と言ってたが、何の呪文だ?」


 竜胆のトドメの一言で、神科学種と『王の影 YUYU』会談が了承された。



 ***



 翌日、地下鍾乳洞ダンジョンの入り口には、ハルと萌黄もえぎ竜胆りんどう、そして生贄の少女 銀朱ぎんしゅが立っていた。


「このダンジョンは神科学種の為に作られ、魔力マナを持つ人が居ると中に入れます。

 銀朱さんは魔力マナがあるから入ることが出来ますよ。この魔法陣の上に立って下さい」


 わずかに神科学種の血が流れる銀朱は、ティダから教わった治癒魔法で、人々の体と心の傷を癒していた。

 ハルはこれから村を導いてゆく彼女に、もしもの時の避難場所として、地下鍾乳洞ダンジョンを教えることにしたのだ。


 銀朱は、足元の魔法陣に恐々足を乗せる。

 すると、体が浮いたように感じ、突然視界が変わる。

 転送された暗闇の中に、白い鍾乳洞が浮かび上がり、初めて見る神秘的な風景に溜息をもらす。


「銀朱さん、びっくりした?

 中は簡単な迷路になっているから、僕にぴったり付いてきて」


「ああっ、仰せのとうりにいたします女神さま!!!」


 そう叫ぶと、銀朱はハルの右腕に両手を廻し、離れないようにぴったりくっ付いてきた。


「何度も言うけど、僕は女神さまじゃないからね。

 ち、ちょっと歩きにくいよ。そんなに張り付かなくても迷わないからっ」


「ハァハァ、銀朱は女神さまにどこまでも付いてゆきます。

 私は永遠に、ミゾノゾミ女神の下僕です」


 うわっ、銀朱さんは相変わらず僕を女神さまと信じてる。

 竜胆はまだ来ないし、魔法陣まで戻る時間もない、早く仕事を終えてしまおう。


 ハルは右腕にしがみつく銀朱を半分引きずりながら、地下鍾乳洞の泉までたどりつく。

 

 地下鍾乳洞の中を流れる川の水は泉に溜まり、底の砂に吸い込まれてゆく。

 泉の深さは、子供の萌黄は遊べるほどの、ハルの腰下の程度。


 ハルは泉の中央まで進み、小さなアイテムバックから1メートル四方の石板を取り出す。水の中でふらつきながらも足を踏ん張り、石板を割らないように注意して沈める。

 再びバックから石板を取り出し、同じ作業を繰り返す。

 石板の四等分されたピースを合わせて、ひとつの魔法陣を完成させた。

 

「あれ、起動しない、右上と下が逆になっているのかな?」


 泉のそばで、ハルの様子を食い入る様に見つめる銀朱には、それは神聖な水行儀式に見えた。

 

 ああっ、女神さまの服が水に濡れて、背中のラインや細い腰がステキ、もう、もう、


「女神さまーーも、もう、わたしがまんできません!!」


 銀朱は泉の飛び込むと、半分水に潜った状態で作業しているハルに飛びかかる。


「ふうっ、これでやっと魔法陣が起動でき……って、ええっ!?

 銀朱さん、こっち来ちゃダメッ!!」

 

 銀朱はサブサブと水の中を突き進む、が、巫女服は動きづらく、袴に足を取られる。


「きゃっ、転ぶ、魔法陣が光って……」


 泉の底に沈められた魔法陣の石板が、その上で転んだ銀朱の魔力マナに反応して起動する。



  **



 オアシス聖堂広場中央の『奇跡の池』と呼ばれていた枯れ池に、ハルが写しとった魔法陣の石板が設置された。

 SENはその魔法陣の上に、砂漠竜の額から抉り出した魔力マナの源『蒼珠』を置いた。


「仕組みはアイテムバッグと同じで、魔力マナの容量で転送できる量が決まる。この砂漠竜の『蒼珠』なら、どんな遠い場所のモノでも、一瞬に大量に転送できるはず」


 ティダに殴られた頭のコブを、帽子で隠している退紅あらぞめと、小柄でスキンヘッドの臙火えんかという凸凹コンビは、真剣にSENの説明を聞いている。


「えっと、この魔法陣に砂漠竜の『蒼珠』を捧げると、何が起こるんですか?」


「それは見てのお楽しみだ。もう、始まっているぞ」


 捧げられた『蒼珠』から魔法陣へと勢いよく魔力マナが流れ込み、陣全体が蒼い光を放ち『蒼珠』が徐々に転送されてゆく。

 乾いた石板が湿り気を帯び、ポツポツと表面に水滴が浮かぶ。

 魔法陣の重い石板が、カタカタと小刻みに振動すると……



 ドドドドドッ パシャ バシャ ざぁああぁぁーーーざぁああぁーーー



 突如、魔法陣から大きな水柱が吹き出す。

 まるで池の底から湧き出てくるような勢いで、清く透き通った水は池を満たし、水路に音を立てて流れ込む。


「おぉぉい、皆たいへんだぁ、『奇跡の池』に水が湧き出した!!」

「池から、誰か、女神さまが………降臨されたぞぉ!!」


 神秘の水で満たされた『奇跡の池』の魔法陣から現れたのは、長い黒髪に神世界の巫女衣装を着た少女。


「誰かと思ったら、銀朱じゃねえか。あんた、どうして池の中にいるんだ?」


 池の周りに集まり出した村人の前に、水の中から突如現れた銀朱も、自分がどうして村に戻っているのか判らなかった。


「えっ、私は今まで女神さまにお会いしてました。

 神科学の泉の中で、女神さまが不思議な儀式を行い、私をこの池に戻したのです」


「なんだって、それじゃあ、銀朱は女神に遣わされて来たのか?!」


「女神さまは私たちの祈りに答えて下さりました。

 この水は、ミゾノゾミ女神さまより与えられた水です」


 銀朱の言葉に村人たちは感動で打ち震え、両手を合わせ天を仰いで拝み始める。



 その場にいた神科学種は、いつの間にか姿を消していた。

 帽子を深めにかぶり薄汚れたシャツを着た男が、お祭り状態の村を出てゆくのを気に止める者はいなかった。

 

「ふーーっ、エロい、びしょヌレヌレの巫女最高!!

 ●REC 脳内HDへの動画、永久保存完了」



 ***



 地下鍾乳洞ダンジョンからずぶ濡れ状態で姿を現したハルを、竜胆は面白そうに眺めていた。


「竜胆さん、わざと僕と銀朱さんを二人っきりにしましたね!!」


「銀朱のヤツがしつこく頼むからなぁ、仕方なかったんだ。

 それで銀朱と上手くやれたか、姿が見えないがどうだった?」


 ニヤニヤと笑いながら、あからさまに聞いてくる竜胆に、ハルは溜息をつく。


「竜胆さんは何を期待してたのか……銀朱さん、僕を女神と勘違いしてるだけです。

 それに、彼女は設置した魔法陣に触れて、オアシスに転送されちゃいました。

 村の枯れ池に転送されていると思うけど、大騒ぎしていそうだなぁ」


「村には銀朱の兄貴もいるんだ、ヤツに任せておけば大丈夫だろう」


 銀朱の転送の出来事は、大騒ぎどころか、新たな神話として「タイショ砂漠の女神降臨」と終焉世界中に知れ渡る事となる。

 

 



 エリア転送ゲート『全域転送魔法陣』の前で、SENとティダ、竜胆の従者たちが待っていた。

 見送りに来ていた、宿の女主人 黄檗きはだは、ふくよかな両腕でハルを抱きしめて別れの涙を流す。


「今日、宿の水槽にも魔法陣から水が出てきたよ。

 本当にありがとう、予言通り神科学種は村に豊穣をもたらした。

 特にハル、あんたの作る料理を食べると、生きる勇気がわいてきたよ」


「ありがとうオバサン。僕は少ししかお手伝いできなかったけど、そう言ってもらえると嬉しいです」


 そして、幼い萌黄も王都で行儀見習いすることになり、育ての親の黄檗との別れに泣きじゃくっていた。

 つられて泣きしそうになりながら、ハルは萌黄の手を引いて全域転送魔法陣の上に立つ。


「行き先は『鳳凰小都』、高原の高級避暑地エリアとして設定されている。

 ハルちゃんは、まだこのエリア見たことないよね」


「はい、ゲームの中だと高レベルクエストが多くて、僕は行ったことないです。

 オシャレな高級宿が多いって聞いていたから、楽しみだな」


「俺の行き先は『中の人ナース』フフフフフッッ」


 足元の魔法陣が青い光を放ちながら起動する。




 

 新たな神科学種との出会い、そして旅の先にあるものは……

 豊穣へと向かうのか、破滅へと向かうのか。





『End of god science -神科学の終焉-』

・タイショ砂漠エリア completeコンプリート




やっと「オアシス編」書きあがりました。

3人の旅は、まだ始まったばかりです。


語りたいことが色々あったんだけど、今は書き上げた満足感がいっぱいです。



次は、すこしお色気が多めになる予定です。


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