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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
オアシス編
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クエスト16 蒼珠砂竜討伐作戦4

 ティダは、鎖に繋がれ逃げられないハルを背後にかばいながら、武器を木刀から愛用のメイスに持ち変えた。

 2本の銀色のメイスは雷属性の魔法を帯びており、触れれば相手に電気ショックを与えるスタンガンのようなものだ。

 聖堂にたどり着くまでの戦闘でボロボロなったローブを脱ぎ捨て、艶のある鮮やかな緑色のアオザイ風衣装になる。


 巨大蜘蛛の怪物は、オアシス聖堂の大神官が憑依させた禍々しく蠢く黒蜘蛛の集合体で、体を上下に揺らし相手の出方を待っている。


「ヒィヒヒヒヒッ、貴様らに、この私が倒せると思っているのか。

 この世のモノとも思えぬ苦しみを与え、生きながら砂漠竜に食わしてやろう」


「化け物は勝手に吠えてろ。これから害虫駆除してやるから、覚悟しろよ!」」


 ティダはハルに何やら耳打ちすると、ステップを踏むように一気に駆け出す。

 あっという間に距離を詰め、床を蹴り飛び上がると、大神官の頭部めがけメイスを振り下ろす。


 パシン 

 叩き付けた力が、柔らかいソレに絡め取られる。


「チィ、手ごたえがない!なにか、なにかが邪魔をしている」


 邪悪な薄ら笑いを浮かべる大神官の顔面寸前で止められたメイス。

 そこには見えない蜘蛛の巣が幾重に重なり、蜘蛛の体を守る様に縦横無尽に張り巡らされていた。


 ティダが大神官の戯言に気を取られている間に、黒蜘蛛は尻から糸を吐いて巣を編んでいたのだ。

 透明な蜘蛛の糸は、獲物を捕獲するだけの強度と粘着性があり、巣に触れると絡みつき動きを止め、糸に触れると皮膚を切る。


 巣に触れ、糸が絡みついたメイスは使い物にならない。

 さらに、蜘蛛の糸はティダの全身に纏わりつき、素手で切り傷を増やしながら、逃れようと足掻かなければならなかった。


「お前の細い手足などこの糸で簡単に切断することができるぞ。

 まずはその細い首から掻っ切ってやろう」


 さすがに、神科学種でも首を落とされれば死んでしまう。

 自分だけでなくハルも殺られ、最悪のゲームオーバーになるとティダは焦る。


 しかし、蜘蛛の糸に拘束されたティダに攻撃から逃れる術はなく、大量の蜘蛛の糸が、首めがけて一斉に放たれた。

 ティダは咄嗟の判断で、両手で首をかばい蜘蛛の糸を腕ごと巻きつける。


「ハハハハハァ、まさに、手も足も出ないとはこの事だな。

 先に貴様の腕が千切れて無くなるぞ」


 掌に力を籠め、絡まる糸を引き千切ろうと力を入れると、糸の喰いこんだ両手の皮膚が裂け鮮血が吹き出す。


「イッ、痛いなぁぁぁ!!確かに痛みはホンモンだな。

 こんな世界がリアルなんて冗談が過ぎる。

 だがな、狂戦士をなめるんじゃねぇーー!!」


 ティダが動くたびに、糸は皮膚を切り、深い切り傷から白い骨が見え、流れ出す血が足元から床に血溜まりを作る。


 しかしよく見ると、ティダの切れた皮膚は、次の瞬間ピンクの肉が再生し、エルフの高い魔力マナによる自己治癒術が発動する。

 傷を受けるより治癒スピードの方が早い。

 纏わりつく蜘蛛の糸が明らかに減ってきて、ティダの体は徐々に自由を取り戻しつつあった。



 ***



 ティダが大神官の注意を惹きつけてる間に、ハルは巨大蜘蛛の後脚近くの死角になる場所まで移動していた。


 大神官の体にびっしりと張り付いて蠢く大量の蜘蛛。

 このモンスターは、一匹の親蜘蛛マザーが、数千の子蜘蛛を従えるコロニーを形成する。


 ティダから耳打ちで、親蜘蛛を探すように指示されたハルは、目をこらして1センチほどの黒蜘蛛が互いに糸で結び合っている中に、一匹コブシ大の赤黒い親蜘蛛マザーを見つける。

 袂に隠し持っていた赤い矢を握りしめると、心臓の様に脈動する親蜘蛛に、狙いを定め突き立てた。


「ぎゃG@kぁ、貴様なにをsi*したhkん2y3%&いーー!!」


 巨大蜘蛛は人語と獣の声の混じった奇声をあげる。

 動きが止まり、ボロボロと蜘蛛の集合体が崩れ始める。

 黒蜘蛛の体は、汚物を吐出すように大神官を床にベチャリと叩き付けた。


 大神官は、状況が呑み込めず呆けたまま顔を上げると、目の前には、緑の服が赤く染まり血化粧の映える美しいエルフが微笑んでいる。


「よお、ほっぺにおかえりのキッスだよ。喰らえブタ野郎!」


 ティダは太った男の頬を、電流を帯びたメイスで渾身の力で殴りつけた。

 頬骨が砕け歯が折れる鈍い音が響き、大神官は、祭壇の際まで吹き飛ばされて気を失った。





 やっとのことで敵を倒したティダは、全身血まみれのまま、同じくボロボロ状態のハルに駆け寄る。

 ハルの右手には赤い矢が握られ、毒々しく赤黒い親蜘蛛を串刺しにしていた。


「さすがのお姉さまも絶体絶命だったよ。ハルちゃんのおかげで助かった。

 さぁ、早く鎖を切ってここから脱出しよう」


 だがティダの声掛けに、顔面蒼白で血の気の失せたハルは弱弱しく首を振る。


「それが……この鎖、全然切れないんだ。ティダだけでも逃げて、もう間に合わない」


 その時、神殿全体を震わすほどの地響きと、今まで聞いたことのない獣の怒り狂う吠声が聞こえた。


 ハルが指差す方向に目を向ける。

 砂煙の中、エリアボスの蒼珠砂竜が聖堂をめざし、一直線に突進してくる。



 ***



 砂漠竜の姿に怯えていた獲物にんげんが狩人になる。


 オアシス自警団は逃げる砂漠竜に花火を打ち込み、白い鱗に銛を突き立て、オアシス女神聖堂前大広場に激しく追いたてる。


 竜の巨体が砂を巻き上げ、ひどい砂埃が立ち、視界はゼロで周囲は全く見えない。

 だが、砂漠から村の入り口にかけて、誘導灯のようにともる『神の燐火』が、聖堂大広場に続く道を示していた。


「竜胆、聖殿正面が石壁のような造りをしているのは、砂漠竜が突っ込んできても壊されないためだ。

 元々コレは聖堂ではなく、砂漠竜を狩るための見晴台、避難場所だったのだろう」


 SENは自警団の前方に指示を出しながら、間近に迫る聖堂の屋上祭壇を見上げる。

 俺は間に合ったか?ティダは大神官からハルを助け出せただろうか。


 ドン ドンッ


 パニックを起こした砂漠竜は、そのまま頭から聖堂に突っ込んでいった。

 聖堂の上部にヒビが入り、小さな石の破片がパラパラと落ちてくる。


 激しい頭突きに脳震盪を起こした砂漠竜は、一瞬動きを止めた。

 オアシスの村人たちは、家々から松明を抱え、武器を手に怒声を上げながら砂漠竜に群がる。


「みんな恐れるな!

 この砂漠竜は神でも悪魔でもない、砂漠に住む、ただの獰猛なモンスターだ。

 我々人間の方が強いということを、この怪物に教えてやろう!!」


 村人を先導しているのは、銀朱の兄、反大神官派の神官 退紅だった。


 建物の上から、女子供が焼けた石や高温の油を竜に投げつける。

 クワやシャベルの様な農具を武器にしたオアシスの男たちが、自警団に交じって砂漠竜を攻撃していた。

 砂漠竜は潜って逃げようと地面に爪を立てるが、硬い石畳の大広間では、砂の中に逃げ込むことが出来ない。


「この大広場は、砂漠竜を三枚に下ろす、まな板なんだよ。」


 広い砂漠の中で砂漠竜を封じ込めることが出来るのは、オアシス聖堂前の大広場しかなかった。

 

臙火えんか、竜の額にある珠を槍で突いてえぐりとれ。竜胆りんどうは首を狙え。」


 SENの鋭い指示が飛ぶ。


 小柄な臙火えんかは、竜の頭部に駆けあがり、渾身の力を籠め半鎌槍を竜の額に突き立てる。

 やっと出番の来た半巨人の竜胆は、嬉々として大剣を振るい、その剛力で硬い竜の鱗を砕いて傷を付け、村人に混り、神官の退紅が馬鹿でかい粗末な槍を砂漠竜に突き立てている姿が、SENの目に留まった。

 

「退紅、神官にしては力があるようだ。こいつを使いこなせるか?」


 退紅の前で、神科学種は小さなカバンから巨大な武器を引きずり出した。

 それはSENすら持ち上げるのがやっとの、竜狩りに特化して作られた武器(ハルの地下鍾乳洞ダンジョン報酬、激レア品)。

 2メートル超える刃先を持つ『ドラゴンスレイヤーアックス(龍殺しの斧)』だった。


「SEN様、こ、これは竜と対抗することのできる最強の武器、ドラゴンスレイヤー!!

 確かに、コレなら砂漠竜にトドメをさすこともできます」


 背丈のある退紅は、その優男風な顔立ちから想像できない腕力で、巨大斧を軽々と持ち上げた。

 そして、竜の首めがけ振り下ろされた一撃は、堅い鱗ごと肉を絶ち、砂漠竜に最大のダメージを与える。



 ***



 砂漠竜は神殿に這い登ろうと壁に縋り付くが、壁画の色タイルはツルツルと滑り爪を立てることが出来ない。

 

 ドンッ ドンッ


 人間からの攻撃を受け、逃げることもできず、苛立ちまぎれに何度も白い建物に体当たりする。

 その衝撃で、ハル達のいる神殿屋上の、碁盤の目の様に並べられた石床が端から崩れ始める。


 ハルの体が、フワリと浮くと足元の床が消えた。

 ガラガラと轟音をたて崩れる石に足を取られないように、腰に巻に巻きつけられた細い鎖を命綱にして必死にしがみ付く。


 なんか、こんなパズルあったよね、夢の中で羊男が、階段から落ちて潰れるゲーム。

 アレ、4面までしかたどり着けなくて、全クリできなかったな。アハハッ


「ハルちゃんしっかりしろ!!手を伸ばして俺に掴まれ。」


 間一髪で供物台に飛び移ったティダは、細い鎖を掴み、意識を飛ばしかけたハルの体を台の上に引き上げる。

 その時、ハルの視界の隅に、祭壇端まで吹き飛ばされた大神官が……

 

「ティダ、あれは「見るな、もう間に合わない。」つっ!!」


 ティダはハルの頭を抱え込み、眼を塞いだ。




 祭 壇 は 前 半 分 が 崩 れ 落 ち た。




 暴れる砂漠竜の鼻先に、いつものように神殿の上から餌が投げ込まれる。


「人が落ちて来たぞ、まさか生贄を捧げたのか!」

「まて……ありゃ大神官じゃないか。」

「顔が潰れてるけど、あの服は見覚えがある、確かに大神官だ。」


 丸二日間、休む間もなく追い立てられ腹を空かせた砂漠竜は、落ちてきた丸々と太った男を頭から噛み砕いた。


「え、まさか、砂漠竜のヤツ、アアアァァアア?」

「うわぁぁ、大神官が喰われちまった!!」


 オアシスの人々を苦しめた諸悪の元凶は、あっけなく最期を迎えた。

 辺りは一瞬にして静まり返り、砂漠竜の咀嚼する生々しい音だけが響いた。

やっとここまでたどり着きました。討伐作戦残りわずか、頑張ります。



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