表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
オアシス編
17/148

クエスト15 蒼珠砂竜討伐作戦3

※偽りのエロ展開 注意(笑

 何だろう、遠くからカチンカチンと金属同士ぶつかり合う音や、大勢で怒鳴り合う声が聞こえる。

 窓を閉め忘れたかな?隙間風が吹いて肌寒い。

 毛布、毛布、あれ、無い?


「へーくちゅ。さ、さぶーーっ、あれココは何処?」


 長い黒髪に顔を包帯で覆い、白い小袖に緋袴姿で生贄の少女に化けたハルは、夜明け前の冷たい風が肌を刺す神殿屋上の祭壇で目覚めた。

 強制セーブ(就寝)モードに入り意識の無い間に、部屋から連れ出され供物台に寝かされていたのだ。


 体に違和感を感じ腕を見ると、両手は太い縄で幾重にきつく括られていた。腰には太い皮のバンドが巻かれ細い鎖で繋がれている。

 脚を拘束されてないので、起きて動き回ることはできそうだ。


 それにしても、生贄儀式は昼に始める予定のはず。こんなに早く部屋から連れ出されたということは、計画がバレタのか?


 ハルが体を起こすと、祭壇に繋がれ石床でとぐろを巻いた銀色の細い鎖が、ジャラジャラ金属音を響かせる。

 床の所々にこびり付いた赤黒い染みは、この場所で命を散らした少女達のモノだと想像できた。石床の隙間には黒い小さな虫が蠢いている。


 供物台の上に立ち、その眼下に広がる景色に目をやると、夜明け前の暗い砂漠の彼方に、小さな花火と砂埃が見える。


 ドン ドーン ドーン


 砂漠竜を追い立てる火の花が光り、少し遅れて破裂音が聞こえる。あと1時間もしないうちに、神殿大広場に砂漠竜は誘い込まれるだろう。果して生贄儀式前に、砂漠竜を狩ることができるだろうか?


 ハルは供物台から降りて、祭壇前に祭られた黒い漆塗りの長い筒と、並べられた赤い矢を手に取った。


「筒の中に何か入っているみたいだけど調べてる時間は無いな。これは神事の破魔矢みたいだ。」


 武器に使えそうな赤い矢を、1本だけ盗って袂に隠す。


 とにかく、手首の縄だけでも切って腕の自由を取り戻さなくては。

 ハルは顔を覆う包帯をほどくと、手首の縄を口元に持ってきてマウスピースで噛みつく。しかし、幾重にも硬く結わえられた縄は、焦ってなかなかうまく切れない。


 作業に専念していると、ふと、神殿の下から聞き覚えのある怒鳴り合う声が聞こえてくる。

 慌てて鎖を引きずり祭壇端まで身を乗り出して下を覗き込むと、数人の神官相手に囲まれ戦っている人物がいる。


「テ、ティダがどうしてココに居るの?」


 その時、祭壇を出入りする唯一の石の扉が開かれ、大神官と骸骨の様に痩せ細った執行神官が姿を見せた。



 ***



 ティダは、夜の砂漠を駆けオアシスの村に入る。そこにはすでに行く手を阻む神官達が待ち構えていた。

 神科学種は信仰する女神の使徒。そんな彼らと戦うことを命じられ戸惑う神官と、高レベルの狂戦士エルフでは、結果は最初から判っていた。

 五分も経たずに、足元で呻き声を上げながら倒れる神官をティダが見下ろす。


「ちっ、加減しながら戦うって面倒くさいわぁ。

 大人しく伸されてくれれば見逃してあげる、あんな大神官に義理立することないでしょ」


 村の中で数回の戦闘を繰り返し、聖堂裏口までたどり着くと、見るからに毛色の違う十数人の武装神官が中から現れる。


「これは兄ちゃんか姉ちゃんか判らないが、かなりの上玉だ。

 ちぃと痛めつけて、可愛く啼かせてやろうぜ。」


 長い銀髪に天女のような美しい姿の獲物を見つけると、男たちは下卑た笑いを受けべながら取り囲む。


「お前らニセ神官か?随分と俗世にまみれた狂悪顔だな。

 お姉さまは今忙しくて、馬鹿を相手してる暇ないのよ。

 全員まとめて相手してあげるから、さっさと掛かっておいで!!」


 ティダの挑発に、男達はみるみる怒りで顔を赤く染め、悪鬼のように歯をむき出し唸り声をあげる。

 普段、無抵抗な村人たちを嬲っているせいか、まったく隙だらけの体勢で棍棒を振りかざし殴り掛かってきた。 


 ティダは両手に黒塗りの木刀を握り、腰をかがめ低く構える。

 武装神官達に戦術などない、数で一斉に襲い掛かり相手を殴り殺すだけだ。


「地面に這いつくばって、これまでの悪行を悔いるといいわ。

 逝け、如来双腕 風巻突」


 獲物のエルフが目の前で掻き消えたように見え、視線を彷徨わせたわずかな隙に、男たちの腹の下に数十打、風の刃を纏った木刀が打ちこまれた。

 鉄の防具を突き裂き、肉を砕き腱を絶つ。腰から下を血まみれにして、獣のように悲鳴をあげ倒れる。

 運よく攻撃を逃れた武装神官も、次の瞬間、武器を持つ右手の肩を砕かれ、その場で気を失う。

 

 その時、神殿屋上の祭壇から、生贄儀式の開始を伝える五色煙が立ち上るのが見えた。

 仲間を見捨て逃げ出す神官たちは放っておき、ティダは神殿裏口から中の狭い階段を、最上階めざし駆け昇る。



 ***



 ガジガジ ブチッ ガジガジ ケホケホ 


 この状況では、腕が自由にならないと抵抗することもできない。焚かれた香の煙に咳き込みながらも、僕は必死で縄をかじる。


「神科学種の治癒が効いたのか、顔の傷も治っているな。

 おおっ、お前のその姿は、女神ミゾノゾミそのものではないか。」


 顔を覆う包帯は、必死で縄をかじっている間に解けてしまった。しかし、銀朱の顔を覚えてない大神官は、ハルを偽物と気付いていない。

 大神官はニヤニヤと薄笑を赤ら顔に浮かべ、ベロりと卑猥に舌舐めずりながら、近寄ってくる。

 と、とても嫌な予感がする、もしかして絶体絶命!!


「生贄儀式の前に砂漠竜さまを狩ろうなどと、浅はかな考えをするものだ。

 神の化身に危害を加えるとは、なんという罰当たりな連中だ。その罪はお前の躰で償ってもらうぞ。」


 大神官から逃れようと、腰の鎖を引きずりながら供物台の後ろに回り込むが、血の様に赤い服を着た痩せた神官に背後から取り押さえられる。


 ガシガシガシ ガシガシガシ


 とにかく、この縄を切ることが先決だ。

 骸骨顔の神官に顔を覗き込まれても、縄を噛み続けることはやめない。


「これはこれは、大神官様のおっしゃる通り、ミゾノゾミ女神と瓜二つですな。

 それに、ウヒヒヒヒ、幼い顔のワリに胸は一人前に大きく育っているようです。」


 えっと、おっさん、鼻息荒く後から廻した手で、胸に入れた「おにぎりの実」をモミモミしてますが……

 ええいっ!ここは時間稼ぎのチャンスだ、覚悟を決めて上手くごまかそう。


「んっんっ、いやぁっ、あぁ(おにぎりが潰れるから)そんなに強く揉まないでっ。」


 裏声を使い舌足らずな感じで、少ない知識を総動員して、感じて喘ぎまくりAV女優になり切って演じますよ!!

 うわぁ~、骸骨神官が下半身を密着させてきたり、大神官が目をギラつかせながら近寄ってくるのが、キ、キモイ。


 手首を縛る縄は残り二本。ずっと噛み続けているので、顎も疲れて涎が、あっ、汗が目に入った。


「うっうっ(ガジガジ)ふぅ、やぁぁん(ガジガジ)くうっ」


 背後から神官に捕らえられ、痩せた男の掌で胸をまさぐられている少女は、羞恥で顔を赤く染め、薄く開いた口から透明な滴が伝い、うっすら額から汗が浮かぶ(風に見える)。


「ハァハァ、おや、もう感じているのかい。見かけより淫乱で、はしたない娘だ。」


「もうやめて(ガジガジ)放して(ブチ、ブチンッ)

 はぁはぁ、やったぁ切れた!!ガブーーーリッ」


 その瞬間、ハルの「おにぎりの実」を撫でまわしていた、骸骨のような神官の筋張った腕に思いきり噛みつく。

 毒蛇マウスピースの犬歯が、男の腕に深く喰いこみ離れない。

 そこから麻痺毒が回って、全身の皮膚がみるみるうちに紫色に変色してゆく。

 生贄の少女を嬲っていた執行神官は、突然口から泡を吐くと、意味不明な言葉を口走り、手足を痙攣させながらその場に倒れた。


 その様子に大神官は慌てた。娘が抵抗して噛みついたように見えたが、隠し持っていた毒で神官を攻撃したのだろう。

 動かせない様に拘束していた手首の縄も引きちぎっている。

 自分たちが騙されていたことに気付くと、よろよろと重い体を杖で支えながら少女に近づく。


 怒りに顔を歪ませながら迫る大神官を、ハルは供物台をヒラリと乗り越えてかわすことが出来た。

 マトモに歩くこともできない大神官相手なら、助けが来るまで逃げきれそうだ。そんな淡い期待をしてしまった。


 大神官は祭壇前にドカリと胡坐をかいて座り込むと、細い鎖を手に取る。そして凄まじい力で、ハルの腰に括りつけられた鎖を手繰り寄せる。 


「一度躾けてやったのに、まだ私に逆らうとは往生際の悪い娘だ。

 簡単に殺すのはつまらん、そうだ、砂漠竜様が食事しやすい様に八つ裂きにしよう」


 ハルは足を踏ん張って堪えるが、大神官の力には逆らえず、釣り上げられる魚の様にずるずると体が引き戻される。

 それでも、どうにかして相手から逃れようと鎖を引き抵抗すると、大神官の巨体が宙を浮き、まるで蛙が飛びつくようにハルの上に圧し掛かってきた。


「ぁぁつ、ーーぐっ!!」

 

 ハルは、体の上に降ってきた肉の塊に押しつぶされ、石の床に叩き付けられる。胸を圧迫され悲鳴を上げることすら出来ない。

 大神官は細い鎖を生贄の首に巻きつけ、ギリギリと締め付ける。


「ほう、苦痛にゆがむ顔も美しいな。コレは楽しめそうだ。」


 首にかかる鎖を緩めようと手を伸ばすが、血の気は失せ、全く力が入らない。

 気が遠くなる、今度こそ、本当にヤバいかも……



 ***



「どけ、この腐れ神官、汚いブツおっ立てて興奮してんじゃねえよ!!」


 聞き慣れたアルトの声がして、体にのしかかる重みが消える。

 ハルが顔を上げると、狂戦士のエルフが大神官の薄い髪をわし掴み、片手で巨大な肉の塊を軽々と持ち上げている。そして汚物を捨てるように、大神官を後ろに放り投げた。


「ハルち…生贄のお嬢ちゃん、間に合ってよかった。すぐ逃がしてあげるからね」

 

 なんとかマトモな呼吸を確保したハルを助け、ティダは細い鎖を壊そうと鈍器を叩き付ける。


「スパイを潜り込ませておいて正解だったな。やはり神科学種が一枚噛んでいたか」


 大神官はゆっくり体を起こし、小さく口笛を吹いた。そこら中からカサカサと蠢く音がして、石の隙間から無数の黒い蜘蛛が湧き出してくる。


「ティダさん、大神官が何か術を使っています。気を付けてください!」


 呼び寄せられた蜘蛛たちは大神官の体を這い上がり、神職を示す白い衣は、黒蜘蛛の体と吐出す糸で覆われ黒衣に変化した。

 蜘蛛を纏い、一回り大きくなった大神官の体から、黒蜘蛛の足が八本生えている。


「魔物を手足の様に使役し、乙女を生贄に差し出すなんて、お前こそ邪教の神官だな。」


「私の信じるモノは、金と色と服従だ。

 いくら熱心に女神を信仰したところで、空から金や女が降ってくる訳ないだろ。

 ならば女神を利用して、自分の欲しいものを手に入れれば良い」


 大神官の頭と巨大な黒蜘蛛の体、長い蜘蛛の足で祭壇を這い回る姿は、もはや人間と呼べる代物ではない。ハルを背後にかばいながらも、ティダは楽しそうに呟いた。


「それは好都合だ、人の皮を被った怪物なら、俺も手加減なしで殺ることができる」




◆◆◆◆




 砂漠の彼方にオアシスを照らす『神の燐火』が見えてきた。


 砂漠竜の次の出現ポイントに先回りするため、自警団の指揮を任された竜胆は、黙りこみ口を開かないSENに問いかける。


「スパイを見抜けなかったのは仕方ないとしても、あんたたち神科学種が揉めていると、他の連中も不安がる。いったい何があったんだ。」


 ハルが生贄の身代わりになっている事は、竜胆と自警団には知らせていない。だが、ティダが討伐隊を抜けた理由を説明する必要があった。


「生贄の少女に食事を差し入れようとして、ハルが大神官に捕まったらしい。

 それでティダがハルを助けるため、先にオアシスに戻ったんだ。」


「なにぃ、ハルが大神官に捕まっただと!!どうしてそれを俺たちに言わない。」


 この討伐作戦に加わらない、部外者のハルの事だ。彼らに話したところで、ティダ頼みで事態はどうすることもできない。

 しかしSENの思惑に反して、自警団や神官達から驚きの声が上がる。


「ハルは俺達のために、砂漠の洞窟から重い水を1日かけて運んできてくれるのに。」

「そうだ、俺がスープのおかわりを頼んだとき多めに入れてくれた。」

「俺なんか、ハル様の食べる肉を分けもらったんだぞ。」

「あんな可愛い顔していたら、大神官に ピーー や ピーー されちまう!!」


 ハルの心配と大神官を罵倒する声、皆が口々に騒ぎだし、辺りは騒然とした雰囲気に包まれる。

 その事態を収拾したのは、竜胆の一喝だった。


「いいか、俺たちにできる事は、砂漠竜の尻を叩いて一刻も早くオアシスを目指すことだ!!

 次の出現ポイントで、残りの花火も全部使い切り勝負をかける。」


「美味い飯を食わせてもらった恩を忘れるなよ。

 自警団は全員攻撃参加、オアシスまで一気に砂漠竜を攻め続けるぞ。」


「神官達も覚悟決めろよ!ついてこれない奴は置いてくからな。」


「「「「おおおーーーっ」」」」


 地響きのような討伐隊の掛け声に、SENの方が驚いた。

 いつの間に、自警団と神官全員ハルに餌付けされていたのだ。


 そうして勢いづく討伐隊に嗾けられ、パニックを起こした砂漠竜は、夜明け前にはオアシス寸前まで追い込まれていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ