表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
オアシス編
16/148

クエスト14 生贄巫女と入れ替わろう

 ガリガリに痩せた神官達は、恐ろしいほどの食欲で、砂漠に残る精鋭部隊の食事まで平らげていた。ハルは大慌てで追加料理を作ることになり、調理手伝いに追われ、気が付くと外は真っ暗だ。

 生贄の儀式は明日の正午、夜のうちに生贄の少女と入れ替わるため、ハルは闇にまぎれ、人目を避けながら聖堂に向かう。





 砂漠の夜、オアシスの村と聖堂は『神の燐火』により光り輝いている。


 その神殿の最上部の小さな部屋に、生贄の少女 銀朱ぎんしゅが閉じ込められていた。

 部屋の鉄格子を嵌められた唯一の窓からは、砂漠に浮かぶ月と村々の灯りが見える。


 捕らわれの身でありながら、彼女の口元には笑みが浮かび、不思議と楽しげだった。

 オアシスでの悲惨な日々に、神の存在を疑いかけた私に、女神さまは慈悲の御手を差し出してくださった。

 砂漠竜の餌食になる運命の私を救うため、義兄と『アノ方』がココにやってくる。


 部屋の外が騒がしくなり、言い争う様な声が聞こえてきた。

 鉄の扉が叩かれ、見張りの神官が扉を開けると、義兄 退紅あらぞめの姿と、その後ろにはボロボロのシャツを着た少年が大きな鍋を抱えて立っている。


「ちょっと待て、中に入れるのは家族だけだ、勝手なことするな。」


「頼むよ、妹に最後の食事ぐらい腹いっぱい食わせてやりたいんだ。」


 見張りの神官と退紅あらぞめの言い合いを黙って見ていた少年は、大きな鍋を抱え直す。

 重そうな鍋の蓋がずれて、中身の、油の乗った柔らかそうな肉が覗き、香ばしい匂いが辺りに漂った。


 オアシスの村人同様、見張りの神官も食べ物に飢えている。

 鍋の中身に目が離せずゴクリと喉を鳴らす、それ見て少年は鍋の中に手を突っ込むと、大きな骨付き肉を選んで差し出す。

 神官は黙ってソレを受け取ると、二人に背を向け廊下の端まで離れていった。


 退紅あらぞめの後からスルリと部屋に入り込んだ少年に、少女は嬉しそうに抱きついてきた。


「お待ちしておりました女神さま。

 ああ、私の身代わりを女神さまにお願いするなんて、とても心苦しいです。」


「えっと銀朱ぎんしゅさん、僕は女神様じゃないからね。

 時間が無いから、早く服を交換しよう。」


 自分の目の前で、なんの躊躇いもなく、白い小袖(白衣)に緋袴を脱ぎだした少女に、慌てて背を向けた。ハルは変装用の粗末な上着とズボンを脱ぐと、彼女を見ないように後ろ手で服を手渡す。


「ハァハァ 女神さま、私にお召替えの手伝いをさせて下さい。」


 なんだ、なんだ!

 彼女は出会った時から、やたらと僕にスキンシップを仕掛けるんですけど。

 ナマ着替えを見ないように後ろを向いていたのに、彼女は正面に回り込むと体を密着させてくる。

 僕は本能的に後ずさって、布面積の少ない下着姿の少女に壁際に追い込まれていた


「この巫女服は形状記憶で、袖を通せば勝手に着れるから大丈夫です!!

 ま、待って、ノーブラ紐パン姿で急接近しされると~~~」


「ハル様、すぐ引き離します。

 妹はミゾノゾミ女神の熱狂的信者でして、ハル様の御姿に血迷っているだけです。」


 二人の間に分け入り、妹を押し戻す兄に チッ と舌打ちをした。

 ええっ、妹のために大神官裏切ってゲリラ活動している兄に対してそれってヒドイ。


 できるだけ彼女と視線を合わせないように大急ぎで巫女服に着替え、黒髪のストレートロングのウィッグを頭にかぶる。

 部屋に置かれた小さな鏡を覗き込むと、女神ミゾノゾミそっくりの僕が映っている。

 銀朱ぎんしゅは、鼻息荒くウットリと舐めるような視線でMIKOさまを食い入る様に見つめている。


 これは……彼女に一度チュウしちゃったし。

 僕が女神さまではないと知ったら、逆に怖いことになりそうだ。


 ハルは、なんとか気持ちを奮い立たせ、護身用にティダからもらった「毒蛇マウスピース」を口にはめる。

 このアイテムはどんな縄でも噛み切ることが出来て、麻痺毒も含んでるそうだ。

 顔は、怪我を理由に包帯でぐるぐる巻きにして隠すので、中身が入れ替わってもばれない筈だ。仕上げにおにぎりの実を2個、ふところに入れて胸の膨らみを作る。


「私が大神官と会ったのは、あの日一度きりです。

 あの男は、生贄の顔なんて覚えてないと思います。

 だから女神さまのお顔を見られても、別人だと気付かれませんよ。」


「うん、それなら大丈夫かな。

 生贄儀式を行う前に、砂漠竜はSENさん達に退治されるはずだし。」


 一緒に部屋の残ると言い出した銀朱ぎんしゅを、兄の退紅あらぞめは無理やり引きずって連れ出した。


 彼女と入れ替わり部屋に残ったハルは、ホッと気を抜いたせいか急に眠気が襲ってきた。

 そういえば今日はとても早起きして、一日中動き回り、セーブする時間もなかった。

 意識が薄れる。

 強制セーブ(就寝)モードに切り替わる。



 ***



 普段は静かな夜の砂漠が、今夜は騒々しい気配で満ち溢れていた。


 月明りで照らされた砂漠竜の鱗が、みるみる蒼紫色に変色し、魔力マナの高まりが感じ取れる。全身から青い炎を立ち上らせた砂漠竜は、首を起こすと一声嘶き、巨大な蒼い炎のブレスを狩人達に吹き付ける。


「一班は防御魔法、二班魔力強化魔法、三班は氷属性加護魔法。

 恐れるな、魔炎なら弾き返せる。」


「倒れてもお姉さまがキッスで蘇生してアゲル、思いっきり戦ってきなさい。」


 自警団と神官の混合隊は、各得意技ごとに班分けされ、SENの指示によるフォーメーションで砂漠竜に挑む。


 戦闘を有利に進めるため、聖堂の秘儀と隠されている『治癒魔法』を神官たちに伝授した。また大きな怪我を負っても、天女の様に美しい神科学種の接吻で一瞬のうちに完治してしまう。

(ちなみに、ティダの中の人がオッサンという事実は ヒ ミ ツ。)


 そうして、わずか1日で彼らは死も恐れぬ戦闘集団に化けていた。


 砂漠竜の炎のブレスは大きな壁に阻まれるように弾き返され、そこから黒衣の男が片鎌槍を抱え突進してくる。

 竜にとって、人間は弱い小動物であったはずが、今やコノ生き物は恐怖の対象でしかなかった。


「竜の首の下に潜り込め!

 憤怒状態で赤い線の浮き出る場所に、竜血の大動脈が流れている。」


 オアシス自警団 一番手 臙火えんかは、敏捷な動きで砂漠竜の首下に滑り込むと、SENの指示通り赤く浮き出た動脈に槍を突き刺す。

 神科学種から授かった武器は信じられないほどの切れ味で、深々と竜の肉を突き破る。

 それならと、臙火えんかは柄を捻り、片鎌の刃を血管に押し込み切り口を広げた。


 プシュン

 竜の血が雨の様に吹き出し、砂漠の砂が一面赤く染まる。

 臙火えんかは全身返り血を浴びた姿で、転がりながら砂漠竜の下を這い出てきた。


「一度の指示で、砂漠竜の動脈を傷つける事が出来るとは大した奴だ。

 俺より上手く竜を狩れるかもしれないぞ。」


 感心した様にSENが呟くと、隣で腕組みして観戦?している半巨人の竜胆りんどうが不平をもらす。


「ああっ畜生、楽しそうに狩っていやがる。なぁSEN、俺の出番はまだか?」


「砂漠の民に竜の狩り方を教えているんだから、王子はオアシスに入るまで我慢してくれ。聖堂前広場でたっぷり暴れてもらうよ」



 ***



大量の血を失った砂漠竜は動きが鈍くなり、のろのろと移動し始めた。

自警団は竜を追うのを止め、全員の無事を確認するために点呼を取らせる。


「神科学種さま、この調子なら昼前には、砂漠竜をオアシスに追い込むことが出来ますね」


「ああ、さっさと竜を狩り、そのまま大神官も捕らえてしまえばクエスト終了だ」


 SENは、整列した自警団達を見まわして、さっきまで目立って動き回っていた一人が居ない事に気付く。


臙火えんか、おまえの前で偉そうにしていた、デカい奴の姿が見えないぞ。」


 頭と顔についた血を布で拭っている臙火えんかも、そういえば と仲間の数を確認する。

 砂漠竜との激しい戦闘の最中やられたか、置き去りにしてしまったのか。

 だが、欲深そうな顔をした男が消えたコトに、SENの中で嫌な警戒音が鳴った。


 全員の点呼を取り終えた神官が、戸惑った口調で返事をしてきた。


「あいつなら、1時間前にSEN様の伝令を村に届けると言って出て行きました。」


「なんだと、俺はヤツにそんな伝令を頼んでない。

 まさか大神官のスパイが紛れ込んでいたか。」


 顔色を変え、怒声をあげるSENの異様な雰囲気に、周囲がざわめき出す。

 ティダが、ちょっとタンマ と声を掛けてSENを引きずる様に岩陰に連れてゆく。


「SENの旦那、何そんなに慌てるんだ、仲間の裏切りなんてクエストに付きものだろ。

 あんた自身、下剋上は得意中の得意じゃないか」


「ティダ、この討伐作戦に次はない、やり直しは許されない。

 ゲームオーバーもリセットも存在しないんだ」


 こんなにテンパったSENを初めて見る。

 そうだ、ゲームクエストは決まったプログラムの繰り返しのはず。

 これはまるでリアルの様な、想定外のバグでは無く、意図的に、しかも悪意を持って変えられたシナリオだ。


「ティダ、計画を変更する。今ここで砂漠竜を俺たちで仕留める。

 生贄の儀式も、大神官も、全部俺が片付ける」


「はぁ、ここまで来て計画変更なんて、何考えてんだ!

 砂漠の民が、自分たちで砂漠竜を倒せないなら、同じことの繰り返しだろ」


 ティダは怒鳴り返しながら、SENの襟首を鷲掴み、その顔を覗き込む。

 睨み返された瞳に渦巻く色に見覚えがある。

 リアルで、受験や学校や部活動や、たまに恋愛で、切羽詰まり追い込まれている生徒こども達と同じ眼だ。


「旦那、何か俺たちに隠していることがあるんだろ。

 (ここから野郎のダミ声)コレが片付いたら全部ゲロってもらうからな。」


 様子を見に来た竜胆に、スパイが紛れ込んでいた話と自警団の指揮を頼む。

 作戦は中止できない、SENにも頭を冷やしてもらう必要がある。


「脚の短い人間や、ノロい半巨人じゃ、村に着く前に生贄の儀式が終わっちゃう。

 これはお姉さまの出番ね、可愛い生贄の姫を助けに行きますか」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ