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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
オアシス編
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クエスト13 蒼珠砂竜討伐作戦2

天気雨さんの、感想リク「片鎌槍」使ってみました。


 オアシスの村はずれにある白い石造りの宿屋は、自警団の宿泊所になっている。

 その自警団は、砂漠竜を捕らえるために全員出かけ、宿の留守を守るのは女主人と2匹の番犬だ。


 砂漠の果てから現れたモンスターの群れはオアシスを目指していた。

 人間の子供サイズで全身黒く短い毛に覆われ、腰布を纏ったゴブリンは、砂漠に足を取られることもなく統制のとれた動きで、静かに音も立てず宿屋の近くまで迫る。


 宿の厨房で料理中の黄檗きはだは、大量のカピバラ肉を炙り鍋に水をくべる。

 2匹の犬がモンスターの気配にうるさいほど吠えても、全く気にせず動き回っていた。


 風に乗って美味しそうな肉の焼ける香ばしい匂いが漂い、ゴクリと喉を鳴らし涎を垂らすゴブリン達。


 宿の勝手口の扉は不用心に開け放たれたままだ。


 先頭の一匹が奇声をあげて駆け出す、他のゴブリン達も石斧や木の棒を振り回しながら一斉に宿屋へ殺到する。


 惨劇の幕開け、のように思われた。


 しかし、先頭のゴブリンが、何もない平坦な砂の上でつまずき派手に転んだ。

 慌てて体を起こそうと地面に手を付くと、その手首に地面から伸びたツルが絡まり、引き抜こうと掴むと更に数本のツルに捕らわれる。


 それは、早朝ハル達が宿屋の周りに植えた『地底世界樹の捕食根・・・』。


 ゴブリンは木の根に捕らわれ、ズブズブとアリジゴクの様に砂の中に引きずり込まれた。

 最後は腕の太さほどのある根が首に巻きつき、鈍い音をたててへし折ると、砂の中に埋もれて姿が見えなくなる。


 他のゴブリン達は、肉の焼ける匂いにつられ、目の前の仲間が消えたコトなど気にもしなかった。

 地面から伸びる捕食根に次々と絡め取られ、砂の中に引きずり込まれる。


 結局、宿屋までたどり着いたゴブリンは一匹もいなかった。



 ***



「魔法陣書くのに少し時間が掛かったね、黄檗さん、心配してるかな。」


「クンクン、どこかでお花が咲いているね。甘~いイイ香りがするよ。」


 正午過ぎ、予定より少し遅れて、地下鍾乳洞ダンジョンからオアシスはずれの宿屋に帰ってきた3人が見たものは……


「なんだこりゃ、俺たちが居ない間に何があったんだ!!」


 宿の周囲を取り囲むように、桃色の花が満開に咲き誇っていた。

 地底世界樹の苗木が大きく育ち、まるで桜のような花びらが風に舞っている。


 その木の根元には、薄汚れた腰布や木の棒、石斧が大量に転がっていた。


「これ、もしかしてゴブリン、血の色が花び「ハル、黙ってろ」ヒッ。」


 絵の様に美しい景色の中、舞い散る花びらを追いかけて、萌黄がはしゃいでいる。


「俺はゴミ片づけをするから、ハルお前は黄檗きはだの手伝いをしていろ。」


「そ、そうだね……、ヨロシクお願いします。」


 青ざめた顔のハルと苦い顔の竜胆は、押し黙ったまま宿屋のドアを開けた。





 砂漠にはSENと数人の精鋭部隊が残り、ティダが残りの自警団と神官達を引き連れて宿屋に帰ってきた。


「ただいまぁ、ハルちゃん。砂漠で花見できるなんてロマンチックね、また何を仕掛けたの?」


 桃色の花を咲かせる木の周囲に立ち入らないように、竜胆の手により簡単な杭とロープで囲われていた。


「ティダさん、あの花は僕たちが植えた地底世界樹の苗木が、餌を食べて急成長して花を咲かせてるんです。」


 餌って?と訊ねるティダに、そばにいる萌黄に聞こえないように、ハルは声を潜めて耳打ちする。

 さすがのティダも、思わず唸ると青い顔をして口元を抑え、大慌てで髪に絡まったピンクの花びらを払い落とした。





 食堂のテーブルの上には大量の料理が並べられている。


 塩とハーブで味付けされた炙り肉に、川エビに川魚のから揚げ、半熟卵のリゾット風。

 漂う匂いにつられ食堂に入ってきた神官たちは、驚きの声を上げ、体格のよい自警団達を押しのけて料理にかぶりついた。


「お、美味しいっっ素晴らしい。これは、どんな魔法で取り寄せた料理だ!」


「なに言ってんだい、ちゃんとあたし達が作った料理だよ。」


「魚料理なんて、水が枯れてから何年も見たことないのに……う、うみゃいぃぃ。」


「あのね、この魚はね、萌黄とハルお兄ちゃんが水の中に入って捕まえたの。」


 感動の半泣き状態で食事をするのは、ティダにしごかれていた神官グループ。

 苦労した後のご褒美、料理が一段と美味く感じられるのだろう。


 退紅は、自分の目の前に置かれた、ちゃんと味付けされ具の入っているリゾットの皿を見つめる。

 砂漠で育つことのない米によく似た白い実の料理と、コップに注がれた冷たい水。

 自警団達の話では、神科学種だけが特別に入れる洞窟から、彼らは運んでくるそうだ。


 思いを巡らす退紅の隣の席に来た竜胆は、王族独特の右手をかざす合図をする。


「女神聖堂の警備神官 退紅、あんた、元は高位神官だったよな。」


「紺の竜胆殿下、俺に何の御用でしょう。」


 退紅は若くして高位神官の技を習得していたが、大神官に疎まれ警備神官まで地位を落とされていた。


「高位神官なら魔法陣に詳しいだろ、見てもらいたいモノがある。」


 竜胆は、無造作に薄汚れたローブをテーブルの上に広げる。


 そこには、つたない描線であるが丁寧に描かれた魔法陣がある。

 高位神官の眼には、魔法陣の描線をなぞるように力強く走る魔力マナが見て取れた。


「竜胆殿下、こ、この魔法陣は生きてますよ!

 まさか、魔法陣を生きたまま書き写せるなんて、誰がそんな神業を行ったのですか。」


「やっぱり、上位神官のお前でもそう思うか。

 コレを俺の目の前で書いたのは、ハルと萌黄だ。

 神殿で一番腕の良い石工に、この魔法陣を石板3枚に刻むように手配しろ。」


 竜胆の言葉に顔色を変えた退紅は、その場で目礼すると、食事も手を付けずローブを受け取り食堂を出て行った。



 ***



 夕日が白い砂漠を赤く染め、辺りは薄暗くなり、やがて満月の薄明かりが砂漠を照らす。昼間は太陽の光を嫌い逃げ回っていた夜行性の砂漠竜は、夜になるとその本性を露わにする。


 全身の白い鱗が興奮状態で青白く変わり、瞳は憤怒の赤で染まる。

 砂の中から地表に躍り出ると、獲物を求め、泳ぐように砂の上を這い回る。


「うろたえるな!土地の利を生かし、砂漠竜をさらに追い立てるんだ。」


 砂漠の地形が変わり、平坦な砂の平地から、元は岩山があったゴツゴツした巨石の転がる岩陰に身を潜め、奇襲攻撃を砂漠竜に加えながら、オアシスの村を目指す。


 岩の上に、黒袴姿の男が長い片鎌槍かたかまやりを手に身構えている。

 餌を見つけた砂漠竜は、長い体をバネの様に撓らせ跳ね上がると、岩上の男に襲い掛かった。


 SENは、自分の頭を喰いちぎろうと迫る砂漠竜の目前で体を沈めると、顎下目がけ、手にした片鎌槍を突き上げる。


 ぎちゅり 

 全身硬い鱗で覆われる砂漠竜の唯一の弱点が、下顎と鱗の狭い隙間だった。

 中の柔らかい肉に食い込む手ごたえを感じ、SENはさらに力を籠め槍を捩じりこみ、鎌の部分で傷口を広げる。


 砂漠竜はけたたましい悲鳴を上げ、頭を大きく振り廻し、腹を見せ地面に倒れる。

 隙をうかがい、岩陰に潜んでいた自警団が、倒れた砂漠竜の腹部に一斉攻撃を加える。


「切りかかっても鱗に弾かれるぞ、鱗の生え際に剣を突き立てろ!」


「傷つけるだけでいい、深追いはするな、素早く隠れるんだ。」


 砂漠竜は怒りで体を震わせ身を起こすと、前足の爪でハエでも払うように、目の前の黒衣の男を追いかけた。

 退路を長い体で防ぎ岩場に獲物を追い込むと、一噛みにしようと襲い掛かる。


「全員岩の隙間に隠れろ。今だ、花火を着火しろ!」


 SENの合図で、昼間仕掛けた倍の量の花火が、砂漠竜の目前で破裂する。

 その爆発と熱は、砂漠竜の巨体を痛めつけ、爆音と光が視覚と聴覚を奪う。


 SENの着る黒袴は「爆発耐久アイテム」で防護服のようなモノだ。

 熱と爆風の中、ひるむ砂漠竜の下顎に再び切りかかり、更に肉をえぐり傷口を広げる。

 さすがの砂漠竜も、たまらず身をひるがえし、驚くような速さで砂に潜ると逃げ出した。


「すげぇ、これなら俺たち、砂漠竜を倒せるかもしれない!」


 逃げる砂漠竜を岩陰から見ていた男たちは、歓声をあげる。


「なに悠長なこといってるんだ、ヤツは確実にオアシスで仕留める。」


 いつの間にか、戦闘と不似合の黒いスーツに着替えたSENが、自警団を見まわすと声を掛けた。


「ところで、この自警団の中で一番力のある奴は誰だ?

 そいつに、俺の服と武器をくれてやろう。」


 SENの連れてきた自警団メンバーに、竜胆の従者はいない。

 純粋に砂漠の民だけを連れて来ていた。

 彼らの力で砂漠竜を倒せるように、これから狩り方を仕込んでゆくのだ。


「うほほっ、はい、SEN様、俺であります。」


 SENより頭一つでかい、気性が荒く欲深そうな顔をした男が、他の仲間を威嚇するように前に出てきた。男の頭から足の先まで見渡すと、SENはニヤリと笑い頷く。


「では勇敢なお前に、この服と武器を与えよう。

 この片鎌槍なら固い竜の顎を貫くことができ、服は花火の爆発に耐える事が出来る。

 次のポイントでお前は最前線に立ち、俺が攻撃したように、砂漠竜に直接攻撃・・・・するんだ。」


「えっ……俺が……竜に……むりでしゅ。」


 SENは笑いを噛み殺し、冷静な口調で服と武器を差し出すが、怖気づいた男はぷるぷると首を振ると後ずさる。


 予想通りの展開に他の自警団を見渡すと、一人の小柄なスキンヘッドの青年に視線が集まっていた。


「この中で一番はあんたか、この武器を使いこなせるか?」


「そのようですね、神科学種様の御期待に応えられるよう頑張ります」


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