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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
魔獣グリフォン編
142/148

クエスト137 火炎薬珠牛狩り準備

お待たせしました、再開です。

 巨大魔獣のうろつく深い森の中にある『安全地帯』。

 その場所に住んでいたゴブリンは竜胆たちハーフ巨人に討伐され、『安全地帯』はロクジョウギルドのベースキャンプになった。

 そして今『安全地帯』には巨人王の御車を改装した豪華絢爛な御殿が建ち、王の影YUYUがバカンスを楽しんでいる。


「私たちが深い森に入って一日目にハルくんは怪しい偽女神と守護騎士を引き寄せ、次に硫黄温泉を引き寄せました。

 おかげで私のバカンスは、安全地帯に温泉を引き込む土木作業で潰れてしまいました」


 御殿最上階のバルコニーから地上を眺めていたYUYUの肩に、ふわりと薄いガウンが掛けられる。常に王の影に付き従う水浅葱は、主を優しく抱き上げながら声をかけた。


「お疲れですか、YUYUさま。

 YUYUさまが魔力を行使して天から氷山を落とし、その落下穴に温泉の湯を引き込む作業が完了しました。

 おにぎりの実の植樹は、残りの女官くのいちで行います。

 この後はのんびりと、御殿でバカンスをお過ごし下さい。

 それとも、森の奥で色々と騒動を起こしているハルさまの元へ行かれますか?」


 水浅葱の腕に抱えられたままバルコニーから室内に移動すると、そこにはハルの護衛を任せている女官くのいちたちが待機していた。

 

「ご報告いたします、王の影YUYUさま。

 竜胆さまとハルさまのグリフォン捕獲部隊は、安全地帯を出立して行軍一日目で子供グリフォンと遭遇しました。

 それから竜胆さまが子供グリフォンと一悶着起こしまして、部隊は一日目の野営地に留まることになりました」


 クノイチ檸檬に続いて、隣に並ぶクノイチが報告を続ける。


「三日目にティダさまが行軍の遅れを怒って竜胆さまを緊縛調教……えっと、諌めると部隊を二つに分け行軍を再開しました。

 現在竜胆さまとハルさまは、森の奥に留まり子供グリフォンを手懐けようとしています」


 長椅子の上に座りサイドテーブルに用意された紅茶をすすりながらクノイチの報告を聞いていたYUYUは、軽く手を振ると了解の合図をする。

 部屋に控えていたクノイチ娘たちは、軽く会釈すると素早く部屋から退出した。

 

「まさか行軍一日目で、覇王の象徴である魔獣グリフォンと遭遇するとは。

 これは竜胆と一緒にいるハルくんが引き寄せたのですね。

 その与えられた幸運をモノに出来るか出来ないか、竜胆の王としての資質が試されます。

 しかし今、私と神科学種の三人はバラバラでの行動を強いられ、その原因は怪しい聖女柘榴と守護騎士の存在にあるのです」

「YUYUさま、その事でティダさまからひとつ、重大な情報が届きました。

 霊峰神殿の偽法王アマザキは治癒魔法と蘇生魔法の術式を書き換えて、生贄を用いてわずかな魔力で魔法を行使できるようにしたそうです。

 魔力の代わりに生贄の血と命が必要な術式、その望みを叶えようと生け贄を捧げ術を行使する者も現れるでしょう」

 

 水浅葱からの報告に、王の影YUYUは眉を寄せた。

 ついこの前、生け贄がらみの似たような騒動があった。

 老化が進む巨人族王子が若返るために『汚れのない乙女』を生贄にしようとしたのだ。

 そして巨人族第三位王子 蘇鉄ソテツに狙われたのは、『汚れのない乙女』と勘違いされたハルだった。

 その企みはハル自身の祝福の力で防げたが、第三位王子ソテツの背後には霊峰神殿の息がかかるハーフエルフ王子紫苑の影があり、紫苑はまだ巨人王の座を狙っている。


「この地に現れた聖女柘榴と守護騎士は、ハクロ王都に降臨した女神を捜しています。

 ふたりは書き換えられ魔法で誰かを治癒蘇生させるために、生贄となる女神の憑代を探しているのでしょう。

 水浅葱、これでバカンスを終了します。

 ハクロ王都より騎獣ドラゴンを数頭呼び寄せなさい。

 ハルくんの所へ行きたいのは山々ですが、まず危険物除去が先です。

 この件はティダさんには知らせず、SENだけに報告して下さい」

「えっ、SENさまだけとは、どういう事ですか?」

「SENは私とよく諍いますが、ハルくんに関しては似たもの同士です。

 その訳は知りませんが、ハルくんに災いをもたらす相手なら、SENは何のためらいもないでしょう」


 その言葉に水浅葱の顔に緊張が走る。

 水浅葱はYUYUから空のカップを受け取ると、甘い香りのする紅茶を注いでゆっくりと手渡す。

 

「危険物除去でしたら、わざわざYUYUさまのお手を煩わせる必要はありません。

 どうか水浅葱に全てをお任せ下さい。そしてYUYUさまはハルさまの元でバカンスをお続け下さい」



 ***



 グリフォン捕獲部隊はグリフォンの寝ぐらであるタカカオ山を目指して、五日かけて行軍する予定だった。

 しかしそれは一頭の迷子グリフォンの出現により滅茶苦茶になる。

 部隊を率いる竜胆が、迷子グリフォンをかまっている間に行軍はストップ。

 仕方なくティダが部隊を率い強行軍でタカカオ山を目指すことになり、竜胆は迷子グリフォンを手懐けようと今も深い森の中に留まっていた。


「竜胆さま、この先の草地に火炎薬珠牛の群が確認できました。

 雄ボス一頭に雌三頭、子牛二頭の群です」

「ボス以外の雄がいないなら、思ったより楽に狩れそうだ。

 炎牛の雄の角は、ユニコーンの角に次ぐ幻の逸品。よし、標的は角を持つ火炎牛ボスだ。

 今のうちに腹ごなしをして、深夜、獲物が寝静まってから狩りを始める」


 仲間からの報告を聞きながら、竜胆は手にした骨付き肉固まりを上空に投げた。

 すると大きな羽音を響かせて巨大な影が横切り、迷子グリフォンが投げた肉を素早く咥えてひと飲みする。

 しかし巨体のグリフォンにはそれだけの肉では足りない。もっと食い物をよこせとねだり、幼い下手な鳴き声をあげた。


「昨日は狩りを休んでいるから、子供グリフォンは自分で獲物を狩れなくてお腹を空かしているね」


 竜胆は、群からはぐれた幼い迷子グリフォンに狩りを教えようとしている。


「ああ、それでいい。マイゴには炎牛の狩りを手伝ってもらう。

 腹を空かした方が、真剣に狩りに参加するだろう」


 ハーフ巨人戦士たちは上位巨大モンスター火炎薬珠牛の狩りの準備で忙しい。

 上空でうるさく鳴いていた迷子グリフォンも、これ以上肉がもらえないと分かると、どこかへ飛んでいった。

 力の弱いハルと臆病なウツギは野営キャンプに待機で、火炎薬珠牛狩りには参加できない。

 

「竜胆さん、僕を狩りに連れて行かないから料理は手抜きだよ。

 食事は肉の切れ端にあり合わせの野菜、冷や飯を炒めただけの焼飯だからね」

「おいハル、肉喰わねえと狩りに力がでない……と言いたいところだが、この焼き飯は旨いなぁ」

「ハルお兄ちゃん、ご飯の上に目玉焼きのせると半熟黄身が絡まって美味しいよ」


 ハルは手抜き料理したはずが、実はあり合わせのまかない料理の方が美味しいというお約束。

 そんな狩りに挑む前の晩餐の最中、突然嵐がやってきた。




 深い森の獣たちが、一斉に警戒音を発し安全な巣の中へ逃げ込む。

 空から圧倒的な気配を放つ、大きな魔力を有した何かが野営キャンプに向かって近づいてくる。

 竜胆は皿をテーブルの上に置くと無言で立ち上がり、同じように食事をしていた仲間たちも武器を手に取り周囲の木の影に身を隠す。

 ハルは慌てて焚き火の火を消すと、臆病者のウツギに引っ張られて岩の側に身を潜めた。

 まだ仄かに明るい夕焼け空に、五つの影が見える。


「あれは巨人飛行部隊のドラゴン、しかも王族の乗るヤツだ。

 となるとドラゴンに騎乗しているのは、まさか王の影か」


 巨大モンスターがたむろする深い森の上空を飛ぶのは、ファイヤードラゴンでも危険な行為だ。

 しかし最上位魔獣と同等の魔力持ち王の影YUYUなら、大抵のモンスターは逃げ出してしまう。

 そしてドラゴンに乗ってやってきた四枚羽のハイエルフは、野営キャンプのど真ん中に着陸すると、周囲をきょろきょろ見回して岩影に隠れたハルの姿を見つける。


「ああハルくんに会いたくて、私はこの寒空を全速力でドラゴンを飛ばしてきました。

 おや、クンクン、この周囲に漂う熱した油を香菜で風味付けして、ご飯と卵焼きが焦げたような香ばしい香りはなんですか?

 これは間違いありません、中華チャーハン。

 ハルくん、私はお腹が空きました。あんかけチャーハンが食べたいです!!」

「ええっ、YUYUさん。開口一番それっ!!」


 空から現れたの王の影YUYUは、下手したらモンスターよりやっかいだ。

 ハルに駆け寄って「ご飯を食べさせろ」とねだるYUYUに、竜胆は呆れた口調で声をかける。


「おい王の影、アンタなんでココに来たんだよ。

 アンタみたいな最高位魔獣レベルの魔力持ちがいたら、モンスターは気配を恐れて逃げ出しちまう。

 俺の火炎薬珠牛狩りを邪魔するつもりか?」

「竜胆はいつまで経っても旧巨人族住居跡に到着しないし、私も安全地帯でのバカンスに飽きてたので、ハルくんの手料理を食べに来ました。

 ふふっ、巨人王族でもシトメるのに苦労する火炎薬珠牛を狩るのですね。

 それでは竜胆の闘牛士っぷりを、しっかり観覧させてもらいましょう。

 ああ、私の気配なら大丈夫。魔力を閉じ込める、結界の施された駕篭を持ってきました。

 そこにいるウツギに私を駕篭を運ばせます」


 そしてクノイチたちがドラゴンの背に乗せた駕篭を降ろすと、ハルと一緒に岩影に隠れていたウツギを引きずり出し背中に駕篭を背負わせる。


「えっ、まさかウソだろ。

 YUYUさまを駕篭に乗せて、俺も炎牛狩りに参加しないといけないのなんて、怖いよぉ」

「ウツギさんが狩りに参加するなら僕も一緒に行くよ。

 まさか竜胆さん、僕だけ野営キャンプに置き去りなんてしないよね」


 ウツギは駕篭を背負ったまま震え上がり、ハルは便乗して狩りに参加すると言い出す。

 予想外の出来事で、狩りのお荷物が三人増えた竜胆は声を荒げ怒った。

 

「王の影、俺はアンタの目の前で炎牛を狩ってやる!!

 ハル、狩りに付いてくるなら自分の身は自分で守れよ。俺は助けねえからな」

 

 そう言って竜胆はきびすを返し、狩りの準備するハーフ巨人戦士たちの所へ行ってしまう。

 ハルはお腹が空いたと連呼してするYUYUのために、消した焚き木にもう一度火を起こし鍋のスープを温める。


「そういえばYUYUさん、いつも一緒の水浅葱さんが居ないけど、どうしたの?」

「水浅葱は別の用事で、SENの所に行かせました。

 私の世話はクノイチたちでも充分に出来ますから、水浅葱が居なくても大丈夫ですよ」


 王の影はハルと目を合わせずにそう言うと、温め直したスープをひと匙掬って飲んだ。

ブログに、これまでの「神科学種おまけ話」をまとめてみました。

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