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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
魔獣グリフォン編
139/148

クエスト134 子供グリフォンを手なずけよう

 タカカオ山のグリフォンの巣へ向かった先発隊から知らされた情報は予想外なものだった。

 山頂にあるグリフォンの巣は異界の魔物に汚染され、羽毛がグリフォンに寄生して大量発生している。


「その羽毛の化け物って、ティダが乗ってきた偽ペガサスの翼だよね」

「そうだよハルちゃん。きっとこれは霊峰神殿のアマザキと紫苑が仕組んだこと。

 偽ペガサスを量産するために、連中はグリフォンの巣に異界の魔物を放ったんだ」


 ティダの話では羽毛の化け物に意志はなく、寄生されている馬の方を調教すればいいという。そしてグリフォンに寄生した羽毛の化け物は数百羽いるという。

 ハルと一緒にティダの話を聞いていたキキョウは、困惑の声をあげた。

 

「まだ王位を諦めていない紫苑王子は、偽ペガサスの軍隊を率い王都を空から攻めるだろう。鬼仮面の青磁王子はそれを迎え撃つ事になる。

 そして鉄紺王は巨人王族同士の争いには一切手出ししない。

 これは紫苑王子の母親であるエルフ美姫が後宮を焼き払った時のような、大きな戦闘になるかもしれない」

「事態は急を要する、すぐに野営地を引き揚げて出立する。SENと巨人族遺跡大洞窟で合流するんだ。

 竜胆、さっさと準備しろ」

「……ちょっと待ってくれティダ。それならあの迷子も一緒に連れて行く」


 丸一日爆睡してティダに叩き起こされた竜胆は、スープカレーを食べながら三人の話を黙って聞いていた。

 焦るティダとは対照的に、竜胆は落ち着いたというか、ふてぶてしい態度で飲み干したスープの皿を置くとティダに声をかけた。


「竜胆、お前はあのグリフォンに散々コケにされたと聞いている。今はたった一匹のグリフォンにかまっている暇はない」

「そうさ、俺さまの獲物をかっさらって、一度痛い目見てもまだ懲りない悪ガキだ。

 ほら上を見ろ、次の獲物を横取りするつもりで俺が狩りを始めるのを待っている」


 ティダにそう答えると竜胆は獰猛な笑みを浮かべる。

 上空を旋回している子供グリフォンは、竜胆の姿を確認している様子だった。


「まったく呆れた、これではガキ同士の喧嘩じゃないか。

 それならお姉さまがグリフォンを調教してやってもイイが」

「ええっー、グリフォンはまだ子供なのに、ティダさんに調教されたらかわいそうだ!

 あの子、昨日は獲物を一匹も捕まえられなくて、とてもお腹を空かしているんだ。

 親や仲間とはぐれて、ひとりではマトモに狩りも出来ない。

 竜胆さんがグリフォンを何とかして、王さまやトド姫みたいに手なずけてよ」


 ティダの言葉を遮るように、ハルが口出ししてきた。

 ハルは竜胆に、昨日見た子供グリフォンの様子を話し始める。

 ティダの脳裏に危険信号が浮かぶ。皆にご馳走を食べさせることが大好きな料理オタクのハルは、お腹の空かせたグリフォンを見捨てらないハズだ。


「そうだな、いくら悪ガキのグリフォンでもティダに躾られたらかわいそうだ。

 ハルの言う通り、俺が何とかしてやる!!」


 寝起きが悪くてティダに縛られた竜胆は、子供グリフォンを同じ目に遭わせたくないと思ったのだろう。

 ミゾノゾミ女神の憑代が「子供グリフォンを手なずけろ」と竜胆に命じたそれは、新たに課せられたクエストだ。

 ティダは前も似たような経験していた。猫人族の島でハルと竜胆がクエストをクリアするまで、どんなにハルを連れて戻そうとしても動けなかったのだ。

 だめだ、大きな危機が迫っているのに、このクエストを回避できない。


「うう、また胃が痛くなりそうだ。

 それなら竜胆は、お姉さまの代わりに子供グリフォンを使役できるようにするんだな」

「ハーフ巨人戦士数人残して、あとはティダと共に巨人族遺跡を目指してくれ。

 俺さまは子供グリフォンを手なずけて、空から合流してやるぜ」


 あまりに脳天気な竜胆の返事に、ティダは考えを切り替える。

 どうせアレコレ心配したところで、竜胆とハルが勝手に動けば自分が予想を上回るとんでもない出来事が起こるのだ。

 そして自分やSENは、最悪の事態でも対応出来るように準備を整えるしかない。




 深い森のモンスターに詳しいキキョウは汚染された巣の状態を確認するため、ティダと共に行動することになった。

 子供グリフォンを気にしているハルは竜胆と一緒だ。そして、災いの元凶になるかもしれない三人を誰が引き受けるか。


「では打ち合わせ通り、昼前に野営地を出発する。

 聖女柘榴はお姉さまが引き受けよう。彼女は歩くのが遅いのでペガサスに同乗させる」

「まぁ、私が純血のエルフ族である天女さまとペガサスでご一緒できるなんて、ゆ、夢のようです」

「あっ、勘違いさせたようだね。

 貴女は足の悪いキキョウと一緒に、ペガサスに乗ってほしい」


 憧れの天女にお近づきになれると頬を赤く染め喜んだ聖女柘榴は、あからさまに肩をがっくりと落とした。

 そんな柘榴の様子を、浅黒い肌の守護騎士デイゴは離れた場所で眺めている。

 ティダは男の姿を一別すると、ティダは竜胆とキキョウに告げる。


「キキョウは柘榴と空から移動し、デイゴはお姉さまが監視する。

 竜胆は子供グリフォンをさっさと手懐けて、全員巨人族遺跡で合流するぞ」


 それから野営地は大急ぎで撤収される。


「おいウツギ、お前なんで荷物を片づけている?

 キキョウは偽ペガサスに乗るから、お前が背負う必要はないんだ。それよりもお前の抜群の視力で、あのクソガキを監視して俺に知らせろ」

「ええっ、俺がグリフォンを監視するんですかぁ!!

 竜胆さんと一緒にいたら怖い目にばかり会うのに、い、嫌だよぉ」


 キキョウについて行こうとして、竜胆に止められたウツギは半泣き状態だ。

 聖女柘榴がアタフタしてペガサスに乗るのを眺めていたハルは、芝の上に敷布に包まれて横たわる生き人形の少年に近づいた。

 小麦色の柔らかくウェーブした髪に閉じた長いまつげ。その姿は萌黄より幼く見える。


「この子はゲームの神科学種霊廟に仕える童子のNPCそっくりだ。魂は宿っていないのに、凄い量の魔力と祝福を蓄えている。

 巨大タコに紅い矢を射れなかったのは、先代法王の持つ祝福のせいだ」


 法皇の魂を持つ猫人族の島に住むクジラ青年も、膨大な祝福を宿していた。

 この世界の力の源である祝福は、悪しき行為を行うと減少すると言われている。

 しかし漁師のクジラ青年は海の獲物を狩り命を奪い、そしてハルも料理を作るたびに命を奪っているが、自分もクジラ青年も宿る祝福が減ることはない。

 また過去に悪しき行為を行ったと言われる先代法王の器にも、祝福が満ち溢れている。

 人によって善と悪は異なるのだ。

 祝福の力が枯渇したと口癖のように言う王の影YUYUは、何度も良心の呵責に囚われながら、それでも力を揮ってきたのだろう。

 だからハルは祝福の力が多いから善人とか、少ないと悪だとは考わない。

 

「この子、いつ起きるのかな?

 目を覚ましたら森の中にいて、ビックリするかもしれないね」


 ココ数日そばを離れていた萌黄が、ハルの背中にピッタリとくっついて興味津々で眠れる先代法王を眺めていた。

 もし子供が目を覚ますことがあれば、その魂は自分たちと同じく終焉世界に取り込まれたゲームプレイヤーのはずだ。

 ハルはポツリと呟く。


「萌黄ちゃん、この子は起こさない方がいいよ。ずっと寝かせてあげよう」




 それからグリフォン捕獲本隊はティダが率い、日程の遅れを取り戻すため巨人族遺跡洞窟まで強行軍で進む。


「どんなボスモンスターが出てきても、一切関わらず無視して進め。

 行軍を邪魔するザコは全部お姉さまが片づけてやる。ふふっ、久々の狂戦士モードで血の滾るモンスターバトルが出来るな」

「うわっ、ドSモードのティダさん降臨だ。これはスパルタ軍状態で不眠不休の行軍になりそう」


 そのハルの不吉な言葉通り、ティダが率いた行軍は三日かかる行程を二日で駆け抜ける事になった。



 ***


 

「さてと、俺たちもグズグズしていられない。あのガキをしっかり躾てやる。

 おいウツギ、俺に付いてこい。それからハルは飯の準備とコイツの世話をしろ」


 ティダたちを見送った後、竜胆は残ったハーフ巨人戦士に指示を出し嫌がるウツギを引っぱってきた。そして上着の胸ポケットから何かを取り出すと、ハルの頭の上に置く。


「ギィイイーーグルグル、ギヤァアォーー!!」

「うわぁ、ウルサい。コレは竜胆さんが飼っている雛鳥じゃない。

 コイツ、僕の頭を突っつくんだよ。イタいイタい、髪の毛が抜けるっ」


 ハルの頭に乗せられたのは丸々と太った黒い雛鳥で、クセのある髪の毛を寝床にしようとクチバシで突っついている。

 この雛鳥はハルが汚泥の化け物に飲み込まれた時、中の迷路で間違って巣を踏みつぶしてしまい、仕方なく連れてきたウルサイ鳴き声の鳥だ。

 クノイチが慌てて雛鳥を頭の上から離し、ハルは痛む頭部をなでながら萌黄に抜け毛を確認してもらう。


「もう、竜胆さま。こんなイタズラをして、ハルお兄ちゃんがハゲたらどうするの?」

「ソイツはチビの癖に声がデカいし、巨大モンスターはコノ声を嫌がって逃げちまうんだ。

 いいかハル、俺は雛鳥を気に入っている。ウルサいからって食材にするなよ」


 竜胆は不思議な事に、真っ黒な羽根に腫れぼったい小さな目の不細工な鳥をとても可愛がっていた。

 その雛鳥はクノイチが手を離したとたん、再びハルの頭に乗って大騒ぎになる。ハルは仕方なく竜兜を鳥かご代わりにして、中に雛鳥を入れた。


「ああウルサかった。ところで竜胆さん、子供グリフォンをどうやって躾るの?」

「ハル、お前の話だと子供グリフォンはマトモに獲物を狩れないんだろ。それなら餌付ければいい。

 でもな、狩りもマトモに出来ない最高位魔獣グリフォンなんて話にならない。

 誰かが親や仲間の代わりに、アイツに獲物の捕え方を教えてやらなくちゃならねぇ」

「ええっ竜胆さん、そこから始めるってとてもメンドクサイけど!!」


 なんと竜胆は、子供グリフォンに狩りの仕方を教えるという。

 はっきりいって自分たちが捕えた獲物をグリフォンに与え、エサで手なずけたほうが早い。しかし竜胆はそのつもりは無いらしい。

 狩りの準備を整えた竜胆は、怯えるウツギに「獲物を探せ」と急かしながら深い森の中に分け入っていった。



 ***



 巨人族遺跡大洞窟にハーフ巨人戦士を残し、SENは一人でグリフォンの巣穴に向かった。

 巣穴の中に居るのは老いたグリフォンと、そして一頭だけ若い雌のグリフォンがいた。

 いくらグリフォンの同族意識が強くても、こんなに汚染された巣を見捨てず仲間を守ろうとするのには、なにか理由があるはずだ。

 

「これは俺の知るゲーム設定と異なる。

 深い森の専門知識を持つキキョウに、グリフォンたちの状態を詳しく聞くしかない。

 それにしても、来るたびに羽毛の数が三割ずつ増えているな。

 このままでは一週間も経たないうちに、巣穴から羽毛が溢れ出し森全体を汚染する危険性がある」


 最悪の場合、増えつづける羽毛を駆除するために、巣穴ごと焼き尽くすか魂まで凍らせるしかない。

 その技を行使できるのは氷属性壊滅魔法を持つ王の影YUYUだけで、膨大な魔力は敵味方関係なく全てを屠る。グリフォンを生かし、羽毛だけ屠るという器用なことは出来ない。

 そして人間以上の知性を持つ王獣グリフォンは、仲間が殺されることを許さないだろう。羽毛を駆除した後は、グリフォンとのバトルを覚悟しなくてはならない。


「これはまるで百人単位の大規模戦闘か、ラスボス最終バトルだ。

 クエストが次第にハードモードになって来た。それでもこの状況を乗り越えろと言うのか」

ありがとうございます。

2年10ヶ月で50万ユニーク達成しました。感謝感激です。

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