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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
魔獣グリフォン編
135/148

クエスト130 劇物!?

 その場所から漂う卵が腐ったような硫黄臭も、これが体を芯から温めてくれる白濁色の硫黄温泉の香りと分かれば、あまり気にならなくなる。

 その硫黄温泉の周囲で穴掘りをしていたハルと萌黄は、全身泥だらけになって女官クノイチたちに怒られ、露天風呂の中に放り込まれた。


「ハルお兄ちゃん、この『クリームみたいな木の実』本当に甘いよ。

 真っ白で柔らかくてプルプルした実が、はむっ、口の中で溶けちゃう」

「木の実がはちきれんばかりに大きくなって、果肉もジューシーでまさに今が食べ時だよ。

 果物の女王といわれるチェリモヤと、それに皮の色は白いけど中身は瑞々しい橙色のマンゴーを、温泉に浸かりながら食べるなんて贅沢だ」


 ハルと萌黄は湯に浸かりながら、クノイチが採取してきた『クリームみたいな木の実』を味わう。

 甘いモノが大好きな萌黄はチェリモヤを全部食べたあと、まだ欲しいとねだりハルに半分もらうと大喜びだ。

 露天風呂のそばに置かれたサマーベットに寝そべるYUYU(湯あたり気味)が、冷えた紅茶を口にしながらハルに声をかけた


「ハルくんの穴掘りが終わるのを待っている間に、フゥフゥ、少し長湯が過ぎてしまいました。

 それでハルくん、大きな芋は掘れましたか?

 ああ、そういえば私はお土産の紅いもタルトが大好きです」

「YUYUさん、それってタルトが食べたいというリクエストかな。

 違うよ、僕たちは芋掘りをしていたんじゃない。

 この、おにぎりの実の種を植えていたんだ」


 ハルがニコニコ笑いながら答えると、萌黄もうんうんと頷く。

 こんなに様々な熱帯果樹の実がなっている場所に、何故おにぎりの実を植える必要があるのか?

 水浅葱は湯あたりしたYUYUをうちわをあおぎながら話を聞いていたが、何かを思い出したように頷く。


「そういえばハルさまは、おにぎりの実を植樹してオアシスの飢餓を救いましたね。

 でも大物モンスターと巨大植物のある深い森は、食糧不足を心配する必要はないと思いますが」

「うん、今は膨大な魔力を持つYUYUさんがベースキャンプにいるから安全だけど、YUYUさんは深い森にバカンスに来ているのであって、ココに住む予定はないよね。

 ベースキャンプは元々ゴブリンのテリトリーだから、しばらくしたらゴブリンが沸いてくるはずだ。竜胆さんからゴブリン討伐の話を聞いたけど、けっこう苦戦したみたいだし」


 穴掘りの話の途中からゴブリンの話になり、YUYUは首を傾げる。


「確かに味気のない主食の白い粉より、おにぎりの実の方が美味しいでしょう。わざわざオアシスから取り寄せることなく現地調達できれば便利です。

 しかし今のハルくんのお話に出たきた、おにぎりの実とゴブリンの関連性がよく分かりません」

「あれ、YUYUさん知らなかったの?

 おにぎりの実がなる地底世界樹は、ゴブリンを餌にするんだよ。

 オアシスを襲撃していたゴブリンは地底世界樹に補食されて、それでオアシスはおにぎりの実がよくなるんだ」


 つまりベースキャンプを奪い返そうとゴブリンが現れても、周囲におにぎりの実を植えれば地底世界樹に補食されるという事だ。

 しかしそれよりも、おにぎりの実の原材料がゴブリンという真実に、YUYUと水浅葱は軽くショックを受けた。


「ハルさまの作る料理をティダさまが警戒するのは、美味しいけど何を材料にしているのか分からない……こんな理由があったのですね」

「おにぎりの実、地底世界樹は肉食植物だと知っていましたが、まさかごごごごご、ゴブリンが餌ですか。

 こゴ、ゴブリンを直接食べているのではなく、地底世界樹の肥料と考えればいいのです!!」


 YUYUは無理矢理納得すると早々とショックから立ち直り、数人の女官を呼んで指示を出す。


「種から植えるより、直接オアシスから地底世界樹の苗木を取り寄せて移植した方が早いでしょう。

 地底世界樹は暖かい場所で育つ植物、この温泉をベースキャンプ近くまで引き、その温泉熱で地底世界樹を育てます。

 のんびりバカンスの予定が、植樹作業で忙しくなりそうです」


 さすが王の影、いちを語れば十を知る。

 ハルの話からもっとも最善の方法を瞬時に判断する。

 しかしハルは単純に露天風呂を見つけただけではない。

 王の影すら考えつかないようなハルの提案は、深い森の中でモンスターの脅威から逃れ、人間が住める環境を構築する方法を編み出していた。

 それはまるで神の啓示、ミゾノゾミ女神がハルの耳元でささやいているようだ。


 そろそろ湯から上がろうとするハルに、クノイチたちが群がり毎度の女装をさせようとして、嫌がるハルが逃げ出し騒ぎになるのを王の影は眺める。


「それにしても、この温泉を見つけるためにアノ男がハルくんに協力したというのは、さほど警戒しなくても良いのでしょうか」


 YUYUの小さな呟きに、思わぬところから反応が返ってきた。


「YUYUさま、萌黄はアノ人なんだか嫌い。

 ハルお兄ちゃんは怒る事はあるけど、女神さまだから自分をさらった猫人族の女の願いを聞いたように、誰の願いでも叶えてしまう。

 良い人も悪い人も区別しないの。

 だから萌黄たちは、悪い人からハルお兄ちゃんを守らないといけない」

 

 終焉世界で最初にハルと出会い様々な奇跡に立ち会った幼い少女は、すでに女神の守護騎士へと成長していた。

 子供の言葉に王の影の表情は厳しくなり、隣に立つ波打つ水色の髪をした側近は微笑みながら少女に声をかける。


「大丈夫です、萌黄さま。

 ハルさまは常にクノイチたちが見守っています。

 そして私もYUYUさまも、みんなでハルさまをお守りしましょう」

 



 目的の果物採取は大収穫で、帰り道は山のような果物を背負ったウツギと、その隣でしっかりとした足取りで歩くキキョウの姿があった。

 キキョウは名残惜しげに後ろを振り返ると、ふと呟く。


「なんという極楽、これ以上理想の場所はない。

 ミゾノゾミ女神よ、どうかワシをこの地で隠居させて下さい」



 ***



 ぐぎゅ~~~~、ぐぐぐぎゅ~~~


 豪華絢爛な御殿の最上階、贅を極めた部屋中で腹の虫の音が響きわたる。

 ふらふらと立ち上がった聖女石榴は、皿の上に山盛りの白い粉に水を加え、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて粘土状になったソレに砂糖とハチミツを足してみる。

 一口食べるとハチミツを追加したのが悪かったの甘すぎるし、なんだか粘土からどろどろした液体っぽくなってきた。それで甘みを抑えるために塩と唐辛子を足したら、唐辛子が多すぎて真っ赤な物体になった。


「なんだ、料理って簡単なのね。綺麗な赤い色で美味しそうだわ。

 やっとまともな食事ができる、ぱくっ、うっ、ううっ、hぃのげべwっhざっj!!!」


 聖女石榴は真っ赤な液体状のブツを、口から吐き出した。

 飛び散った唐辛子入りのブツが、激しい嘔吐の音を聞いて駆けつけたクノイチたちの顔にかかり目潰し状態にする。

 そして謎の化学反応を起こした唐辛子入りの赤い物体は、毒々しい色の煙を周囲にまき散らし館の上部を汚染した。


 夕刻、硫黄温泉からベースキャンプに戻ってきた王の影は、館を浄化するために回復した魔力を再び消耗しなくてはならなかった。


「まさかYUYUさまよりマズ飯を作れる者がいるとは思いませんでした。なんて恐ろしい」

「この終焉世界は豊穣と破壊をもたらす存在が対で現れる。偽女神はその間逆の存在、つまり破壊的に料理下手なのですね。

 しかしたったこれだけの食材で劇毒が作れるとは、別の意味ですばらしい能力。暗殺工作を行うのに利用できます」


 マズ飯で暗殺される敵は哀れだ。もしかしたらすでに聖女石榴は、何人か被害者を出しているかもしれない。

 そして彼女は浄化中の(ゲロまみれ)部屋から追い出され、一階の大食堂でデイゴの採取してきた果物を食べていた。

 デイゴは聖女石榴に近づく事を禁じられたので、生き人形の男子の世話をしている。

 その聖女石榴のテーブルの向かいの席に、初老の召使い男が腰掛けた。


「初めまして聖女石榴、あなたの守護騎士デイゴはワシの手伝いをすることになりました。

 とても働き者の男で、重い荷物を軽々と運びます。あなたの食べ物も、デイゴが深い森の中から探してきたものです」

「デイゴが私のために働くのは、いえ、義父法王の聖なる器を維持するために私は魔力を使い、信者が私に奉仕するのは当たり前のことです」


 デイゴに対して聖女石榴は何のねぎらいの言葉もなく、目の前にある果物を当然のように食べている。

 このわずかに魔力を持つ聖女は、巨大タコから助け出された時、大怪我を負ったデイゴに治癒魔法を使わずその魔力で腕の中の義父法王である男子を守り続けた。

 彼女たちとって一番大切なのは、前法王の器。それに再び魂が宿るまで、ひたすら守り続けるだけなのだ。

 食事を続ける彼女、自分を眺める召使いの男を不機嫌な表情でにらみつける。


「デイゴはどんな命令でも従う信仰深い者、どうぞご自由に働かせて。

 ねぇ貴方は、いつまでココに座っているの?私は見せ物ではありません」

「ああ、失礼した。向こうにいる荒くれ者のハーフ巨人戦士達が聖女さまと遊びたいようだから、ワシは席を譲るとしよう」


 ロクジョウギルド長のキキョウが彼女のそばにいるので、ハーフ巨人戦士達は手出しできないでいる。

 霊峰神殿はエルフの血を継ぐ者にエルフ族の選民思想と、敵対する巨人族への憎しみも教え込む。

 巨人より小柄なハーフ巨人の姿に恐怖を覚える彼女は、椅子から腰を上げ立ち去ろうとするキキョウに慌てて声をかける。


「ま、待ってちょうだい。

 私の食事が終わるまで、ココにいてもかまわないわ」

 



 聖女柘榴のそばにキキョウがいてちょっかいを出せない竜胆は、何やらニヤケ顔で食事の配膳をするハルの頭を小突いた。


「果物を取りに行たハルが、温泉を見つけただって。

 それならモチロン混浴風呂だろ。聖女柘榴は無理そうだな、クノイチを誘ってひとっ風呂浴びてこようぜ」

「あれ竜胆さん、硫黄温泉の場所を知っているの?

 もうすぐ日が沈んで森の中が真っ暗になると、YUYUさんや僕のGPSでしか温泉の位置は確認できないよ。

 竜胆さんが明日の狩りに僕を連れて行くなら、硫黄温泉の場所を教えてあげる」


 竜胆の行動パターンが読めているハルは、生意気な口調で言い返してきた。

 狩りは危険だからと果物採取させても、ハルはとんでもない奇跡を呼び込む。

 グリフォン捕獲という非常に困難なクエストに挑むには、運を味方に付けなくてはならない。


「分かったよ、明日の狩りにはお前も連れて行く。いいか、俺のそばから離れるな、勝手な行動はするなよ。

 今回の深い森は、どことなく殺気だった雰囲気がある。

 明け方に窓の外にグリフォンを見たが、連中は俺たちを警戒しているのか?」

10/7 いよいよです。


※ブログ、スマホ対応しました。これまで見辛くてすみません。

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