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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
オアシス編
12/148

クエスト10 反大神官派と話し合おう

 A.D.α 2025/02/14 13:21

 東京都K市


 玄関先に届けられたピザは冷たくなっていた。

 野原幸樹は、リクライニングチェアーから体を起こし 首に巻いた5本のチョーカーに触れる。

 急に熱が上がって、こってり味のピザを食べる食欲は無くなっていた。


 数本の端子が伸びたヘッドホン、VBWモノクルを違法改造した赤いレンズの眼鏡を掛け直す。


 最初のインフル死者は詳しくニュースになったが、1月末で死者が1千人を超えたところから、その数は報道されなくなった。

 国はひた隠しにしているが、関東地区だけで死者5千人は確実に超えただろう。


 世界的パンデミック 新型インフルエンザは『バタフライ』と呼ばれるようになった。

 蝶の羽ばたきは、病災の鱗粉を世界中に降り注いでいる。


 ああ、体が重い、寒気がする。


 自分は家に引きこもっているから大丈夫だろうと甘く考えていた。

 コンビニや移動の電車、日曜にアキバに行ったのが拙かったかもしれない。


 彼の目の前の景色は、5つのバーチャルモニターが重なって存在するゲーム空間だった。


 VBWシステムは、10時間経つと強制ログアウトになる。

 だから、彼は5本のチョーカーを9時間30分ごとに切り替え、ほぼ24時間システムを起動させている。


 その中の、一つのモニターに映し出された男が早口でしゃべっている。


「なぁコウキ、我々の『End of god science』は世界の終焉を予言していたんだ。

 ヒヒッ この腐った世界は、黒の蝶によって清められる。

 女神なんて現れるものか」


「黙れアマザキ、予言が真実なら、それを防ぐ方法もあるはずだ。

 俺は、自堕落で妄想まみれで無関心で自分勝手な、この世界が気に入ってんだよ。」


 幸樹はスカイプを切ると、苛立たしげに長く伸びた前髪を掻き上げる。


 今日は体調がよくない。少し休むか。


 その時、フレンド登録していたキャラのログインを知らせるメールが入った。

 12月と、1月に、姿を消していた二人が同時にゲームにログインしている。


 まさか、彼らがログインできるはずがない。


 だって、彼らは……


 どうする、行くか、逝くか。


 幸樹は、黒袴姿のアバターSENを選ぶと『End of god science』のログイン場面にパスワードを入力する。





---------------





 退紅あらぞめは僕らを、聖堂の武器庫の奥にある備品置き場に案内した。


 周りから怪しまれないように造られた隠し部屋。

 狭い部屋の中には、退紅の声掛けで集まった20人ほどの神官達が待ち構えていた。


「妹は、聖堂で働く約束はしたけど、砂獏竜の生贄になるなんて話は聞いてない。

 由緒あるオアシス聖堂の権力を、大神官は私物化し非道な行いを繰り返す。

 俺はこれ以上我慢できない。生贄の儀式の間を狙い、奴を倒すぞ」


「神科学種の聖人さまが現れた。今度こそオアシスを我々の手に取り戻そう」


 背の高い茶髪の男、銀朱の兄 退紅あらぞめは反大神官派のリーダーのようだ。

 集まった男も女も、熱気を帯びた熱い眼差しで、突然現れた神科学種の救世主を見つめている。


 状況を呑み込めないハルの腕を引き、皆の前に連れ出そうとする彼をティダが遮る。


「ハルちゃんを祀り上げる前に、まず話を聞かせてくれないかしら。

 生贄の儀式をぶっ潰して大神官を倒したとして、オアシスを襲う砂漠竜はどうするの?」


「我々の力では、砂漠竜どころか、群れたゴブリンを倒すこともできないのです。

 しかし、神科学種の冒険者は、砂漠竜を倒せるほどの力を持っているという話を聞きました」


 ん、これはもしかして、僕らに悪いモンスターを倒してくれ、という他力本願?


 無表情で相手の出方を伺っていたSENが、厳しい口調で更に問いかける。


「今回は、俺たちが砂漠竜を倒しやっても、次の砂漠竜が沸いたらどうするんだ?

 自分たちで砂漠竜を倒せないなら、再び生贄を差し出すことになるぞ」


 SENの言葉に、集まった神官たちは戸惑うように顔を見合わせる。

 ただリーダーの退紅だけは、挑むように鋭い眼差しで答えた。


大神官ヤツを倒して、砂漠竜を倒すなんて無謀かもしれないが、俺はそれで討ち死にしたって構わない。

 もうこれ以上、奴らの言いなりになるくらいなら、モンスターに喰われたほうがマシだ」


 彼の言葉に呼応するかのように、仲間の神官も声を殺して拳を振り上げる。

 その様子にSENはニヤリと笑うと、退紅の肩をポンと叩いた。


「我々は精霊の導きでこの地に現れた『神科学種』だ。

 女神【ミゾノゾミ】は、罪無き乙女が魔物の生贄になることを望まない。

 我々は、オアシスの砂の民のために力を貸してやろう」


 イベント好きのティダは、楽しげに呟いた。


「1.生贄の少女を救う 2.砂漠竜を倒す 3.悪大神官をボコる というクエストかぁ。」



 ***



 神官たちを解散させた後、リーダーの退紅と二人の神官、それに僕たちでこれからの作戦を練る。


 砂漠竜を倒すのに実力経験不足の神官たちは、オアシス自警団と手を組み、SENから砂漠竜討伐のノウハウを教わることになった。


 また、生贄の儀式もぶち壊すけど、そもそもどんな儀式なんだろう。


「大神官は、乙女が生贄として相応しいか「確認する」儀式を行うと言っている」


 それって、生贄のオンナノコの味見するってコトですか!!

 なんという如何わしいエロ大神官なんだ。


「この蛮行を見過ごしては、我々変態紳士の名が廃るというもの」


「おいSEN、俺はそっち系じゃないからな。電波漏れてるぞ~~」


 話が脇にそれた頃、SENから渡された服で身支度を整えた、生贄の少女 銀朱ぎんしゅが現れた。

 彼女の姿を見て、兄の神官達は感嘆の声が、僕らは戸惑いの声を発した。

 その姿は、白い肌に長い黒髪の映える、白い小袖(白衣)に緋袴を履いたMIKOですよ!!


 っうか、なんでSENさん、巫女服なんて持ってんだ~~。

 きっとこれは宝箱かモンスタードロップ品であって、男のロマンを追い求めてうっかり購入したものでは無いはずだ。


「まるで女神さまが降臨したようだ、なんて神々しい衣装だ」


「ああ銀朱、我が妹とは思えない、見違えるほど美しくなった、素晴らしいよ」


 こちらの方々には、コスプレではなく、本来の神聖な衣装として映っているらしい。

 SENも満足げに彼女を眺めると、何故か僕の方に銀朱を連れてきて隣に立たせる。


「顔は、怪我をしているという理由で包帯を巻けば隠せる。

 このMIKO服は神事に相応しいし、体格も上手くごまかせるだろう」


 あれ、皆さん、どうして僕と銀朱ちゃんを見比べているの?


「身長もほぼ同じだし、中身が入れ替わっても気付かれない」


 何故か、すごく嫌な予感がする。


「ハルちゃん、本番ではお嬢ちゃんの身代わり、生贄役お願いね」


 なんてテンプレな話、そしてお約束の展開になんだ!!



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