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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
ロクジョウギルド編
112/148

クエスト107 白鎧騎士戦

 荒れ地の一本道を、人間の自警団と白鎧騎士の援護部隊がゾロゾロと歩いていた。

 道から外れた途端、深い森から迷い出てくる魔獣に襲われる危険があり、広くない道を三列になって進まなければならない。

 そんな中、先にロクジョウギルドへ向かった一団(盗賊たち)がハーフ巨人戦士に返り討ちにあったという知らせが入る。


「人間を逆恨みするハーフ巨人連中が、武装して反乱を起こそうとしているんだ」

「奴らを先導するのは、人間を襲った凶暴な懸賞首のハーフ巨人だぞ」


 人間の中でも、特に自警団はこれまでハーフ巨人を力で支配していた。そのハーフ巨人たちが深い森のモンスター狩りを始めたことに、彼らはひどく警戒していた。

 ハーフ巨人の集ったロクジョウギルドは、人間の自警団に匹敵する武装集団となりつつある。

 ならば今回の騒動を理由に、ロクジョウギルドそのものを潰してしまおうという手筈なのだ。


 自警団を先導するには、灰色の馬に跨がった白鎧の騎士で、繊細な彫刻の施されたレイピアを掲げ大声で叫んだ。


「いいか、次期巨人王が鬼仮面の青磁王子になれば、ハーフ巨人と結託して人間の持つ財産を没収し奪ってしまうぞ。

 しかし我らの主である紫苑王子は、エルフの血を引き霊峰神殿との関わりも深く、お前たち人間の味方だ」


 ハクロ王都で暮らす人間の人口はすでに巨人の数上回るが、所有する財は巨人の半分にも満たない。巨人の裕福な暮らしぶりを見せつけられ、種族間の貧富の格差を不満に思うモノも多い。


「そうだ、人間も巨人も対等に扱われなくてはならない。

 紫苑王子が王の地位に着けば、巨人の持つ貴重な鉱物、実り豊かな土地、王宮に蓄えられた財宝を人間に分け与えて下さる」


 人々の中からどよめきが起こり、紫苑王子万歳を唱える者もいた。

 しかし彼らは一番肝心なことを忘れている。

 深い森のモンスターが王都に現れないのは、終焉世界の覇者である巨人族の血を恐れているからだ。

 人間は巨人を宿主に寄生しなければ、深い森の中に築かれたハクロ王都では生きてゆけない。




 すでに肉眼でもロクジョウギルドのボロ別荘がはっきりと見え、その前をハーフ巨人の集団が固めている。


「なんだ、臆病な連中だな。俺たちに痛めつけられるのを大人しく待っているぜ」

「一番先にハーフ巨人を倒した奴は、頂いた財宝の半分をくれてやるぞ!!」

 

 白鎧の騎士の言葉ですっかり気の大きくなった集団は、我先に走り出す。

 行く手には、荒れ地が破れたような小さな谷間の川が流れ、丸太を縄で繋いだだけのボロ橋が架かっている。

 馬に乗った騎士が橋を駆け抜け、続いて自警団も誰よりも早く獲物を手に入れようと、先を競って橋を渡りだした。


「チョット待て、お前たち勝手に隊を乱すな。誰が財宝の半分をくれてやると言ったんだ!!」

「なんだか様子がおかしい。

 報告ではロクジョウギルドのハーフ巨人戦士は八十人近く居るはずだが、建物の前に居るのは、二、三十人、数が少なすぎる」

 

 ペガサスに乗り、上空から周囲の様子を監視していた騎士は、慌てて集団を制しようとしたが、時すでに遅し。

 一度に大勢の人間が乗ったボロ橋が、左右に激しく揺れ軋んだ音をたてる。


「このままじゃ橋が落ちるぞ、全員早く渡るんだ」

「なにバカな事を言ってる。

 そうじゃない、お前たち橋から降りろ。一人ずつ渡、うっ、うわぁ」


 集団の中には、大柄な自警団員が数人混じっていた。

 ハーフ巨人と人間のボーダーな体格で、ほとんど種族の見分けがつかないスパイが、集団に紛れ込み噂を流したのだ。


 ブチ、ブチリ、

 縄の千切れる小さな音と、次の瞬間丸太同士がぶつかり合い、重さに耐えきれなかったボロ橋は壊れだす。

 橋の上にいた数人が悲鳴を上げながら谷底の川に落ちてゆく。

 小さな谷底の川幅は流れが急で、しかもココは深い森間近だ。


「橋が落ちたぁ、か、川に住む獰猛な巨大モンスターに襲われるぞぉ」

「だめだ、水の流れが速い。川に落ちたら俺たちもモンスターの餌になる」


 百五十人ほどの集団だった自警団は、川に落ちて流された数人と後方に残された五十人が分断されてしまった。


「くそう、まんまとハーフ巨人に騙された。連中が橋に細工をして落としたんだ。

 橋を渡れなかった者は、そこで待機していろ。

 人間の自警団は当てにならん。

 我ら白鎧の騎士が汚れたハーフ巨人どもに制裁を、やつらを皆殺しにしてやる!!」

「ここで名乗りを上げれば、紫苑王子に認められ重宝される。

 愚鈍なハーフ巨人など、我の剣で蹴散らしてやる」


 クスんだ灰色の馬に跨がる白鎧の騎士は、空を飛ぶペガサスに騎乗する上位騎士とは身分が異なる。

 そんな彼らは、今こそ手柄を立てるチャンスだと一斉に駆けだした。


 馬が群れて駆けるには狭すぎる荒れ野の一本道から外れ、先を競い駆ける。

 集団を先導するはずの白鎧の騎馬が任務を放り出して勝手に行動しだしたので、それを止めようと上空のペガサスから厳しい声が響く。


「キサマらぁ、自分勝手なことをするな。隊長の指示を聞け!!」

「うるせぇ、高みの見物を決め込んでいるテメェ等に、手柄を横取りされてたまるか。

 赤毛のハーフ巨人をシトメれば……なんだあれは、く、来るなぁ」


 足の速い馬はすでにロクジョウギルドの手前まで迫っていたが、その背後から、荒れ野を疾走する馬を凌ぐ、巨大な黒い弾丸のようなモンスターが襲いかかる。

 深い森周辺を縄張りにしている鬼イノシシの群が、テリトリーを荒らす侵入者、騎士の騎馬に突進してきた。

 背は馬より低いが幅は三倍以上の重量がある鬼イノシシは、馬の腹に青紫角を突き刺し横倒しにする。

 白鎧の騎士は馬から投げ出され、倒れた馬の上に数等の鬼イノシシが群がって押しつぶす。

 馬が次々と倒され、慌てて細い道に避難する騎士たちは、イノシシの群の中に人影を見た。


「あーあ、魔獣狩りをする俺たちでも、モンスター除けの結界が張られた細い道から外れて歩かないのに、こいつら深い森の事を何も知らないんだな」


 イノシシの皮をコートのように羽織っているのは、人間よりも大柄なハーフ巨人の男。

 慌てふためく騎士の目の前で腕を組み、仁王立ちする赤毛のハーフ巨人がイノシシをけしかけ馬を襲わせたのだ。

 竜胆は、細い道の上一列に並んだ馬を、まるで品定めでもするかのように眺める。


「イイ馬じゃないか、俺たちが貰ってやろう」

「竜胆さま、それではどっちが略奪者か判りませんよ」


 ふざけた軽口を叩くハーフ巨人だが、白鎧の騎士は目の前に立つ赤毛の男の鋭い視線に睨まれ、居竦んで一瞬身動きがとれない。

 その僅かな隙が致命傷になった。


「いまだ、馬を生け捕りにしろ!!上の乗っている奴は殴って気絶でもさせておけ。

 深い森の巨大モンスターに比べれば、人に飼われた馬を捕らえるなんて簡単な事だ」


 竜胆のかけ声とともに、岩影や土の中や木の上に、身を潜め隠れていたハーフ巨人戦士が現れる。

 土地の利がある彼らは、敵が現れるであろう場所に先に潜伏して、罠を仕掛けて待っていたのだ。

 ハーフ巨人戦士は魔獣を捕らえる巨大投げ縄を、白鎧の騎士に向かって一斉に放つ。


 列の中央にいた馬は、道の左右に逃げることができず投げ縄に捕らえられ、道を外れ逃げると鬼イノシシに追いかけ回される。

 後方の馬は、来た道を慌てて引き返し全速力で走り去った。



 後には引けない前の三頭は、逆に馬足を早めロクジョウギルドの正面で待ちかまえるハーフ巨人戦士に向かって突進してゆく。


 馬上でレイピアを掲げ冷笑を浮かべた白鎧の騎士は、ギルド正面で待ちかまえるハーフ巨人戦士に向かって威圧的な声を上げた。


「我は第十七位 紫苑王子に仕える白鎧の騎士だ。愚か者ども地にひれ伏せ。

 逆らえば反逆者として末代まで粛正するぞ!!」 


 敵を蹴散らそうと馬上で武器を持ち、馬の手綱を手放した白鎧の騎士は、道に仕掛けられた罠に気づくのが遅れ、回避できなかった。

 まんまと落とし穴にはまり、後ろに続く二頭の騎馬も巻き込まれる形で穴にハマっる。

 落とし穴の周りを、槍を構えた二十人のハーフ巨人に取り囲まれ、抵抗すれば馬諸共串刺しになる場面だ。 


「キ、キサマらハーフ巨人風情が、巨人王のご子息である紫苑王子の白鎧騎士に武器を向けるか」


 しかし、騎士の怒声にも誰一人ひるむ者はいない。

 両腕を包帯で覆った短髪のハーフ巨人戦士が、冷静な声で返事をする。


「我らは、女神降臨に立ち会った第二十六位 紺の竜胆王子を主に仰ぐ、ハーフ巨人の家族。

 巨人族王子同士の争いは、巨人王は一切罪を問わないはずだ。

 敵がどの王子であっても、我々は主である竜胆王子に害する者を倒す」

「神身に近しいエルフと巨人王の血を引く高貴な紫苑王子と、薄汚い末席の竜胆を比べるとは無礼な連中め。斬り殺してやる!!」


 落ちて動かなくなった馬を踏み台に、穴から這い出しレイピアを突き上げた白鎧の騎士は、トクサの持つ蒼牙ワニの牙で作られた槍先に簡単に弾かれた。

 白鎧の騎士に、血濡れの槍先が突きつけられる。


「武器を捨てて下さい。

 大人しく我々の捕虜になるか、それとも……あのような恥ずかしい緊縛姿でバルコニーに晒されますか?」



 ***



「り、竜胆さん、やっぱり人間と戦うのは怖いよぉ。

 なんで俺を連れてきたんだよ」

 

 竜胆に無理矢理ハーフ巨人戦士の最前列に連れてこられたウツギがブルブル震えている。


「お前は戦わなくてイイ。

 俺の側にいて遠目の利く視力で、上を飛ぶペガサスを監視してろ」


 露骨に怖い怖いと脅えるウツギのせいで、人間と戦うことを恐れるハーフ巨人戦士の中にも青ざめた顔色の者がいる。


「キサマ等も、人間と戦わなくていいぞ。

 連中の武器を奪い、身ぐるみを全部剥いで裸にするだけでイイ。

 生け捕りなら、深い森でのモンスター相手に慣れているだろ」


 実力はこちらの方が上だが、戦いをためらうハーフ巨人戦士は人間を傷つけることを恐れている。

 それなら攻撃してくる相手に対して防御に徹し、隙を見て武器を奪う。 完全に武装解除させれば、身体能力の劣る生身の人間は手も足もでない。


「そっか、生け捕りにすればいいのか。」


 蒼白い顔をした男の顔に血の気が戻り、吹っ切れた表情になる。

 戦うという行為に変わりはないが、長らく虐げられる者として戒められた禁為が解ける。




 先に挑んだ白鎧の騎士が敗れた。

 向かい合うハーフ巨人戦士の気配は、これまで自警団が奴隷扱いしたハーフ巨人とは異なっていた。

 それどころか、ロクジョウギルドを集団で襲い略奪するはずが、自分たちの方が狩られる獲物になっている。

 先頭に立つ赤毛のハーフ巨人は大量の武器を背負い、それはすべて盗賊と騎士から奪ったものだ。


「さすが自警団、上等な得物を持っているな。

 武器を捨てて立ち去るか、俺たちに身ぐるみ丸ごと奪われるか、覚悟しろよ」

「竜胆さま、まったく、それではどっちが略奪者か判りませんよ」


 燃えるような赤毛の男は、人間の自警団を目の前にして小馬鹿にした様子で一同を見回す。

 男の顔には見覚えがある。自警団がずっと探しまわっていた、善良な人間(詐欺ギルドのロウク)に暴力を働いた手配書の男だ。


「くそう、人間様をバカにしやがって。コイツは王都で人間を襲った凶暴なハーフ巨人だ!!」

「捕らえたヤツには倍の懸賞金を与える。赤毛をつかまえろ」


 先頭の自警団が一斉に竜胆に襲いかかる。

 竜胆は自分の背丈より長い、まるで鬼の金棒のような鈍器を振り回すと、近づく敵を容赦なく叩き払う。

 

 圧倒的な強さの赤毛男に蹴散らされるが、人間の自警団はハーフ巨人の倍近い人数がいる。

 赤毛の男は無理だとあきらめた自警団が、他のハーフ巨人戦士を攻撃すると、やはり人間を恐れているのか防御ばかりで、まったく攻めてこない。


「ハーフ巨人の数を減らせ。二度と俺たちに逆らえないように痛めつけてやる」


 一方的にハーフ巨人戦士を攻撃する自警団だが、ハーフ巨人戦士は、深い森での巨大モンスター狩りで攻撃に耐え隙を伺う持久戦に慣れている。


「おら、盾で防いでばかりいないで、かかってこいよぉ。

 そんなに俺たちが怖いのかぁ。ちっ、コイツ等しぶとい」


 男は何度も槍を突くが、恐ろしく堅い盾に阻まれる。

 次第に疲労から力ない攻撃をした次の瞬間、盾の隙間から姿を現したハーフ巨人戦士に槍の柄を捕まれ簡単に武器を奪われると、周囲を盾に囲まれる。

 武器のない丸腰状態では、どんなに抵抗してもハーフ巨人に勝てるはずがない。


 自警団の先頭集団は持久戦に耐えきれずあっさりと敗れ、捕らわれた自警団は竜胆の宣言通り、身ぐるみを剥がされたほぼ全裸状態で括られ、その場に転がされる。

 半刻も経たないうちに自警団の半数が捕らわれ、後方で控えていた一団はもはや烏合の民と化し武器を捨て敗走する。





 ペガサスに騎乗した白鎧の騎士は、衝突したハーフ巨人と人間の戦闘を上空から観察していた。


「まさか、あんな野蛮で凶暴な男が女神に認められたのか」

「ハーフ巨人王子がこれ以上に力を付ければ、紫苑王子様の害になるだけだ。

 こうなったら我々は、全力であの男を葬り去るしかない」


 冷淡な口調で呟く白鎧の騎士が、一頭だけ後方に控えているペガサスに合図を送った。

 そこには深い森から追い立てられ、人間たちの腕試しに攻撃されて傷ついたモンスターが、原形を留めない不気味な姿で歩かされている。


「腑抜けの自警団は、アレの生贄として、紫苑王子様の役に立って貰おう。

 深い森からおびき出した魔獣が、人間もハーフ巨人も、アノ忌まわしい竜胆王子も食らい尽くすはずだ」

 

 そして巨人族の血に守られた王都から、うかうかと深い森の近くまで出てきた人間たちは、魔獣の真の恐怖を味わうことになる。

※ついに五十万文字到達です。


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