クエスト96 巨人王鉄紺
夜空を埋め尽くす花火、広場にあふれる人々が歌をうたいダンスを踊る、巨人王帰還を待ちに待っていたハクロ王都はお祭り騒ぎだ。
終焉世界最大の全方位転送魔法陣が起動し、巨人王の豪華絢爛な御車と支配エリアからの貢ぎ物を満載した荷車が現れ、異国からの使者や珍しい珍獣、そして紺に銀の紋章が刻まれた巨人王近衛兵の一団が到着した。
全方位転送魔法陣の上に立ち上がった光の柱は、半刻の間輝き続け天と地上を結びつけた。
帰還した巨人王の御車からばらまかれた金銀財宝を運良く拾えたモノは、それをさっさと金に換えて仲間に酒や料理を振る舞い歓楽街へと繰り出し、そうでない者も奇跡の業を目にして興奮冷めやらず、転送魔法陣の光の柱が消えてもその場から立ち去らない。
人々の話題は、女神の歌を披露した灰色の美女と全方位転送魔法陣を描いた銀の天女、黒髪の女官娘の誰がホンモノのミゾノゾミ女神なのか、誰が自分の好みのタイプかというありきたりな話。
そして年老いた巨人王が最後の巡行を終え、次期巨人王に選ばれるのは誰かということだった。
「あのよぉココだけの話なんだが、マーケット広場で女官達が話しているのをちょっと盗み聞いたんだ。
今後宮には、次期巨人王候補の王子たちが滞在しているんだと」
「後宮にはミゾノゾミ女神様がいらっしゃるのだろ。女神様が次の巨人王を選ぶのか?」
表通りにテーブルと椅子を持ち込んで酒を片手に赤ら顔で話す中年男に、酒盛りに参加していた仲間からも声があがる。
「どうやら次期巨人王の第一候補は、十年前の謀反から巨人王を救った英雄、鬼仮面の第十二位王子青磁さまらしい」
「まぁ誰が巨人王に選ばれたところで、人間の俺たちの生活は変わらないんだがな」
酔った男たちの大声は、同じように外で騒ぐ人々の耳にも入り、噂話は瞬く間に王都中に広がるだろう。
「全くだ。猫人娘を生け贄に捧げようとした法王はミゾノゾミ女神さまの怒りを買い、女神さまは霊峰神殿を見限って巨人側に付いたんだ」
「そんなら余計に、俺たちも巨人にぃ、ついた方がいいじゃねかぁ」
赤ら顔の男は、酒杯を振り回しながら夜空の花火を仰ぎ見た。
「ふぅハハハッ、かなり酔っぱらったなぁ?。
夢でも見てるのかな、白い馬が空を飛んでいるぞ」
「なんだありゃ、俺も夢見てるのか!!馬に羽根が生えているじゃねえか」
ハクロ王都の空に白い流れ星が落ちたかのようにみえた。
しかしそれは、白い翼を持つ十頭の聖獣ペガサスが、隊列を組んで魔法陣の上に音も立てずに優雅に舞い降りたのだ。
騎乗している者は皆、月夜に白く輝くプラチナの鎧に羽根のような純白のマントの出で立ち。
そして先頭の一回り大きな白馬には、まるで天界からの使いのような光り輝く黄金の髪に麗しい美貌のハーフエルフ王子が騎乗していた。
***
ハクロ王宮に帰還した巨人王は、その日のうちに王宮へ王子達を呼び集めた。
ミゾノゾミ女神が次期巨人王を選定するという噂は王子の耳にも入っており、長い黒髪の娘が自分に「あなたが次の王だ」と告げるのを待っている。
王宮の中でもごく一部の人間しか利用できない応接室に集う王子たちは、炎の結晶が大量にくべられた暖炉の側に設けられた王座に近い席の場所を争い、また目に付けた黒髪の娘に自分の世話を命じたりしていた。
「その王を選ぶと噂されている女神の憑代が、こんなトコロで給仕をしているとは」
王子たちの席取り合戦を部屋の隅で面白そうに眺めていた第十二位王子青磁は、ワゴンに飲み物を注いでいる執事の少年に声をかけた。
今日は女装をする必要が無いので、執事服に白いエプロンという地味で目立たない姿のハルは誰の気にも留まらない。
「青磁さま、それはYUYUさんが勝手に流した噂です。
僕が巨人の王様を選べる訳ないですよ。
YUYUさんから、巨人王さまと会わせるのでココで待っているように言われたんです」
「では、それまで私がハルさまの話相手をしましょう。
私が王都に来る前日に、ハルさまが助けた猫人族の娘が三匹の子猫を産みましたよ。
娘から「ハルさまのおかげで子供も元気に産まれた。とても感謝してる」と伝言を頼まれました」
「うわぁ、三匹も子猫が産まれたんですか。
見てみたいなぁ、スゴく可愛いんでしょうね」
コクウ港町は人間と猫人族、海賊とも関係が良好だ。
この仮面の王子は、統治者として優れた才能を持っている。
巨人の無関心と人間の利益主義、そしてハーフ巨人が差別されるハクロ王都を彼は良い方へ変えることが出来るだろう。
「これより巨人王 鉄紺陛下がご子息の王子様方に大切なお話があるという事です。
王族以外の者は、この応接室からご退出を願います」
巨人王付きの近衛兵がそう告げると、王子の側近も王宮務めの高官も部屋の外へ追い出し始めた。
慌ててハルもワゴンを押して部屋を出ようとした所を、青磁王子に腕を掴まれて背後のカーテンの中に隠されてしまった。
「ハルさま、巨人王は女神の憑代である貴方に会いたがっています。
これから先は、巨人族だけではなく人間やハーフ巨人の道筋を定める事になるでしょう」
王子だけが残された応接室、唯一中に出入りできる黄金で縁取られた観音開きの扉が静かに開く。
椅子に腰掛けていた王子たちは一斉に立ち上がり礼式を取った。
先に現れたのは、派手な飾り羽根の官帽に襟周りを斑豹の毛皮のローブを着た、宰相を務める第三位王子 蘇鉄だった。
そして宰相がうやうやしく頭を下げ、続いてゆっくりとした足取りで右手に握りしめた黄金の杖を突き、顔には深いシワが刻まれた威厳のあふれる巨人王が登場した。
巨人王は王子たちを見回した後、王座の前まで来ると、しかし座ることなく椅子を覆っていた紺の布切れを取り払う。
椅子の上に置かれていたモノを見て、奇妙なざわめきが起こる。
それは、紺の漆塗りの木箱だった。
「ええっ、なんで王様の席に僕の重箱弁当が置いてあるの?」
カーテンの影に隠れながら、ハルは思わず小声で呟いた。
巨人王は王座の横に控え、次に扉の向こうから現れたのは、紺に黄金の王紋が鮮やかに描かれたマントに、胸当てには王の証であるグリフォンの絵が描かれてた衣装、五色の玉に彩られた王冠が乗せられた髪の色は白、ハルが遙か北の大地から最初に転送させた白髪の巨人兵士だった。
その後ろを王の影と水浅葱が静かに付き従い、YUYUはカーテンの影から覗いているハルを見つけると目配せして微笑んだ。
「巨人王 鉄紺陛下。父上、お久しぶりです。
以前お会いしたときより、更に若返られておられますね」
白髪の巨人に声をかけた青磁王子が、カーテンの中にいるハルの背をそっと押すと、ハルは部屋の中央までつんのめって白髪の巨人と向かい合っていた。
驚いて状況をつかめないハルに、巨人兵士は笑いながら重箱を手渡す。
「この弁当、旨かったぞ。洗って返すと約束したではないか。
まさかミゾノゾミ女神がお人好しの少年だったとは、儂の方が驚いたぞ」
「え、あのう兵隊さん、なんで王様の冠をかぶっているの?」
しかし、突然現れた小柄な人間の少年に、王子数人は立ちあがり武器を手にする。
「おい、何で人間が王族の間に紛れ込んでいるんだ!!父上、その人間を捕らえて下さい」
「どうする、我々巨人王族の秘密が知られたぞ」
「黙れ小僧ども!!儂はこの方と話しているのだ」
白髪の巨人が騒ぐ王子たちを一喝した後、続けて水浅葱が熱に浮かされたような高揚した声で告げる。
「紺の王子さま方へご紹介いたしますわ。
この方はオアシスで奇跡の泉を蘇らせ、鳳凰小都で紙細工に『神の燐火』を宿らせ、風香十七群島では魔獣を倒し、このハクロ王都の失われた魔法陣を指し示したミゾノゾミ女神の憑代である神科学種のハルさまでございます」
「まさか冗談だろう。こんな人間のガキがミゾノゾミ女神の器なのか」
王子たちの目の前にいるのは、あまりに地味で平凡な人間だった。
カタストロフドラゴンを討伐した巫女女神とも、巷で出回る女神美人画のどれに当てはまらない、弱くてつまらない人間に見える。
「このハルという神科学種、ミゾノゾミ女神は儂の変装を見破って、皆より一足先に王都に帰してくれた。
ハハハッ、昨晩の祈りが女神様に通じたのかな。
どうも北の食事が口に合わなくて、早く王都へ帰って旨い飯が食いたいと願ったのだ」
白髪の巨人は王座に深々と腰掛けて足を組み豪快に笑ってたが、年老いた巨人王は深く溜息をつくと、肩をすくめ呆れた口調で呟いた。
「転送魔法陣が一人連れ去った兵士が、変装した父上だと知らされた時には肝を冷やしました。
まさか霊峰神殿の法王の仕業ではないかと思いましたよ」
それは不思議な光景だった。年老いた巨人王は王座に座る若い巨人を「父上」と呼び、かしずいた態度で接している。
何度も不思議そうに二人を見比べていたハルに、水浅葱が声をかけた。
「ハルさま、このハクロ王宮には巨人王と弐王がいらっしゃいます。
これは巨人王と王子、そして側近五名のみの極秘事項なのです。
霊峰神殿との戦いが激化していた十五年前、常に命の狙われていた巨人王 鉄紺さまは、もし自分が倒された時の影武者として容姿が瓜二つの第五位王子 五葉さまを弐王に据えました」
ハルの目の前の王座に座るのが、暴力王と渾名される 巨人王鉄紺。
その横に立つ年老いた巨人は影武者の弐王、第五位王子 五葉なのか。
「SENさんから、巨人族は老いが早いと聞いていました。
でも王座に座る鉄紺王は三十歳後半、青磁さまと同じ歳にしか見えませんよ」
王座に座る男からは全身からみなぎるような覇気が感じ取れ、浅黒い肌に目鼻立ちのはっきりした彫刻のような顔立ち、白髪が燃えるような赤毛なら竜胆によく似ている。
それまで黙っていた王の影YUYUは、ふわりと宙を舞い王座の肘掛けに人形のように腰掛けると、どこか思いつめたような表情でハルと目線を合わせた。
「それはねハルくん、鉄紺王は最上位種ハイエルフの私と共生の『王族の血と肉と魂の契約』を交わしているのです。
二十年前の契約日から、その呪の力で鉄紺王の肉体は歳を刻みのを止めました。
いずれ巨人王は、影武者を務めた第五位王子 五葉に継がれるはずでした。
しかし息子の方が父親を追い越し、先に年老いてしまったのです」
この終焉世界での『契約』の力が強力だというのは、『服従の呪』で言葉を奪われていたハルはよく判る。
そう言えば、ハルは前にも一度『王族の血と肉と魂の契約』という言葉を聞いたことがあった。
「巨人王鉄紺と弐王は、次の世代へ王位を継承するために次期王を選定します。
これより王の影である私が名を告げた王子が、次期王位継承候補です」
***
白髪の巨人王が座る王座の前に、改めて椅子が五脚用意された。
王の影YUYUが指名した王子たちが椅子に腰掛けるが、二席が空いたままだった。
名前を呼ばれず、部屋の後ろに追いやられた王子たちから不満の声が聞こえてきた。
だが、巨人王鉄紺は頬杖を付いたままその様子を面白そうに眺めるだけだ。
誰かがイラついた大声を上げた時、派手な飾り羽根の官帽を被った宰相、第三位王子ソテツが前に進み出てきた。
「次期王位継承候補は五人、しかし席が二つ余っていますね。
弐王推薦の第十九位王子桂樹と、王の影が推薦した第二十六位王子竜胆の姿が見えません。
それでは空いた一席は私、第三位王子ソテツが座りましょう」
愚痴る弟王子たちをたしなめるために出てきたのかと思っていたら、ソテツは涼しい顔で空いた席に腰掛けてしまった。
第三位王子は、弐王を務める弟より更に歳を取っている。
例え王座を得ても老いが迫り、数年も経たずにその地位を譲らなくてはならない。
「これまで甘んじて弟である弐王の下で仕えてきましたが、私にも王位継承権があります。
私は父上とは別の方法で、永遠の命とまではいかないが若返りの秘薬を手に入れたのですよ。
我が弟王子の中でも、最も優秀な第十七位王子の力でね」
唇を歪め冷笑を浮かべるソテツが両手をひとつ叩く。
突如、爆音を立てて観音扉が弾け飛び、部屋の外で警護したい近衛兵が白い鎧の白いマントの男たちに倒されていた。
壊れた扉をまたいで、黄金の髪に麗しい顔立ちの美丈夫のハーフエルフが姿を現す。
「ソテツ兄王子さま、遅れてしまい申し訳ありません。
私の入室を断った無能な役立たずどもを、少し懲らしめておりました。
次期王位継承候補の空いた残り一席は、宰相でもあるソテツ兄王子さまが私を推して下さいました。
半人前のハーフエルフには過ぎた心使いです。
ソテツ兄王子さまのご恩に報いるために、私の出来る事でしたらどんな務めでも果たしましょう」
あまりに唐突な出来事に、他の王子たちは訳が分からず二人の茶番劇を見ているだけだった。
王子たちが揉めている間に、宰相である第三位王子ソテツに次期王位継承候補の空席を掠め取られてしまったのだ。
その中で唯ひとり、事態を把握していた青磁は、空いた隣の席をけり倒すと紫苑の前に立ちふさがり、怒りを押し殺した声で吼えた。
「紫苑、二度と俺の前に姿を見せるなと告げたはずだ。
この汚らわしい傀儡使いめ、よくも神聖な王の間に足を踏み入れたな」
「これはこれは、一月ぶりですねえ、青磁兄王子さま。
さて、何の事をおっしゃっているのですか?
私は、廃王子とはいえ目上の砂磁兄王子には逆らえす、嫌々ながら魔獣を召喚させる術を教えただけです」
紫苑は、何を言われているのか全く身に覚えが無いという態度で、端正な顔立ちに戸惑いの表情を浮かべる。
するとソテツが紫苑を庇うように席を立ち、青磁の目の前に巨人王族宰相の証である『グリフォンの杖』を突きつけた。
「青磁、貴様の双子の兄は反逆者の廃王子で、魔獣に自らの心の蔵を与え使役したが、女神に狩られ自滅した。
それに廃王子の首を刎ねたのは、青磁お前自身ではないか。
私に忠誠を誓う紫苑は、霊峰神殿の法王に力に対抗するために、エルフの秘術を巨人族に授けるとまで言っているのだぞ」
そのソテツの口ぶりは、すでに自分が次期巨人王に選ばれたかのようなモノ言いだ。
例え巨人王に選ばれなくとも宰相の地位に居座り、自分より下位の王を操って終焉世界を実質支配することも可能なのだ。
巨人王鉄紺は苦笑いを浮かべ、騒ぎ続ける息子たちを黙って眺めていた。
その耳元で、白い総レースのドレスを着た愛玩人形のような姿をした王の影YUYUが歌うようにささやく。
「まぁ、驚きました。こんな生き生きとして、やる気に溢れる宰相ソテツの姿は初めて見ます。
これまで自分を押さえつけていた巨人王という目の上のコブが無くなるので、隠し通してきた本性を現したようですね。
自分が次期巨人王候補に為るためには手段を択ばない。
同じ血の流れる実弟を罠にはめ、汚れたハーフエルフと手を組むとは、私に勝るとも劣らない極悪人ですわ」
ハルは巨人王鉄紺の後ろに控えた水浅葱の隣でこの騒ぎを見ていた。
兄王子で宰相であるソテツにグリフォンの杖を突きつけられても、青磁は一歩も引くことなく相手を睨み返している。
誰もが二人に気を取られ、一瞬紫苑が姿を消した事に気が付かない。
「銀のエルフが必死に隠していたミゾノゾミ女神の憑代が、こんなみすぼらしい人間だったとは。
さて、顔を拝ませて貰いましょうか、偽ミゾノゾミ女神よ」
背後の声にハルが振り返ると、そこには冷えた眼差しで自分を睨みつけるハーフエルフがいた。
紫苑の長い腕が素早く伸び、ハルの後ろ髪をわし掴む。
「ハハッついに捕まえた、こんな人間がミゾノゾミ女神とは笑わせる。
我々はこの操り人形と仲間の神科学種、そして裏で糸を引く魔女「王の影」に騙されているんだ。
終焉世界の支配権を巨人族から奪うために、コノ人間を女神に仕立てて、ハーフ巨人の竜胆を巨人王候補に担ぎ上げ、民を欺き我々を利用しようとしている」
普段ならハルには護衛のために"くノ一"娘や萌黄、SENかティダが付いているが、ここは王族の身が出入りを許された場で、ハルに護衛はついていない。
水浅葱が慌ててハルを庇おうと駆け寄るが、しかしそれよりも早く。
チャリッ シャラ シャラ
ハルの襟首から、鞭のようにしなりながら銀の蛇が飛び出してきた。
銀の蛇はハルの髪をわし掴む紫苑の手首に絡みつき、指の間に入り込んで手を離させる。
執事服のベストの内側からも細い鎖が金属音を立てて這い出し、足下でとぐろを巻き威嚇している。
「こ、これはティダさまがお仕置き調教用に操る銀の蛇!!
それをハルさまが身につけているなんて、ま、まさか」
「おおう、では平々凡々な人間の服の下に隠された亀@縛りが!!」
「麗しい冷たい銀の氷のような天女と人間が、あーんな緊縛プレイやこんな事をシているのか!?」
水浅葱の黄色い声と野太い巨人王子たちの声が絶妙なタイミングでハモる。
どうやら後宮滞在中の王子たちは、妄想力旺盛な姫や女官からイカガワシい噂話を色々と聞かされているらしい。
「うわぁーっ、水浅葱さん何言ってんですか!!
銀の鎖はベストの内ポケットに入れていたんですよ。
ああっ青磁さままで、なに顔を赤らめているんですか」
一度ティダの銀の蛇にしたたか痛めつけられた紫苑は、細い鎖が床を叩く渇いた金属音に警戒し、ハルを捕らえる事を諦めた。
気を取り直した水浅葱が背後にハルを庇い、その隣で青磁王子が腰の剣に手をかけたまま紫苑を睨みつける。
一触即発の場面で突如風が巻き起こり、全身を白いレースで着飾った王の影YUYUが、睨み合う二人の王子の間に高速移動してくる。
突然、寒気がした。
いや、部屋の中の空気が王の影YUYUが全身から放つ怒りの波動で、一気に冷えたのだ。
風が巻き起こり飾られていた花々は瞬く間に散り、繊細なクリスタルのグラスは音をたてて次々に砕け散った。
「紫苑王子、私は王族同士の争いには手出ししません。
しかしミゾノゾミ女神に危害を加えようとするの者は、例え王子という肩書きのあるお前でも容赦しません。
神科学種ハルはミゾノゾミ女神の憑代。
私は巨人王の命を受け、直々に神科学種ハルを王都に招いたのです。
他の王子も、これまで様々な豊穣と奇跡をもたらした女神を疑い霊峰神殿側に付くのであれば、王の影が動く事になるでしょう。
どちらの陣営に付くかよく考え、それなりの覚悟をしていて下さい」
王の影の魔力行使のすさまじさを知る宰相ソテツは酷く怯え、後ずさりながら父親の巨人王鉄紺を見るが、王座に腰掛けた白髪の巨人王は涼しい顔でYUYUを眺めていた。
「王の影よ、脅すのもそれ位でいいだろう。
小僧共よく聞け、国王選定の場を一月後に設けることにした。
巨人族は力こそ全て、儂は王族同士のいかなる争いにも一切口出ししない。
己こそが次期王に相応しいと思うなら、それを力で示すがよい」
◆二十六人の巨人王子まとめ
第三位王子 蘇鉄(宰相 第三位王妃 長男)
第五位王子 五葉(弐王 第三位王妃 二男)
第七位王子 青褐(画伯)
第十一位王子 砂磁(双子の兄 廃王子)
第十二位王子 青磁(双子の弟)
第十七位王子 紫苑(ハーフエルフ)
第十九位王子 桂樹(第三位王妃 三男)
第二十六位王子 竜胆(ハーフ巨人)