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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
オアシス編
10/148

クエスト8 大神官と会話しよう

トホホ、注:R15 になってしまいました。

 その部屋はオアシス女神聖堂の中で最も美しく、金の壁にヒスイの柱、様々な宝石で彩られた女神像が祭られている。

 部屋の外でひかえていた下級神官は、中に声を掛ける。


「大神官様、面会のお時間です、神科学種の冒険者が到着しました」


「神聖な禊の最中だ、しばらく待たせておけ」


 自分の体を支えきれないほどでっぷりと太っり、たるんだ腹に香油を塗りこみながら、濁った眼の大神官は甲高い声で返事をする。


 湯気がたちこめる部屋の中、禊を行う湯殿には並々と湯が張られ、異国の花が大量に浮かべられていた。

 湯殿の中で男の体を丁寧に洗う少女は、薄布一枚で水に濡れ、まだ未成熟な体のラインが浮かび上がった状態で、舐めるような邪な視線に晒されていた。


 大神官は、湯殿から出ようと少女の細い体にのしかかり、重い自分の体を支えさせる。

 小柄な少女に、その太った大きな体を支えきれるはずもなく、悲鳴を上げて膝から崩れ落ちると床に押し潰される。


 カランッ カラ カラ カラ


 少女の倒れた先に置かれていた香油の瓶が倒れ、中身がこぼれてしまう。

 全身の痛みに耐えながら顔を上げると、そこには奮怒の表情で目を血走らせた男がいる。


「この役立たずめ!!

 都から取り寄せたこの香油は、お前の何倍も価値のあるものだぞ」


 大神官は肥満体を支えるために持つ杖を振り上げ、激しく少女を打つ。


 下級神官は身をすくめると、自分が巻き込まれないように、慌てて部屋を出てゆく。

 ヒステリックな罵声と、少女の哀願する悲鳴、激しく打たれる音が響き続けた。



 ***



「お初にお目にかかります大神官様。

 私はSEN、後の者はティダとハルと申します。

 我々はオアシスに迷いこんだ神科学種の冒険者、決して怪しい者ではございません」


 うやうやしく頭を下げる男が身に着ける衣装は、高級な艶のある生地に襟や腕のこった装飾、王都の貴族が好むような高価な品だった。

 礼儀に則った洗練された仕草、しかし右頬のタトゥーは武士の証、そして眼光鋭い視線は油断ならないものがある。


「我々は、しばらくこの村で滞在する予定ですが、大神官様には何かとご迷惑をおかけするかと思いますので、これを、女神様への忠誠の証としてお納めください」


「お、おう、なんとこれは素晴らしい。淡雪ユニコーンの杖ではないか」


 大神官に差し出された品(袖の下)は、もちろんハルが出した激レアアイテム。

 杖に頭部に大きな3色の水晶がはめこまれ、持ち手の部分は純金、杖本体は淡雪ユニコーンの角でできていた。


「はい、聖人であらせられる大神官さまに相応しいモノをと思い、お持ちしました。」


 禊での少女の失態に不機嫌になっていた大神官は、喜色満面で杖を受け取ると満足そうにうなずいた。

 その大神官の様子を確認して、SENはたずねた。


「ところで、このオアシスには他にも我々の様な冒険者はおりますか?」


「いや、転送ゲートが壊れてからは、そのような者たちは訪ねてこないな。」


 霊廟から迷い出てくる神科学種に中には、冒険者を名乗る毛色の変わった者がいる。

 オアシスに居た冒険者たち、下らぬ正義感を振りかざす邪魔な連中は、1年前に全員粛清された。

 この男はどうだろう、権力者たる者への対応も心得ており融通が利きそうだ。


「この尊い行為、女神様もお喜びであろう。

 我々は女神様の愛児、仲間である。

 私に、SEN殿の連れのモノも紹介してもらえるかな」


 聖堂の入口で控えていた神科学種の二人が立ち上がり、中に足を踏み入れた。


 顔を上げた銀髪の麗人を見て、入口警備の背の高い神官が溜息をもらす。

 透き通るほど白い肌に切れ長な美しい瞳、見惚れるような微笑みを浮かべている。

 そして、後からオドオドと付き従う少年には、気にも留めなかった。


 ハルは、SENの合図に気が付くのは遅れ、ティダは先に聖堂の中に入ってしまった。

 慌てて立ち上がると、つんのめりながら磨き抜かれた大理石の廊下に足を踏み入れた。


 チリンッ チリンッ  


 ハルの頭の中で、小さな鈴の音が鳴り響く。

 聖堂に踏み入れた脚先が微かに光ったかと思うと、体中を光が駆け巡り、それが倍に膨れ上がって外へ流れ出すような感覚。


 聖堂内でほんのりと灯っていた『神の燐光』と呼ばれるランプが、突如、音を立てて煌々と燃え上がる。

 天井から吊り下がる水晶玉に光が宿り、カラーボールのように周囲へ五色の光を放つ。


「ううっ、何が起こったのだ!!

 これは、神力が、女神の祝福が、聖堂に集まって来ている」


 驚いて叫ぶ大神官の視線の先には、白いドレスを着た天女のような美しいエルフが立っている。

 広い部屋の入口で、驚いて立ち尽くす少年には気付かない。


「これはハルの力だ。ティダ、上手くごまかしておけ」


「えぇえっ、いきなり何いってん……

 ご機嫌麗しゅうございます、オアシス聖堂の大神官様っオッホホホッ」


 SENは、ティダの背中を強引に押して入れ替わり、大神官の前から下がる。


 入口に立っていた警備の神官も、ティダに見惚れて、ハルの異変には気が付かない。

 SENは、ポカンと突っ立ったままのハルを脇に抱えると、大股でその場を離れる。





 ずる ずる ずる ずる~~~


「うわっ、落ちる、落ちる。どうしたんですかっSENさん!!」


 脇に抱えられ、半分引きずられるように聖堂を出たハルは、周囲の景色が変わったことに気付く。

 聖堂へと続く白い石畳の大通りは、両脇の街灯が光が膨れ上がるように輝き、夕暮れ前の聖堂は鮮やかにライトアップされ光り輝いていた。


 聖堂門の上部に、錆びて埃を被った銀鈴が、突然、女神をたたえる神曲を謳いだし、その音色がオアシス中に響き渡る。


「な、なんて、暖かくて眩しい、街灯の『神の燐火』が輝いてるぞ」

「壊れて鳴らなくなった銀鈴が、神曲を奏でている。これは、どこかに聖人様が現れた」

「我々の祈りが通じたのか?ミゾノゾミ女神が、この苦しみから救ってくださる」


 村人たちは驚きの声を上げ、不思議そうに光を取り戻した『神の燐光』を見つめ、銀鈴の奏でる『神曲』を聞いている。


 彼らと同じように、光り輝く聖堂を眩しそうに眺めるハルを、SENは奇妙な想いで見つめていた。


「俺たちは、ハルの『幸運度』を簡単に考えていたようだ」



 ***



 四年間、ひたすら『End of god science -神科学の終焉-』をプレイしたSENの目から見て、ハルの能力『幸運度』は特異なモノだった。


 ゲームを楽しむ要素の中に、トレジャーハンティングがある。

 モンスタードロップ品やダンジョン報酬の宝箱数々は、人の欲望を掻き立て執着を生み、ゲーム中毒の廃プレイヤーを生み出す。


 しかし『幸運』を約束されたハルには、ゲームを楽しむ執着や欲望が薄い。

 レアアイテムを収集するだけ、チートやBOTのようなこの能力に何の意味があるのか。


 ところがハルは、先入観や固定観念のない柔らかな発想で、この膠着し終焉に向かう世界に小さな変化を起こす。

 その『幸運力』は、別の呼び方「奇跡」「祝福」と表わすことができる。



 --------------------

 科学の知識と魔法と力を兼ね備えた者たちが、精霊の導きで終焉世界に蘇る。

 彼らは、世界を豊穣へ導くのか、破滅へ導くのか。

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 ハルは、俺たちは、精霊の導きで終焉世界に蘇ったのだろうか?


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