表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片想いの彼女に地球へ召喚されたけど、私はすでに「一目で人を堕とす災厄の魔王」になっていた  作者: 狐白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/6

第3話

「ここは……」


車は、にぎやかな繁華街の一角で止まった。


渋谷……? それとも別の場所?

……ごめん、もう十年以上も地球を離れてたから、目に映るものすべてがどこかよそよそしく見える。


それに、ひとつだけははっきりしてる。


ここは――私が知ってる地球じゃない。


「……キマイラ?」


空の上を、大きな鳥に乗った騎士が飛び去っていく。


広場の中央では、転移陣の光が絶えず瞬き、鎧を着て剣や槍を背負った人たちが、ひっきりなしに出入りしていた。


……っていうか。


知り合いがいたんだけど!?


「やっほー! 勇者! 地球にも来てたんだね!」


勇者はTシャツ姿の地球人っぽい男と一緒にいて、楽しそうに笑いながら話していた。


――のに。


私を見た瞬間、顔が一瞬で青ざめて、その男の腕を引っつかんで全力ダッシュで逃げた。


「……ちょっと、なんで逃げるの。私、別に魔王とかじゃ……あれ、いや、魔王だったっけ……?」


自分ではそんなつもり、まったくないのに。


周りから見たら、私は魔王らしい。


しかも――一番やばいやつ。


「あれは……“雷霆の剣”様? あなた、あの人を知ってるの?」


紗月が少しだけ意外そうに目を細める。


どうやら、勇者の隣にいた人、かなりすごい人らしい。


「いや、そっちは知らないけど……隣の人は知ってるよ! あれ、元勇者だよ! あの有名な勇者オリヴァー! 人類の希望って呼ばれてて、第一魔王を倒せるかもしれないって言われてた人!」


「第一魔王? それはお前のことだろう」


「うっ……まあ、そうなんだけど……」


「だが、その男はお前を見て即座に逃げた。戦意の欠片もない。どうやら、名ばかりの存在だったようだな」


「…………」


……いやまあ。


あの人、自分で「私に魅了されたから人類を裏切った」とか言ってたけど。


実際は、タコ姫と駆け落ちしただけなんだよね。


……あれ、私が面と向かってバラしたら、さすがに恥ずかしすぎるでしょ。


「わあ……懐かしいものいっぱい……! あの屋台の貝、潮鳴島の特産だし、あの赤い果物、私いつも食べてたやつだし……あっ! あれ、凛冬国のトマトカリカリボール!? 食べたい! 食べたい!!」


……うん。


異世界の食べ物、全部がまずいわけじゃない。


ただ――


私が食べてたものが、ひどかっただけ。


だって人間の街なんて怖くて入れないし、ずっと山とか森に引きこもってたし。


食べ物なんて、拾ったものが基本。


果物か――


理由もわからず死んでる魔物の死体か。


たまに、妙に元気そうな魔物しかいないときは、知らない植物に手を出すしかなくて……


食べて、気づいたら倒れてる、みたいな。


……うぅ。


紗月に召喚されて、本当によかった……!

人間の世界、最高……!


「すみませーん! トマトカリカリボール一つください! あ、あの、凛冬国の銅貨って使えますか?」


お金は一応、持ってる。


……ほとんど、死んだ冒険者のポケットから拾ったやつだけど。


国ごとの通貨もいろいろあるし。


――まあ、使う機会なんて一度もなかったんだけど。


「何をしている」


不意に、紗月が私の手を掴んだ。


ひんやりした手のひらが重なって、私の手の中の銅貨をぐっと引き抜く。


「円でいい。そんなものを使う必要はない」


「え? そんなもの……?」


私はぱちぱちと瞬きをした。


だって銅貨って、一番安いやつだよね?


凛冬国でも、こういうの一つ買うのに三枚くらいは普通に使うのに。


「お嬢さん、地球に来たばかりだね? ここじゃ地球のお金で十分なんだよ。異世界の通貨はね、もっと別の用途があるんだ」


屋台のおじさんが、にこにこしながら教えてくれる。


「でも、このトマトカリカリボールって、凛冬国の材料で作ってるんですよね?」


「それはダンジョンから手に入る素材さ。味はいいけど能力は付かないから、安く出回ってるんだよ」


ダンジョン……?


……気になる。


地球、どうなってるの?


なんでこんなに異世界のものが混ざってるの?


……私まで召喚されてるし。


そんな私の様子を見て、紗月が口を開いた。


「三年前、この世界に“ダンジョン”と呼ばれる領域が出現した。お前たちの世界の魔法や道具、そして魔物を伴ってな」


三年前……?


それって――


私が死んだ年じゃん。


……え、待って。


私、どれだけ面白いこと見逃してるの!?


「お待たせしました。トマトカリカリボールです」


「ありがとうございます!」


受け取った瞬間、我慢できずに口へ。


あむっ。


さくっ――


……え、なにこれ。


甘酸っぱいのに、じゅわって中から汁が出てくる……!


しかも外はサクサク!


おいしい! おいしい!!


異世界で十年以上過ごして、やっと地球で食べる異世界グルメ……!



しあわせ……。


目を閉じて味わっていたら、ふと視線に気づいた。


紗月が、じっと私を見ていた。


少し眉間にしわを寄せて。


……あ。


「ごめん、はい」


慌てて容器を差し出す。


……あれ、なんか余計にしわ深くなった?


「ほんとにおいしいよ」

一個つまんで、真剣な顔で差し出してみる。


「……お前は……」


紗月は半歩下がった。


どこか疲れたような声で。


「本当に、あの第一魔王なのか?」


「違うよ!」


そこは全力で否定する。


だってほんとに違うし!


家にこもってただけで、人間の街なんて怖くて行ったこともないのに!


なのに噂だけどんどん変な方向に膨らんでいくし!


「私は魔王なんかじゃないよ。勝手にそう呼ばれてるだけ」


「だが、“第一魔王”と呼ばれているのは事実だろう」


「うっ……まあ、それは……そうだけど……。あむ――」


さくっ。


……おいしい……。


紗月が、わずかに息をついた。


「……私の選択が無駄でなかったことを願う。第一魔王。お前の望みは可能な限り叶える。その代わり――力を貸せ。魅惑の力を」


「魅惑? やだ」


「なぜだ」


「人の気持ちを歪めて、感情を踏みにじるなんて……そんなの、絶対にやらない!」


「……」


紗月は黙って、スマートフォンを取り出した。


画面には、“最強の災厄――第一魔王エイヴェリア”についての情報が並んでいる。


終わりの見えないほどの罪状。


それから、もう一度私を見る。


……そして、何も言わずに沈黙した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ