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片想いの彼女に地球へ召喚されたけど、私はすでに「一目で人を堕とす災厄の魔王」になっていた  作者: 狐白


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第2話

はぁ???


ま、待って……ちょっと待って!


み、み……魅惑!?


しかも、私が別の女の子を魅了しろってこと!?


私だよ!? 紗月! なんでそんなことさせるの……!


うっ……頭……


……くら、くらする……


こ、これ……契約のせい?


思考がぐちゃぐちゃで、全然集中できない。


ダメ……!


「がぶっ――」


思わず自分の尾を噛んだ。鋭い痛みが走って、かろうじて意識が引き戻される。


どうして、他人に魅惑なんて使わなきゃいけないの……


どうして、どうして……人の感情を操るなんてこと……!


そんなの……それじゃ、本当に“災厄”になっちゃうじゃない……!


やだ……


そんなの、やりたくない……絶対に、やりたくない!


「……ほう?」


紗月が、わずかに目を細めた。


契約陣の幽紫色の光が、その瞳の奥で輪のように揺らめく。


「契約に従うのが不服か。やはり……この程度の命令では足りないようだな」


彼女は静かに腕を上げ、その手を私の額へと添えた。


「やめて……」


喉の奥から、かすれた声を絞り出す。


縋るように、彼女の瞳を見つめる。


「その目を向けるな。お前の魅惑は、私には通じない」


紗月の声は、視線と同じくらい冷たかった。


その瞳の中で、契約の光が高速で巡る。


「お前が魅了すべきは、あちらだ……行け」


次の瞬間。


氷のように冷たい呪力が、紗月の掌から流れ込み、直接、私の意識へと侵入してきた。


視界が滲む。


思考が溶けていく。


そして――


絶対の命令が、魂に刻み込まれる。


魅惑。


魅惑スキルを発動しろ。


対象――黒巳冥華。


抵抗する力が、すべて剥ぎ取られていく。


魅惑が完了するまで、他の思考は許されない。


私は、ゆっくりと立ち上がった。


そして――黒巳冥華を見た。


「……へぇ?」


彼女は、面白そうに口元を歪めた。


スーツの下のしなやかな体がわずかに伸び、瞳はその黒蛇の刺青のように、細く鋭く収束していく。


刺青が、まるで生きているみたいに蠢いている。


蛇の舌が、ちろりと覗いた気がした。


首を傾げながら、静かに――冷たく私を見下ろしている。


……完全に、毒蛇に狙われてるんだけど。


しかもそのタイミングで――


私の体、なんかバグった。


――魅惑スキル、一回も使ったことない。


どうやって使うのか、わからない!!!


どうすればいいの!?


近づいてキス?


投げキッス?


目を見つめる?


ハート作ってみる?


チュ〜ってやるやつ!?


「…………」


気づいたら、もう目の前にいた。


黒巳冥華は私より背が高くて、完全に見下ろされている。


まるで巨大な蛇に絡め取られて、上から観察されてる感じ。


牙、見えてる気がするし。


こわい。


私、固まる。


唇が震える。


そして――


止まった。


完全にフリーズ。


処理途中で固まったプログラムみたいに、次の行動が出てこない。


「……こんにちは、小さなお嬢さん」


黒巳冥華は、くすりと笑いながら私の顎を指先で持ち上げた。


一切の躊躇もなく、真正面から私の目を覗き込んでくる。


むしろ、こっちのほうが無理。


その蛇みたいな瞳、圧が強すぎて逃げたくなる。


目を逸らしたい。


逃げたい。


でも――


命令が、逃げることを許してくれない。


バグと命令が、頭の中でぶつかり合ってる!


どうするの、私……!


そして結局――


何をどう考えたのかもわからないまま。


目の前の“蛇”に飲まれかけたまま。


ぐちゃぐちゃの頭で、私は小さく唇を噛んで――


震える声で、こう言った。


「……あの……


 ちょっと、魅了させてもらっても……いいですか?」


ぱしっ。


紗月が顔を覆った。


「……私は、何を召喚したんだ……」


「…………」


その瞬間。


正気に戻った。


顔が一気に熱くなる。


耳まで真っ赤。


やばい。


やばいやばいやばい。


なに今の!?


私なに言った!?


無理無理無理無理!!


恥ずかしすぎるんだけど!?


「くっ……ふ、ふふふふふ……あははははははははッ!! 面白い……可愛い……っ、最高だ……!」


黒巳冥華が、ぞわっとするような笑い声を上げた。


次の瞬間。


顎を持っていた手が、そのまま首を掴む。


「っ――」


喉が締め上げられて、空気が一気に抜ける。


顔が近い。


近すぎる。


その目、完全に捕食者。


刺青の蛇が、肌の上を這い、腕へと移動してくる。


そして――


ちくっ。


首筋に、軽い痛み。


蚊に刺されたみたいな、一瞬の刺激。


次の瞬間、ぱっと手が離れた。


空気が戻る。


私はその場に崩れ落ちて、必死に呼吸を繰り返した。


はぁっ、はぁっ……!


「はぁ〜……たった一人の死んだ男のために、ここまで来るとはねぇ」


黒巳冥華は背を向け、気だるそうに手を振る。


「神代紗月。相変わらず、つまらないほど執着してるじゃない」


ぱちん、と指を鳴らす。


周囲のスーツ姿の男たちが、一斉に武器を下げる。


彼女の手の甲にあった蛇の紋も、すっと消えた。


彼女は指先についた血を、舐め取る。


「すぐそばに宝物があるのに、それに気づかないなんて……くくっ」


くすりと笑い、そのまま路地の外へ。


「まあいい。そこまで欲しいなら……このダンジョンは譲ってあげる。


 また会いましょう、小さな子――ふふっ」


去った。


あのヤバい女、ようやくいなくなった……!


首、まだじんじんする……


なんか、噛まれたみたいな感覚なんだけど……?


でもとにかく!


危機脱出!! やったぁ……!!


……いや待って。


ダンジョンって何?


ここ地球だよね?


あとさっきの話……


紗月が“死んだ男”のためにここまで来たって……誰のこと?


「対象は撤退した。予定通り、A班とB班は突入、攻略を開始しろ」


紗月が、淡々と命令を下す。


「C班とD班は外周警戒。ABの交代に備えろ」


「私は本部へ戻る。準備がある」


そして――


「お前はついてこい。第一魔王」


私はぼんやりと地面の穴を見ていた。


中で、青い光が揺れている。


……本当にダンジョンあるんだ。


そりゃ人も召喚されるよね……


地球、どうなってるの……?


それに、紗月……


どうして、あんな風に……


さっき、私に命令した時の顔を思い出して。


胸が、ぎゅっと痛くなる。


「おい」


気づけば、紗月は黒い高級車の横に立っていた。


「これは“車”だ。お前たちでいう魔獣の乗騎に近い。乗れ」


……知ってるよ、それくらい。


私は目を閉じ、小さく呪文を唱えた。


九本の尾が、一本に収束する。


やっぱりこの形が落ち着く……


車に乗り込み、尾を抱えて座る。


窓の外。


見慣れた街並み。


ビル、屋台、ゲームの広告。


それだけで、胸がいっぱいになる。


帰ってきたんだ……


そして思う。


異世界のご飯、まずすぎた……!!


紗月は隣で、ずっと無言だった。


何も説明しない。


私はちらっと彼女を見る。


彼女の手には、握られたペンダント。


中には写真が入ってるみたいだけど……見えない。


……新しい彼氏、とか?


胸が、ちくっとする。


でも、それが普通だよね。


私はもう“災厄”なんだし。


紗月に、普通の幸せがあるなら……


その方がいい。


……でも。


なんで裏社会なんかに?


やっぱり、あの男のせい?


もしそうなら――絶対に許さない。


顔くらいは見てやる……


私はこっそり身を乗り出した。


ぱちん。


ペンダントが閉じられる。


「着いたぞ」

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