第3章【後編】 初めての魔法の塔
翌日、朝からアランの元を訪れ、早速見習いとしての仕事を始める。
とはいえ、いきなり仕事はできないので、挨拶だけしたら訓練場へ移動だ。
見習い全体での訓練を行い、魔法について学んでいく。
特にエマは学校に行っていなかったので、独学で文字の読み書きも出来るし、魔法も使えるのだが、他の人よりも基礎学習などがしっかり組まれているらしい。
「・・・アラン様、おはようございます。」
「エマ、おはよう。」
あまり愛想のいいアランではないが、エマに向ける声は柔らかい。
「そうだ。今日からは私が師匠だ、この塔ではアラン師匠と呼ぶように。
今日は早速魔法の基礎の授業だ。
エマにとったら退屈に感じるかもしれないが、自分の得意魔術が知れたり、面白いこともあると思うから頑張りなさい。」
「退屈なはずありません。・・・しっかり学べる機会をいただけるなんて、夢のようです。
アラン師匠、改めてありがとうございます。」
お辞儀をして頭を戻すと、アランの大きな手で頭をなでられた。
「応援している」
「はい。」
魔法は、自分の特性に合わせたほうがいいということで、特性判断から始まった。
自分の魔力を少し、検査機に流すだけの簡単さだが、この検査機自体が貴重なのだそうだ。
「風、ですね」
基礎を教えてくれる優しそうな女性の先生がすぐに結果を教えてくれた。
「・・・風」
それを聞いて少し納得した。
あ~だから、と今まで作っていた魔法道具の得意不得意に納得できた。
「あと、珍しいことに癒しの効果もあるようね。」
「それは分かります。というか、小さいケガは自分で治せることが分かって、その時に自分の魔力を実感しました」
「まぁそうなの?風で、癒しの効果があるなんてすごく珍しいことなのよ。良かったわ。あなたがここに来て」
「?・・・はい。良かったです。」
先生の言うことはよく分からなかったが、ここに来てよかったとは、昨日からずっと思っているので同意した。
さっき「応援している」といったアランの大きな手の感触を思い出しながら、ワクワクする心と、それに慣れないソワソワした心地で残りの授業を聞いた。
エマが魔法の塔に来てから2週間ほど経った。
今魔法の塔の女性はすれ違う度にいい香りがするし、持っているものが少しずつ可愛くなっている。
しかもそれは、アランも例外ではなかった。
読んでいた本に挟む栞はピンク色の可愛らしいもの。
読み始める時に、ふわっと風の力でそのページが開くという、ちょっと便利な栞なのだ。
「あらあら。アランもだいぶエマちゃん色だね~」
お昼過ぎにアランの研究室にやってきたリオネルは、アランの持ち物とは思えない可愛い品を目敏く見つけた。
「良いだろう。便利だぞ」
「はいはい。分かっていますよ~。それにしてもエマちゃんは働き者だね。」
「いえ、勉強させてもらって、先輩たちからは素敵なお洋服なども沢山いただいているので、少しでもお礼をさせていただきたくて」
そう、2週間経った今、エマの見た目は別人のようになっている。
継ぎはぎは当然ないし、リボンやレースがついた、エマがずっと着たかったピンクや黄色の可愛い服がマントの下からのぞいている。
それもそのはず。セラフィネが友人や先輩魔法使いたちに声を掛け、エマに可愛いものをどんどんあげているのだ。
そして、エマはお礼として店で作っていた魔法道具を作成してお返ししている。
しかも、店で作っていたような実用一辺倒なものではなく、エマの思う可愛いを詰め込んで作ったものだ。
それを気に入った先輩たちがさらにあげるということがおきていた。
当初受け取るのを遠慮していたエマだが、セラフィネからリオネル、アランへとそのことが伝わり、アランからエマへ「これでお礼を作って渡せばいいから、遠慮するな」と材料を用意してくれたので、使わせてもらっている。
いつかアランにお返ししなければならない。
自分が作ったものが褒められて、さらに欲しいと求められることが今まで無かったし、お礼に可愛い服やクッキーといったものが返ってきて楽しくて仕方がない毎日を過ごしていた。
更に日は過ぎ、エマがいつものようにアランの研究室で作業をしていると、アランから袋が手渡された。
「はい。初めての給料だな。大事に使うんだぞ。」
「わ。ありがとうございます。」
手にすると、想像以上に重い袋にビックリした。
「私勉強させてもらって、衣食住もお世話になっているのに、こんなに貰えません!」
「何を言っている。見習いの給料なんて大したことないぞ。それくらい貰っておけ」
「・・・でも、こんなに沢山のお金、どうしたら・・・」
「今まではどうしてたんだ?金庫とかあるだろ?」
「・・・・・」
エマの気まずそうな反応を見たアランがしまったという顔をした。
ここに来た時、エマはおさがりの着替え数着しか持ってきていなかった。
つまり、そういうことだ。
「セラフィネに相談してみなさい」
すぐ笑顔に戻したアランに頭をぽんぽんとされる。
「そうします」
エマも笑顔に戻った。
「あの、アラン師匠。お茶の時間にしませんか?」
エマはドキドキしながらアランをお茶に誘う。
「あぁ、エマが珍しいな。疲れたか?」
「いえ、そうではないんですが、先日セラフィネさんにお給料のことを相談して、無事金庫を用意しました。それと、どうしてもアラン師匠にお礼がしたくて、これを」
エマが差し出したのは、お皿に乗った可愛いケーキだった。
「アラン師匠に家から出していただき、私今、ここでの生活が毎日すごく幸せなんです。だから、ありがとうございます!」
アランにして貰ったことは、もちろんケーキ一つでは全然返せないけど、自分で稼いだお金を初めて貰ったとき、まずはアランにお礼がしたいというのがエマの希望だった。
そこまで含めてセラフィネに相談して、今日のケーキになった。
「私こそ、あの日エマに助けてもらわなければ今が無かったかもしれないんだ。ありがとう。ケーキもいただくよ。」
その日のお茶の時間は今の幸せをかみしめるような楽しい時間になった。




