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第3章【前編】 初めての魔法の塔

魔法の塔は、この国に住む人なら誰だって知っている魔法使いとして最高位の者たちが集まる場所だ。

誰もが魔力を持っているが、誰もが魔法使いになれるわけではない。

魔力が多く、その扱いや知識に長けたほんの一部の人間のみが、魔法使いとしてこの塔に入ることが許される特別な場所。



そんな場所に、今日から私は魔法使い見習いとして入ることを許された。

少し足が震えている。

一歩進むごとに震えが大きくなっていく気がする。


『私なんかが本当に良かったのかな・・・』

あの日から、この問いはずっと続いている。


手持ちの中から、一番まともな服を着てきたが、

こんな立派な塔の前では、やっぱり地味で、みすぼらしい自分が恥ずかしい。


それでも門番が立つ門に向かって歩いていくと

いつものマントを羽織ったアランと、もう一人同じくらいの背丈の男性が待っていてくれた。

「・・・アラン様、今日からよろしくお願いします」

「あぁ。よく来たな。」

「エマちゃん、こんにちは!俺はアランの同僚でリオネルっていうよ。よろしくね。」

「・・・は、はい。エマです。よろしくお願いします。」

「エマちゃんを発見したの、俺だからね!仲良くしようね♪」

「・・・・リオネル。うるさい。」

「いやいや、エマちゃんの味方は一人でも多い方がいいじゃない」

「中に入れないだろう」


そう言ってアランはエマにマントをかけてくれた。

アランたちは足首ほどまである長いマントだが、

見習い用は短くて、腰丈のマントだ。


「あ・・・マント。ありがとうございます」


「これが魔法の塔の身分証みたいなものかな。着てないと中に入れなくなるからね。外に出る時とか気を付けるんだよ~」

「・・わ、わかりました。」


「行こう」

「・・・はい」



「セラフィネ、エマだ。先に部屋へ案内してやってくれ」

「はい。エマちゃん、初めまして。セラフィネです。」

そういって握手を求めてくれたのは、とてもきれいな女性だった。

エマと同じ腰丈のローブで、セラフィネも見習いだと分かる。


「初めまして。エマです。よろしくお願いします。」

「うん。まずは荷物を置きに行きましょう。

見習いのうちは個室じゃなくて、私と同室になるけど、仲良くしましょうね」

すごく優しい声で、エマの緊張がすこし緩んだ。

「ありがとうございます。」


案内された部屋は、2人で使うには十分に広く、

ベッドにも暖かそうな布団が用意されていた。


「エマちゃん、荷物はそれだけ?」

「エマと呼んでください。荷物は、もともとあまり持っていなくて。」

「そうなの。じゃぁセラフィネお姉さんが、最初の贈り物をしましょう。」

そう言って渡されたのは、すごく素敵なクリーム色のワンピースだった。


「・・・え?こんな素敵な服、いただけません!」

「いいのよ。私がエマちゃんくらいの時の服で、今はさすがに着られないもの。

気に入っていた服だから、着て見せてくれたら私が嬉しいわ。」

「・・・でも」

「実はこの後入塔式があるんだけど、下は白い服って決まってるの。

エマちゃんのそのかばんに入ってる?」

「・・・・そんな、アラン様はそんなこと一言も!・・・・・・ありません。」


「着替えましょう。」

「・・・・ありがとうございます。」


その後は怒涛の勢いで時間は過ぎた。

魔法の塔を下から上まで回って挨拶をし、塔長から祝福の魔法をかけてもらって、食べたことも見たこともないような豪華な夕食を頂き、部屋に戻ってきた。

「私なんかが本当に良かったのかな?」と戸惑っていたのに、そんなことを考える時間もないほどあっという間に、人生初のものすごい体験ばかりが押し寄せてきたような感じだ。


「エマちゃん、疲れたでしょ?もう寝ちゃう?」

「・・・・はい。すみません。」

「謝らなくていいのよ。私は少し片づけに戻るから、寝ててね。おやすみなさい」


そう言ってセラフィネは部屋を出て行った。


もう何もしたくないほど疲れた。

でも、街にいた時の周りの目と違って、皆微笑んで歓迎してくれていた、と思う。


なんとかマントと靴を脱ぎ、いただいたワンピースも脱いで浄化の魔法をかけ、寝る支度をしてベッドに入った。


今まで感じたこともないベッドの柔らかさに、すぐに眠くなるかと思ったら、沢山の人と話した興奮なのか身体の疲れに反して目がぱっちりしていた。


思い出すのは、あの日のことだ。

アランに突然魔法道具が好きかを聞かれ、肯定したら「では、私のところに来い」と言われた。


魔法の塔に誘われていると分かり、これは家を出られるチャンスだとすぐに気が付いた。


最初は魔法の塔に惹かれる気持ちもあったが、すぐに親に許されるハズがない、怒られるという恐怖の方がまさり、返事は出来なかった。


アランはすぐに返事は求めなかったが、店にそれからも何度もきて、「エマの身体が心配だ」「魔法の勉強がしっかりできるぞ」「同年代の友達もできる」「見習いでもお給料がでるぞ」とあらゆるエサをぶら下げて説得してくれた。

そして「両親は私が説得する」というのが決定打だったかもしれない。

「お願いします」と返事をすると、アランはすぐに動いてくれた。


両親を説得し、見習いという立場を用意し、アランの推薦のもと試験を受け、承諾からたった数日でエマはここにいる。


それでも、その数日は簡単ではなかった。

今まで以上に仕事を増やされ、それなりに優しい声かけをしてくれていた兄には「お前なんかがなぜ魔法の塔へ行くんだ?どうせ試験に受かるはずがない」と、けなされ続けて家に居場所がなかった。


ここに来るための準備など、もちろん何一つしてもらっていない。

エマがここに来るために持ってきたのは、自作した軽量の魔法がかかったカバンに、いくつかの下着と服を入れてきただけ。

見送られるどころか、朝早くこっそりと家で同然に出てきたくらいなのだ。



でも、今日からは・・・

もらった素敵なワンピースを見ながら、エマに向けられた優しい笑顔や声を思い出す。

中には厳しそうな顔もあったけれど、両親に比べたら全然怖くない。


『・・・ここで生活できるんだ。』

そう思ったら、今まで感じたこともないような安心感が湧いてきて、自然と目を閉じることが出来た。



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