第10章 新たな風のはじまりの日
それからのエマは魔法道具の研究と作成を行ってばかりの日々を過ごした。
正式な魔法使いとして認められるための試験にむけ、提出書類の作成や開発品の作成など、やることが盛りだくさんだったのだ。
それでも、アランを守らなきゃと気を張っていた頃に比べたら充実していて楽しい日々だった。
試作の魔法道具も塔の中で好評で、欲しい人が後を絶たない状況だ。
「アラン師匠、私、魔法道具のお店をやりたいです。」
「決めたのか?」
エマはこの数ヶ月、試験準備のために研究開発と、試作で作った道具を塔の中で販売する両方を体験していた。
そして、渡した相手の笑顔が直接見れて、役に立っている実感の湧きやすいお店の方に気持ちが傾いたのだ。
「そういうと思っていた。」
そういってアランはエマの頭をなでてくれる。
その手を下ろさないまま、アランが続ける。
「エマ、その店の従業員として、俺を雇わないか?」
「・・・・・・・・・・・・・はっ????」
すごく近い距離にただでさえドキドキしていたところに、訳の分からないことを言われて大きな声を上げる。
「今・・・なんて?」
「俺を従業員として雇わないか、と。
それか、オーナーとして店を用意してやる方がいいか?まぁ、なんだ・・・・」
「俺もエマの店で魔法道具を作りたい」
「・・・・・・」
驚きすぎて、アランの顔を信じられないという顔で見たまま固まってしまうエマ。
「返事は?」
「・・・・はい」
頭の中が大混乱の中で、小さい声でなんとか返事をした。
◇
「エマちゃん~~~先輩を追い越して巣立ちが早すぎるよ~~」
セラフィネが泣きながら抱きついてきた。
「セラフィネさん、ありがとうございました」
こんな風に別れを惜しまれることが嬉しくて、しっかりと抱きしめ返す。
リオネルも笑いながらそれを見ている。塔の人たちも皆見送りに出てきてくれていた。
「アランからも聞いていると思うけど、サイラスはまだこの塔にいる。
静かに過ごしているようだけど、塔を出るのは良い判断だったかもね。」
リオネルがこそっと伝えてくれる。
「ありがとうございます。確かに、アランさんにかかる危険が減るのは良いことです。」
「アラン【さん】かぁ~~~~」
ボッと顔が赤くなる感じがした。
先日、魔法使いへの試験に合格し、師弟関係は卒業している。
エマは無事魔法使いとなって、今着ているマントは足首まである長いものになっていた。
「折角の可愛い服が隠れちゃって、もったいないよね」
セラフィネもいつも素敵な服を着ているから、それが隠れてしまう魔法使いのマントは気に入らないのだろう。
いえ、とエマはそれを否定する。
「私、ずっと見すぼらしい服を着ている自分を見られることが恥ずかしかったんです。
でも、魔法の訓練をしていて分かったんです。
可愛い服って、私が自信を持つための一つなんだって。
だから、自分が満足している服が着られていれば、それが誰かに見られるとか関係ないんだなって。
それに、この長いマントも私の自信の1つなので、大事なんですよ。」
この塔に来た時はビクビクして、周囲の視線がとても気になっていた。
でも、塔を出る今日は背筋を伸ばして風を感じていられるのだ。
「エマ、行くぞ」
「はい!」
塔長など偉い人たちと挨拶をしていたアランがこちらにきて、エマの隣に並んだ。
「それでは」と二人並んで魔法の塔をあとにする。
季節が変わる、爽やかな風が吹き抜けた。
◇
温かい日差しが降り注ぐ街の静かな一角に、こじんまりとした魔法道具の店がある。
並ぶ品は多くはないが、どれも品質がとても高く、街では恋人に贈るアクセサリーの店として、そして、高ランクの冒険者や治安官の防具の店としても人気があるのだ。
そんな店の店員はたった2人。
普段使いの品物も少しはあるが、常に人の出入りがあるようなにぎやかさは無いので、2人は接客よりも作業を中心に行っている。
「少し休もう、エマ」
「はい、アランさん。お茶用意しますね」
そう。この店はアランとエマの魔法道具の店だ。
魔法の塔を去ってから2人でこの店を造った。
アランが言っていた通り、金銭面では大変お世話になったが、アランの希望もあり、オーナーと従業員ではなく、共同経営者として登録している。
誰かに頼ることに、まだ申し訳なさを感じてしまうエマは渋ったのだが、
「どこかに借金するくらいなら、自分に返済してくれたら同じことだろう?」と言いくるめられたのだ。
そして、売上からアランへ返済していくという形で今は落ち着いている。
「アランさん、どうぞ」
「ありがとう」
店内が見渡せる奥のテーブルセットで2人は休憩する。
お客さんが入って来たらいつでも対応できる席だ。
ゆっくり一息ついていると、早速来客があったようで、ドアベルが鳴った。
「エマちゃ~ん」
「リオネル様」
エマがすぐに立ち上がると、正面からチっという舌打ちが聞こえ、それに笑ってしまいながら店頭に出る。
「いらっしゃいませ、リオネル様」
「うん。エマちゃんに用事、と言いたいところなんだけど、アランもいる?」
「はい。ちょうどお茶を飲み始めたところなので、ご一緒にいかがですか?」
「お、良いタイミングだったね。お願いするよ」
そう言ってエマとリオネルが仲良く席に戻ってくると、先程までの穏やかな顔のアランではなく、眉間にしわを寄せたアランが待っていた。
「やぁアラン。数日ぶり。魔法の塔からの依頼を持ってきた上顧客だよ。笑顔の接客をしてくれ」
「あぁ、この時間じゃなければな」
「まぁまぁ、エマちゃんと3人で仲良く話そうじゃないか」
いつもは静かなこの店も、度々にぎやかに笑顔で満たされるのだった。
◇
「じゃ、エマちゃん、アラン、頼んだよ」
「はい。また完成したらご連絡しますね。」
「・・・任せておけ」
2人でリオネルを見送る。
店頭に出ると、日差しの温かさにマントは少し暑く感じるが、穏やかな風が吹き抜けるととても気持ちが良い。
「またやりがいのあるお仕事が来ましたね。頑張りましょう」
「あいつら、絶対自分たちでやるのがめんどくさくてこっちに投げてきたんだぞ」
「いいじゃないですか、お仕事があるなんて。頑張りましょ~!」
意気込むエマに、アランは言い返さずに苦笑する。
「あぁ、そうだな」
エマの頭をポンポンとしてから作業場に戻る。
「あ、また子ども扱いしましたね!待ってください!」
笑顔のアランを追いかけて、エマも店の中に戻っていく。
「アランのあんな幸せな顔が見られるとはね。良かったな~」
見送られながら一部始終を見ていたリオネルは、元同僚の笑顔に安心しながら、帰路を進んだ。
≪完≫




