新学期
澄んだ空気の中、重たい門扉をくぐると、そこには広大な石畳の中庭が広がっていた。
その中央に建つ重厚な建築物——国立第一学院は、名門と呼ばれるにふさわしい威容を放っていた。
黒髪に少しクセのある少年、ノア・エリオットは、背負ったカバンの重さを感じながら門を通り抜ける。
制服はまだ少し身体に馴染んでいない。けれど、それ以上に、ここに来ること自体が異質に感じられていた。
そんなノアに声をかけてきたのは、彼と同じ制服を着た一人の少年だった。
「君も、新入生?」
明るい金茶の髪、どこか港町の潮風を感じさせる雰囲気の少年は、気さくな笑顔を向けていた。
「そう。君も?」
「ああ。レオ・グレイス。漁港の方から来たんだ。」
「ノア・エリオット。よろしく。」
それだけのやりとりだったが、不思議と気が合いそうだと感じた。
ノアにとって、「話せる相手」ができたこと自体が、少しだけ気を楽にさせた。
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数日後。授業が始まり、寮生活にも慣れ始めたころ。
歴史の授業では、この国の過去が語られていた。
それは教科書の中の話ではなく、いまもなお根強く残る“現実”の話だった。
「では今日の授業では、異能族と非異能族の関係史を扱います」
教師が板書をしながら言った。
「大昔、異能族は突如として人類の中に現れ、最初は共存の道を歩んでいました。ですが、異能を恐れた王政や宗教が“異能者は神に背いた存在”と断じ、統治のために迫害へと舵を切ったのです」
ノアはその言葉を、淡々と聞きながらノートを取っていた。
(事実を知るほど、居心地が悪くなるな……)と、心のどこかで感じながら。
その日の放課後。中庭のベンチでグレイスと並んで座っていたとき、ノアはぽつりと口を開いた。
「君、今日の授業……どう思った?」
「異能族の歴史のこと?」
「……うん。なんというか……あんなふうに語られるのが、正直つらいなって思った」
ノアはしばらく黙っていたが、やがて静かに呟くように口を開いた。
「あの、その苗字って異能族の友好族だよね?」
レオは驚いて、ノアの顔を見た。
「君もしかして異能族?」
「ああ。友好族ってだけでも命を狙われるよね。友好族は異能族には有名だから初めて会った時は安心した。でも、なんで自分まで命を狙われるんだって思わない?レオはさ、異能族への迫害のことについてどう思ってるの?」
「親からこの家は友好族と教えられた時、正直、なんで自分が異能族の友好族なんだ、とは思った。
だけど、、俺は異能族を迫害することをよく思わない。俺は異能族とは仲良くするつもりだよ。」
その言葉は、ノアの胸に静かに染み入った。
“異能”というだけで命を脅かされるこの世界で、初めて出会った「理解者」だった。
文書くのむずい