表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユグドメイク -YggdMake-  作者: 隆永展
第一章:残るものは失った過去
9/17

005 良い事ばかりじゃない

 他人には見せちゃいけないって、頑なに施設で言われて来た事だけど、雄哉くん後で怒るんだろうなぁ。

 でもこのシイナ君が『アス』の保持者であるなら知る権利はあると思うんだよね。


 「二日で成熟…?なんと言うか魔法ですね。」


 んぐ。

 鼻で笑われた。

 秘密を話してる時からずっと信じてない感だなぁ。

 こっちはこれでも真面目なのに。

 見せるなと言う以前に信じてもらえないじゃん、この話!


 「聞けば聞くだけ革新的な研究じゃないですか」

 「そうでしょ、サンプルを見せてあげるね。」


 こんなに良い話なのに、なんで半信半疑に思われてる感じがするんだろ!

 なんか悔しくなって来た。

 ここまで来たらもう、何としても信じさせたくなって来た。

 絶対分からせてやろ。

 雄哉くんには後で謝ろう。

 でも何となく、シイナ君は『アス』の保持者とか関係なしで、何故だか教えなきゃいけない気がする。

 私の探し人に当てはまる様な。

 いやいや。

 希里江ちゃんとミラちゃんのかな?

 ちょっと親近感とか、なんか繋がりがあるような気がしただけだけど、なんか他人って感じに思えないんだよなぁ。


 「これはね、このガラス玉が育つ環境を調べる為の地質調査用サンプルシード『ミニシル』って言うんだ、可愛い名前でしょ?私が命名したんだ。」

 「そうですね、それをどうするんですか?」

 「まぁこっち来て、ちょっと見てね」


 ううん。

 私の探し人は彼女の探し人。

 彼女たちの事が好きすぎるからなぁ、本当に私が探してる人みたいに思ってしまうよ。

 てか反応うっすいな!

 今に見てろよぉ。

 ミニシルの実践すれば絶対気が変わるんだから。

 自然がどれだけ大事に成長しているのかいっぱい学んできたんだから、この変化には絶対自信あるもんね。

 えーっと。

 土に人差し指一本分の穴を作って、ミニシルを入れて土を戻して…ミニシル用アンプルを差して…水をかけてと。

 

 「これで寝て起きたら明日には芽が出てるとかですか?」

 「明日なんて待たずにすぐ出てくるから見てて」

 「いやいや、そんなわ、け…え。え?えぇぇぇ…」

 「んふふ!良い反応!」

 「・・・マジなんすか」

 「どーですよぉ!!」


 そうそう、この反応待ってたんだよ!

 良好良好!

 地質も良好。

 サンプルも細胞分裂はちゃんと行えてるね。

 でもやっぱ何となく幹が細いような気がするんだよなぁ。

 こんなものなのかなぁ。

 とりあえず膝くらいまでは約十八秒。

 オリジナルなら約二秒ってとこかな?


 「どお?信憑性出たかな」

 「もうこんなに葉まで…信じられないけど信じるしかないですね」

 「その矛盾言葉、良いネェ。凄いでしょ?因みにこのアンプルは培養液じゃなくて成長を遅らせる為の遅延葉液って言う液剤なの。普通の植物から葉腋を摂取して水分と一緒に吸わせると葉腋が邪魔して成長を止める作用が生まれるんだ。言っても成長速度が速い『ミニシル』にしか通用しないんだけどね」

 「一枚切っても良い?」

 「うん?どうぞどうぞ」


 思いの外、彼の反応が良くて楽しいかも。

 感触を確かめてるのかな、引きちぎったり折り曲げたり。

 葉肉の厚みの確認かな、水分量を測ってる。

 皮膚に付けた。

 検査済みだから被れの心配はないはず。

 寧ろアロエより効能の高い成分も確認済み。

 おぉ舐めた、勇気あるなぁ。

 椎名くんも実は研究家なのでは?


 「これって野菜とかにも応用できるんですかね?食糧問題に対する研究にも思えたけど」

 「ほー」


 早速そう言う方向性になるんだ。

 自給自足してるみたいだし、そう言う趣向になるのかな。

 どっちにせよ私なんかよりしっかりしてる。

 ちょっと羨ましい考え方だなぁ。


 「んー、残念ながら普通の植物にこの技術を代用したとしても成長が早すぎて食べ物を急成長させるには…ほら。『ミニシル』みたいにすぐ腐って枯れ落ちちゃうから、今はそこまで応用出来ないかもしれないね。」

 「すぐ取って食べたらイケないですかね?」

 「あはは。食べてる最中に口の中で腐りそうだけどね、多分物凄くまずいと思うよ。それに私達的には目的はそこじゃ無いんだけどね」

 「目的、ですか。」


 すぐ枯れてしまう事を特に何か突っ込むわけもなく、成果を見据えて述べられる視点を持ってる…うん、尊敬するな。

 研究者に向いてるのかも。

 …でも私はユグドラシルを植える事だけが目的だしなぁ。


 「ほら今ってユーラシア戦争があって以来、世界情勢が不安定で各地でも戦争や内紛が起こりそうじゃない?その争いを止める為にも種の持つ特性が必要なの」

 「その、ユグドラシルが生えるだけで戦争が止まるんです?」

 「うん、戦争どころじゃなくなるはずだよ」

 「どうしてですか?」

 「株元から中心に緑化が始まって混乱を誘発させるの」

 「すみません、株元って何ですか?」

 「株元って言うのはぁ、土に埋まった植物の根もと部分の事って言えば良いのかな」

 「有難うございます、どこで植える予定なんですか?」

 「ごめんね、それはまだ言えないや。」

 「そうですか」


 流石にそこは言っちゃダメだよね。

 視点変えれば破壊行為だもんね。

 でも、なぁ…。


 「ちょっと話を割って良いですか?」


 あ、そろそろお口にチャックな感じかしら。

 少し攻めすぎたかなぁ。


 「シイナさん」

 「はい?」


 ぁ私じゃないんだ。

 それとも口止めするのかな。

 

 「先程から付近で動物の鳴き声がしますが狩猟罠とか設置したりしましたか?」

 「あ、しました。よく聞こえましたね。」

 「ずっと周りの様子を伺ってましたので」


 全然違う話だった!!

 ほんとだ微かに鳴き声が聞こえる。

 話に夢中だったから全然聞こえなかった。

 逆になんか、後で怖いなぁ・・・。


 「すみません覗きに行ってもいいですかね」

 「行ってみましょう」

 「行こお行こお」


 ーーー

 

 十五分くらい経ったのかな。

 結構歩くなぁ。

 もう枯葉と土を踏む音しか聞こえない。

 でもちょっと心地の良い音かも。

 そよ風で木の葉の擦れる囁きもとても良い。

 皆んな黙々と目的地に向かってるけど、二人もこの静かな音に耳を澄ましてるのかな。

 これがアウトドアの心地良さなんだろうか。

 ずっとこの心地良さが続けば良いのに。

 

 「いたいた」

 「珍しいですね、鹿だ」

 

 ううわぁ、うわ、うわっ、やだぁ。

 鉄のトゲトゲが脚を挟んでる、うぇぇ痛々しいよ・・・。

 可哀想な気もする。

 でも椎名くんにとっては生活の一部なのかな。

 野草ばかりじゃきっと食べ物が不足して生きていけないのだろうし、見たところその辺に生えてるのは殆ど雑草のような。

 今日食べた山菜はどこで摂ったんだろう。

 貴重なものを頂いちゃったなぁ。


 「待って」


 椎名くんが何かを警戒し始めた。

 その言葉に何か感じたのか雄哉くんが周りを気にしている。

 茂みや泥の山。

 鹿の根城だったんだろうか。


 「どうしたの?」

 「気を付けて」


 なんだろう。

 そう言えば、辺りが異様に静かだ。

 鳥の鳴き声も虫の音もしない。

 いや元々だったっけ?

 環境音の心地よさに浸って気持ちが安らいじゃって、前後の記憶が曖昧だ。

 鹿が急に鳴き声をあげた。

 息遣いも見た時からとても荒い。

 もう助からないと悟っているような鳴き声だ。

 力一杯何かに訴えてるのか、助けを願っているのか。

 ダメだ。

 私にはこの哀しい音を聴いていられない。


 「もう、ほっとかないで楽にさせてあげよ?」


 どうせ殺さなきゃいけないのなら、いっその事、早めにどうにかしてあげたい。

 この声はずっと記憶に残りそうだ。

 取り敢えず抑えて後は椎名くんにどうにかしてもらおう。

 麻酔銃持って来ればよかった。


 「ダメだ!!今近づかないで!!」

 「え?」


 椎名くん?

 急に大声を。

 どうしたのかな。

 あれ、近くの茂みに掛かっていた大きな泥の塊の様だったはずの小さな山が凄い迫ってくる。

 二人は私の後ろにいたっけ。

 一緒にいた?

 目の前の大きな黒色。

 あ。

 ああ。

 けものだ。

 二人、駆け寄って来てる。

 大きな、犬?

 手を広げてる。

 あ。

 だめだ。

 にげなきゃ。


 「グォウウゥ!!!」

 「いやあああああああ!!!」



           ⌘⌒ ⌘⌒ ⌘⌒

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ