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ユグドメイク -YggdMake-  作者: 隆永展
第一章:残るものは失った過去
18/18

010 ユグドメイク概論 〜 リアルファンタジーの結節点



 片道約二時間くらいか。

 神奈川県と埼玉県の境って荒れてるんだな。

 いつも電車で超えてくるから分からなかったけど、人通りも少なくて雰囲気が不気味でちょっと嫌かもしれん。

 俗に言うスラム街って奴か。

 歩いてたら何かに襲われそうだ。


 「着きました」

 「あれ、ここって」

 「そうですね、一昨日の場所の近くです」


 まさかいつものキャンプ場の付近だとは思わなかった。

 一昨日は本当にたまたまだったのか。

 こんな場所に施設があるんだな。

 だけど、どうみても。


 「ポンプ旋盤室?」


 金網フェンスの囲いの中のこの建物?

 俺が見てるとこが違うのか?けど他に何もないし。


 「驚いてる驚いてる」

 「送電塔の敷地内に近寄らないようにして下さい、ちゃんと稼働してるので、電磁力に引っ張られて感電死する方いらっしゃいました。」

 「うーん、入る予定もないので…」

 

 本当にここなんだ。

 山奥だからこう、もっと大きい建物を想像してたけど、全然違う。

 これじゃラボにもならないんじゃ。


 「中は本当に旋盤室なんですね、外から見るより狭くないですか?」

 「カモフラージュってやつだよ、部屋はもう一個奥なんだ」


 カモフラージュ?

 奥の部屋?入り口は見当たらないけど。

 端末があるくらい…。

 

 「え」


 開いた。

 何したんだ?

 指で操作してたから、シーワンで操作するのだろうか。

 というか隙間も見えない所から、また部屋?

 いや旋盤室の中に何かの制御室?

 古そうだけど、モニターやコンピューターが設置してある。

 

 「誰か出かけたのか、早く開きましたね」

 「入って入ってー。地下に行くよ」


 階段で降りるところがあるのか。

 いや、それらしい道が無い。

 雄哉さんがコンピューターで操作している。

 もしかして、この部屋が動いたり。


 「うわっ」

 「あはは、揺れるから気をつけてね」


 動いた。

 秘密基地って感じでロマンが広がるな。

 これ、普通にエレベーターじゃダメなんか?

 明らかに隠密みたいな事してるよな。


 「実は階層に秘密があるんだよ」


 階層に秘密?

 そう言えばよくエレベーターに纏わる話だと。


 「階層の数字の間にある点にも止まれるとか?」

 「おー、シイナ君想像豊か!でも違うんだなー。実は地下二階だけじゃなくもっと下に行けるらしいです。」

 「らしい?」

 「そこは企業秘密だって教えてくれないんだー」

 

 結局答えのない答え。

 雄哉さんは知っているんだろうか。


 「私も存じ上げないです、申し訳ない」

 「あ、いえ」


 目線で察するよなこの人。

 熊とやり合ってた時も手際良かったもんな。

 ちょっと格好良い。

 まぁ地下なんて関係ない事か。

 ガラス玉に関連していないか分からないけど、情報は持っていなさそうだし。

 警察に捕まるのが嫌で口裏あわせてきたけど、なんか変に巻き込まれてきたな。

 あの探偵のおっちゃんも、恐らくガラス玉の事で声掛けてきたみたいだけど、生憎と何も知らないし。

 この人達も別に悪そうな人じゃ無さそうけどな。

 差し支えない内容をちょくちょく持っていけばいいか。

 イテテ、思い出してたら不意に触っちまった。

 

 「大丈夫?痛いの?」

 「ぁいえ、大丈夫です」

 「もう直ぐ着きます。」


 エレベーターで降りてから結構時間経ったけど一分位か?

 大分降下した様に思えた。

 さっきより降ってる感覚が弱くなった。

 でも言われた通り、下はまだあるみたいだ。

 反響音が深い。


 「着きました。ここが我々の研究施設です」

 「おぉ」


 眩しい、高い。

 集合住宅の十階分くらいだ。

 エレベーターで降りてきた時間的には、あの天井の上にももっと階層がありそう。

 メイドみたいな人も居る。

 言うなればOLか。


 「お疲れ様です、お茶を、どうぞ」

 「え、ぁ、どうも」

 「私ももーらお」

 「失礼、致します」

 

 給仕係?なんだろう、この違和感。

 ポットとコップを常に持ち歩いてんの?

 俺が来るのを事前に知ってるから用意していた?

 このお茶大丈夫か?

 流石に過敏かなぁ。


 「では、ここからは大まかに説明しながら、見て頂きくものを用意してある部屋にご案内しますね」

 「はい」

 「因みに今の給仕係は、スヴァンバルで専用に作っているアイロボットです。人物の認識で挨拶とかのプロンプトは組まれてないので、お気に触ったらすみません。」

 「アイロボット?愛?アイAI、え、やっぱ、と言うか、ロボットなんですか…?ちょっと違和感あったなと思って。」

 「おぉ〜。何となく気づいてたんだ!分かりにくいよね?私なんか冷たい人達だなって半年くらい気付かったんだよ。」

 「あはは。教えてくれなきゃ分からなかったかもです。」

 「返事はするんですがね、初対面との認識がまだ区分け出来ないです。」

 「なんか、綺麗なお姉さんがロボットだったってだけでもびっくりでした。」

 「シイナくんは面食いね」

 「ミリアさんも綺麗ですよ」

 「面食いだね!」

 「それ多分お世辞ですよ」

 「雄哉くん余計な一言!」

 

 ははは。

 お堅そうな感じだったけど、雄哉さんも案外愉快な人だ。

 にしても、何でも女性型アイロボットに任せてたらなんか、女性から反感受けるんじゃないかと思うんだけどなぁ。

 男性型ロボットも作れば良いのに。

 職場環境によるのかな。

 女性の多い職場とかには、男性型とかがあるのかな。

 男が男のアイロボットとか見たとしたら、多分、違和感なんだろうな。

 女性が女性ロボットと仕事してるって嫌に感じそう。

 男性も然りで。

 まぁ意識の問題なんだろうけど。

 人が少ないからアイロボットを活用してるのか、アイロボットに頼りすぎて、人が少ないのか。

 アイロボットに頼らなければ、働ける人も増えるんじゃないか。

 

 「エレベーターを出てすぐ見えるので、目に入っていたかもしれませんが、ここのフロアにある部屋は外の気候に合わせて調整しています。一般用に公開している場所ですね。」

 「一般用?どう言う事ですか?」

 「はい。『日本の四季に合わせた環境を手作りで自然を作っている』と言う名目上、データを一般公開しているのです。」


 至る箇所が自動化されている。

 湿度とか計測しているモニターに対していちいちAIが反応して喋っている。

 室内に霧が噴射されて…湿度調整か。

 モニターの近くにいたらちょっと煩いかも。

 日本庭園もそうだけど、盆栽だとか、松とか楓とか色々あるけど、もっと増やしていくべきだよな。

 好きなんだけどな、あの景色。

 ここの景色をもっと広げて欲しい。

 日本庭園を部分圧縮して分けたような巨大なテラリウムという感じで、これも良いけど。

 写真に納めておこう。

 あれ?データが送れない。


 「あ、VRCCは外のキャリア通信が届かないので、施設内の回線で通信して頂いております。」

 「専用回線なんですね」

 「はい、ですのでホログラム化されているQRを読み込むと、項目が一覧に出るので、項目に沿ったデータの送受信を取り行っています」

 「なんか徹底して凄いですね。でも、こんなに素晴らしい研究しているのに、ひっそりと地下で研究してるのも勿体無いですね。」

 「へへへ、勿体無いって、褒められたよ?嬉しいね。」

 「えぇ。私達もそう思ってます。ですが、そうも行かないのです。」

 「何かあるんですか?」

 「大っぴらに公に出しても、愉快犯か分かりませんがシステムを悪さされてすぐにダメージが届いてしまうので、セキュリティは大事にしています。」

 「あぁ、何でそういう事するんですかね」

 「本当に。自然が増えると困る方なんでしょうね。」

 

 こんな風に自然を作れるなら、外で環境に活かす方が有用じゃないのかな。

 人工植物がダメなんだろうか。

 人工なのか、自然繁殖か分からないけど。

 手を加えてるから人工物扱いになるのかな?

 でも人工植物ってプラスチックかなんかで作られた、見た目だけの模造品だよな。

 ならこの研究が疎ましく思われてる理由が何かあるのか?

 大人の世界は良く分からない。


 「おはようございます、寿雄哉さん。今日はこちらに出勤されたんですね」

 「(こう)さん、おはようございます。本当は一昨日出勤する予定だったんですが、急用が入りまして。」

 「そうだったんですね、そちらの方は?」

 「えぇ今日は客人を連れてきました。」

 「こん…初めまして。久留生椎名と言います。」

 「えぇ、初めまして、お会いできて光栄です。私は一般植物研究課課長の田中康(たなかこう)と申します。どうぞお見知りおきを。」

 「どうも」

 「田中康(たなかこう)さんは元々医療に励んでいた方です」

 「なんかもう天才ですね」

 「ははは、恐れ入ります!」


 こう…まともそうな人との接し方が分からんよなぁ。

 雄哉さんもちょっと苦手だけど、ミリアさんのおかげで接していられてるようなもんだし。

 礼儀作法とか知らない。

 この研究員の人の感じ、籠ってる人って痩せ細ってる人ばかり居るイメージがあるけど、体格からして結構なアスリートな感じする。

 雄哉さんより明らかに体格あるじゃん。

 クマも一人で倒せるんじゃないの。


 「本日はお客様とはどのような立ち合いで?」

 「見せたいものがありまして。」

 『本人認証確認、セキュリティ解除、15秒デ、クローズ、シマス、オ気ヲツケテ下サイ』

 「そうですか。先日の一件もあってか、皆さんピリピリしているので、もう来客はないと思ってたから、粗相を犯しそうでしたよ、はっはっは」

 「連絡も入れずに申し訳ない。」

 「いやいや」

 

 愉快な方だなぁ。

 見せたい物か、実際何を見せられるんだか。

 

 「その先日の一件での履歴の確認をしたいのですが、大久保さんは今日いらっしゃいますか?」

 「あぁ、いつもの場所で篭ってますよ。」

 「向かってみます」

 

 結構奥まで来たな。

 そういえば土地って境界ってなかったっけ。

 

 「この山って、全部スヴァンバルの所有地なんですか?」

 「あはは、シー。ちょっとお隣食い込んでるから、地下までは、ね。」

 「あぁ〜、はい」

 

 田中(たなか)さんの言ってる事って『地下まで見られない』

 って事だよな。

 まぁ分からないよな実際。


 「着きましたね、楽しい時間でした。」

 「ありがとうございます、(こう)さん。」

 「また機会があればお話ししましょう、椎名さん」

 「はい、是非」

 「ミリアさんも」

 「うん、またね!」

 

 こんな身近で働いてても、久しぶりな感じなのか。

 

 「さ、入りましょうか」

 『本人認証確認、セキュリティ解除、15秒デ、クローズ、シマス、オ気ヲツケテ下サイ』


 全部屋がセキュリティドアなんだな。

 

 「大久保(おおくぼ)さん、いらっしゃいますか」

 「ん?あぁ、雄哉さんか、こんにちは。」

 「こんにちは、こないだの一件で履歴の確認をしたいです。」

 「はいはい、ちょっと待ってね。」

 「この方は大久保 弘(おおくぼ ひろ)さんで、生物と薬品の研究に携わってた方です。」

 「なんか、この施設の方々って凄い人ばっかですね」

 「全くです、萎縮してばかりですよ」


 この人はさっきの人と違って何だかさっぱりしてる。

 顕微鏡を覗いてたよな。

 学校の理科で使ってたけど、実際に使ってる仕事を間近でみるのは初めてだ。

 こう言う人たちってどういう仕事を行なっているんだろうか。

 

 「何を調べるのかな?」

 「ユグドラシルの種の研究データの閲覧履歴です。あとデータは関係ないですが、私物って残ってそうですかね?」

 「私物は残ってなかったよ。計画的犯行だよね。」

 「そうでしたか、じゃぁ履歴だけ確認します。その後はユグド計画の資料の閲覧許可をお願いします」

 「雄哉さんの方が権限あるでしょうに、勝手に見れば良いのに。」

 「一応、規定ですから」

 「律儀だねぇ。」

 「その間にミリア様は椎名くんにユグドレポートを見せて頂いても良いですか?」

 「ユグドレポート。動画だけ?」

 「資料も見せて下さい。」

 「おぉ雄哉くん本気!じゃぁシイナくん、隣りの部屋に移ろっか」


 隣の部屋、視聴覚室ってことかな。

 良いのか?特別な人間でもなくただの一般人だぞ俺。

 いやそもそも、入って大丈夫なのかな。


 「うん?どうしたの?」


 この子が害をなす事があるのだろうか。

 こっちは誰の助けも得られない状況だ。

 見知らぬ人たちばかりの場所に、連絡のつけようもない無防備な状態だ。

 しかも窓もない逃げ場もない室内。

 いや。

 既にここまで来ている時点で、無防備な状況を考える事に意味はないのか。

 今は不審がっている場合じゃなく、協力的姿勢でいる事が最前だろう。

 

 「…ふぅぅ。いえ、何でもないです」

 「…うん、いこ」

 『本人認証確認、セキュリティ解除』

 

 ここもセキュリティドア。

 深入りすればするほど脱出困難だ。


 『15秒デ、クローズ、シマス、オ気ヲツケテ下サイ』


 ここに来て人は既に四人関わった。

 他にも何人か面識ないが確認した。

 恐らく普通に逃げる事すら叶わないだろうな。

 ある意味、入ったら出られない要塞だ。


 「さ、入って」

 

 小さな映画館のような部屋。

 ルームシアターって奴かな。

 ミリアさんと二人きり。


 「え、と。こ、ここで座って、ちょっと待ってて。」


 また隣の部屋、は、流石にセキュリティ無し。

 慣れてないんだろうな。

 操作に焦ってる。

 ここで閉じ込められたりしたら。

 いや、あの子もいるからそれはないか。

 暗くなった。

 動画が始まるのかな。

 

 「隣、座るね」

 「あ、うん。どうぞ」


 君も観るんか。

 わざわざ隣じゃなくても。


 「不安だよね、一人で」

 「え?」

 「知らないところに一人で来てるんだもん、私だったら怖いかなって。」

 

 急に、何を。


 『スヴァンバル関係者の皆さんこんにちは!そしてこの記録を閲覧している方も、こんにちは!この記録では皆に、いーっぱい自然の美しさと素晴らしさを伝えます。ーー』


 「だから、ごめんね。」

 「・・・」

 「だけどシイナくんが来てくれてすごく嬉しい。本当に嬉しいんだ。ありがと。」

 「… …うん。まぁ正直、怖いよ。出れなくなったらどうしようかなって。」

 「…うん、そうだよね。」


 『ーー そして自然の母、ユグドラシル。この世界樹が、ヒトも動物も、とっってもハッピーになれる要素がいっぱい!ーー』


 「だからシイナくんには、安心して貰いたい。私、出来る限り頑張るから。」

 「…頑張るとか、気にしないで良いよ。自分の意思で来たんだから。ポップコーンあれば良いなって、思った程度だよ。」

 「…へへへ、今度用意しとくよ」


 『ーー お伽話とは、物語を作るにつれ、楽しませるために現実離れした設定で話を作られたのがお伽話です。桃から生まれた桃太郎も、桃好きなご夫婦が育てた動物好きで正義感のある立派な息子が、鬼退治、村をいいようにしていた悪代官を懲らしめた、と言うお話です。ーー』


「話長そうだから飲み物、飲む?」

「欲しいかも」

「分かった、待ってて」


 『ーー そして私達の目指すユグドラシルも、北欧神話のお伽話に因んだ存在です。細かい内容はぁ・・・北欧神話の本が一杯出版されてるから読んでみてね。ーー」


 「はは。急に書籍の宣伝?」

 「北欧神話って私も読んでみたけど、物語って言うよりなんか人物紹介って感じで、分かりにくかったよ」


 『ーー さて本題です。私達は、この廃墟された建物ばかりの世界で、自然溢れて落ち着いていた大地を取り戻したい。そう願っています。ーー』


 「ブルックで話がまとめられた内容を見た事があるから何となく分かるかな」

 「そんなのあるんだ、私も見てみたい」

 「後でリンク先送ってあげるよ」

 「ほんと!?見たい見たい」


 『ーー この北欧神話が、私たちの原点であると推測し、このお伽話を現実的に置き換えて考えました。ーー』


 「ID交換しようか」

 「うん」


 『ーー 神々の住まう世界以外の世界を形成したとされるユミルの亡骸、そして九つの世界を一本の大きな樹で支えたとされるユグドラシル。ーー」


 ニブルヘイムとムスペルヘイムが衝突した結果で出来た9つの世界とユグドラシルって奴かな。

 

 『ーー その九つのうちの一つに私達、ミドガルズと呼ばれる人の住まう世界があります。またアスガルズと呼ばれ神族の住まうとされる世界、それが我々人類を生み出すきっかけとなったご先祖は隕石による被害で滅亡したのだとーー」


 「あ、ミドガルズとアスガルズってそう言う意味か。」

 「ん?」

 「ううん、前に知り合いの子から教えてもらってね。その子はミラちゃんって言う研究者なんだけど、ミドガルズの未来と永劫って言う研究テーマを元に、ミドガルズの戦争を終わらせてアスガルズに証明する為、って言ってたの」

 「何だか壮大なテーマだね。」


  『ーー 先祖の世界では、自然を操る力を有していた。今、私達はあらゆる技術を使って、雷も火も氷も生み出す事ができます。ーー』


 「何となく戦争を無くして平和な未来みたいな事なんだろうなって意味が分かるけど、アスガルズに証明ってなんだろう?」

 「おー、シイナくん賢い。うーん、何だろう」

 「聞いたんじゃないんだ」

 「うん、全く分かってなかった、あはは」

 

 『ーー 次はその先、私達は機械に頼らない自然を扱う術を宇宙に漂う元素、ダークマターによってそれが為せると分かり、その元素を生成する為に、ユグドラシルの種を開発しました。ーー』


 「ふぅ…。話が無理やり飛躍したなぁ」

 「うんちょっと分からなかった、分からないのはいつもの事だけど」

 「自虐ネタ面白すぎ」

 「へへへ」


 『ーー 力の源であるダークマターも、人の手の届かない地中深くへと先祖と共に隕石によって地中に埋もれたのです。ーー』


 「神話の設定だと炎の巨人によって焼き尽くされた、だったんだよね」

 「詳し過ぎ」

 「オタクでごめん」

 「あはは」


 『ーー その先祖たち神族の使う力の名前は【アス】と呼び、世界に漂っていたダークマターを起点に自然の力を自在に操っていましたーー』


 神話の設定にない話し、置き換えか。


 『ーー 私達の祖先の生き残りは物から自然を生み出すエネルギー、電気を生み出し、更には空を飛ぶ力も飛行機やロケットまで生み出し、新たな文明を築いたのです。ーー』


 エジソン?フライト兄弟?


 『ーー 残念な事に、平穏が続いていた世界に、その発明をきっかけに人々は世界で戦争を引き起こしてしまうようになりました。ーー』


 『ーー 私達には記憶にもない、神族の世界で起きた終末戦争ラグナロク。それから長い年月の間、平穏だった世界にまた、なのです。ーー』


 『ーー ラグナロク後、無機質だった世界も、ユグドラシルの枝木の残滓で次第に森や草木が広がり、自然豊かで動物の溢れる緑豊かな地球が生まれました。ーー』


 『ーー そして今や時代が流れ、石で作られた廃墟で溢れ、綺麗で豊かだった緑も瓦礫と灰色に染まり始めてしまっています。ーー』


 『ーー 私達はもう一度、自然豊かだった時代を取り戻そうと自然の研究を始めました。それが21世紀初期から活動している素晴らしき組織、ノアの方舟と呼ばれるスヴァンバル世界種子貯蔵庫に活動の参加を願い出たきっかけです。ーー』


 『ーー 私達日本支社は独自で宇宙航空機構共同開発NAXAと共に協力し、宇宙に漂うとされるダークマターの採取に植物の種を起用し、採取に成功しました。ーー』


 『ーー 出来た種は【ユグドラシルの種】と名付け、ダークマターを含んだその種の数は凡そ数千。ーー』


 「思ったんだけどさ、外部に見せていい物なの?」

 「ううん、最重要機密指定情報だよ」

 「マジかよ…」


 『ーー その後、ユグドラシルの種の質を調べ、異常な速度で成長してしまう危険性を確認し、安全を保つ為にユグドラシルの種を、瞬間的な育成方法を編み出し、ユグドラシルの更なる研究を図っています。ーー』


 『ーー 私達はユグドラシルを咲かせた大地に、地中に埋まったダークマターを吸い上げて、この世界にダークマターと言う新たな資源を地球に送り込む予定ですーー』


 『ーー 私は採取したダークマターに触れて1年経った今、身体に害を及ぼす事も無く変化は残念ながらありません。酸素の一部として体内に含む必要があるのかもしれないです。ーー』


 『ーー ですが、【アス】の力には結果があります。私たち人類は、着々と自然の真理に近づいていたのです。この動画を作ったきっかけも、ある人物の協力でダークマターによって魔法のようなこの【アス】の力を肉体のみで使える事が確認出来たからです。ーー』


 「ふぅぅ…そんなの出来るわけ」

 「アスの事?ミラちゃんも、私も出来るよ」

 「え、ジョーク?」

 「ふふ、違うよ?」


 「ーーそしてもう一つ、宇宙より謎が深いとされた地中の真実が明らかになりそうです。地中からダークマターを採取する過程となるのですが。隕石によって地中に埋まったユグドラシル。私達のユグドラシルの種を、オリジナルに接続させる事で全てが始まります。終わりでは無く始まるのです。これが、それからが私達の最大プロジェクトとなるでしょう。ーー』


 『ーー オリジナルの先端届くまでの距離は地中よりおおよそ 1200km、地上で成長する部分は全長約200km、周囲は約40km。が予想されます。範囲に含まれてしまう、人の住まう地が消滅しかねませんーー』


 映像ではズームアウトしてユグドラシルの全長が都市を豆粒のように見える演出が加えられている。

 地上から見たユグドラシルは、現代の高層ビルが並び、雲よりも高い空に淡いシルエットが演出されていた。


 『ーー さて、起点の話はそろそろ終わりとなります。私達は確信しています。この地球は、ゲームや漫画の世界と思っていたファンタジー世界へと変化し、いえ、戻ると言って良いかもしれませんね。現代世界で起きている資源や土地、人権の争奪を起こす戦争への執着心を、現人類にとって新たな世界へ着目させる事が実現可能だと言う事を。このお話で皆さんが新たな世界への賛同者として、強く協力して頂けるようになったらと思います。この計画名は“ユグドメイク”です。ーー』


 ※この映像は、外部に公開することを禁ずる。

 記録XDATA 001 読取終了 ーーー


 ーーー


 映像が止まった事に気づいたのは、ミリアさんに声をかけられてからだった。

 


          ⌘⌒ ⌘⌒ ⌘⌒

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