009 苦悩を流すコーヒーブレイクは気持ちが良い。
『・・・』
アナタハココカラハナレテ
スマナイ
ココハワタシガウケモツカラ
カナラズカエル
マタアエルヨキット
マタココヘ
マタココヘ ーーーーー
『・・・』
真暗。
上は揺らぐ光。
水中音。
周り共に遊泳してる。
どこ行く。
海流に身を任せるのか。
遠くから音がくる。
何だ。
辺りは騒ぐ。
どこ行く。
とても大きな影が横切った。
皆はどこだ。
さらに暗く。
海流が変わった。
とても狭い。
海流が止まった。
皆逆さまになっている。
水が急に熱くなってきた。
息が出来ない。
アツイ、アツ ーーー
『・・・』
暗闇。
窮屈だ。
壁は薄い気がする。
外から何かが聞こえる。
出たい、出たい、出たい。
口が尖ってる。
突けば壊せるかも。
痛い、響く、痛い、出たい、見えた。
デ〒クル∃
首しか動かせない、疲れる、手伝って、眩しい。
身体が出られない。
やっぱ薄かった。
どうにか取らないと。
疲れた、眠い。
眠い、美味しい、お腹すいた、食べたい、お腹すいた。
歩けるようになった。
冒険が楽しい。
大きな四角い場所、大きいのが目の前にいる。
どうやらこれが親のようだ。
寝そべってる。
心細い。
隣に居よう。
∃ヲツケ十サイ、ナニガ。
ーーーー 動けない、苦しい。
ダカライッタジャナイ、ジブンノセイジャナイ。
ーーーー 助けて、動けない、苦s
『・・・』
作り途中の建物。
ヘルメットを被った人だかり。
僕は何をしているのか。
ツッタッテンジャネェ!ハヤクハコベ!
よく分からないが、心の中で謝り続けた。
ナントカイエ、クソガ!!
この石を運べばいいのか。
別の場所では楽しそうに会話しながら立っている。
羨ましく見えた。
ウウウアアアアブネエ!!
大きな鉄骨が落ちて来た。
『・・・』
雪山、吹雪いて辺りがわからない。
他に誰かがいたはずだ、誰もいない。
ここは中間地点にいるはず。
降りたいはずなのに、ルートがない。
登らなきゃ行けない。
丁寧に所々にルートに無いロープが引いてある。
他にも遭難者がいるらしい。
とにかくここから抜けだしたい。
寒くて白くて何も見えない。
何度も些細な崖を登り降りした。
底が見えない、いつ崩れてもおかしくない雪の崖を越える。
どうしてこうなってしまったのか。
小さな雪の塊が落ちてきた。
吹雪いてはいるが、雹ではない。
人がいた、三人。
ハシゴを掛けている、なぜハシゴなのか。
嫌な予感がした。
視界の端で山頂付近遠くで雪が一斉に崩れるのが見えた。
ナダレダァ!!!
隠れる術がない。
壁際、近くに無い。
コッチダ!!!
雪に足が取られる。
ハヤク!!
もう少し。
もう少し。
ハy ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
音も視界も白に飲まれた。
身体の上に雪が積まれていく。
重い。
流されているのか。
身体が急に浮いた。
運が良いか悪いのか、下に抜けられた。
だが手足が付かない。
落ちる。
落ちる。
落ち…
ーーーーー 美しい。
クリスタルの結晶壁がなんと美しい事か。
まるで異世界。
地球というのはこんなに美しいものなのか。
底を感じる。
空気が厚い。
きっともう底だ。
刹那の美しい姿を忘れまい。
もう、暗闇に身を任せよう。
『・・・』
建物の一階の階段前。
歩き疲れて外階段に腰掛けた。
澄んだ空を見ながら店で買ったパンを頬張った。
青空の遠くで太陽の反射光が一筋、地上に落ちて来た。
一瞬、空が雷のような閃光で白く青く点滅した。
見たことがない事象だ。
危険を感じる。
建物の奥に入らなければ。
外の人間は興味津々と光の先に歩く。
こいつらはきっとオカシイ。
早く逃げないと。
外から凄まじいほどの悲鳴が聞こえる気がする。
きっと危険はもう迫ってる。
光は影を反転させ、視界を白く埋め尽くす。
全身に何かが通り抜けた感覚があった。
気にしている場合じゃない。
階段を登らないと。
白すぎて何も見えない。
早く、身を隠さねば。
暖かい風の向きが傾いた気がする。
身体を外に引き込まれそうになった。
建物の周りは車から何から色んな物が引き込まれていく。
しがみついていないと吸い込まれそうだ。
手が、滑りそう、だ。
夥しい轟音が、駆け抜けていく。
一歩を踏み込む為の出来事が、あまりにも多い。
階段を登れない、こんなにも色んな事が見えるのに。
どうしようもない。
声もかき消される。
声が出ているのかすら分からない。
風が止まった。
今だ、進まなければ。
背中から何かが被さってきた。
壁に叩きつけられた。
誰だ、押さえ込むのは。
いい加減にどけ。
どけ。
痛い。
早くどいてくれ。
あああ暑い、熱いアツイ。
イタイ、アツイ、イタイ。
イタイアツイアツイアツイタイタイタイアツアアアツアツアツイアアアアツイタアアア。
カベニ、ウマ、ル。
ウゴ、ケアツ、イ。
『・・・』
青空。
見下ろす景色は長閑な住宅街。
一箇所の建物に惹かれてその場に向かい降りて行く。
建物の壁をすり抜けた先、一室で誰かが横になっている。
その人間の腹部に吸い込まれると暗転した。
『・・・』
オーイキコエルカー、キコエナイワヨ、ワカンネージャン。
誰かの声が聞こえた。
眠いが身体を揺らしてみよう。
ウッ、オーーイ、ヤメテヨ、ナンデヨ。
外に出たい。
頭の上に出口のような穴が見える。
…シャ、ヨンデ!!ドウシタ?ハヤク!!ンッダヨ
息が出来ない。
ウウウウウ、ミエテキマシタヨ、モウスコシデスヨ!
狭い。
苦しい。
アタマミエマシタヨ!
眩しい。
ナカナイデスネ、ダイジョウブナンデスカ、カラダハセイジョウデス、モウデテキタヨー、イキシテイイヨー。
出られたのか。
ふぅ。
アハハハハハフゥッテイッタ!
ナカナイケドダイジョウブナンデスカ。
コキュウシタノデモウダイジョウブソウデスネ、ナイテルトキハイキデキテルッテアイズデスケド、フフ、シンコキュウシテタカラダイジョウブデス。
ミタコトナイデスケド、アンシンシテクダサイ、アハハ ーーーー
最後の記憶以外に身に覚えがない。
人生で体験のないはずの記憶が何故か思い浮かぶ。
鈍臭い、どうしようもないを体験した。
とても短く長い時を経験した記憶。
言語化が出来る様になってから記憶の意味を探す様になった。
予知夢かただの空想か、それとも。
恐らく世界の生き物の個体の一生を一つずつ操り続けて、生と死を繰り返している、気がする。
そう思うようになった。
同じ感覚を持った人がいるだろうか。
今回は、この身体で何をするのだろう。
どういう死を遂げるのか。
自分の人生とは一体、何を指しているのか。
朝の日差しの中で一杯のコーヒー。
五臓六腑に染み渡る。
この夢の記憶が何か知るのは、まだ先の事になる。
⌘⌒ ⌘⌒ ⌘⌒
「来てくれるかなシイナくん。こないだ音立てずに声かけてみたら驚いてたねシイナ君、あはは」
「わざわざ鳴子を避けて近づこうだなんて。普通に声かければ良いのに。」
「へへ、楽しかったなぁ一昨日は。」
「流れだったとは言え学生に危ない目に合わせたのは自分の準備不足でした。」
「うん、怖かった。あの時に私が力を使っても、身体能力を上げるだけで、ミラちゃんみたいな特別な力で、どうにか出来るわけじゃないもんね。」
「…十分特別ですよ。」
「そうかな、へへ」
単なる日課の延長だったとはいえ武装もしてなかったせいで、危険な目に遭わせてしまった。
あの時の判断、か。
正直ミリアの能力あっても、結果は変わらなかったはず。
そういえば、未だに身体能力の強化がどういう原理かは分からないな。
ミリアの能力を受けて実感したのは、受けた人間が全員同じ身体能力になる位か。
どの程度かは、彼女の力に合わせているのか物理的なものなのか分からないが、何か人間的な限界を感じる。
今度ミラ、様に聞いてみるか。
あの人、見た目の割には何か怖いんだよな。
「考え事してるね」
「そう見えますか?」
「見えるよ、結構分かりやすいくらいに。」
危険を顧みなかった彼の原動力なんだったのだろう。
ノリで、と言うような様子には見えなかった。
彼は若いし衝動的な行動というのもあるか。
でも流れに任せた振る舞いにも感じたし。
流れに身を任せた気質。
ある意味自由だ。
「私にも少し色々思う事があるんですよ。キャンプの事もそうですし、今日の事もそうですし」
「椎名くん大丈夫かな、来てくれるかな。」
「来てくれるかは、どうですかね。1日そこらで知らない人から急に誘われたら警戒しますが。このご時世唐突に話を聞いてくれてただけでも珍しい事かと。」
「うーん、そうなのかなぁ」
年間の犯罪数およそ200万だったか。
一日5500件ほど。
そんなレベルの情勢で話を聞く胆力が彼にはあった。
外で声をかける人なんて警察か不審者くらいだろう。
人に声を掛けるな、聞くな、はうちの家訓にもあった。
椎名さんの事は表面上しか知らない以上まだ信用しきる事はまだできない。
商店街のガラス玉を拾って持って行ったタイミング。
受け子と見えても仕方がない。
彼がガラス玉に関わってしまった以上、悪いが疑わなきゃいけない理由が彼には付いた。
たまたまだとしても、可能性はしらみつぶしにクリアしなきゃいけない。
今時点での彼の行動の目的が不明確だ。
まぁ本人から聞いたところで確証もない言葉に意味はない。
正直自覚すらない、なんて事もあるだろう。
いや、意味がないと言う考えはまずいか。
「来ないなぁ」
「まだ20分ありますよ」
「過ぎても待ってみよ、もしかしたら遅れてくるかも知れないし」
「良いですが、時間は有限ですよ」
「時間は有限って?」
「生きている時間は有限だから、何もしないのは勿体無いって言う格言ですかね。」
「ふーん。せっかちなのね」
「ゆっくりするのも大事ですがね。」
「何なのぉ」
「言ってみただけです。」
「そっか。でも確かにブラブラしてるの勿体無いなぁ、この辺の植木の土壌でも調べてみよっか」
「それはやめましょう。」
ミリアは彼を巻き込みたがっているし。
と言うか好奇心が先立ってるだろうが。
彼の行動を伺うのに丁度いいと言えば丁度いいのか。
ミリアの彼に対する判断材料は何だろうか。
性格上、本能による部分があるしな…。
ミリアの行動は正しいと判断してはあげたいが。
理由はさておきだ。
「シーワンで何みてるの?」
「状況整理です。」
「私もみよっと」
先日の街道の一件に関与した。
スパイ男、ガラス玉、現場の目撃者、椎名くん。
可哀想だがこの三点で既に容疑がかかるだろう。
彼は羽柴さんからの接触も予想されるはずだ。
その接触時にどれだけ情報が漏洩するのか。
その前に持ち出された際の情報漏洩も懸念すべきだろう。
まぁそれは今日、施設に戻ったら履歴を見れば良いか。
閲覧記録の確認で漏洩情報と漏洩者が分かる。
結果的にその内容が椎名くんからまた漏洩したなら、羽柴さんたちのユグドラシルの信憑性が増す、という事か。
これからは接触があったか、反応を見ないといけないな。
「何だか椎名くんの事ばっか書いてあるね。」
「えぇ、何だか今は彼が中心に回ってしまってる気がします」
「そうじゃなくてぇ、疑いすぎじゃない?」
一番のリスクは、能力の漏洩だ。
ユグドラシルについては恐らく、漏洩しててもおかしくは無いか。
問題にするのは行う場所だ。
場所自体はまだ決定してるわけじゃない。
だけど、探偵屋がもう踏み出すのが取り押さえだけだとしたら、実行場所を探るだけ、か。
このまま連れていく分にはまだ大丈夫、なはずだ。
「通話かけてみる?」
「え?あ、あぁ。連絡先いつの間に交換したんですか。取り敢えず焦らす必要ないですから、彼に委ねましょう」
「はぁい」
結局、彼が羽柴さんに調べられるなら、賭けてでもユグドラシルの情報の断片を共有させて彼に流させるか。
情報が漏洩しても問題ないと見せかければ、警戒心無いからと興味を失うか?
通用するのだろうか。
しかし、先手は打つべきだろう。
いや、既に後手を回っているのか。
博打みたいだ。
はぁ…確実性のない対応策ばかりしか思い浮かべない。
杞憂な考えであって欲しい。
…杞憂なはずがないか。
そもそも彼が来るのかも怪しいな。
来ないなら来ないで、大したリスクでもないが、ガラス玉に反応したことも気になる。
それも報告はしてしまっているから、お嬢様方が今後気にするだろう。
彼には結局、関係を築いておくのは俺らの仕事か。
大事なら連れ去りが発生してしまう事にもなりかねない。
お嬢様方が判断するならまだ安全は確保されるだろうが。
他の人間が強行してくるとなると、どうなるかは分からない。
保護という形をとるリスクも考えると、建前でもこうやって犯罪に手を染めてしまう事にもなるのか。
「こんにちは」
「あ!来たぁ」
来た。
七時五十七分。
安全も大して確証のない場所に首を突っ込んで来るなんて、不用心というか好奇心旺盛というか。
誘ってる側で気に障るような行為だが、やっぱり後で彼の動機を確認しておこう。
ひとまず、拉致まで考えなくて済むかもしれん。
嫌な考えだ。
「待ってたよー」
「椎名さん来てくださってありがとうございます。何か差し支えはなかったですか?」
「差し支え?いえ、自分は特にはなかったです」
「そうですか」
自分は、か。
自分にとって害あるわけではないけど何かはあった様な捉え方もできる。
深く考えすぎだろうか。
とにかく研究室に連絡を入れて漏洩を確認しないと。
スパイ男の私物検査と行動履歴の確認だ。
「さて、車で行くので早速移動しましょう。移動時間が長いので道中は店に立ち寄りながら休憩を挟みましょう。少々急ぎの用もあるので、少し走行は早めに行きます。」
⌘⌒ ⌘⌒ ⌘⌒