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ユグドメイク -YggdMake-  作者: 隆永展
第一章:残るものは失った過去
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006 仕込み

 スヴァンバルの連中が怪しいって目星はあったが、まさか出会しちまうとはなぁ。

 関連性は低いが、どうするか。

 ちと探り入れて勘付かれても面倒だ。


 「…えーと、何でしょう?」

 「急で申し訳ないですね、私ぁ探偵やってるもんでして羽柴正仁(はしばまさひと)っつーもんですわ。」

 「はぁ」


 俺の名前を聞いても反応は無し、か。

 自分が有名人たあ自惚れてるつもりぁねえが、スヴァンバルの連中なら俺の名前で警戒心が出てくれるもんだが。

 

 「探偵…ですか。何か依頼されて声掛けられたんですかね僕。と言うか本当にそう言う職業あるんですね」

 「ハハハ、よく聞かれます。あんま目立つようにぁしないもんですから。ですが安心して下さい。ただの世間話って奴ですよ、こちらが証明です。」


 探偵って言葉に引っかかったか?

 まぁ誰にでも後ろめたい事ぁあらあな。

 慎重な子なんだろな、変に避けられないようにしねぇと。


 「いや何、ちょっと耳にした事を繋げるのが、私の仕事でしてね、はっは。」

 「…はぁ」

 「いやここ最近、付近でちょっとしたいざこざがあったみたいでしてね、お兄さんはこの辺に住んでる方ですか?」

 「んーまぁ…いえ」

 「あぁすみませんプライベートな話しをしてしまって」


 微妙な反応か。

 近いけど離れてるってとこか。

 隠し事がある時の反応にも近ぇな。

 負の流れを恐れた微妙な反応。

 ま、大抵の反応だわな。


 「なんですなぁ。この辺も、少し物騒になっちまったもんで、少し注意喚起を促してましてね。乾いた発砲音が聞こえただなんや、不審な何かを聞いたとか見たとかあるんですわ。」

 「不審な…」

 

 手で覆う様に口元を隠して数秒。

 沈黙を固くしている証拠だ。

 もう一声掛けてみるか?やっぱ用心深さがあるな。

 こっちが答えを求めてる事に近い言葉ってのはあんま言いたかねんだけどなぁ。

 ところで…。


 「ちょっと気になったんですがぁ、その傷はどうしたんですか?まさかぁ不審者に傷を負わされたとか?」

 「あぁこれは先日キャンプに行った時にクマに襲われて」

 「熊に襲われたんですかぃ!いやそりゃ災難ですなぁ…。」

 「ほんとですよ、一人だったらちょっと危なかったです。」


 よく無事だったなこの青年。

 他に同行した人物か、接触があったんだろうか。

 まぁ無事で何よりだ。


 「お大事にして下さいね。」

 「えぇ、どうも」

 「ぁーそう言えば。不審なと言えばですな。物が落ちていただとか。」

 「っ…」


 ん、眉が動いたな、物に引っ掛かりはあるか?

 んまぁそれが物的証拠かはさておきだ。


 「あの…」

 「はい、何か思い出しましたか?」

 「あー、変な話なんですけど、ユグドラシルって知ってます?」

 「はん?」


  妙な話が出てきそうだな。

  適当に一旦切り上げて後で織田の顔でも見てくるか。



          ⌘⌒ ⌘⌒ ⌘⌒



 ーーーー 約一時間後、病院のロビーにて

 

 「ったく無茶しやがって、オメェはよ」

 「羽柴さぁん」

 「気持ち悪い声出すんじゃねぇ」


 ったく人が心配したってのに呑気なもんだ。

 まぁ話が出来る状態まで回復しただけマシだな。

 少なくともあちらさんは人を殺生しない倫理観はあるって事だあな。

 手を出されたが、通報するにしては織田の窃盗未遂混じってっかんな、分が悪いわけじゃぁないが証拠にするには弱すぎるな。

 正当防衛処理されちゃぁ意味がねぇ。

 

 「おめぇスヴァンバル調べてたらしいな、潜りで」

 「ぅ」

 「う、じゃねぇよ、ばあたれが」

 「いてっ!…こっちは怪我人っすよぉぉ…」

 

 病棟じゃなきゃ頬を引っ叩いてら。

 まぁ杖突きとは言えロビーまで歩けてるくらいだ。

 無事で何よりだわな。


 「んで?ここで話すのも何だがぁ何調べてたんだ」

 「…最近、妙に点々と草木が枯れ上がってる場所が多数発生しているとの報告がありまして。」

 「ああん?そんなん日常の。いや、なんでもない。それで?」

 「そ、それでっすね、最近、環境問題の声明も多発してるので試しに勉強がてら植物のプロフェッショナルで学ぼうかと思って探してた所、たまたまNAXAの知り合いがいて、スヴァンバルを紹介してくれたんすよ。」

 「あぁそれでNAXAな。」

 「え?」

 「あぁいやこっちの話だ。入ったは良いが、そこが枯れ木を大量発生させている原因だったってか」

 「そうなんす、でもその枯れ木自体はスヴァンバルが植えた植物を実験にしていただけっていう原因だったんですけど」

 「それを住民は異常事態と勘違いしてたと。けど?」

 「はい、そうなんす。けどその原因が分かっただけじゃなくてっすね…」

 「何だ、勿体振らずに早く言っちまえ」

 「… あぁ〜…先輩、笑わずに聞いてくださいね」

 「ああん?」

 「あの…要点だけ言うとっすね。妙な話、ユグドラシルを創って、各国に植えるらしいんです。」

 「ああん?」

 「しかも、街一個収まるくらいに成長するらしくて、しかもそれが成熟するのに2日らしいんすよ、んで目的が…羽柴さん?」


 ユグドラシルだぁ?北欧神話ってやつか?

 創って植えて、成熟に2日だあ?

 どいつもこいつも、何に触発されてんだ。


 「いや、羽柴さん病院っスここ」

 「あの、すみません病院でのおタバコは…」

 「んあ?あぁ悪いな嬢ちゃん、つい癖で」

 

 ったく、御伽話にいちいち反応してる俺もなんだかな。

 新種の植物に名前付けただけか?

 大層な名前を付けるもんだなぁおい。

 だが、スヴァンバルはナクサとも関わりがあるくらいだ。

 遊び程度にでも一般人には想像できない事をやってもおかしくはねぇか。

 織田はそこで引っ掛けてここに送還されている。

 

 「織田」

 「はい」

 「お前もう少し寝とくか」

 「いやいや怖いっス。羽柴さん」

 「ああん?」

 「一応…データあるっす。」

 「なんの」

 「いえ…その、ユグドラシルのっす。」


 新種の植物のデータとか何の役に立つのか知らんが。

 まぁ情報ってな貴重だ、あるなら見て損はねえか。

 ったく…神話が流行ってんのか?


 ーーーーー 一方、織田の心情は。


 現実味無さすぎて説明困難っすよこんなん!!

 あぁちくしょっ!!

 羞恥心の罠とかやるっすねスヴァンバル!!!


 「織田ぁ」

 「はい!」

 「うおっ急に大声で返事すんな」


 あ、やべ、つい。

 うわぁ…絶対哀れみの表情っすよこれ…。

 精神科に異動させられるんじゃないっスか絶対いやっス…。


 「あーなんだ、悶絶してるとこ悪いが、実ぁな。似た話を別んとこでも聞いててな」

 「…はい?」

 「スヴァンバルの関係者だ。」

 「え?ん?!何で先輩がスヴァンバルに接触して…!え?!なんすか?!は?!え?!直接聞いたんすか???直に聞いたらそら早いでしょうけど!」

 「…んなわけあるめぇ、てかオメェは撃たれるような大事してんじゃねぇか。」

 「っかはぁ!」

 「なんだ、かはぁって。んまぁこないだの事件の聞き込みがてら、世間話をしてたらな。変な話が始まったと思ったが、よくよく聞いてたら、事件関連の巻き込まれっぽくてな。」


 どんだけ先回りしてんのこの人。

 なんか阿保らしくなってくるわ!!

 いやいや、というよりも…巻き込まれってスヴァンバルの陰謀に巻き込まれた人物がいるってことか?

 拉致?いやいつもの聴取で聞いたっていうから身柄は自由?

 何だか遊びの延長でノリで巻き込まれたように聞こえる。

 何なん、このもどかしさ。


 「まぁ何だ。オメェが必要だと思うなら調べりゃ良い。どうせ他にやる事ぁあっても、大して動けるような仕事は残っちゃいねんだ。珍しく問題解決した所で他者が嫌な思いをするような件じゃねぇだろう」

 

 羽柴さんの反応の薄さを見ると自分にも、ただの遊戯にも思えてきてしまう。

 この案件の追跡に意味を持たせる事が出来るのか。

 いや、いやいや、そうじゃないだろう織田真斗!

 もし、データの内容が本当だったら。

 スヴァンバルの話してた規模は…。


 「自分、まだこの調査を続けたいっス」

 「…そうか。んなら巻き込まれ青年は引き続き仲介してくれる事になってっから、ほぼリアルタイムで状況掴めんだろ」

 「…どこまで先見てんすか羽柴さん。」


 何なのこの人。

 スヴァンバルにも羽柴さんにも踊らされてんの俺。

 ほんと、動きやすくしてくれる天才かよ。


 「なんだかんだ先輩の手をお借りしてるみたいでなんだか申し訳ないっス」

 「いつもの事ったろう」

 「へへっ、それで羽柴さん。枯れ木の件っスけど、実は先々週に鑑定に出してあるんす」

 「お、珍しく仕事が早えじゃねえか」

 「褒めるとこっスよ」

 「褒めてんだよ」


 その結果次第だけど前代未聞の植物テロの抑止。

 もしくは拍車をかけれない形に収めれたら後は時間かけて鎮静する事もできるはず。

 見なきゃ証明出来ないようなお伽話を誰が信じると言うんすか。

 まさか数十、百キロ四方の巨大な木が世界中に生えるだなんて。

 

 「とにかく現実味がなさすぎて冗談に思えちまうが。一旦そのデータ寄越しな、一応見といてやる」

 「あ、はいっス、シーワンで録画したんで送ります」

 「明智にはどうせもう送ってあんだろ」

 「実はスヴァンバルでシーツー禁止っスからパソコンからデータを転送しようとしたらセキュリティに引っかかって送れなくって。先に録画しといてよかったっス。」

 「そりゃ引っ掛かるだろうよ…。んで、転がされたんか」

 「そうっスね」

 「アホタレがやってる事、盗難紛いだぞ」

 「イタッ」

 「まぁもう情報網は一個確保したからな」

 「っス。まじ羽柴さんチートっス。イタっ」


 それを内心信じてる自分もどうかしてるけど…。

 大きな事件の前兆っていうのはやっぱり理屈じゃないよな。


          ⌘⌒ ⌘⌒ ⌘⌒

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