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ユグドメイク -YggdMake-  作者: 隆永展
第一章:残るものは失った過去
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001 ユグドラシル

「もしもしもーし。はいはーい私だよ。うん、元気元気。うん、雄哉くんも居るよ。今日は余り過ぎた植木とミニシルちゃんの在庫処理中。えへへ無理矢理?そんな事ないよ。希里江(きりえ)ちゃんは相変わらず忙しい?今はどこにいるの?スピッツベルゲン!おー、懐かしい。またそんな寒いところに。うん?エルフは寒気を感じないってミラちゃんが?ふふ、何のキャラなの。戻って来るのは4月予定?半年ぐらいかぁ。分かった。心配してるって?こっちが心配だよ。大丈夫だよちゃんと約束は守ってるからって伝えて。うん、そうそう報告してる通りの場所で試験中。そうなの、なんだか目をつけられちゃってて、ごめんね。雄哉(ゆうや)くんが新入員に一人、不審な行動が目立つって言ってた。うん、ちょっとお願いする、うん私も気をつけるね。希里江(きりえ)ちゃんもミラちゃんも無理ばっかしないでたまには休んでね。はーいシーユ、ふふ」

 

 当時は気にも留めなかった中学の頃の歴史の授業をふと思い出しました。

 高齢社会だった時代、この国は高齢者の孤独死によって市町村の荒廃化が加速し、若輩社会へと一変したとされています。

 その歴史は遠くはなく、たった半世紀ほど前の事。

 現代においては今こそはと子宝に恵まれるための社会を目指すも、高齢社会の時代の影響が大きいのかどこもかしこも人手が未だ不足している事に変わりがない。


 「んー良い匂いがする。さては明日分の植栽の処分品、じゃない。品出しをサボったな。っとと、おお…全部終わってる」


 現代の若手政策は子供への養育費を優先的に税金で負担すると言う一心で決まり、国内総人口の回復傾向から復興を目指すという方針です。

 しかしその方針も虚しく他国と比べて政策の取り組みに関しては大分遅れていると目に見えた状況で、日本は荒廃化した土地は安値で買収される挙句、その瓦礫溜(がれきだ)まりの土地には密入国者が集うという事態になりました。

 恐らくこの国の制度を良い事に、武装国家はこの地の買収した領土を築いて侵略していく流れではないかと思われます。

 密な入国者が集い場所、つまり不法入国者が集ってスラム区域化した場合、その区域には不法入国者の手に銃火器が行き渡り内戦が起きてしまうでしょう。

 過去に手作りの銃火器を武装した民間人に総理が殺害された事件がありました。

 歴史は繰り返されるという事が起こり得る可能性も否定する事は出来ないでしょう。

 

 「ミリアさん、夕飯の支度が出来ました」

 「雄哉くんお疲れ様、今日はお米が食べれるのかな?」

 「そんな高級食材はありませんよ、メインはじゃが芋です」

 「あの日に食べたお米の味が忘れられないよ」

 「あれはたまたまですよ。嘆いても出ないです」

 「ちぇ」


 この国は、自国に誇りを思っている以上に貧しく厳しい。

 この時代に生まれ、この時代が当たり前と慣れてしまっているから、現代技術に身を任せて自己啓発が麻痺している。

 人々がこぞってのめり込んでいるのはVRとAIでしょうか。

 半世紀ほど前にはとある人物は過去に幾多の汚名を着せられてもなお、国内の技術革新を担おうと打ち上げたサテライトで、仮想世界を日常的に取り入れる技術を世界に広めました。

 お陰でネットワークによる情報伝達の速さや機器などに使われる資源の削減に大いに貢献し、自国の生活が快適にはなったわけですが、最も民間人にウケの良いものは『娯楽』でしょうかね。

 歴史上、不動の欲求と言えるでしょう。

 国民の殆どは既に自分を成長させる事をやめたように、仮想世界に入り浸っている。

 ある意味平和的ではありますが。


 「そういえば、気づいた?」

 「何がですか?」

 「今日の昼頃にずっとこっちを見てた小学生くらいの女の子が居たんだよ、しかも一人で」

 「それは、孤児なんですかね。近くに保護施設なんてありましたか?」

 「どうだっけ。大丈夫かなぁ。スラムの近くだよ?」

 「まぁ他人の心配する程、私達も余裕ないですが、恐らくスラムの子でしょうね。今は関わるべきじゃない」

 「うん、そっか、そうだよね。あ、暗号通信入ったよ。面倒だから専用じゃなくて共有で繋げればいいのに」

 「盗聴の心配しているのでしょう、自分が受けます、こっちに繋いでください」

 「うん、お願い雄哉くん」

 「はい、寿(ことぶき)です、えぇミリア様も一緒です」


 自国が未だに国として健在なのは、一部が編み出すサービス度の高い娯楽を生み出しては自他国(じたこく)ともに人気を収めているからでしょう。

 科学者達が言うには資源の枯渇は免れてはいるものの、実質的には科学の限界との事です。

 人の上に立つ者達の自己満足が限界に近いていると言えるのでしょうか。

 それとも理想を掲げる者が少なくなったのか。

 今や唯一発展したヴァーチャル技術だけが人の飽き性を満たす繋ぎをしているのだから。


 「本当ですか。…分かりましたすぐに向かいます。現在地送って下さい。」

 「え、どうしたの」


 もし、この娯楽さえも飽きてしまえば人の上に立つ優越感を求めて争いに発展するかもしれない。

 例え腐っても人は皆、心の奥底では変化を求めているはず。

 変化を求めず不自由無く過ごしたいと思っている者も多くいるでしょうが、この惨状で変化を求めない者が居るのなら、ただ一言だけでも言っておきたい。

 貴方は自分に嘘つきだ、と。

 今以上の愉悦感が訪れると確信出来るのなら変化が欲しい。

 そう願うはず。

 我々スヴァンバルの、いや、希里江(きりえ)様の研究はこの地球に新たな資源を生み出してくれる。


 「ガラス玉…『ユグドラシルの種』が盗まれたようです」

 「えぇ!?どうやって??」

 「詳細は分からないです、取り返しに向かうので支度して下さい」

 「今時ガラス玉集める趣味の人とかいるのかな」

 「そんな悠長な事言ってる余裕はないですよ、早く」

 「はーい動いてますよぅ」


 本当に変化を求める気持ちに動かされる人間というのはきっと失望を味わった者にしか分からないのかもしれない。

 ただ変化というのは善人悪人にとっての善行か悪行か。

 欲望や理想を追い求める事に正しさなんて定められるものでは無い。

 もはや自分勝手な一貫性だろうが背に腹は変えられない。

 人の欲望と言うのは他人が抑え込めるものでは無い。

 だから一刻も早く計画を遂行しなくてはいけないんだ。

 だから。

 だから私達の研究の切り札である、このユグドラシルの種が、いつか世界に新たな幸福の世界が芽吹いてくれる事を願うばかりだ。



            ⌘⌒ ⌘⌒ ⌘⌒

※この作品における個人、団体はフィクションであり実在とは関係ありません。

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