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9:飛翔ですわね!


「っと、見えましたね。」


「ぎゃ。」



木々に身を隠しながら歩いていると、ようやく見えてくる山肌。我が領の端っこにある渓谷ですね。


正確な高さは解りませんが軽く1000mは超えているであろう山々。そしてそれが割かれたように存在する谷に、底に流れるほんの少しの川。人の手が加えれらていないため木々が生い茂っていますが、もし前世にこのような場所があれば絶景スポット、その地を賑わす観光名所になっていたでしょう。


ま。立地が立地ですので人が住むには適していませんし、野生の飛竜が闊歩する地域です。この世界においてそういう使い方は出来ないでしょう。しかし彼らが巣をつくりやすい環境がそろっているのは事実。その道で活用する以外の選択肢はありませんわ。


ちなみにですが……、聞いた話によると我が家の竜騎士としてのルーツがここにあるとのこと。そう聞けば少し感慨深いものがありますが、感情でお金は稼げないのです。今回はこの気持ちに蓋をし、やっていくことにしましょう。



(道中。番の飛竜が空を飛んでいるのを見ましたし……、確実に卵があるはず。)



そう考えながら、ここまでのことを思い出します


やはりシャグルが騎乗を拒否したので大地を走ることになったのですが、何とか太陽が上り切るまでに辿り着くことが出来ました。途中魔物に襲われたり、シャグルが木を倒さないよう慎重にし過ぎたせいで全然前に進まなかったりと色々ありましたが、まぁ無事に着けたから良かったと言うことにしておきましょう。


……貴方が背に乗せてくれればかなりの時短になったんですがね?



「ぐる!」


「はいはい、乗せたくないのは解りましたよ。でもその分、仕事はしてくださいね? 働かざるもの食うべからずってやつです。」


「ぎゃ?」



そういうことわざがここではないどこかの国にあるらしいですわよーっと。


未だワガママな相棒にそう言いながら、体内の魔力を起動。全身に巡らせながら特に目にソレを流し込み、一時的にはなりますが視力を強化します。勿論それで探すのは、飛竜の巣。


人に飼育されている子は巣作りなどしないのですが、野生の彼らは多種多様な巣作りをします。穴を掘ってみたり、鳥みたいに木を集めてみたり、それまで食べた肉の骨を使ってみたりと様々です。



(とりあえず何かに卵が囲われている状況が飛竜にとって好ましい感じだとは思うのですが……。あぁありましたありました。)



ちょっと探してみれば、渓谷の側面。崖面に穴にそれらしいものが見えます。自然に空いたくぼみに枝などを敷き詰めてクッションにしてるタイプの奴ですね。ちょっと崖を上る必要がありそうですが、まぁアレぐらいの高さならなんとかなるでしょう。


ちょうどご両親はいないようですし、今のうちに。



「シャグルー、私今からあそこの卵取って来ますから、飛竜が来たら威嚇して追い返してくださる? あ、嫌って言ったらその可愛らしい舌ちょん切りますわ。」


「ぐる!? ……ぎゃ。」


「はい、良いお返事。帰ったら美味しいご飯食べさせてあげるからね。」



眼に回していた魔力を全身に廻し、身体強化。そのまま崖に向かって走り始めます。


同時に自身の周囲に風を巻き起こし、軽量化及び落下時の保険を稼働。木々を足場としより高度を高めた後。崖へと足をかけ登り始めます。


命綱の代わりに魔法を使ったロッククライミング。ほぼ垂直な谷になっているので思ったより辛い感じですが、まぁコレぐらいならどうにでもなるでしょう。そしてひょいひょいと登ってみれば……、ようやく到着する飛竜の巣。



「お。ありましたありました。5つの子の沢山様ですね。さてはて、幾つ受精してるか……。」



飛竜の平均サイズは約10m、そうなれば卵のサイズも結構なもので、両手で抱えなければ運べない様なレベルです。大体米俵みたいな感じですね。彼らはそれを一度の産卵期に3~5つほど産むのですが、そもそもそこに命が宿っているのかということもあります。人の手が入ればほぼそのすべてに命を灯すことが出来るのですが……。


重さを確認し、太陽で透かし中の輪郭を確認。


お。3ついけてますね。しかも来月には生まれそうな感じ。うんうん、全部持って帰りましょ。


そんなことを考えながら、懐から紐を取り出して卵に結び付けていきます。まぁ抱っ紐みたいなものですね。一応全部一気に抱えるのも出来なくはないのですが、輸送に失敗し中身が零れれば大損害です。丁寧に運ばねばなりません。



「そう言えば昔、ゲームで卵運ぶ奴ありましたよねぇ。ちょっとした攻撃で落としてしまう奴。今は魔法で身体強化していますが、あぁならないように気を付けなければ……。よし!」



前に一つ、後ろに一つ結び付け、左腕で最後の一つを掴む。これで準備は万端です。後はここからゆっくりと崖からおり、バレないように町まで帰る必要があるのですが……。視界の端で、こちらに向かって飛んでる存在が一つ。


ま、そう上手くはいきませんよね。


身体強化を維持しながら、まだ体内に残る魔力を汲み上げ視力の強化に。そちらの方を見てみれば、やはり卵泥棒に気が付いた飛竜がこちらに向かってきているようです。して、その対応を任せたシャグルの方は……。あ、こっち見てますわね。



「シャグルー! あれあれ! あれ! お願いねぇー!」



風を起こして声をあちらに届かせると、私の指さす方を見る彼。


ちょっとびっくりしたような動きをしていたので、ちゃんと気が付いたようなのですが……。何故かそのままですわね。どうやら叫んで威嚇しているみたいですが、地上から声を出しても空を飛ぶ飛竜にはあまり意味がない行動。なんで空飛んでないんでしょ?



「というか、このまま妨害してくれなきゃそのままこっち来ちゃんじゃ?」



……あーうん。ヤバいですわね。


流石に飛竜の飼育者である私が野生なんかの飛竜に負けるわけがないのですが、この地にいる飛竜は“生き延び次に世代を繋げること”がお仕事な子達です。我が家が作って来た飛竜の血筋、それが真に途絶えないようにする保険なのです。それを殺してしまったり、ぶん殴って生殖できないようにしてしまえばもう色々とダメ。


卵でしたら来年また産んでくれるだろうからと思い持って行くことが出来ますが、そのためには両親を万全に残しておく必要があります。



「つまり……、逃げるしかねぇですわぁ! シャグルぅ! 落ち着いたらお説教ですからねッ!」



速攻で崖をそのまま下るのは不可能と判断し、そのままジャンプ。一気に飛び降ります。そして即座に風の魔法を起動、自身を落下の衝撃から守る風の膜。『風裳』を三重に重ねがけ、何とか両足で着地します。後はもう家に向かって……


全力で逃走ですわぁ~! にーげるんですのよぉ!



「GUGRAAAAA!!!!!」


「ぎゃ、ぎゃぁー!」


「おいこらシャグルぅ! 何ドラゴンが飛竜に押し負けてるんですかッ!」



此方が卵を持ったまま飛び降りたことでちょっと驚いたようですが、そのまま無事に逃げ始めたことから激昂して叫びながら突撃して来る野生の飛竜。一応ウチのシャグルも対抗して叫んでいるようですが……。そもそも飛んでないですし、なんか及び腰になっちゃってます。


アレですわね。大型犬が小型犬のあまりにも激しい剣幕でビビり散らす奴。サイズ的には15m級と10m級なので、大型犬と中型犬みたいなものですが……。体大きくて私のこと嘗め腐るならもうちょっと頑張りましょうよぉ。



「あとなんで飛んでないのッ!? あっち飛んでるのに地上にいたら空中戦どころか、真面な威嚇にもならないですわよッ!」


「ぎゃ、ぎゃぎゃぎゃー!」



……怖い? いまこの子怖いって言いました? え、何が? 飛竜、じゃなさそうですよね。


も、もしかして。空飛ぶのが? さ、最初に私を乗せて空飛んだ時。急降下失敗したせいでもしかして怖くなっっちゃったんですの!? 飛ぶのが!? 貴方ドラゴンなのに!? 大空の覇者なのに!?



「……ぐるぅ。」


「なんでそういう大事なことを早く言わないのよぉ!!!」



ずっと私を乗せて飛ぶの嫌、って言ってましたけど。それ嘘だったってことですよね! 自分が今空飛べないっていうの恥ずかしいから『人を背に乗せるのが嫌なんですー!』って言ってたってことですわよね! 道理で町の中にいる間もずっと地上にいると思ったッ!


飛竜と違って魔法で飛行の補助をするドラゴン故に、必要が無い時はずっと地上で生活するのかもしれませんわねぇ。とか密かに考察してた私がバカみたいじゃないですか、もぉッ!



「あぁもう! 一緒に逃げましょ! 森への被害とか気にせず走りなさいッ!」


「ぎゃ!? ぎゃぎゃ!」



私にそう叫ばれ、ちょっとテンパりながら一緒に走り出すシャグル。


けれどやはり子供を持っていかれるというのは許されざる行為、めっちゃキレながら飛竜がその距離を詰めてきています。シャグルの地上走行速度と、魔法によって補助された私の速度はほぼ同じ。こ、このままじゃ普通に追いつかれますわッ!


何か何か何か……、そうだっ!



「シャグル! 火っ! 火っ! 火ィ噴きなさい! 威力弱め、方向あの飛竜よりもちょっと上!」


「ぎゃ、ぎゃー!!!」


「い、威力調節のしかた解んないぃ!? 貴方色々大丈夫!? とにかくなんか撃ちなさいこっちで調整するっ!」


「ぎゃー!!!」



頭のメモに『飛行訓練』と『火力調節訓練』をすることをメモしながら、彼にそう通達。もう色々とやけになっているのでしょう。走りながらちょっと口を広げながら上にあげ、魔力を集め始める彼。けれど走りながらの魔力操作をしたことがないのか、乱れに乱れています。このままでは火球を吐き出すよりも先に追いつかれてしまいます。


なんかもうこの子、色々と初心者ですわねぇ! こうなったらもう孵化した卵の子たちと一緒に1から教育した方がよさそうかもですッ!


とにかく、今はこっちで補助するしかなさそうですわねっ!



「文句は後で聞きますわ!」


「ぎゃ!?」



彼の声を無視し、速度そのままに彼の背へと飛び乗ります。


卵はそのままに、両足で強く挟み込み右手は彼の背に。そして始めるのは、魔力の同期。


シャグルがコントロールできないのなら、こっちでしてしまえばいいのです。人とドラゴン、そもそもの保有する魔力量が違い過ぎるためこっちが押し潰されそうになりますが……。



(魔力の線をこっちに連結! 逆流と輸送量の調節をする弁のイメージ! 両足で受け取って、右手から流す……、よし、いけたッ!)


「貴方は走ることと火を吐き出すことだけをイメージしなさい!」


「ぎゃ……、ぎゃ! ぐるぅぅぅぅ!!!!!」



チャージ特有の唸り声を上げる彼。


そして感じる。良く冷えていた彼の鱗越しに伝わる熱の波動。けれどその瞬間から、まるで激流かと思うような魔力がこちらに流れ込んできます。おそらくですが、今の彼では全力で火を放つ以外のことは出来ないのでしょう。こ、これはちょっと骨が折れそうですわね……。



「ッぅ! コレぐらいッ! シャグル! 溜まったら振り向いて発射ッ!」



私が耐えながらそう叫んだ瞬間。


尻尾を大きく振るい地面をスライドしながらその口先を後方の飛竜に向けようとする彼。一気に全身へ遠心力が掛かりますが、気合で振り落とされないように耐えます。



「ぐるぅぅ……、がぎゃぁぁぁぁああああ!!!!!」


「あぁもう! 今すぐ撃てって言ってないでしょうがッ!」



放たれる、未発達な火球。今朝に放ったものと比べものにならないレベルの威力。飛竜一匹すら墜とすことが出来ない様なソレ。確実にチャージ不足です。


けど相棒の不始末を何とかするのも騎手の役目!



(接続カットっ! 流れ込んでたシャグルの魔力をそのまま使って……!)



周囲に集まっていた空気、いや酸素をだけを風で集め、放たれた火球へ。


一瞬だけその火力を底上げし、再度風で広範囲へと散らす。


あちらの飛竜へのダメージを最低限に。


しかし視界一杯に広がる火を見れば怯え、確実にその速度は落ちる!



「この隙にぃ……! 逃走! シャグル! 私が補助してあげます、飛びましょう! 走るだけじゃ親御さんに追いつかれますわッ!」


「ぎゃ、ぎゃx……。」



未だ躊躇し、弱弱しい声を上げる彼。……ふう、一旦落ち着いて、出来るだけ優しい声色で。


今彼に必要なのは叱咤激励ではなく、やさしい導きと成功体験。


再度シャグルの身体と接続し、その魔力をほんの少しだけ借り受け。魔法を行使します。



「さ、羽を広げなさい。やり方を教えてあげるわ。」



引き起こすのは、上昇気流。あの急降下を受けた身からすれば、彼の飛行への才能はピカイチです。急降下からの復帰をこちらの指示鳴く出来るのならば、天性のものがるのは必須。今は失敗し私がいなければ死にかけていたことを引きずってしまっているようですが……。


出来ると理解できれば、また飛べるはず。



「ぐ、ぐる。」


「そう、広げた状態を維持。」



そう指示し、今度はこちらに意識を集中。


先程起こした上昇気流では、彼の巨体を浮き上がらせるのには足りません。おそらく彼らドラゴンは、人の手ではまだできない『浮遊』や『無重力』といった魔法を無意識に使っているのでしょう。今の風だけでは、不可能。なら、もっと威力を上げなければ……!


イメージするのは、人の手ではどうしようもない大自然の風。


その全てに指向性を与え、一点に纏め。彼の足元から吹き上げさせる。



「……ッし!!!」


「ぎゃ!? ぎゃ! ぎゃ!」



浮いた浮いたと喜ぶ彼。でもコレかなり維持がきついんですッ!



「そのまま羽ばたくッ!」


「ぐるぅ!!!」



最初はたどたどしい羽ばたき、けれど回数を重ね何度も繰り返すほどに上がっていく速度と、取り戻していく精彩。楽しそうに声を上げ始めた彼の様子に安堵し、魔力の接続を切ります。後はもう任せてよさそうですわね。



「速度上げて! 振り切ってそのまま帰りますわよ!」


「ぎゃ~!」




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