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4:落ちますわー!


とまぁ大声で話しかけてみたのですが……。



「起きねぇですわね。」



正面からかなり近づいて声を上げているのに、返ってこない反応。というか途中から綺麗な鼻提灯を作り始める始末です。ここまで気持ちよく寝ているのを見ると、そのまま寝かしてあげたい気もありますが……。どっちにしろこの土地は私が所有していて、厩舎を立て直すにはどいてもらわなければなりません。


この子が私の相棒になってくれるのなら大きめの家を建ててあげてもいいですが、ならないのなら出て行ってもらわないと困ります。



(ん~、まだ若い個体なのでしょうか? 文献で見るよりサイズが小さいですし。)



ちゃんと計っていないので分かりませんが、おそらく全長15mほど。


平均的な飛竜の大きさが10mほどだと考えれば大きい方ではあるのですが、文献で見たドラゴンの描写は、数百mほど体格があるなどと表記されていたはずです。ドラゴンにも色々種類があると言うことは推察できますが……。


そんなことを考えながら、恐る恐る彼の身体に触れてみます。


やはりまだ気持ちよさそうに寝ていますが……、かなり鱗の弾力が強いですわね。瑞々しいですし、飛竜と同じ見方が通用するのなら2、3年目のかなり若い個体でしょう。ま、まぁドラゴンとワイバーンはちょっと見た目が似ているだけの別種だという話ですし、確信に至れるわけではないのですが。



「にしても……、すっごくいい鱗ですわぁ!」



やっぱドラゴンは違うんですねぇ! 比べ物にならない! ほんと格が違います!


飛竜のはやはり爬虫類な感じが強いのか鱗に潤いがあまりないのが特徴なのですが、ドラゴンはもう別格です。鱗自体が固くて厚くて弾力があるし、多分魔法的な耐性もあるのでしょう! 前世でも今世でも『ドラゴンライダー』と言えば皆が憧れなりたいと望むものですが……。あぁ! やっぱりうちの子にしたい!



「でも何故かまだ起きないんですよね? 飛竜でもここまで撫でまわされたら起きるのに。……もしかして人に慣れてたり? どこかから流れて来た存在かと思いましたが、父が連れて来た……?」



いや、流石にそれはないでしょう。


だって父も竜騎士です。ドラゴンなんて見つければ速攻で捕まえて自分の相棒にしてたでしょうし、夜逃げする際に一緒に連れて逃げるはずです。最悪討伐して全部素材にしてしまえば、300億は無理でも100億ぐらいは行けるでしょうし。そこ元手にして家を建て直し、借金完済の目途を立てていたことでしょう。


つまりこれだけされても起きないのは、慣れではなく生物として圧倒的に上位種だからこその余裕と言うものなのでしょうね。実際、龍一匹で国が滅んだとかいう記述も残ってますし、たぶんこれまで睡眠中にダメージを受けたことが無いんでしょう。凄いですわぁ。



「となるとやっぱり野生の子。ふふ、ちょっと手なずけるのに苦労しそうですが、幸いなことにおそらく若い個体。ささ、そろそろお昼寝は終わりにして。ご挨拶させてくださいまし~。」



そう言いながら指で鼻提灯を破り、その鼻先を少し撫でてやる。


するとようやく目を覚ましたようで、ほんのちょっとだけ目をしばしばさせた後、大きなのびと一緒に欠伸をする彼。……後で歯磨きね。色々歯に挟まってて汚いわ。



「ぐりゅぅ?」


「はろはろ、起こしちゃってごめんなさいね。私、アデレートって言うの。貴方は?」


「……zzzZZZ。」



もう一度寝ようとした彼の鼻先を、今度は全力でひっぱたきます。



「ぐりゅ!?!?」


「人話してんのに寝るなクソガキ。」


「ぐぅぅぅ、ガァァァアアアア!!!!!」



多分キレたのでしょう。結構ガチで咆哮をかましてくる彼。


ついでに眠りを妨げる煩わしい私を消そうとしたのでしょう。喉の奥から火炎の種火のようなものが宿り始めてますが……。即座にこちらも魔法を起動し、その喉奥の空気を全て抜き取ることで、強制的に鎮火します。


あらあら、びっくりしちゃって。ダメですよパートナーに火を吹こうとしたら。丸焦げになったらどうするんです?


そんなことを考えながらもう一度鼻先をペシペシと叩いてやると、ちょっとせき込みながら失った空気を吸い始めるドラゴン。ここまでのやり取りに限った話にはなりますが、かなり行動に若さが見て取れます。幼さとも言っていいでしょう。老練な個体なら目が覚めた瞬間に噛みつきに来ていたでしょうし、ね?



(んー、にしてもこの様子。大体ワイバーンと同じ感じで大丈夫そうですね。)



ワイバーン、飛竜の調教を行う際は、上下関係の刷り込みが重要になってきます。


卵の頃から育てればある程度の刷り込みは出来るのですが、それでも飼育者、厩務員たちが自分たちよりも弱いと彼らが感じれば、即座に反抗して来るのが飛竜です。そこが可愛い所でもあるのですが、私たち飼育者じゃワイバーンを上から押さえつけられる何かを求められています。


これが結構難しいもので……。飛竜の厩務員の成り手、そしてその人数が少ないのもこれが理由なんですよね。


とと、話を戻しませんと。



「ねぇ貴方。ここ私の土地なの、解る? キミの家じゃないのよ。」


「ぐりゅ、ぎゃッ!?」



なにか反抗しようとしたその鼻を、今度は棒でぶっ叩きます。


やはり感覚が集中しているようで、結構大きな悲鳴を上げる彼。若干の申し訳なさを覚えますが、姿勢と態度は一切変えず眼前に直立不動。なめられたらお終いですからね。そこはしっかりしませんと。



「だから出ていきなさい。ね? ほらあっち。山あるでしょう? 自分で巣を見つけて来なさい。」


「ぎゃッ!」


「イヤ? じゃあ私と喧嘩する? あ、喧嘩するの。」



否定の泣き声を上げながら、全力で噛みつこうとしてくる彼。


けれど最低限の動きで後方に回避し、その顎が全力で閉じられた瞬間に、もう一度鼻を全力で叩きます。あぁ痛いね、ごめんね、でも普通に人噛み殺せる口で暴れられたら色々問題だから、ちゃんと躾しないとなの。飛竜ですら噛みついたら両断されちゃうのに、ドラゴンの口だと大変なことになっちゃうでしょう?


だったらもう心を鬼にして叩かないと。



「ぐぅ………!」


「そんなにここが良いの?」


「ぎゃ!」


「なら私の配下になれば住まわせてあげるけど? 私の下ね、下。」



手で階層を作り、下の方と彼を交互に指差し従うように指示してみる。


一応意味は伝わったようですが……。あ、コイツ鼻で笑いましたわね。


再度全力で鼻を叩き、わからせます。



「んー、ワガママというか。負けん気の強い子ですね。可愛くもあるけど、結構時間がかかりそう。とりあえず厩舎立て直しの為にやって来る作業員の方々に攻撃しないぐらいまでは躾たいのですが……。」


「ガァァァアアアア!!!!!」


「火は効きませんわよ~。」



また火を吐き出そうとしたところを、魔法でキャンセルします。


ちょっと喉を痛そうにしながらせき込んでいるので、あまり何度も繰り返したくないのですが……。やっぱワイバーンにはない攻撃方法ですから上手い手加減が解りませんね。一応鼻も後に残らないよう叩いてはいるのですが……。あまりやり過ぎると嫌われちゃうかも。



「仕方ありません、ちょっと早いけど背に乗せてもらいましょうか。ほい、っと。」


「ぎゃっ!」



軽く地面を蹴り、彼の背に跨がります。


鞍が無いのでちょっと乗りにくいですが、これでも竜騎士の娘。ある程度は心得ています。両足でその胴体を挟み込み、体を固定。嫌そうに身震いする彼を押さえつけます。



「さ、そろそろ認めなさい。配下になってくれたらごはんだけじゃなく、お風呂とか色々手伝ってあげますわよ。もっといいお家もあげちゃう、ね? そろそろ言う事聞きましょうね? ね?」


「ぐぅぅぅ、ぎゃぁぁ!!!」


「あら、強い否定。」



叫んだ瞬間、全力で翼を広げる彼。そして背中越しに感じる、魔力の奔流。


人間とは比べ物にならないほどの力が全身に流れていき、その羽に集中していく。技術的なものは一切なく、タダ種族としての力量差だけで世界に働きかける力。


これは……、飛ぶ気ですわねッ!


自身が彼の背にしがみついた瞬間。飛び上がる彼。全身に重力が押しかかり、背を叩きつける空気たち。けれど私を気にせず、彼が大きく翼を広げると……、一気に加速する。



(ふぉぉぉぉ! すご! すご!!!)



これやっべぇですわ! 加速ヤバい! 一瞬だけど音が遅れて聞こえて来た! 音速! 音速超えてますわコレ! 飛竜じゃ絶対できない加速! やっぱドラゴンっていいですわ!!!


飛竜はそもそも、単体で空を飛ぶ生き物です。品種改良などである程度重量物を運べるようにはなりましたが、全身を鎧で守り重い武器を持った竜騎士を抱えて飛ぶには、少し馬力が足りません。風の強い日では何とか飛行できるでしょうが、無風ならば飛び上がることも難しいでしょう。


故に我ら竜騎士は、風魔法の取得が必須とされています。風を起こし飛竜を補助し、また落下時に自身の命を守るための魔法。



(けどこの子! ほんとに馬力が違います! 私の補助なんかいらない、いやあればもっと速く飛べる!)



やっぱりウチの子に……、およ?


彼にとっての新しい主人であり、パートナーとして。竜騎士を背に乗せると言うことがどういうことなのかと彼に教えてあげようかと思った瞬間。彼の翼の動きが、急に変わります。広げていた物を畳み、姿勢を下へ。そしてゆっくりとですが回り始める彼の体。


……払い落す気ッ!?



「ぎゃっぎゃっぎゃっ!」


「悪い子ね貴方っ! ならもうどっちがへばるかまで勝負ッ!」



此方をあざ笑う彼にそう返し、こちらも体内に魔力を流し始めます。


使うのは風魔法ではなく、単純な身体強化。魔力というこの世界特有の不思議な力を使い、肉体を限界まで強化。いくら慣れていると言えど、人とドラゴンでは肉体の作りが違うでしょう。ですが、あちらの方が上ならばこちらも下駄を履けばよいだけのこと!



「こいっ!」



私がそう叫んだ瞬間、一気に回転を上げてくる彼。


地面に向かって一直線にキリモミ回転しながら落ちていく私達。重力と遠心力が全身を壊しにかかってきますが……、もう気合だけで耐えきります。竜騎士は現代における戦闘機乗りみたいなものなんですよ! G程度に負けるものですかっ! 耐Gスーツは無くても魔力でカバーしきってやりますわーッ!



「ぐぅぎぃぃぃ! まだまだぁぁ!!!!!」



そうやってしがみついていると、見えてくる地肌。


一瞬だけそのままぶつかるかと思いましたが、地面に落ちるすれすれで羽を開き、落下を防ぐドラゴン。



(ふふ、若くてもその辺りの技量はちゃんとあるようですわねッ!)



そう思いながら彼の背を軽く叩きますが、帰って来るのは不機嫌そうな声。


私が耐えきったのが面白くないのでしょう。やはりまだまだ負けを認めるつもりはないようで、再度大空へと飛び上がり、より高度を上げていく。飛竜を超える速度で上昇した結果、たどり着いたのは先ほどの倍以上の高さ。……高度4000ぐらいまで登りましたわね、この子。


先程の倍以上に辛いでしょうが、何度でも受けて立って……。え、ちょっと貴方!?


なんで体震えてるんですのッ! 



「ぎゃぅ。」


「ちょっ!? 怖い!? なんで恐怖の感情出してるの貴方!? なんで自分も怖いのに落下し始めてるんです!? ちょ、やめ! 中止! 中止ぃぃぃ!!!!!」



私の抵抗虚しく、一気に落ち始める彼。しかも制御を失ったせいか、回転速度も落下速度も上がってます。


声に恐怖が浮かんでいたことから、多分さっきの落下自体結構怖かったのでしょう。意地で倍の高さまで登ったけど、こっからもう一度同じことをする勇気は出ない。でも背中に乗っている私がなんか騒いでるから、無理してやってみた、ってとこですか!?


あぁもう! 明らかに回転速度が出すぎてますッ! 今からコントロール……、出来ないですよねぇッ!


私は振り落とされても復帰できますが、この子はそのまま地面に大激突で死亡! いくら頑丈な龍でも生き物ならば、頭から叩きつけられて無事とは言えないでしょう!


だからもう勝負は中止! こっち全部制御しますわよ! いいですわね! 変に邪魔せず受け入れなさい!



「ぎゃ、ぎゃッ! ぎゃぁぁぁぁ!!!!!」


「イヤじゃないッ! 怖くて叫ぶくらいなら言う事聞きなさいッ! 『風裳』ッ!」



詠唱をもって威力を底上げし、落下地点周辺に風の衣を形成します。


普段なら1枚で足りるでしょうが、今回は質量も速度も別。念には念を入れて体内の魔力全部を叩き込み、一気に10枚の衣を生成します。そのせいで身体強化に回していた魔力もなくなりますが……、後はもう気合ッ!



「風の膜っ! 見えるでしょう!? あそこに飛び込みなさい!」



なんとか彼にしがみつきながらそう叫びますが、反応はなし。


恐怖と回転でもう目を回してしまったのでしょう。依然として不味い状況ではありますが、彼が変に暴れないのであればまだ何とかなります。


既に落下方面に魔法を起動済み。後は振り落とされないだけ。あの風の膜にさえ飛び込めば、助かります。


けど、流石にちょっと、この回転はッ!



「んぎぎぎぎッ! 今ッ! 吹き飛ばされたらッ! 死ぬッ!」



な、何とかなれー!!!



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