表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/15

第5話:父の形見の暗号


夜が更けても、蘭花の眠りは浅かった。

お吉を奥の部屋で休ませた後、彼女は一人、父の遺品が収められた小部屋にいた。行灯の明かりの下で、あの懐中時計を手に取り、じっと見つめている。

オランダ製の精巧な銀時計。表面には繊細な装飾が施され、針は正確に時を刻んでいる。

だが、蘭花の関心は時計そのものにはなかった。

問題は、裏蓋に刻まれた暗号だ。

(お吉の話を聞いてから、なぜかこの暗号が気になって仕方がない)

彼女は再び裏蓋を開いた。

複雑な数字と文字の組み合わせ。アルファベットと数字が交互に並び、一見すると意味不明な記号の羅列にしか見えない。

しかし、蘭花には分かっていた。これは確実に、何かの意味を持つ暗号だということが。

父は医師であると同時に、学者でもあった。そして、時として危険な情報を扱うこともあった。この暗号は、そんな父が万が一の時に備えて残したものに違いない。

蘭花は父の医学書を取り出し、暗号表を探した。

(確か、この本の最後のページに……)

ページをめくると、そこには簡単な対照表が挟み込まれていた。数字とアルファベットの対応関係を示す、暗号解読のための鍵だった。

蘭花は小さな紙に、暗号を一つずつ解読していく。

「M-A-R-I-A……」

マリア。

女性の名前だろうか。いや、船の名前かもしれない。

さらに解読を続けると、次の文字列が現れた。

「L-U-I-Z-A」

マリア・ルイーザ。

その瞬間、蘭花の背筋に電流が走った。

(まさか……お吉が言っていた座礁船の名前が、この暗号に?)

慌てて解読を続ける。すると、さらに驚くべき文字列が現れた。

「医学実験用薬品・器具一式」

「受取人:ヨハネス・ファン・デル・ベルク」

「緊急時連絡先:長崎蘭月庵」

蘭花の手が震えた。

ヨハネス・ファン・デル・ベルク——それは、父の名前だった。

そして、緊急時の連絡先として、この蘭月庵の名前が記されている。

つまり、座礁したあの船「マリア・ルイーザ号」は、父宛ての荷物を運んでいたということなのか。

しかし、父は十三年前に故郷オランダへ帰ったはず。なぜ今頃、父宛ての荷物が?

蘭花の頭の中で、様々な疑問が渦巻いた。

(父は本当にオランダに帰ったのか?)

(それとも、帰る途中で何かが起きたのか?)

(この荷物は、一体誰が、なぜ送ったのか?)

そして、最も重要な疑問。

(なぜ、緊急時の連絡先が蘭月庵になっているのか?)

蘭花は震える手で、解読した文字を何度も読み返した。

これは、単なる偶然ではない。父の失踪と、今回の座礁事件は、何らかの形で繋がっている。

そして、この蘭月庵も、その謎の中に巻き込まれているのだ。

外の嵐は、ようやく静まり始めていた。しかし、蘭花の心の中では、新たな嵐が吹き荒れていた。

(明日、現場に行ったら、必ずこの謎を解かなければ)

彼女は懐中時計を胸に抱き、窓の外を見つめた。

夜明けまで、あと数時間。

本当の真実が明らかになるのは、これからだった。


【次回予告】

父宛ての荷物だった座礁船!

しかし、十三年前に帰国したはずの父の行方は?

蘭花の前に現れる、新たな謎の人物とは?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ