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第4話:謎への興味と決意

蘭花の唇に、ぞくりとするような笑みが浮かんだ。

それは恐怖でも不安でもない。解き明かすべき謎を前にした時の、彼女独特の表情だった。

「蘭花さん……?」

お吉が心配そうに見上げる。

「お吉、あなたは本当によく頑張ってくれた。でも、これからが本当の仕事よ」

蘭花は振り返ると、きっぱりと言い放った。

「この『方程式』を解きに行くわ」

方程式——それは蘭花が複雑な人間関係や利害対立を表現する時に使う、独特の言葉だった。

奉行所は法と秩序を重んじる。商人たちは利益を追求する。漁民たちは労働への対価を求める。そして、その全ての中心にある謎のオランダ船と、正体不明の積荷。

これらの要素がどう絡み合い、どう解決すべきか。それを数学の方程式を解くように、論理的に、そして人の心を理解しながら導き出すのが、蘭花の仕事だった。

「でも、蘭花さん……危険じゃない?」

お吉の不安そうな声に、蘭花は優しく微笑みかけた。

「大丈夫よ。私は喧嘩をしに行くわけじゃない。みんなが納得できる解決策を見つけに行くだけ」

そう言いながら、蘭花は立ち上がり、店の奥へと向かった。

帳場の奥にある小さな部屋——そこは父の遺品が大切に保管されている、蘭花だけの秘密の空間だった。

鍵のかかった桐の箱を開けると、その中から一つの古い懐中時計を取り出す。オランダ製の精巧な銀時計。ただの装飾品ではない。

蘭花は慣れた手つきで、その裏蓋を開いた。

カチリ、と小さな音が響く。

蓋の裏側に現れたのは、複雑な数字と文字の組み合わせが、細かく刻み込まれた暗号だった。父が遺した、秘密の協力者たちとの連絡網。

(まだこの暗号を使う時ではないけれど……)

蘭花は懐中時計を胸に抱きながら、窓の外の嵐を見つめた。

雨は相変わらず激しく降り続けているが、風は少し弱くなってきている。明日の朝には、嵐も収まっているだろう。

「お吉」

蘭花は小部屋から出ると、お吉を呼んだ。

「はい!」

「あなたは今夜、うちの奥の部屋で休みなさい。誰にも顔を見られないように。いいね?」

「うん。でも、蘭花さんはどうするの?」

お吉の問いに、蘭花は静かに、しかし力強く答えた。

「決まっているわ。明日の朝一番に現場へ行って、状況を自分の目で確かめる。そして……」

彼女の青い瞳が、決意に満ちて輝いた。

「この複雑な『方程式』を、必ず解いてみせる」

蘭花は懐中時計を懐にしまうと、お吉に向かって優しく言った。

「心配しなくても大丈夫。私は、人と人との争いを収める仕事をしているの。それが、私の使命よ」

外では嵐がまだ荒れ狂っている。

だが、本当の嵐は、これから始まろうとしていた。

蘭花は窓辺に立ち、港の方角を見つめる。暗闇の向こうで、今この瞬間も三つの勢力が火花を散らしているのだろう。

(父さん、私はあなたの娘として、この長崎の平和を守ります)

彼女の胸の中で、静かな決意が燃え上がっていた。


【次回予告】

蘭花の決意は固まった!

しかし、彼女が知らない重大な秘密が隠されていた。

父の遺品に隠された暗号の正体とは?

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