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第3話:複雑な利害関係の予感

「港に、見たこともないオランダの船が……! 座礁してるんだ!」

お吉の第一声に、蘭花の青い瞳がぴくりと動いた。

「定期船ではないのね?」

「うん、絶対違う! もっと大きくて、黒くて……不気味な船だった。その船が岩に乗り上げて、積んでた木箱が波でどんどん流されちまって……!」

お吉は湯呑みを両手で包みながら、息せき切って続けた。

「もう岸の一部に打ち上げられてるんだ!」

オランダ船の座礁。しかも定期船ではない正体不明の船。

蘭花の頭の中で、一つ一つの情報がパズルのピースのように組み合わさり始める。

嵐の夜。謎の船。散らばる積荷。

(これは、ただの海難事故ではないかもしれない)

「現場の様子は? 誰か集まっているの?」

蘭花の質問に、お吉の表情がさらに深刻になった。

「それが……! 奉行所のお役人だけじゃないんだ。湊屋みなとやみたいな大店の商人たちや、腕っぷしの強い漁師たちまで集まってきて、流れ着いた木箱を巡って、もう……てんやわんやの大騒ぎになってるんだよ!」

奉行所、商人、漁民。

それぞれ全く異なる立場の人々が、同じ現場に集結している。

蘭花の表情が、次第に険しくなっていく。

奉行所は当然、法的な処理と秩序の維持を最優先とするだろう。商人たちは、流れ着いた積荷に商業的価値を見出し、それを手に入れようとする。漁民たちは、引き揚げ作業への対価を要求するはずだ。

三つの勢力。三つの思惑。三つの正義。

「お吉、その木箱の中身について、何か分かったことはある?」

「それが……みんな必死に隠そうとしてて、よく見えなかったんだ。でも、すごく重そうで、大切なものが入ってるってことだけは確かだよ」

蘭花は静かに茶を啜りながら、頭の中で情報を整理していく。

定期便ではないオランダ船。嵐による座礁。貴重な積荷。そして、それを巡る三つの勢力の対立。

これは確実に、単純な海難事故ではない。

何かもっと大きな、複雑な事情が隠されている。

「ねえ、蘭花さん」

お吉が不安そうに声をかけた。

「あたし、なんだか怖くなっちゃって……あの人たち、みんな目つきが違ってたんだ。まるで、お互いを敵だと思ってるみたいに」

蘭花は、お吉の手に優しく自分の手を重ねた。

「大丈夫よ、お吉。よく知らせてくれたわ。あなたは本当によくやってくれた」

そして、立ち上がりながら、静かに呟いた。

「面白いことになってきたわね」

その呟きは、恐怖や不安からではなかった。解き明かすべき謎を前にした、彼女の知的好奇心が疼き始めた証拠だった。

複雑に絡み合った利害関係。それぞれが正当な理由を持ちながら、しかし決して相容れることのない対立。

これこそが、蘭花という女性が最も得意とする分野だった。


【次回予告】

蘭花の知的好奇心が完全に目覚めた!

この複雑な事件に、どう立ち向かうのか?

そして、彼女が下す決断とは?

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