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第2話:突然の来訪者

ドン、ドン、ドンッ!

静寂を切り裂き、店の戸を乱暴に叩く音。

蘭花の手が、薬草の上で止まった。風の悪戯かと思ったが、それは明らかに人の手によるものだった。それも、ただの来訪ではない。叩きつけるような音には、尋常ならざる焦燥と切迫感が滲んでいた。

こんな嵐の夜に、一体誰が?

蘭花の表情から柔和な光が消え、すっと鋭い光が宿る。彼女は音もなく立ち上がると、懐から護身用の小さな手槍を抜き取り、それを左の袖に隠した。

そして、足音を忍ばせ、ゆっくりと戸口へと向かう。

外の気配を探るが、嵐の音がかき消して何も分からない。ただ、戸を叩く音が、先ほどよりも弱く、そして不規則になっている。まるで、叩いている相手が立っているのもやっとなのだと告げているかのように。

蘭花は息を殺し、戸板一枚を隔てた向こう側の闇に、全神経を集中させた。

「どなた様でございましょうか。このような夜更けに……」

用心深く声をかけた。

返事はない。ただ、戸に寄りかかるような、ぐったりとした気配だけが伝わってくる。いよいよ怪訝に思った蘭花が、もう一度声をかけようとした、その時。

「……らん、か、さん……?」

か細く、途切れ途切れの声。それは嵐の音にかき消されそうなほど弱々しかったが、聞き慣れた声だった。

蘭花はハッとして、すぐに内側からかんぬきを外した。

勢いよく開いた戸から、まるで堰を切ったように雨水と風が吹き込み、それと同時に小さな影が店内へとなだれ込んできた。

「お吉!」

転がり込んできたのは、年の頃十五、六の小柄な少女だった。

お吉——庶民の出だが、その身のこなしの軽さと、どんな人混みにも紛れ込める要領の良さを買われ、蘭花の手足となって街の情報を集めている娘だ。

今のお吉は、まるで海から引き揚げられたばかりのように、ずぶ濡れだった。着物の裾からは絶えず雨水が滴り、あっという間に床に黒い水たまりを作っていく。顔は蒼白で、唇は小刻みに震えていた。

「はぁ……はぁ……! らんか、さん……たいへん、なんだ……!」

「喋らなくていい。まずは体を温めて」

蘭花は慌てるお吉を優しく制し、素早く分厚い手拭いを何枚も持ってくると、彼女の髪や体を拭いてやった。

そして、すぐに厨房へ向かい、体を温め、神経を鎮める効能のある薬草を調合した特製の熱い茶を淹れる。甘草かんぞう生姜しょうきょうを多めに入れた、甘く、そして喉にピリリとくる刺激的な茶だ。

「……あ、りがとう……」

温かい湯呑みで両手を包み、ようやく一息ついたお吉は、顔を上げた。その瞳には、まだ拭い去れない興奮と恐怖の色が浮かんでいる。

蘭花は、お吉の向かいに静かに座った。

「それで、一体何があったの? こんなになるまで」

落ち着いた声で促された瞬間、お吉は堰を切ったように話し始めた。

「港だよ、蘭花さん! 港に……!」


【次回予告】

お吉が見たものとは?

港で一体何が起きているのか?

蘭花の運命を変える重大事件の始まり!

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