第15話:驚愕の事実
その夜、蘭花は地下室で青い瓶を詳しく調べていた。
瓶の中には透明な液体が入っており、わずかに青みがかって見える。
ラベルの『試作品X-7』の下に、小さな文字で追加の説明が書かれていた。
「警告:極少量でも強力な効果。取扱注意。解毒剤なし」
蘭花は背筋が寒くなった。
父は一体どんな薬品を作ったのだろうか?
瓶の底を見ると、父の手書きでさらに詳しい説明があった。
青い瓶の説明文:
「この薬品は東洋の秘薬『龍涎香』と西洋の化学合成物質を組み合わせて作製。
適量使用:万病に効く治療薬
過量使用:致命的な毒物
中和剤:『白い粉末・容器B-3』と併用必須」
蘭花は急いで他の薬品を調べた。
確かに『B-3』と書かれた小さな容器があり、中には白い粉末が入っている。
「お父様は、毒にも薬にもなる物質を作ったのね」
これほど危険な研究をしていたなら、何者かに狙われるのも当然だった。
そのとき、上の階で物音がした。
誰かが蘭月庵に侵入しているようだ。
蘭花は慌てて青い瓶と白い粉末を隠し、静かに階段を上がった。
茶屋の部分を覗くと、黒い影がうごめいているのが見えた。
侵入者は積荷の箱を物色している。
蘭花は息を殺して様子を伺った。
侵入者は一人ではなく、少なくとも三人はいるようだ。
彼らは手慣れた様子で、特定の箱を探している。
「青い瓶はどこだ?」小さな声が聞こえた。
「この辺りの箱を全部調べろ」別の声が答えた。
蘭花の推測は当たっていた。
彼らの目的は、父の最重要研究である青い瓶だった。
しかし、その瓶は既に蘭花が地下室に隠している。
侵入者たちは、空の箱ばかりを調べることになる。
「おかしいな...確かにこの中にあるはずなのに」
「もう一度、全部の箱を調べ直せ」
侵入者たちは焦り始めているようだった。
蘭花は地下室に戻り、応援を呼ぶ方法を考えた。
一人で三人の侵入者と対峙するのは危険すぎる。
しかし、奉行所に知らせる時間はない。
侵入者たちが諦めて立ち去る前に、何とかしなければならない。
そのとき、裏口から別の足音が聞こえた。
今度は誰だろうか?
「おい、何をしている!」
聞き覚えのある声だった。源蔵だ。
蘭花の密かな協力者である元忍者が、偶然通りかかったようだ。
「しまった!逃げろ!」
侵入者たちは慌てて逃走し始めた。
蘭花は安心して地上に上がった。
「源蔵さん、ありがとうございます」
「蘭花、大丈夫か?何があった?」
蘭花は今夜の出来事を手短に説明した。
源蔵は深刻な表情になった。
「やはり、お前の父上の研究を狙う者がいるのか」
「ええ。そして、その正体がわかりました」
蘭花は、父の暗号から解読した湊屋への警告を伝えた。
源蔵は納得したような表情を見せた。
「湊屋惣兵衛...確かに怪しい男だ。表向きは正当な商人だが、裏で怪しい取引をしているという噂がある」
「やはりそうでしたか」
「だが、証拠がなければ奉行所も動けない。慎重に対処する必要がある」
源蔵の助言で、蘭花は当面の対策を立てた。
緊急対策:
最重要品(青い瓶)は絶対に秘匿する
湊屋への対応は表面上は普通に、内心では警戒する
他の積荷も厳重に管理する
信頼できる協力者(源蔵、ホルスト)とのみ重要情報を共有
「源蔵さん、お願いがあります」蘭花が頼んだ。
「何だ?」
「湊屋の身辺を調べていただけませんか?父の研究を狙う理由と、具体的な計画を知りたいのです」
源蔵は引き受けた。
「任せろ。忍びの情報網を使って調べてやる」
翌日、蘭花は予定通り四人と積荷の検討を続けた。
しかし、昨夜の侵入事件は秘密にし、最重要品については曖昧にごまかした。
「蘭花さん」湊屋が親しみやすい口調で話しかけた。「お父様の研究は素晴らしいものですね」
「ありがとうございます」蘭花は表面上は普通に答えたが、内心では警戒していた。
「特に印象的だったのは、薬品類です。あのような貴重な薬は、きっと高値で取引できるでしょう」
湊屋の言葉に、明らかに商売への関心が含まれていた。
「そうですね。でも、まだ詳しい内容を把握していないので...」
ホルストが口を挟んだ。
「薬品の取り扱いは慎重にしなければなりません。特に試作品は危険な場合もあります」
「もちろんです」湊屋が同意したが、その目は薬品の箱に注がれていた。
佐々木が法的な観点から意見を述べた。
「積荷の最終的な処分方法も決めなければなりませんね」
「お父様の遺志に従って、研究を継続したいと思います」蘭花が答えた。
「それは素晴らしいお考えです」湊屋が急に積極的になった。「もし資金面でご協力できることがあれば、遠慮なくお申し付けください」
蘭花は父の警告を思い出した。
湊屋の「協力」は、研究を支配するための手段かもしれない。
「ありがとうございます。検討させていただきます」
その日の会議は、表面上は和やかに終わった。
しかし、蘭花は湊屋の真意を探ろうと、さりげなく質問を続けた。
「湊屋さんは、医学にもお詳しいのですね」
「いえいえ、商売柄、多少の知識があるだけです」湊屋が謙遜した。「特に海外から輸入される薬品については、品質や価値を見極める必要がありますから」
「なるほど。では、東洋と西洋の医学の違いについては?」
湊屋の表情がわずかに変わった。
「それは...興味深い分野ですね。将来性があると思います」
この反応で、蘭花は確信した。
湊屋は単なる商人ではない。父の研究の価値と危険性を十分に理解している。
夕方、源蔵が調査結果を持って現れた。
「湊屋について調べた」源蔵が報告した。
「どうでしたか?」
「表向きは正当な商人だが、裏では怪しい取引に関わっている。特に、海外から密輸された薬品や武器の仲介をしているらしい」
「やはり...」
「さらに、最近になって医学関係の人物と頻繁に接触している。おそらく、お前の父上の研究について事前に情報を得ていたのだろう」
蘭花は背筋が寒くなった。
父の研究が狙われていることを、湊屋は座礁事件より前から知っていたのだ。
「つまり、座礁事件も...」
「偶然ではない可能性が高い」源蔵が断言した。「湊屋が何らかの方法で、船を座礁させた可能性がある」
蘭花は愕然とした。
父の研究を奪うために、無関係な船員たちを危険に晒したのか?
「許せません」蘭花の怒りが込み上げた。
「だが、証拠がない。今のところは警戒するしかない」
源蔵の忠告で、蘭花は冷静さを取り戻した。
復讐ではなく、父の研究を守り、正しい目的に使うことが重要だ。
そのためには、湊屋の計画を阻止し、青い瓶の秘密を解明しなければならない。
【次回予告】
湊屋の陰謀が明らかに!
青い瓶の真の力とは?
父の研究をめぐる最終決戦が始まる!




