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第13話:蘭月庵地下の秘密

夜更け、蘭月庵の一階は静寂に包まれていた。

客の姿はなく、行灯の灯りだけが店内をほのかに照らしている。

蘣花は父の懐中時計を手に、奥の階段を下りていった。

地下には、父が生前使っていた実験室兼保管室がある。

石の階段を慎重に下りると、空気がひんやりと冷たくなった。

地下室は思った以上に広く、壁際には薬草を保管する棚が並んでいる。

中央には大きな机があり、その上には父の医学書が整然と並べられていた。

蘭花は行灯を置き、改めて父の遺品を見回した。

地下室の内容:


医学書:約150冊(オランダ語、ラテン語、一部日本語)

薬草標本:数百種類

実験器具:蒸留器、天秤、顕微鏡など

研究ノート:父の手書きメモ多数

薬品類:各種調合薬


「お父様...一体何を研究していたの?」

蘭花は机の上の医学書を手に取った。

『薬草学大全』『人体解剖図説』『病理学概論』など、専門的な書籍ばかりだ。

その中に、見慣れない題名の本があった。

『極東薬草調合秘法』

表紙を開くと、父の手書きの文字が目に飛び込んできた。

「我が娘・蘭花へ

もしこの本を読んでいるなら、私に何かが起こったということだろう。

この研究は、東洋と西洋の医学を融合させる試みである。

しかし、それは同時に危険を伴う研究でもあった。」

蘭花の手が震えた。

父は、自分に危険が迫ることを予知していたのだろうか?

ページをめくると、複雑な図表や化学式が続いている。

しかし、ところどころに不自然な文字や数字が混じっていた。

「これは...暗号?」

懐中時計の裏蓋と同じような、文字と数字の組み合わせだ。

父は、医学書の中に暗号を隠していたのかもしれない。

蘭花は他の医学書も調べ始めた。

すると、どの本にも同様の不自然な記載が見つかった。

発見した暗号らしき記載:


『人体解剖図説』:ページ番号に規則性のない数字

『病理学概論』:単語の下に小さな点や線

『薬草学大全』:余白に意味不明の文字列


「お父様は、すべての医学書に暗号を仕込んでいたのね」

蘭花は暗号表を作ろうと、紙とペンを取り出した。

しかし、暗号の種類が多様で、簡単には解読できそうになかった。

そのとき、机の引き出しに何かが引っかかる感触があった。

調べてみると、引き出しの底に隠し空間があることが分かった。

「秘密の隠し場所...」

隠し空間から出てきたのは、小さな木箱だった。

箱には精巧な錠前が付いている。

蘭花は懐中時計を見た。

時計の針の位置が、錠前の数字と関係があるかもしれない。

時計の長針と短針が示す数字を組み合わせて、錠前に入力してみた。

3回目の試行で、カチリと音がして錠前が開いた。

「やった!」

木箱の中には、さらなる驚きが待っていた。

木箱の中身:


暗号解読表

未知の薬草サンプル

オランダ宛ての未投函の手紙

謎の鍵

小さな地図


蘭花はまず、オランダ宛ての手紙を開いた。

宛先は「アムステルダム医学研究所」となっている。

手紙の内容は衝撃的だった。

「親愛なる同僚たちへ

私の研究は重大な段階に達している。

東洋の秘薬と西洋の化学を組み合わせることで、

これまでにない治療効果を持つ薬品の開発に成功した。

しかし、この研究には危険が伴う。

何者かが私の研究を狙っているようだ。

おそらく、その薬品を悪用しようとする者たちだろう。

もし私の身に何かあった場合、

研究資料はすべて娘の蘭花に託したい。

彼女なら、この研究を正しい方向に導いてくれるはずだ。

研究の詳細は、暗号化して医学書に記した。

解読方法は蘭花が知っている。

至急、研究資料の一式を長崎に送ってほしい。

宛先は『長崎・蘭月庵』である。

ヨハネス・ファン・デル・ベルク」

蘭花は手紙を読み終えて、深くため息をついた。

父は13年前に帰国した後も、研究を続けていたのだ。

そして、何らかの危険を感じ、研究資料を日本に送ろうとしていた。

「それが、今回座礁した船の積荷なのね」

蘭花は暗号解読表を手に取った。

複雑な対応表だが、これがあれば医学書の暗号を解読できそうだ。

まず、『極東薬草調合秘法』の暗号から解読してみることにした。

暗号解読の過程:

最初のページの暗号:「X7-M3-K9-L1」

解読表で確認すると:「重要-秘密-薬草-調合法」

次のページ:「A5-T8-R4-N2」

解読すると:「危険-人物-追跡-注意」

蘭花の血の気が引いた。

父は、誰かに追われていることを暗号で記録していたのだ。

さらに解読を続けると、驚くべき内容が明らかになった。

解読された内容の概要:


父は「万能薬」とも言える薬品の開発に成功していた

その薬品は、様々な病気に効果があるが、同時に毒にもなり得る

何者かがその薬品を軍事目的で使おうとしていた

父は研究を中止し、資料を安全な場所に隠そうとした

最終的に、研究資料を娘の蘭花に託すことを決めた


「お父様...そんな大変な研究をしていたなんて」

蘭花は謎の鍵を手に取った。

これは一体何の鍵だろうか?

地図を見ると、長崎の市街地が描かれている。

そして、ある場所に×印が付けられていた。

「この×印の場所は...」

蘭花は地図を詳しく調べた。

×印の場所は、長崎港近くの古い倉庫街のようだ。

「もしかして、お父様は長崎にも研究施設を持っていたの?」

時計を見ると、もう深夜になっていた。

明日は積荷の回収作業がある。

蘭花は発見した資料を大切にしまい、地下室を後にした。

階段を上りながら、様々な思いが頭を巡った。

父の研究がどれほど重要で危険なものだったのか。

そして、その研究資料を狙う「何者か」の正体は?

明日の積荷回収で、さらなる手がかりが見つかるかもしれない。

蘭花は決意を新たにした。

父の遺志を継ぎ、研究の真実を明らかにしよう。

そして、その研究を正しい目的のために使おう。


【次回予告】

地図の×印が示す場所の秘密とは?

積荷回収で新たな発見が!

父の研究を狙う謎の人物の影が!

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