第9話「密告者」
その日の夜。
加奈は、部屋のカーテンを閉めきったまま、スマートフォンの画面を見つめていた。
そこに映っているのは、信じたくない光景だった。
咲良が、結依に触れられ、拒まないまま、身体を預けていた。
「……なんで」
画面に映る咲良の表情は、苦しそうで――それでいて、どこか甘く蕩けていた。
(助けなきゃって思ってたのに……咲良ちゃん、あんな顔……)
加奈は指を止めた。
もう一度、巻き戻す。
その部屋は、旧館の倉庫。校内でも立ち入り禁止の場所。
(盗撮なんて最低だって思ってた。でも、知らなかったことを……知ってしまった)
動画ファイルの送り主は“匿名”。
件名にはただ一言――「あなたの大切な人は、壊されている」。
胸の奥に、何かがひび割れる音がした。
(咲良ちゃん、あなたは自分が“壊されてる”って気づいてるの?)
いや、違う。
(……もしかして、自分で壊されにいってるの?)
加奈はスマートフォンを置いた。
目を閉じると、唇を噛んだ。
(わたしの知らない咲良ちゃんがいる。結依にしか見せてない顔がある)
震える手で、スマホを再び持ち上げる。
「この動画……先生に出せば、あの子、終わるんじゃない?」
けれど、その言葉は声にならなかった。
加奈の手は、震えたまま。
画面の中の“姉妹”は、何度目かのキスを交わしていた。
それは恋でも愛でもない。
だけど、確かに“何か”を共有していた。
(わたしは――咲良ちゃんにとって、ただの“外”なんだ)
そう思った瞬間、加奈の目から、ひとしずく涙が落ちた。
そして彼女は、スマートフォンを握りしめながら――
とある“決意”を固める。