第4話「昼下がりの足音」
翌日。
咲良は、教室の窓際でぼんやりと空を見ていた。
(昨夜のことは……夢じゃない)
身体の奥に残る、火照りと違和感。
制服の下に肌が触れた感覚は、未だに脳裏から離れなかった。
「咲良ちゃん?」
声をかけてきたのは、加奈だった。
いつもと変わらない笑顔――のように見えた。
けれど、その目の奥がわずかに揺れていた。
「なんか……顔色悪いね? 寝不足?」
「ううん、大丈夫。ちょっと、疲れてるだけ」
ごまかすように笑うと、加奈は心配そうに唇を噛んだ。
「……昨日、途中で帰っちゃったでしょ。図書室で待ってたの、気づかなかった?」
「……ごめん、家で用事があって」
嘘。
でも、本当のことなんて言えるはずもない。
(“わたしだけの咲良になって”――あの声が耳に残ってる)
「ねえ、咲良ちゃん」
加奈の声が、思ったより近くで響いた。
「最近、あの子とよく一緒にいるけど……結依ちゃん、ちょっと怖くない?」
一瞬、心臓が跳ねた。
「え……?」
「昨日、帰る時にね。校舎裏で見たんだ。結依ちゃん……なんか、血がついた制服の袖を隠してた」
一瞬で、喉が乾いた。
「冗談……だよね?」
「……ううん。あの子、何か知ってるのかも。咲良ちゃんが無理してるなら、言って。わたし、力になるから」
そのとき。
教室のドアが、静かに開いた。
「……加奈さん?」
振り返ると、そこには笑顔の結依が立っていた。
「お姉ちゃんに、あんまりベタベタしないでくれる?」
そう言って、にこりと微笑んだ結依の足元に――
一滴、赤い染みが垂れていた。