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双つ花  作者: 淡雪
3/30

第3話「わたしだけの場所」

結依の胸元に、指先が触れている。


柔らかくて、温かい。

だけどそれ以上に、ぞわりとした違和感が皮膚を這っていた。


「ねえ、お姉ちゃん。……感じる?」


「そんなこと、やめて」


「やめる理由がない。だって、わたしのほうが、ずっと先にお姉ちゃんに触れてるのに」


声が甘くなる。

なのに、その甘さがどうしようもなく、毒に近い。


「外で笑ってたでしょ。あの子と。わたしの知らない顔で」


手が滑り込むようにして、スカートの中へ。

咲良は肩を震わせ、思わず体を引いた。


「……っ、やめ――」


「……やめる?」


ぴたりと手が止まる。けれど、それは拒絶に屈したからではなかった。


「じゃあ、ひとつだけ教えて」


彼女は咲良の頬にキスを落とす。

それはまるで、血の契約のように静かで、重い動作だった。


「お姉ちゃんは、“わたし”と“あの子”のどっちを選ぶの?」


「そんなの……選べない……」


「じゃあ、選ばせてあげる。こっちに来て。……ずっと、わたしだけの“お姉ちゃん”になって」


制服のボタンが、また一つ外される。

その動作は儀式めいていて、咲良の心をかき乱す。


(どうしてこんなことになってるの……)


(でも――結依の指が、あたたかい)


混乱の中、咲良の口から漏れたのは、拒絶の言葉ではなかった。


「……お願い、今日は……やさしくして」


結依の瞳が見開かれる。


「……うん」


その表情は、どこか夢見るようだった。

ずっと欲しかった言葉を、ついに手に入れたように。


そしてその夜、咲良は帰宅せず、結依とふたりで、校舎の闇の中に溶けていった。

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