第25話「争奪戦」
放課後の空き教室。
カーテンが揺れる音だけが、静寂を切り裂いていた。
咲良は教壇横の窓際に座り、机に突っ伏していた。
何も考えたくなかった。
何も、感じたくなかった。
でも、扉が開く音は、すぐに現実へと引き戻してくる。
「お姉ちゃん」
やはり、来たのは結依だった。
続けて、もう一人。
「咲良ちゃん」
その声に、咲良はぎゅっと目を閉じた。
(なんで、ふたりとも……)
「咲良ちゃんが何も言わないから、こうして来るしかないの」
加奈の声は冷たくはなかった。
けれど、明確に“譲る気はない”という意志がこもっていた。
「……言わなきゃいけないのは、あなたのほうでしょ?」
結依の声は、柔らかくて――殺意がある。
「咲良ちゃんは、あなたの所有物じゃない。そんな関係、愛とは呼ばない」
「でも、わたしと咲良は、誰よりも深く繋がってる。傷も、夜も、ぜんぶ。あなたが知らないものを、わたしは全部知ってる」
咲良の心臓が、ゆっくりと悲鳴をあげていく。
(なんで、こんなことに……)
「繋がってる? それは、あなたが一方的に押しつけた“痛み”でしょう?」
「痛みから逃げたくて、あなたの手を握ったって気づかないふりをしてるあなたのほうが、よっぽど残酷だよ」
咲良の中で、何かが崩れそうになる。
自分が“選ばれた”わけじゃない。
“選ばせられた”のかもしれない。
そして、誰かを選ぶことが、いつの間にか“誰かを傷つける儀式”になっていた。
「やめて……」
咲良の声は、弱く、かすれていた。
「わたしを……引っ張らないで。もう、誰にも縋りたくない」
結依も、加奈も、黙った。
沈黙のなかで、咲良は自分の膝を抱える。
「もう……わたしのこと、愛さなくていいよ」
その瞬間、教室の空気が、ひときわ強く歪んだ。
まるで、何かが静かに――壊れたように。




