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双つ花  作者: 淡雪
22/30

第22話「誰も知らない微笑み」

午後の授業中。

咲良は黒板を見つめながら、まったく内容の入ってこない授業に座っていた。


先生の声が遠い。

クラスメイトの笑い声も、何か別の世界から響いているようだった。


(結依は、“普通の妹になる”って言ったけど――あれは、ほんとうの意味での終わりじゃない)


咲良の机の右斜め後ろ。

そこに、結依はいた。


姿勢正しく、真面目にノートをとっている。

誰よりも優等生らしい雰囲気。


だけど、誰も知らない。


咲良にしかわからない、あの笑顔の“奥にあるもの”を。


(今は静かでも、きっといつかまた――)


そのとき。


咲良の視界の端で、一通の紙が滑り込んできた。


机の上に置かれた、折りたたまれた小さなメモ。


周囲を見渡す。

誰もこちらを見ていない。

けれど、視線を感じる。

すぐ後ろから――“あの子の”視線を。


咲良は、ゆっくりと紙を開いた。


そこには、たったひとことが書かれていた。


「わたしを忘れたら、だめだよ」


インクは淡い紫。

そして筆跡は――結依のもの。


(……やっぱり、“終わってない”)


咲良は紙をそっと折り直し、ポケットにしまった。


その瞬間、後ろから空気の動きを感じる。

振り返らなくてもわかる。

そこにいるのは、笑顔の“妹”。


――その笑みの中には、誰も知らないものが潜んでいる。


誰も知らない。

けれど咲良だけは知っている。


あの笑顔が、世界のすべてを壊してしまう力を持っていることを。



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