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双つ花  作者: 淡雪
21/30

第21話「歪んだ日常の幕開け」

週が明けた月曜日。

咲良は、平然を装って学校の門をくぐった。


校庭の風景も、ざわめく声も、すべてがいつもと同じ。

けれど――咲良の中では何もかもが“違って”いた。


教室に入ると、クラスメイトたちは軽口を交わしていた。

その中に、加奈の姿はなかった。


(まだ、戻ってこないんだ……)


そのことに誰も触れようとしない。

担任すらも、「家庭の事情で休み」という言葉を繰り返すだけ。


“見ないふり”をする空気が、静かに蔓延していた。


昼休み、咲良は屋上へと足を運んだ。


風が吹き抜ける鉄柵の前。

その場所は、あの日のままだった。


(あの夜、誰も落ちなかったけど――“何か”は、確かに落ちた)


失われた信頼。

壊れてしまった純粋さ。

交わされなかった約束。

選ばなかった答え。


どれも確かに、ここに残っていた。


「お姉ちゃん」


背後から声がして、咲良は振り向いた。


結依が立っていた。

制服のリボンをきちんと締め、髪は切り揃えられていた。

見た目は以前と変わらない。

けれどその佇まいは――どこか“無色”だった。


「加奈さん、まだ来てないんだね」


「……うん」


「もう来ないと思う?」


咲良は答えられなかった。


代わりに聞いた。


「結依は、これからどうするの?」


少しの間を置いて、結依は静かに笑った。


「わたし、“普通の妹”になる努力をしてみようと思う」


その言葉には、皮肉も、嘘も、激情もなかった。

ただ、どこか遠くから聞こえてくるような、空虚な声だった。


「でもね、お姉ちゃん。わたしは忘れないよ。

あの夜、わたしのために泣いてくれたことも――

この手を掴んでくれた温度も」


咲良は、目を伏せた。

言葉が、出なかった。


(歪んでしまった関係は、もう“元”には戻らない)


それでもなお、何かを始めようとするには――痛みを抱いたまま、歩いていくしかない。


チャイムが鳴る。

結依が微笑む。


「行こう、お姉ちゃん。日常は、もう始まってるから」


そして二人は、何もなかったかのように、扉の奥へと歩き出した。


でも、その足音は――確かに、少しだけ重なっていなかった。

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